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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千七百十六話 激戦への誘い(一)

 神人の数は、五万体以上。

 いずれも背中や頭、手足などから翼を生やしていて、飛行能力を保有していることは明らかだった。神人がただの地上戦力でないことは、端から理解していたものの、神鳥というそもそもの航空戦力がある以上、そちらを繰り出してくるものかと想ったのだが、どうやらそういうわけにもいかない理由でもあるようだ。もしかすると、神化した兵力というのは、人間のほうが圧倒的に多く、そのために神人を運用せざるを得ないのかもしれない。

 もっとも、神化し、変容した人間たる神人は戦場を選ばないようなのだから、どうでもいいことなのだろうが。

 セツナは、たったひとりでそれらを相手にしなければならないという状況に直面し、苦笑せざるを得なくなった。そして、四隻目の飛翔船をあっさりと撃墜すると、透かさず、召喚呪文を口走った。それも二度だ。マスクオブディスペアとロッドオブエンヴィーを召喚したのだ。これで計五つの召喚武装を同時併用していることになる。

 完全武装状態からは程遠いが、それでも圧倒的な力の増大があった。

 召喚武装は、ただのひとつで使用者の身体能力を大きく増幅するものだ。その増大幅というのは召喚武装ごとに異なるものであり、黒き矛ことカオスブリンガーの増大幅というのは極めて大きい。それに黒き矛の眷属たちを併用すると、さらなる効果が期待できたし、実際、セツナの身体能力や五感は、通常時と比較しようもないほどに強化されている。

 全周囲、五万体の敵の動きが手に取るようにわかるのもそれだ。

 数十倍に引き上げられた五感が精確無比に機能し、まるで戦場を掌握しているような、そんな感覚があった。聴覚、触覚、嗅覚、視覚――あらゆる感覚が、五万体の敵の動きを完璧に把握し、予測する。その結果、莫大な情報が洪水のように押し寄せるが、それを平然と処理するのが、召喚武装の副作用によって強化された脳というものだ。すべてが高速で処理される結果、セツナには、神人たちの動きが緩慢に見えたし、世界の速度そのものがいつもより遅く感じられた。

 五万体の神人が腕や足、翼を触手のように伸ばして攻撃してくるのを軽々とかわせるのも、すべてが緩慢に見えているからであり、相応の速度で動けるからにほかならない。回避し、攻撃する。セツナにとっては軽めな攻撃は、しかし、神人の肉体を容易く損壊させ、“核”ごと消滅させかねないものであり、中にはセツナの斬撃が掠っただけで消滅した神人もいた。

 セツナは、神人たちの猛攻をかいくぐるついでに数百体の神人を塵に変えると、吐き捨てるようにいった。

「てめえらみたいな雑魚はお呼びじゃねえ」

 とはいえ、ネア・ガンディアに徹底的な敗北を叩きつけるには、これら神人もできるだけ多く倒しておく必要があるのかもしれない。

 もっとも効率的なのは、神人の力の源となっている神を滅ぼすことだが、該当する神がこの戦場にいなければ意味のない考えだった。大型飛翔船を動かしている神が、神人の力の源とは限らないのだ。もしかすると、ネア・ガンディアの本拠地にいて、神人たちに力を与えているだけかもしれない。そして、その可能性が極めて強いからこそ、神人を相手に戦うのは力の浪費としか想えないのだ。

「では、わたしが直々にお相手しようか? セツナ=カミヤ」

「あん?」

 空高く見下ろすような居丈高な声が聞こえて、彼はおもむろに振り仰いだ。頭上、太陽を背後にそれは浮かんでいた。いや、太陽光に見えたそれは、そのものの光背であり、まばゆく輝く黄金色の輪だ。神々は、多くの場合、光背を負う。それこそ、ひとびとが想像した通りの姿なのだろうし、その神々しさはまさに神に相応しいものだろう。

