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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千七百十四話 信じるということ

 空中都市リョハン。

 リョフ山という大地の楔を断ち切り、自由に空を飛ぶ力を取り戻したその名の通りの空中都市は、いまやかつての面影を残しつつも、大きく変貌を遂げていた。

 最も大きな変化としては、リョフ山を離れたことにより、空中都、山間市、山門街の三大居住区ではなくなったことが上げられる。空中都の地上と地下が居住区となり、地下の居住区は山間市と山門街に住んでいたひとびとが全員入っても十分すぎるほどの広さが確保されているという。リョフ山の大空洞を利用した山間市に住んでいたひとびとにとっては、空中都の地下空間での生活は、山間市での生活と大きな違いはなく、すぐに順応できたようだが、山門街に住んでいたひとびとはそういうわけにはいかない。なにせ、つい最近まで、太陽の下で生きていたのだ。それがいきなり地下空間に押し込められたようなものであり、不満の声が募るのも無理のない話だった。

 戦女神代理のミリア=アスラリアは、リョハンに平穏が訪れ次第すみやかに元の生活に戻れるよう尽力する、と約束することで、そういった不満の声を静めたそうだ。元より、市民を護るためには致し方のない処置であり、マリク神や御山会議とて、好き好んでそうしたわけではない。

 マリク神は、またいずれ訪れるかもしれないネア・ガンディアの侵攻や、別の災害から逃れるための手段として、リョハンの飛行機能を復活させたのだ。そして、御山会議に了承を取り付け、空中都の地下空間に居住区を作り上げた。マリク神は、ネア・ガンディアの三度目の侵攻を予見したわけではないが、可能性を考慮していたということだ。

 空中都市を空飛ぶ都市へと変えたのは、間違いなくマリク神の御業であり、マリク神の加護によってだれもが護られているという事実が知れ渡ると、マリク神への信仰は否応なく高まった。元より、“大破壊”以来、リョハン市民の信仰を集めていたマリク神だが、リョハンが空を飛んだことでさらに深く敬われるようになったのだ。

 しかし、リョハンの表面上の中心が戦宮であることに変わりはない。リョハンのひとびとの心を照らすのは、いまもなお戦女神の存在であり、戦女神への信仰が拠り所となっているのだから、変わりようがないのだ。無論、守護神マリクが蔑ろにされているわけではなく、むしろ、本当の神と現人神とで信仰を使い分けている節がある。そういったしたたかさは、リョハンのひとびとがヴァシュタリアからの独立以来、当然のように身につけていったものであり、だからこそ、数十年の長きに渡ってひとつに纏まってこられたのではないか。

 そんなことを想うのは、こんな状況にあっても戦女神の声に耳を貸し、冷静に行動に移ったリョハン市民の姿をその目に焼き付けたからにほかならない。

 ファリアはいま、戦宮にいる。

 戦女神として当然の振る舞いだが、本音をいえば、セツナたちとともに戦いたいという気持ちのほうが強い。そして、戦力配分において、最初から自分が戦力に組み込まれなかったことに多少なりとも哀しみを覚えずにはいられなかったのも事実だ。戦力として当てにしてもらえないのか、と、想ってしまったのだ。

 もっとも、その後セツナ直々の説明によって、大いに納得したことではあったが。

 本作戦の都合上、戦女神たるファリアには、リョハンにあって泰然としているほうがいいのだ。守護神マリクへの信仰が高まる中、リョハン市民の心の中心には、いまもなお戦女神の存在がある。それはそうだろう。物心つく前から戦女神を信仰するよう教わり、育てられた市民は少なくない。特に若い世代は、戦女神こそ世界の中心であり、天地を支える柱だと信じて疑わないのだ。どれだけマリク神がリョハンのために尽力しようと、数年では、数十年に遠く及ばない。

 先代より戦女神の座を受け継いだファリアは、リョハン市民の心の拠り所であり、支えそのものなのだ。

 故に、彼女が泰然としていれば、それだけでリョハンのひとびとは安堵し、冷静さを維持することができた。実際にその通りなのだから、凄まじい。

 リョハンには、現在、市民がひとりもいない。空中都の地上だけではなく、地下からも出払っている。どこへ逃げたのかといえば、リョフ山の地下坑道であり、この戦いが終わるまでそこで待機しておくように命じてあった。

