表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
273/3726

第二百七十二話 彼の憂鬱

 馬車の荷台に上がり込むと、ルウファ以外には衛生兵の女性の姿があった。彼女はバハンダールまで付き添う上、バハンダールでもルウファの看護をしてくれるらしい。しかも、こちらが要請したわけではない。彼女のほうから提案してくれたのだ。《獅子の尾》隊長としてはありがたいことたと思わざるを得ない。

「邪魔するよ」

 声をかけたのは、ふたりが会話に熱中していて、セツナが荷台に上がったことも気づいていない様子だったからだが。

「あ、隊長!」

 寝台の上のルウファが、首だけを持ち上げて、こちらを認識した。その隣で、衛生兵の女性が慌てたようにルウファから顔を離す。さすがにまずいと思ったのかもしれない。

 ルウファの状態は、昨夜からなにひとつ変わっていない。腰回りに巻き付けられた包帯は真新しいものに取り換えられてはいるものの、仰向けに寝たままで、体を動かすことすら困難そうだった。痛ましい姿だ。名誉の負傷とはよくいったものだが、嬉しくはないだろう。

「ルウファ……」

「そんな顔しないでくださいよ。俺、自分で決めたんですよ。自分の意思で」

 ルウファは笑っていってきたが、彼の決断が苦渋に満ちたものだったのは想像に難くない。

《獅子の尾》として参加する、初めての大きな戦いだった。《獅子の尾》副長ルウファ・ゼノン=バルガザールの名を上げるには絶好の機会だったのだ。実際、彼は敵の武装召喚師を撃破したことで、ガンディアの戦史に名を刻んだといえる。しかし、いや、だからこそ、ここで戦線から離脱するのは無念極まるのだ。もっと、もっとと、彼は思っているだろう。負傷さえしなければ、さらに戦果を上げることができたのだ、とほぞを噛む思いかもしれない。

 そういう悔しさが、彼の瞳の奥で影のように揺らめいている気がした。

「迷惑、かけたくないんです」

 ルウファが、天井に視線を移した。セツナに感情を読まれたくなかったのだろうか。

「昨夜はああいいましたけど、よく考えたら俺、こんな状態なんですよね。もちろん、シルフィードフェザーを召喚すれば戦えます。人並み以上には。でも、きっと迷惑をかける。隊長にもファリアさんにも。《獅子の尾》の名を汚したくないんです」

「無理はしなくていいんだ。いまはしっかりと療養して、つぎの戦いに備えてくれればいい」

「隊長、俺、もっと上手く戦えるようになりますから。敵を倒せても、こうなってはどうしようもないですからね」

 ルウファは自嘲気味に笑ったが、彼の表情はひきつっていた。涼しい顔をしていられないほどの痛みが生じたに違いない。

 衛生兵の女性が腰を浮かせたが、ルウファが手で制する。彼の顔には汗が浮かんでいた。が、顔つきはいつものルウファに戻っている。セツナは、自分の存在が彼に痩せ我慢を強いているのではないかと思った。隊長の手前、格好悪い姿を見せられない、とでも考えているのがルウファなのだ。セツナはそう認識している。

 セツナは、かけるべき言葉も思い付かない自分に苛立ちを覚えた。隊長としてだけでなく、友人としても、仲間としても、彼になにかいってあげたいのだが、その言葉が思い浮かばない。なにをいっても、気休めにもならないのではないか。彼を追い詰めるだけではないのか。そんな考えが頭の中を錯綜し、言葉を詰まらせる。

 重い沈黙が、馬車の荷台を支配しようとしたそのときだった。

「はぁーい! お元気?」

「ちょっとあなた!」

 どたばたと荷台の後部から乗り込んできたふたりの騒がしさが、静寂を吹き飛ばす。唖然とするルウファと衛生兵を尻目に、ミリュウはずかずかと踏み込んでくる。ファリアは彼女の首縄を絞めることに躊躇いがあるのだろう。途方に暮れたような表情でついてきていた。