 船隊の内、唯一残った中型飛翔船がゆっくりと地上に向かって降下していくのがわかっている。いま頭上に出現した神の操縦を離れたのだから落下するのは当然だろうが、それにしてはゆっくりとしたものだ。もしかすると、いま現在、あの船は自動操縦なのかもしれない。ただ、動力となる神がいなくなってしまったため、飛び続けることができないのだ。

「わたしの名はルノウ。神皇陛下の名の下にあなたを下そう」

「はっ」

 セツナは、鼻で笑った。

「神が人間に謙って、情けないと想わないのかね」

「神皇陛下は、人間ではないよ」

 ルノウが逆光の中でその双眸を輝かせた。金色に輝く両目は、まさに神のそれだ。しかし、凍てつくような光には、敵意しか見当たらない。

「彼は、神々の王だ」

 ルノウのその一言を聞いた瞬間、セツナは、降下中の飛翔船に向かって最大威力の“破壊光線”を撃ち放っていた。


 神の出現は、予想通りではあった。

 中型飛翔船は、神によって動かされているという大方の想像通り、神威に満ちていた。神の力によって動く船だ。常に神が乗っていると考えるのが自然であり、必然だったのだ。その神の乗る船を攻撃し、破壊し尽くした以上、その残骸の中から神が現れるのは道理といっていい。船を破壊するほどの力でも、神にはまったく通用しないだろう。

 神とはそういうものだ。

 理不尽そのものといっていい。

「まったく……困ったことをしてくれる」

 声が聞こえ、船の残骸が吹き飛ぶと、そのいくつかがラムレシアを襲った。が、当然、彼女に触れることもできないまま、弾け飛んでいく。眷属たちが作り上げた多重の魔法障壁が彼女を護っているからだ。

 中空。船の残骸が消え去った空白の中に、それはいた。

 一見すると、竜属に近い姿をしていた。全身、露出した部分は赤銅色の鱗に覆われ、頭部は竜そのもの。ぎょろりとした目に複数の角が特徴といえば特徴だろうか。甲冑と長衣がひとつになったような防具を身に纏う体の作りは、竜というよりは人間に似ている。しかし、腕や足など、露わになった部分は鱗に覆われていることから人間の体というわけではないらしい。だとしても、竜頭人身と表現するべきか。翼にも似た光背を負い、手に握られた杖の先端には、無数の眼球がひとつになったような飾りがある。

 それが神であることに微塵の疑いも持たないのは、それが発する強烈な神威のおかげだろう。神の力は、極めて威圧的にこちらに向けられている。

「これでは、神皇陛下の御機嫌を損ねかねん。どうしてくれる」

「貴様らの都合など、知ったことか」

 ラムレシアが吐き捨てるように告げると、飛竜たちの咆哮が響き渡った。咆哮は竜語。竜語は魔法。数千の魔法が時間差もなく発動し、莫大な量の光線となって竜頭人身の神へと殺到する。ただ純粋に破壊力を求めた魔法の数々。ラムレシアはそれらを手繰り、神へと導く。

「そんなに神皇陛下とやらの御機嫌取りがしたいのなら、いますぐしっぽを巻いて逃げるがいい」

「そうしたいのは山々だが、それでは陛下の御機嫌を損ねるだけだろう」

 声は、背後から聞こえた。しかし、竜頭人身の神は、ラムレシアの視線の先にいる。彼女は、瞬時に状況を理解すると、魔法の奔流でもって竜頭人身の幻像を打ち砕きながら自身は前方に転移した。背後に向き直り、未だ残る眷属の魔法を視界に捉えた敵に収束させる。だが、竜頭人身の神は、杖を振り回しただけで魔法の奔流を打ち消してみせると、笑いもせずに告げてきた。

「わたしの名は、ニーリス。竜の神なり」

 そう名乗った神は、杖を翳した。

 杖の先端についた無数の眼球が四方八方に飛び散った。



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