 リョハンは、リョフ山を真上からくり抜くようにしてその内側に籠もっているのだが、それで護りが完璧になったとは言い難い。リョハンは、マリク神とその眷属たる七霊の作り出す守護結界によって護られており、神通石によってその力はさらに増幅しているという。だが、それでも三十隻の飛翔船による一斉砲撃の前では一溜まりもなく、故に先手を打って飛翔船の数を減らすという策に出たのだが、その戦術では、リョハンが戦場になる可能性が考慮されていた。そのためにリョハン市民は地下坑道に避難し、リョハンには、戦力に数えられるものだけが残っていた。

 戦女神ファリア=アスラリアと六大天侍、護峰侍団、《大陸召喚師協会》の武装召喚師たち、エリルアルム=エトセア率いる銀蒼天馬騎士団、レム、エリナ。

 そしてミリア=アスラリアも、だ。

「本当にだいじょうぶなんですか? お母様」

 ファリアがふと尋ねたのは、気晴らしを兼ねてのことでもあった。

 戦宮の一室には、ファリアのほか、ミリアとエリナ、レオナとレイオーンの姿がある。レオナ・レーウェ=ガンディアがレイオーンとともに戦宮に残っているのは、それが彼女自身の望みだからだ。ガンディアの王女としての務めを果たすという彼女の頑なな想いにこちらが折れた形だった。本当ならば、レオナにも避難していてもらいたいのだが、レイオーンが護ると約束したため、仕方なく認めている。最悪の場合、マリク神が護ってくれるだろうという考えもあったが。

 ミリアは、こちらを見て、平然と告げてきた。

「わたしはだいじょうぶよ。なんたって、戦女神様の代理人ですもの」

「それ、なんの保証にもなってないんですが……」

「なにいってるの。わたしほど戦女神の重大さを知っている人間もいないでしょう」

「それは……そうですが」

 ミリアの言い分には、納得するほかない。ミリアは、先代戦女神ファリア=バルディッシュの娘だ。物心つくまえから、戦女神として尊崇される母の姿をその目に焼き付け、母を敬う数多の声を耳朶に刻みつけてきたに違いない。ただ役割を引き継いだだけのファリア以上の苦悩や苦心が先代戦女神にはあっただろうし、そういった姿も目にしてきたはずだ。戦女神という役割の重さについては、ファリア以上にミリアのほうがよく知っているというのは、当然といえば当然の話だった。

 戦女神代理という重要な役割を担うことになってからというもの、ミリアが日々の鍛錬を欠かしていないことについては、ニュウらから話を聞いて知っていたし、その点については疑う余地もない。生粋の武装召喚師であるミリアは、昔から鍛え上げられた肉体を持っていた。それこそ、ファリアが理想とする肉体美は、かつてエンジュールの温泉で変わらぬ美しさを見せつけられたことを覚えている。

 あれから数年。

 ミリアの外見に大きな変化はなく、それがファリアには嬉しいような哀しいような、複雑な気分だった。

「それより、あなたはだいじょうぶなの? 戦女神様」

「はい?」

「セツナちゃん、いないわよ」

「だ、だだだ、だいじょうぶに決まっているじゃないですか!」

 予想だにせぬ方向からの一撃を受けて、ファリアは、ミリアに掴みかかりそうになるほどの勢いで、いった。

「せ、セツナがいなくたって、なんともありませんよ!」

「そう。そうよね。セツナちゃんのためにも頑張らないとね」

「は、はい!」

 ファリアが力強くうなずくと、ミリアはにっこりと微笑んだ。

 その笑顔を心強く感じるのは、ミリアが自分の母親だからであり、憧れのひとだったからだろう。

 ファリアは、確信とともにそう想い、拳を握った。心配などする必要はない、信じるのだ。

 セツナを。

 皆を。





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