 ふたりには、ルウファの容態も考え、馬車の外で待ってもらっていたのだが。

「あなたがザインを、ねえ……」

 ミリュウは、当然のようにセツナの首に腕を回してきたのだが、つぎの瞬間、奇妙な悲鳴を発しながら後退った。見ると、ファリアが涼しい顔をして縄を引っ張っていた。ミリュウは涙目になりながら、げほげほとむせている。突然首を絞められればそうもなろう。

「どういう状況なんです? これ」

 ルウファが、わけがわからないといったように問いかけてきたが、セツナには答えようもなかった。ルウファはミリュウと会うのは初めてだろうし、彼女はいまログナー方面軍の軍服を着込んでおり、首に縄でもかけていなければ、ログナーの女性兵だと勘違いしてもおかしくはない。いや、首に巻いた縄の存在自体が奇妙であり、目を引いたに違いなく、彼の混乱をより深めたはずだ。

「俺に聞かないでくれ……」

 セツナは、ファリアに飛びかかるミリュウを横目に見ながら、頭を抱えたくなった。前途多難とはこういうことをいうのかもしれない。


 セツナたちは、曇り空の下、バハンダールを目指す馬車の列を眺めていた。

 バハンダールに向かう馬車はルウファを乗せた一台だけではないのだ。彼ひとりが重傷を負ったわけではないのだから当然ではあるが。重傷者を乗せた複数の馬車が、列を為して戦陣から離れていく。二日前、セツナがミリュウと戦った東の森にほど近い街道沿いの平原だった。馬車は街道を進んでいく。もちろん、負傷者を乗せた馬車の周囲には護衛として、数十名の騎馬兵がついている。ルベンの龍鱗軍が攻撃してこないとも限らないし、皇魔に遭遇する可能性も捨てきれない。用心に越したことはないのだ。無論、護衛についた兵士たちは、負傷者をバハンダールに送り届けた後、急いで西進軍に合流しなければならない。彼らが一番大変な役回りかもしれないかった。

 西進軍の兵数は減るばかりだが、補充人員をあてに出来る状況でもない。ガンディアは、この戦争にほとんどの戦力を放出している。国境付近の防衛戦力以外のほぼすべてがザルワーンの大地に展開しているのだ。ログナー戦争で失った戦力を回復しきる前に出征せざるを得なかったのが尾を引いているともいえる。

 バハンダールの守備部隊から人数を供出させるという話もあるにはあったが、バハンダールの守備部隊自体、数百人という規模であり、これ以上少なくするのも考えものだった。バハンダールはそう簡単に落とされないという見込みがあるとはいえ、敵に付け入る隙を与える必要もない。敵というのは、ザルワーンだけではない。ザルワーンの隣国であるイシカやメレドといった国も、バハンダールという難攻不落の都市を喉から手が出るほど欲しがっているらしいのだ。それを踏まえると、バハンダールの守備戦力は増強したいと思うのが普通だった。ガンディアとザルワーンの国境付近に展開していた防衛部隊がバハンダールに入っているはずだとはいうが、それでも足りないのが現状なのだ。

 そういったことを考えると、早期にこの戦争の決着をつけるのが望ましいのだ。つまり、セツナはますます黒き矛に頼らなくてはならない。制御できているのかいないのかよくわからない、凶悪な召喚武装。

「あのふたり、できてるわね」

「あのふたり?」

 セツナが反射的に問い返したのは、考え事をしていて、ミリュウの言葉の意味を理解しなかったからだ。

「副長さんと衛生兵の彼女よ」

 ミリュウは、セツナの右肩に寄りかかるようにして立っている。左側にはファリアが立っていて、時折、彼女の視線が刺さるように痛かったが、きっとセツナを睨んでいるわけではないのだろう。

