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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千七百三十四話 神々の闘争(一)

 セツナは、ルノウに対し、一方的な戦いを続けていた。

 ルノウは、神だ。ネア・ガンディアの獅子神皇に忠誠を誓う神の一柱であり、元は、至高神ヴァシュタラを構成していた神々の一柱に過ぎない。確かに人間とは比較しようもなく強大であり、次元の異なる力の持ち主だ。普通ならば太刀打ちなどできるわけもなく、神威を浴びた瞬間、無力化するのが落ちだ。だが、セツナには黒き矛があった。カオスブリンガー。魔王の杖の異名を持つ召喚武装は、神殺しの力を秘めた武器であり、神に対抗しうる力なのだ。

 その黒き矛の力を引き出すだけでなく、六眷属を同時併用する通称・完全武装状態になったセツナは、神とも対等に戦うことさえ可能だった。

 対等どころではない。

 対等以上。

 完全武装状態になった瞬間から、戦況は、セツナの優勢に激変した。そして、その優勢に驕ることなく、力に溺れることなく、彼は粛々と戦いを進めた。ルノウの強大な神威をねじ伏せ、幾重にも変容する姿を尽く叩き潰し、神の心すら折るように矛を振るい、槍を突きつけ、斧を叩きつけた。ルノウは、いまや怒り心頭といったような有り様だったが、それもそのはずだ。相手は、魔王の杖の使い手とはいえ、人間なのだ。人間如きに後れを取る神などあろうはずもない、あってはならないという認識がルノウの思考を炎の如く燃え上がらせていた。

 空中、爆発的に膨張したルノウの姿は、無数の首と翼を生やした異形の怪物と成り果てている。

 そんな神なる怪物を見遣りながら、セツナが考えるのはレムのことだった。セツナがすべての眷属を召喚したのは、レムからの要請があったからにほかならない。それはつまりどういうことかといえば、リョハンに獅徒レミリオンが入り込んできたということであり、切り札たるレムの出番が来たということだった。そしてそれは、戦いがこちらの思惑通りに進んでいるということを示してもいた。

 包囲中の飛翔船を同時攻撃することでリョハンへの一斉砲撃を諦めさせ、マリク神の結界を擦り抜けられるというレミリオンをリョハンに引き寄せ、これを討つ。それとともに各船隊の指揮を執る神を討ち滅ぼし、リョハン侵攻部隊を壊滅させることこそ、セツナたちが考えだした策だった。それによってネア・ガンディアにリョハン制圧を諦めさせることができれば御の字だったし、たとえそれができなくとも、再侵攻までの時間が稼げるのは間違いない。

 一斉砲撃によってリョハンを滅ぼせないとなれば、きっと、レミリオンは、みずからリョハンに乗り込み、決着をつけようとするだろう。獅徒は、神に匹敵するか、あるいは神をも凌駕する力を持っている。正面からぶつかり合えば、マリク神をも打倒しうるかもしれない。ミズトリスやウェゼルニル以上の力を持っているとすれば、だが。

 たとえ神を滅ぼせなくとも、リョハンを滅ぼすことそのものは不可能ではない。リョハンの武装召喚師たちを殺しきり、戦女神の命脈を絶てば、そのとき、リョハンの命数は尽きる。生き残ったのがマリク神と避難した市民だけでは、リョハンを建て直すことは困難を極めるだろう。

 故にレミリオンはリョハンに乗り込んでくるはずであり、ファリアを手にかけようとするのは目に見えていた。

 そして、そんなレミリオンを迎え撃つために用意されたのが、リョハンの武装召喚師たちだ。六大天侍に護峰侍団、《大陸召喚師協会》の武装召喚師たち、総勢約二千五百名が空中都に鉄壁の布陣を敷いた。十重二十重に築き上げられた陣形は、いつどこにレミリオンが現れても対応できるようになっていた。たとえ遠く離れていても、マリク神が転送してくれるのだ。

 グロリア=オウレリアやルウファ=バルガザールが名を連ねる六大天侍も、護峰侍団の隊長たちも極めて優秀かつ有能な武装召喚師だ。実力的には心配いらない。しかし、彼らだけでは不安があった。なにせ、相手は獅徒だ。神に匹敵する力を持った存在であり、セツナと死闘を演じた記憶がある。

