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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千七百二十七話 完全武装・影式(二)


「試したいことってのはだな」

 いうなり、彼は、武装召喚術を唱えた。本来ならば術式を完成させるための結語だけを口ずさみ、彼の武装召喚術は完成する。それ故、正しい術式を用いる武装召喚師たちには卑怯者などといわれることもあるセツナだが、そのおかげで窮地を脱してきたことも間違いない。本来あり得ないことを平然とやってのけるセツナだからこそ成し遂げられたことも少なくないのだ。

 武装召喚。

 その言葉ひとつ唱えただけで、彼の全身はまばゆいばかりの光を放つ。爆発的なまでの光は、右手に収束しひと振りの矛を出現させる。黒く破壊的で禍々しい矛。カオスブリンガー。自身の代名詞ともいえるそれを手にすると、セツナは軽く振り回してみせた。感覚を確かめるように。

「まさか、わたくしに黒き矛を使えと仰るわけではございませんね?」

「まさか。そんな単純なことじゃあないさ」

 彼はにこやに否定してくると、立て続けに呪文を唱えた。武装召喚の一言で呼び出される召喚武装の数々が彼を黒く禍々しく飾っていく。マスクオブディスペア、メイルオブドーター、アックスオブアンビション、ランスオブデザイア、エッジオブサースト、ロッドオブエンヴィー――黒き矛カオスブリンガーの眷属たる六つの召喚武装を連続的に召喚したセツナは、それらを全身に身につけて見せた。右手に矛を、左手に杖を持ち、槍と斧は、マスクオブディスペアの能力が生み出す闇の手に握らせている。エッジオブサーストはというとメイルオブドーターと同化し、闇色の蝶の翅を禍々しい飛膜へ変容させていく。

 セツナ自身がいう完全武装状態だ。

 まさに壮観かつ凶悪としかいいようのない状態だったが、その圧倒的な力を感じざるを得ない姿を目の当たりにすれば、見惚れるほかなかった。そして、セツナがなにを試したいのか、多少なりとも思い当たることがあった。

「試したいことというのは完全武装状態との同調、でございますか?」

「ご明察」

 セツナが微笑んだのは、レムの察しが良かったからなのか、どうか。いずれにせよ、最近は笑顔の少なかったセツナがこうも笑ってくれれば、レムとしても嬉しいとしか言い様がない。

「以前、おまえがやって見せただろう。“死神”たちに眷属を持たせ、戦うやり方はさ」

「はい。それはもうはっきりと覚えてございますし、それならばいわれずともやってみせるつもりでございますが」

「俺が考えているのはその先だ」

「その先……でございますか?」

 レムは、セツナのまっすぐな目に見つめられ、きょとんとした。

 以前行った完全武装状態セツナとレムの同調というのは、全部で五体の“死神”たちとレムが、六眷属の影とでもいうべき武器を使い分けるというものであり、それだけでも通常とは比較にならない戦力となったものだ。なにせ、黒き矛の六眷属は、凶悪な召喚武装なのだ。それを同調によって完全に再現することができたのだから、強力無比にもほどがある。

 それだけでも十二分に強力だと考えていたレムにとって、その先というのは、想いもしないものだった。

「ああ。その先」

 そしてセツナは、想像だにしないことをいってきた。

「おまえ自身で完全武装状態の俺を再現することができるかどうか」

「わたくし自身で……?」

 レムが呆然としたのは当然だったが、しかし同時にそれができれば確かに切り札たり得るというのも事実だと想った。

 再現は再現でしかなく、その性能は本物よりも格段に落ちるものの、しかし、再現することができるならばレム自身の戦力としての価値は何倍、何十倍にも引き上げられるのは間違いない。少なくとも、いままで以上に活躍できるのは確実だったし、さらに皆の役に立てるようになるだろう。

 セツナの力になれるのだ。

 これほど嬉しいことはない。

 鼓動が高鳴り、彼女は、まるで恋に恋する乙女のような浮遊感の中でセツナの話を聞いた。

 そして、そこから完全武装状態との同調訓練が始まったのだが、それは過酷を極めた。

 完全武装状態というのは、七種の召喚武装の同時併用だ。しかも、黒き矛と六つの眷属は、特別な関係にあり、同時併用による相互作用が複雑に絡み合い、その力は爆発的に膨れ上がっている。そこに同調するということは、莫大な力が一気に流れ込んでくるということであり、同調を完璧なものにしようとすればするほど、レムの負担は大きくなった。

 同調。

 レムは、セツナから命を供給されている。マスクオブディスペアの力によって結ばれた絆は、それだけで彼女を特別な存在へと押し上げている。ただ命が供給されているだけではない。どれだけ肉体が損壊されようと、たとえ消し飛ばされるほどの攻撃を受けたとしても、セツナが生きている限り、肉体は瞬く間に復元し、蘇生する。

 命の供給という次元ではないのだ。

 生命の同期といったほうが近いのではないか。

 そして、その生命の同期をより強く、より深く高めていく課程で見出したのがセツナとの同調だ。

 完全武装状態のセツナは、黒き矛とすべての眷属を召喚し、同時併用している。それによって強化されているのは、セツナだけではない。黒き矛もすべての眷属も、相互作用によって強化されおり、マスクオブディスペアも通常よりも遙かに強力なものになっていた。

 先も触れたようにレムは、マスクオブディスペアの能力によってセツナと結ばれている。その原因たるマスクオブディスペアの能力が強化されることで、セツナとの結びつきもより強固なものとなり、レムの生命力も増大した。

 その強化された結びつきによって流れ込んでくる力をさらに多く取り込むこと。

 それを彼女は同調と呼んだ。

 同調によって得られるのは、完全武装状態のセツナが発揮する力のほんの一部に過ぎないが、しかし、その一部がレムの力をとてつもなく引き上げてみせるのだ。そして、それによってレムは、黒き矛の眷属を再現することに成功している。

 セツナは、さらにその先を求めた。

 レムもセツナの期待に応えようと想った。

 同調をより強め、研ぎ澄まし、完全武装状態を再現しようとしたのだ。

 それによって多大な負担が自身にかかることは承知の上だ。どれだけ精神が損耗しようとも、死ぬことなどないのだから、なにも恐れることはない。

 恐れるべきは、セツナを失うことであり、セツナの周囲のひとびとを失うことだ。

 そうならないためにも、彼女が気張らなければならない。 

 たとえ魂が灼け、心が燃え尽きようとも構いはしない。

 

(この程度……!)

 レムは、胸中、吐き捨てるように告げた。すべてを失い、暴走したセツナが世界を滅ぼすような絶望的な状況などに比べれば、遙かにましだ。少なくとも、レム自身の負担だけで済むのだ。比べるべくもない。

 完全武装・影式。

 セツナの命との同調によって得られる黒き矛と六眷属の力を再現することで、レムは、完全武装状態のセツナとほとんど同じ格好になっていた。頭には黒影の仮面を乗せ、体には黒影の鎧を纏い、右手には黒影の矛、左手には黒影の杖を握っている。黒影の双刃、黒影の斧、黒影の槍は、自身の影に隠しているが、装備はいつでも可能だ。いずれも本物にそっくりそのままの姿形をしてこそいるものの、全体的により黒く、より闇そのものに近くなっているのは、影だからだ。

 黒き矛と六眷属の影たち。

 セツナの影たるレムに相応しい武装といえるだろう。


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