「隅に置けないわね、うちの副長も」

 ファリアが、めずらしくミリュウの発言を肯定するように笑った。ファリアとミリュウはなにかと反発しあっていて、そのことがセツナの頭を悩ませるのだが、彼が神経をすり減らしたところで自体はなにひとつ変わらないのが、現実の無常さを表しているようだ。達観したくなるのだが、そういうわけにもいかない。

「いいんじゃない?」

 セツナは、適当に相槌を打ちながら、ふたりのことを思い出した。ルウファと女性兵のやり取りの親密ぶりは、見ているほうが恥ずかしくなるほどだったのだ。いつの間に親密になったのかはわからないが、少なくとも、ミリュウのセツナへの態度よりは理解しやすいものがある。衛生兵の女性は、ルウファにつきっきりで看護しているうちに、彼の人柄に触れたに違いない。彼は容姿も申し分ないが、人格者でもある。軽口を叩くことも多いが、根は真面目で、仕事に対してはだれよりも熱心だ。いまのいままで、浮いた話のひとつもないのが不思議なほどだった。彼のような人物は報われてしかるべきなのだ。

「ひとの恋路を邪魔する奴はなんとやらといいますし」

 すぐ近くから聞こえてきたのは、エイン=ラジャールの声だった。きょろきょろと見回すと、左腕を引っ張られる。エインは、なぜかセツナの左腕にしがみついている。セツナだって男だ。同性に抱きつかれても、嬉しくはない。半眼にならざるを得なかった。

 彼がどういう意図でそうしているのかはなんとなく理解したのだが、念の為に問いかける。

「なにやってんだ?」

「対抗してるんです」

 エインは、セツナの右側に立つ女を睨んでいた。敵愾心を燃やしているのは間違いないのだが、ある意味では間違っているのではないかとセツナは思った。

「あたしに?」

 ミリュウが、驚いたように自分を指さした。彼女はエインのことは知っているのだろうが、エインがセツナに対して並々ならぬ思いを持っているということは知らないだろう。セツナも未だに納得しきれない部分があった。そういえば、エインも最初は敵だったのだ。セツナに殺されるところだったということを語る彼の恍惚とした表情は、そう簡単に忘れることはできない。

「ええ、もちろん!」

「なんでエイン軍団長が対抗してるのよ……」

 強く頷くエインの向こうで、ファリアが肩を震わせている。それでもミリュウの縄を引っ張ろうともしないのは、馬車の中ではやり過ぎたという思いがあるからだろうか。確かに、彼女はしばらく話すこともできないくらいに苦しんでいたが。

 セツナは、前方から近づいてくる足音に気づき、目を向けた。

「いやはや、《獅子の尾》隊長も隅に置けませんな」

 目が合うなりそういって笑いかけてきたのは、ドルカ=フォームそのひとだった。

 西進軍第二軍団長は、いつものように副官のニナを伴っており、なにやら相好を崩してこちらを眺めている。黙っていれば非の打ち所のない美丈夫なのだが、口を開けば女が逃げていくのが彼の残念なところだった。もっとも、彼はわざとそうしているように見えなくもない。

「うちの隊長に変なことをいわないでください」

 ファリアが冷たく言い放つと、ミリュウがセツナの首を抱きしめながら口を尖らせる。

「そうよ、あたしのセツナをあなたみたいなのと一緒にして欲しくないわ」

 瞬間、ニナの眼が鋭く光ったのは気のせいではあるまい。ドルカが手で彼女を制しているのは、そうしなければ飛びかかったからだろうか。直属の軍団長を侮辱されたと考えれば、ニナの反応もわからないではない。しかも、相手は捕虜とはいえ、敵国の人間なのだ。黙ってはいられまい。

