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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千七百四十九話 風の行く果て(十)

 レムが、セツナのいう完全武装が不完全なのだろうということに気づいたのは、ランスオブデザイアがその姿形を変え、まるで悪魔の尾のようになってからのことだ。

 それまでは完全武装状態は、その名の通り、完全無欠の存在だと思っていた。黒き矛カオスブリンガーとその六つの眷属、ランスオブデザイア、マスクオブディスペア、エッジオブサースト、ロッドオブエンヴィー、メイルオブドーター、アックスオブアンビションを同時併用することにより、身体能力、全感覚を極限まで引き上げ、また召喚武装の相乗効果によって大いなる力を発揮できる状態なのだ。攻防ともに完璧、飛行能力も完備し、完全無欠といっていいはずだった。

 神人如きでは相手にならず、使徒でさえ一蹴するのが完全武装だ。

 並の神ならば、滅ぼすことさえできてしまう。

 それがセツナの完全武装であり、レムがそこに完全性、絶対性を見出したのは、当然といえる。

 だが、完全武装は、未だ不完全であり、絶対的なものではなかったということがわかると、レムは、むしろ驚きと興奮を隠せなかった。つまり、完全だと思っていたものがさらに成長する可能性を内包し、拡張性を持っていることが明らかになったのだ。限界ではなく、もっと強くなれることが判明した。そこに興奮しないレムではない。

 セツナはもっと強くなる。

 これ以上強くなる必要などあるのだろうか、という疑問は、いま、六神を取り込んだ獅徒を相手に食い下がられている時点で吹き飛んでしまっている。もし、レミリオンがさらに多くの神を取り込むようなことがあれば、大差をつけて負ける可能性があるのだ。

 幸い、その可能性は限りなく低いものの、今後の獅徒との戦いを考慮すれば、力があるに越したことはない。ラムレシアの危惧するように、神の加護に頼れない戦いもあるかもしれないのだ。そういったとき、頼りになるのは、やはりセツナの力だ。セツナには、なんとしてもレミリオンを撃破し、力有ることを示してもらわなければならないし、そう信じている。

 信じているからこそ、彼女は、自分に与えられた役割を続けていられるのだ。

 レムが戦場周辺を飛び回っているのは、レミリオンに拘束された武装召喚師たちを解放して回っているからだ。レミリオンによる拘束から解放することそのものは、決して難しいものではなかった。拘束されたものが独力で脱出するのは困難を極めるというのに、外圧を加えるだけで容易く解放できてしまうのは、なんとも不思議で、なんとも気の抜ける話だ。

 レミリオンに拘束された武装召喚師はおよそ二千名。その全員をレムひとりで助けて回るのは、時間がかかることもあり、ラムレシアに協力を仰ぐと、彼女は軽く応じてくれた。ちなみに、ラムレシアの眷属たる飛竜たちは、彼女たちの戦場周辺に神人や神獣の生き残りがいないか捜索しているため、戻ってきていないということだ。もし、神人や神獣が一体でも残ったまま放置していれば、周辺に多大な被害が出る可能性がある。見つけ次第、滅ぼしておくべきだった。

 ひとり、またひとりと、リョハンの武装召喚師を解放していく。拘束から解放した武装召喚師には、空中都に戻るようにいっている。セツナとレミリオンの戦闘には参戦する隙はなかったし、セツナの邪魔になるだけだ。召喚武装による支援能力も、現状では、不要だった。ラムレシアのいうように、今後のことを踏まえれば、レミリオンはセツナが単独で撃破しなければならない。レム個人としては心苦しいことだが、ラムレシアのいいたいこともわかる以上、ここは黙って見守ることに徹する以外にはなかった。

 リョハンの武装召喚師たちの多くは、レムの進言を素直に受け取ってくれたものの、中には、レミリオンに一矢報いたいと思うものもいた。当然だろう。何人もの武装召喚師がレミリオンに殺されている。復讐心に燃えるのも無理のない話だ。しかし、セツナとレミリオンの戦闘に自分たちが入り込む余地がないことを理解すれば、リョハンに戻らざるを得ないこともわかってくれたようだった。

