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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千七百五十二話 風の行く果て(十三)


 レミリオンは、周囲から殺到する羽弾の数々を大気の圧力で封殺して見せるとともにルウファの身動きをも封じようとしたようだったが、そのときには、ルウファは彼の“無色世界”の射程範囲外にまで移動している。シルフィードフェザー・オーバードライブに食われ、レイヴンズフェザーの能力を用いれば、超音速での移動も不可能ではない。“無色世界”の発動を見切りさえすれば、動きを封じられることもないということだ。

 ルウファが最初からレイヴンズフェザーを使わなかったのは、獅徒を侮っていたからではない。獅徒が強力無比な存在だということは、セツナたちから獅徒との交戦記録を聞き出す前から察していたことではあったのだ。なにせ、神々の王の使いなのだ。その能力が尋常ならざるものであることくらい、想像が付く。そこにセツナたちの説明が加わったことで、確信を得たわけであり、獅徒レミリオンを斃しきるために全戦力の投入が必要不可欠だという結論に至ったのだ。

 にもかかわらず、ルウファがレイヴンズフェザーを出し惜しみしたのは、極めて単純な理由からだった。獅徒がセツナが手こずるほどの強敵であることを鑑みれば、リョハンが全戦力を投入したとしても、長期戦を覚悟しなければならないかもしれず、そうなった場合、レイヴンズフェザーを召喚し、その能力を多用するのは不利になる可能性が大いにあった。

 レイヴンズフェザーは、その能力の高さ故に代価を必要とした。

 いや、もちろん、すべての召喚武装は、能力の行使に相応の対価を要求するものであり、その要求を飲む契約を交わさなければ、能力を行使する以前に召喚することもできない。この世界に残された召喚武装でさえ、そうだ。代価を払わなければ、召喚武装の能力を駆使することは、できない。だが、往々にしてその代価というのは、使用者の精神力であることが多い。むしろほとんどといっていいだろう。

 ほとんどの召喚武装が代価として求めるのは、己を召喚し利用するものの精神力であり、それ以外のなにも求めないものなのだ。

 召喚武装は、異世界の存在だ。意思を持つ異世界の武器防具の総称であり、その意思の要求するところが使用者の精神力であることが多いのは、代価として得た精神力を己の力とするから、らしい。どういう原理かは不明だが、そもそも意思有る武器防具が数多の異世界に数え切れないくらい存在する事自体理解できないことなのだから、深く考える必要はない。とにかく、多くの召喚武装は代価として精神力を要求し、それに応じることで召喚や能力の行使が可能だということだ。

 精神力。ときには魔力や霊力と呼ぶこともあるが、それは武装召喚師の流派による違いに過ぎない。どちらにせよ、人間の心の力であり、生命力の一部だということだ。そして、精神力が尽きるということは、基本的にはあり得ない。消耗し尽くしたとしても、命有る限り心の源泉より湧き出でるものであり、時間とともに満たされていくものであるという。

 故に武装召喚師は、精神力を消耗してでも召喚武装を呼び出し、その力に頼るのであり、もし、召喚武装の要求する代価が取り返しのつかないものならば、そう軽々とは行使できまい。

 レイヴンズフェザーがそうであるように、だ。

 レイヴンズフェザーは、血を代価とする。

 かつて、リョハン有数の武装召喚師だったクオール=イーゼンが愛用した召喚武装であり、彼が“吸血鬼”と呼ばれるようになったのは、レイヴンズフェザーの代価と深い関わりを持つ。血を消費して能力を行使する以上、レイヴンズフェザーを使い続ければ、血を失いすぎて死ぬのは明らかだ。しかも、血は、精神力ほど簡単には回復しないものであり、レイヴンズフェザーの高性能故の要求の高さを鑑みれば、多用するまでもなく失血死するのは目に見えている。だが、クオールが死んだのは、失血死ではなかった。まったく別の理由で命を落とし、彼の死後、その術式はマリク=マジクに継承された。そして、マリク=マジクは、武装召喚師ではいられなくなったことから、ルウファにレイヴンズフェザーの術式を託したのだ。

 レイヴンズフェザーで失った血は、レイヴンズフェザーの能力によって補うことができるのだ。それは、他者の血液を吸い、己の血液とする能力であり、故にクオールもマリクもルウファも、“吸血鬼”と呼ばれるようになっていったのだ。

 平時ならば、いい。

 ルウファのために血を提供してくれる人間は、リョハン中、数え切れないくらいにいる。それはルウファが六大天侍の一員であり、リョハンのために尽くしていることをだれもが知り、応援してくれていることの証明でもあるだろう。

 それはいいのだ。平時なのだから。

 だが、戦場では、そういうわけにはいかない。強敵との激戦の最中、奮闘している味方から血を吸うなど、利敵行為も甚だしいのではないか。少なくとも、吸血対象が行動不能になるのは火を見るより明らかであり、いくらレイヴンズフェザーが優秀だからといって、味方を窮地に追いやるような戦い方はできなかった。

 レイヴンズフェザーが投入できるのは、明らかに勝ち目が見えたときか、戦場とは無関係な場所で血を補給できるときくらいのものだ。

 いまは、前者だ。

 故に彼は、レイヴンズフェザーを召喚し、体内の血液という血液を捧げる覚悟で戦いに臨んでいる。

 獅徒レミリオンを討つために。

「速度だけでどうにかなる相手だと、想わないで欲しいな」

 いうなり、レミリオンは、吹き飛び、失われたままだった右肩を復元すると、右腕もから右手に至るまで完全に再生して見せた。全身、傷ひとつ見当たらなくなる。だが、しかし、レミリオンからは、最初の圧倒的な力を感じなくなっていた。レム、セツナとの連戦が響いているのだろう。当然ともいえる。レムもそうだったが、セツナが相手になってからというもの、レミリオンに勝ち目が見えないほどに圧倒的だった。いやもちろん、ルウファたちでは手も足も出なかったのもまた紛れもない事実だが、それはそれとして、セツナの強さたるや凄まじいというほかなかったのだ。

 ルウファは、そこに勝機を見たのだ。獅徒は、神に匹敵する力を持っているというが、神ではないのだ。神のような無尽蔵に近い力を持っているわけではない。消耗し、消費する。そしていずれ力尽きるかもしれないが、さすがにそこまで追い詰めようとするのは困難を極めるだろう。彼が消耗しているからこそ、こうしてまともに戦えるのだ。レミリオンが全力全開ならば、ルウファはあっという間に敗北することは、想像するまでもない。

「いまの俺が速度だけだと想ったら大間違いだ」

 告げ、地を蹴った。飛ぶ。レイヴンズフェザーの超加速を用いれば、一瞬もいらない。刹那にしてレミリオンの懐に入り込めば、相手が反応するより疾く、ルウファは、その右拳をその腹部に突き刺した。同時にレイヴンズフェザーの羽弾を叩き込み、加速させる。獅徒の強靱な肉体に穴が空いた。レミリオンがあんぐりと口を開けた。

「っ……!?」 

 なにが起こったのかわからないとでもいうようなレミリオンの表情を目の当たりにして、ルウファは、さらに胸元に拳を突き立てた。同じようにレイヴンズフェザーの羽弾を叩き込み、加速させれば、胸にも大穴が空き、苦悶に満ちた声が聞こえた。

 そしてそこに“核”が在った。



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