 もしかすると、六大天侍や護峰侍団の隊長たちが力を合わせても、封殺できないかもしれない。

 その可能性が脳裏を過ぎったとき、思い浮かんだのがレムだった。

 レムは、セツナの半身とも影ともいっていい存在だ。マスクオブディスペアの力による結びつきは極めて強固であり、ときとして多大な力をレムに与えた。彼女と“死神”たちが、六眷属の影の如き武装を手にしたことがあり、そのことを思い出したセツナは、レムにある可能性を見出した。

 もしかすると、レムは完全武装状態を再現できるのではないか。

 そんな突拍子もない思いつきは、セツナを興奮させ、大いなる希望となった。もしレムが完全武装状態を再現することができ、それが彼女をして強大な力の担い手とするのであれば、勝算は極めて大きくなる。たとえセツナの完全武装状態をそのままそっくりに再現できなくとも、その力の半分、いや、十分の一でもレムのものとなるのであれば、彼女は勝利の鍵となるだろう。

 そして、セツナの思いつきは、レムとの実験によって成功したのだから、なにもいうことはない。レムは、完全武装状態を見事に再現し、彼女は、より強大な力の担い手となったのだ。

 故に彼女は、リョハンに残った。対レミリオンの切り札として。

 セツナは、レムを心配しているわけではない。完全武装・影式を用いたレムが獅徒に遅れを取るとは思えないのだ。セツナほど一方的な戦いができるとは言い切れないが、彼女が戦いを有利に運ぶことは確実だった。その上で勝てるかどうかはレミリオンの力次第といってよく、レミリオンが仮に神との合一を行えば、戦況は悪くなる可能性もある。

 完全武装・影式が、神と合一した獅徒に通用するかは、わからない。

「魔王の杖の護持者よ……!」

 咆哮にも似た叫びが聞こえて、セツナは、眼前の敵に意識を向けた。いまは目の前のことに集中するべきだ、と、だれかにいわれているようだった。

「あなただけは、わたしの手で……!」

 猛禽とも猛獣ともいえない異形の怪物となった無数の頭が口を開く。咆哮が大気を掻き混ぜ、閃光が煌めく。さながら星々の輝きの如きそれは、様々な軌跡を描いてセツナに殺到する。そして、セツナの周囲に到達した瞬間、まばゆい光を撒き散らし、音もなく爆発した。何千何万の爆発光が世界を無限に塗り替えていく様を他人事のように見下ろす。エッジオブサーストの座標交換能力によって爆発の直撃を免れたのだ。

 さすがのセツナも、神の全力の攻撃をまともに食らうべきではなかった。セツナは人間であり、人間の肉体は、脆弱だ。完全武装状態によって極めて強力な防御障壁を張り巡らせることができているとはいえ、それを突破されれば、肉体が消し飛びかねない。

 その点においては、レムはセツナ以上に無茶ができるのだが、無論、セツナは、レムが自分の体を傷つけるような戦い方を好まない。だからこそ、彼女が完全武装・影式を体得したことは、喜ばしいことでもあった。強大な力を得たということは、レムが無駄に自分を傷つける必要がなくなるはずだからだ。

 とはいえ。

(そういうわけにもいかないか)

 レムのことだ。

 きっと、最良の戦い方と判断すれば、自身を傷つけることも厭わないだろう。

 そういう性格だ。

 それで死なず、傷も治ってしまうものだから、調子に乗って無茶を繰り返すのだ。質が悪い。

(ま、ひとのことをいえたぎりじゃあねえが)

 自分も同じだ。

 無茶と無理、無謀を繰り返し、ここにいる。

 周囲のひとに多大な心配をかけ、不安を与え、信頼を踏みにじり、傷つけてまで。

 矛を握り締め、眼下の敵を見下ろす。異形化した神は、またしても咆哮した。すべての口から無数の閃光が放たれ、きら星の如く瞬いた。

 再び、幾千万の爆発が起きる。

 そのとき、セツナは神の懐に潜り込んでいた。



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