 武装召喚師の戦闘というのは、一般の兵科とは比較にならないほどのものだが、その武装召喚師とも比較にならないのがセツナとレミリオンの戦闘だった。

 完全武装・影式でも食らいつけない領域の戦いだ。並の召喚武装で入り込めるわけもない。

 そんなことを思いつつ、レムが百数十人目に解放したのは、ルウファだった。見えざるなにかで大地に縛り付けられるようにして拘束されていた彼を解放すると、ルウファは、ゆっくりと起き上がり、こちらを見た。なんともいえない表情は、長らく微動だにできなかったことに起因するものだろう。

「あ、ありがとう……レムちゃん」

「いえいえ、どういたしましてでございます」

 レムが笑顔で応じると、彼は微妙な表情をした。そして、激戦の空を見上げる。

「戦っているのは、隊長なんだね?」

「はい。御主人様ならば、必ずやレミリオンを討ち果たしてくださいますわ」

 レムが力強く言い切るも、ルウファの反応は芳しくなかった。

「そう……だろうね」

「ルウファ様?」

 レムは、ルウファの反応が気がかりだった。まるで、セツナの勝利を心底喜べないとでもいうような、そんな態度に思えたからだ。


 カオスブリンガーの穂先が白く膨張したように見えたつぎの瞬間、爆発的な光の奔流が視界を塗り潰した。周囲の大気が燃え上がり、全身から汗が噴き出す。破壊の力の奔流が一条の光芒となって前方を突き進み、超巨大竜巻に激突する。神威の渦と黒き矛の力の渦。反発し合い、轟音を上げ、光を散らす。そして、爆発。凄まじい力の爆発がセツナ自身を大きく吹き飛ばすが、それは相手も同じことだ。レミリオンも力の爆発によって吹き飛ばされていた。

 超巨大竜巻が消し飛んだのだ。

 セツナは、すぐさま体勢を立て直すと、レミリオンに向かって飛翔した。レミリオンの角が輝く。雷雲は、頭上、広範囲に立ちこめる。稲光は幾重にも走ったが、セツナは、その数と同じだけの闇人形を作りだし、空に浮かべて対応した。連続的に降り注ぐ落雷が闇人形を撃ち抜いていく中、セツナは、レミリオンが虹の羽衣を再び生み出すのを見た。ロッドオブエンヴィーを掲げ、“闇撫”を発動する。巨大な闇の掌でもって、レミリオンが前面に展開した虹の羽衣を掴み取る。そのまま粉砕すると、レミリオンが目を見開いた。

(まだだ、もっと!)

 加速し、レミリオンに肉薄する。レミリオンが眼前に手を翳すと、光の波紋が生じた。波紋の中に光球が生まれる。無数の光球。そのひとつひとつの威力はたかが知れているが、数が多い。まともに受けるわけにはいかない。そのとき、セツナは自身の腕が変化し始めていることに気づいた。どこからともなく纏わり付いた闇が凝縮し、変形していく。そして生まれるのは、禍々しく凶悪な籠手と手甲だった。手甲には鋭利な爪があり、甲の部分に異形の髑髏を模した飾りがある。その髑髏には見覚えがあった。ロッドオブエンヴィーだ。実際、ロッドオブエンヴィーが消え失せていて、尾になったランスオブデザイアに続き、ロッドオブエンヴィーが変形したことを悟る。

 完全武装がさらに深化したのだ。

 セツナは、右手で矛を握ると、左手を前面に掲げた。凶悪な籠手に包まれた掌から闇の力が拡散し、巨大な闇の掌が生じた。ロッドオブエンヴィーの能力そのままに、だ。それは光の波紋から生まれ、飛来してきた光球の数々を受け止め、爆発さえも防ぎきった。

 そして、その勢いそのままにレミリオンをも掴み取る。



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