「そうですよ、ドルカさんと同じようなひとなんて滅多にいないんですから」

 エインは、セツナの左腕にしがみついたままだ。

 ドルカが、やれやれと首を横に振る。

「両手に華とはこのことですか? まあ、冗談はともかく、つい先日まで命の取り合いをしていた敵を籠絡させる手腕は見事なものだと思いますよ」

「籠絡させたつもりはないんだけどな」

「無意識ならなおさらですよ」

「だからさ……」

 取り合おうともしないドルカに、セツナはなんといって答えるべきなのかと考えあぐねた。なにをいってもいいわけに聞こえるのかもしれないし、もともと、聞く気もないのかもしれない。彼はセツナを疑っているのではない。ただ、気になっているだけなのだ。セツナがどうやってミリュウを手懐けたのか。もちろん、セツナにわかるはずもない。彼女は、今朝、唐突にセツナに接近してきたのだ。なにもかもが突然過ぎた。すべてが、セツナの理解の外の出来事だった。

 ミリュウのため息がセツナの耳をくすぐったのは、彼女がセツナに抱きついているからにほかならない。

「人聞きの悪い事をいわないでほしいわね。あたしがセツナにくっついているのは、あたしの事情なのよ。セツナがなにかをしたからとか、そういうことじゃないの」

「そうなのね……」

 ほっとしたような、それでいて納得しがたいとでもいいたげなファリアの声がセツナの胸をざわつかせる。彼女もまた、セツナを疑ってはいないだろう。ミリュウとの関係が気がかりなのは確かなのだろうが、だからといってセツナに真相を聞き出すこともできない歯がゆさの中にいるのかもしれない。折を見て、すべてを話さなくてはならない。とはいえ、セツナが彼女に説明できることなど、自分の知っている範疇のことでしかない。ミリュウの心の奥底を覗けるはずもないのだ。

 セツナは、妙な居心地の悪さの中で、ドルカが鼻白んでいる様子を見ていた。彼は、ミリュウの剣幕に自分の調子を崩されたらしく、困ったような顔でセツナを見てきた。セツナが彼に助け舟を出す道理もないし、どうすればこのなにやら気まずい状況を打開できるのかもわからない。だれもがだれかを睨んでいる。ミリュウとエインはドルカを凝視し、ニナはミリュウを睨めつけ、ファリアはセツナに視線を注いでいる。ドルカはこちらに救いを求め、セツナは途方に暮れて天を仰ごうとしたが、

やめた。

 いまさらになって、ドルカが腕になにかを抱えているのを発見する。黒い毛玉のような物体は、よく見ると、わずかに動いているのがわかる。生き物だということは間違いない。

「それは?」

「あー……これはですね、いつの間にかうちの馬車に紛れ込んでいたんですよ」

 ドルカは、救われたような顔になりながら、セツナに歩み寄ってきた。両腕で抱えていた毛玉を優しげな手つき抱え上げてくる。

 セツナは、それを見て、ただひとことつぶやいた。

「犬……」

 実際、紛れも無く犬だったのだ。小柄な四足獣は漆黒の体毛に覆われており、体の割に大きな尻尾がゆらゆらと揺れている。困っているような顔が特徴的だといえる。セツナの世界の犬となんら変わらなかった。その事自体は驚きでもなんでもないのだが。

「あ……!」

 ミリュウが、セツナから離れたと思うと、ドルカの抱え上げた子犬の顔を覗きこむ。子犬は、突然、ミリュウが顔を近づけてきたことに驚いたようだったが、彼女の匂いを嗅ぐと、すぐに鼻を舐めた。ミリュウがくすぐったそうに笑い声を上げる。

「お知り合いかな?」

 ドルカが、不思議そうに尋ねながらも、ミリュウに子犬を手渡すそうとする。ミリュウは一瞬戸惑ったようだったが、その小柄な獣を大切そうに抱きかかえた。子犬は、嬉しそうに尻尾を振りながら、ミリュウの首筋や頬を舐めまわしている。

「ええ……仲間がね、拾ってきたのよ」

「仲間?」

「彼には動物が集まってきたのよ。自然とね。常に彼の周りには動物たちがいたわ。子犬、子猫、小鳥……彼には野生の獣みたいな匂いでもあったのかもしれないわね」

 ミリュウがだれのことをいっているのかは、セツナにはわからない。セツナも知らない仲間なのかもしれない。セツナが知っているのは、クルード=ファブルネイアとザイン=ヴリディアだけだ。クルードとザインの名を知ったのは、戦後のことではあるが。あとは二千人の部隊長や兵士たちであり、その中にも仲間と呼べる人間がいたのかまでは知る由もない。

「この子は、あなたたちとの戦いが始まる直前まで一緒にいたのよ。でも戦いが始まるときにはいなかったから、逃がしたんでしょうね、きっと」

「戦いに巻き込まれずに済んで、よかったわね」

「ええ、本当によかった……」

 ミリュウは、子犬を天に掲げるようにした。まるで、天にいるだれかに見せているようだと、セツナは思った。彼女の仲間とやらは、先の戦いで死んだのかもしれない。ザインのことなのだろうか。クルードは、野生とは程遠い人物のように思えるのだ。野生よりも知性のひとというような印象がある。もっとも、彼はミリュウへの熱い想いの中で死んでいったのだが。それにしたって、野性的とは言いがたい。

 ザイン=ヴリディアといえば、手甲の男のことだ。思い返せば、彼は野性的であったかもしれない。本気ではなかったとはいえ、黒き矛のセツナが押されるほどの猛攻を見せた武装召喚師。彼はルウファと熾烈な戦いを繰り広げた末に死亡したという。ただで死んだわけではない。ルウファに戦線からの離脱を余儀なくさせるほどの重傷を負わせたのだ。ザルワーン側としては、ガンディア軍の戦力を減らすことができたといってもいい。もっとも、そのために戦力を失っては元も子もないが。

「ねえ、セツナ」

 ミリュウが、こちらを振り返ってきた。子犬を抱え直す彼女の瞳が濡れていることに気づいて、セツナは、どきりとした。泣き顔に見えたのだ。実際、泣いているのかもしれない。

「この子、連れて行ってもいいかしら?」

「なんで俺に聞くんだ」

「だって、あたしはあなたの管轄下にあるもの」

「そうなのか?」

 エインに問うと、彼は神妙な顔つきでうなずいてきた。

「そういう条件ですから」

「……犬は?」

「特に問題はないでしょう」

「そっか」

 エインの回答を聞いて、視線をミリュウに戻す。彼女は、眠たそうにしている子犬を優しく撫でていた。あの夜セツナを殺そうとした武装召喚師とはまったく違う一面を見ている。セツナだって同じだ。戦時と平時では違う。当然のことをいまさらのように実感するのは、彼女の表情があまりに穏やかで、悲しげで、美しかったからだろう。

「しっかりと面倒を見て、ちゃんと世話をするのなら連れて行っても構わないよ」

「うん……ありがとう」

 ミリュウは子犬の背中に頬を埋めながら、涙をこぼしていた。きっと、この子犬と関係のあった仲間に思いを馳せていたのだろう。大切な仲間だったに違いない。だからこそ、彼女はその子犬を連れていきたいと思ったのだろうし、セツナは彼女の想いを拒絶することはできなかった。

 感傷にすぎないのはわかっている。彼女はザルワーンの武装召喚師で、いまでも敵であることに変わりはない。捕虜として、セツナの監視下に置かれているだけで、彼女の実質的な立場はなにひとつ変わっていないのだ。龍府攻略のために利用するというだけであり、役目が終われば元に戻るだけだろう。

(ん……?)

 セツナは、自分の考えだした結論に首を捻った。彼女の役目が終了するときとは、龍府が攻略できたときだ。無事、ガンディア軍による龍府攻略が終われば、彼女の捕虜としての価値もなくなるのではないか。

 首都の制圧。

 それは戦争の終結を意味するのではないのか。

 そうなったとき、彼女は晴れて自由の身となるのか、それとも、ガンディアという国に囚われることになるのか。

 セツナは、生暖かい風の中で、茫然と考えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