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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千七百十話 数だけは多い(一)

 北東より迫り来るネア・ガンディア軍の飛翔船隊の撃墜任務を請け負ったのは、ウルク率いる部隊だ。

 セツナとの共同任務を望んでいた彼女にとって、この戦力配分については当初こそ不満だったものの、セツナがしっかりと説明してくれたことで納得できていた。なにより、任務完遂の暁には、セツナがウルクの望みを聞いてくれるというのだから、奮起しないわけにはいかない。無論、そんなことがなかろうと与えられた任務を完遂するのが彼女の役割だということもわかっているのだが、それでも、と、ウルクは想うのだ。

 セツナには、どうしても聞いてもらいたいことがある。

 そのためには、この任務を完璧に遂行する必要があった。

「できる限りの補助はするが、無茶は控えるのだ。おまえの躯体とやらを元に戻す手段はないのだからな」

「了解しました、マユラ」

 ウルクは、小さくうなずくと、前方に視線を移した。マユラ神は、ウルクの同行者であり、いわばウルク隊の一員だ。ウルク隊は、ウルクを含めて全部で四名。残りの二名は、ウルクと同じ魔晶人形だった。イルとエルだ。

 なぜか。

 どういうわけかセツナの発言こそ最優先命令と認識してしまっているウルクとは異なり、イルとエルは、ウルクの発言こそ、最優先命令と認識することが判明したのだ。おそらくは、ウルクが無事に彼の地に辿り着けるための戦力として使え、ということなのだろうし、彼のウルクへの偏愛あるいは過保護ぶりを示す事物なのだろう。そうとわかれば、活用しない手はない。なにより、魔晶人形だ。並の人間は愚か、武装召喚師とも比較にならない力を発揮しうる。戦力として活用するべきだというウルクの発言により、イルとエルの二名は、ウルク隊に加わることになった。

 当初、セツナはウルクには、ニュウ=ディーとアスラ=ビューネル辺りと組ませようと考えていたようだが、イルとエルの二名に決まったことで、ある種安心したらしかった。イルとエルは、セツナの命令を聞いてくれていたとはいえ、不確定要素が多く、リョハンの防衛戦力には数えにくいという部分があったからだ。リョハンを護るのは、やはりリョハンをよく知る六大天侍たちに任せるほうが無難だろう、ということらしい。

 ウルクには、そういった部分はよくわからないことだが、セツナが納得したのであればなにもいうことはなかった。

「しかし、なんの問題もありません。解決手段は確認済みです」

「解決手段? なんのことだ?」

「では、行きます。作戦通り、敵船の誘導をお願い致します」

「おい、わたしの質問に……まったく、だれに似たやら」

 マユラ神がなぜか困ったようにいうのを背中で聞きながら、ウルクは、神の加護の中から飛び出した。光の膜を蹴り、空中へ。前方にネア・ガンディア軍の飛翔船が五隻、浮かんでいる。その中でもっとも大きな飛翔船は、ウルクナクト号と同等の質量を誇り、黒みがかった船体は丸みを帯びていた。その船首が開き、巨大な砲塔が迫り出してきたのは、こちらの接近に気づいたからなのだろうが、だとすれば遅すぎるといわざるを得ない。ウルクは、この任務を完遂することを主に約束したのだ。

 約束は、護らなければならない。

(だというのに、わたしは)

 ウルクは、弐號躯体の各所に設けられた噴射口から波光を放つことで空中で加速し、砲塔が輝き出すよりも早く、その船体を覆う防御障壁に取り付くことに成功した。見えざる力場が船体を包み込んでいるのだ。分厚く、強固な神威の障壁。魔晶人形の力でも打ち破ることは不可能に近い。だが、なんの心配もいらなかった。続いて、エル、イルがウルクのすぐ側の防御障壁に取り付くと、途端に浮遊感がウルクを襲った。力場の壁が消失し、落下が始まったのだ。

 神威砲が轟音とともに閃光を放ち、ウルクの視界の片隅を白く塗り潰す。ウルクを狙ったのではなく、マユラ神を撃ち落とすべく発射されたのだろう。そして、そのために防御障壁を解かねばならず、その結果、ウルクたちは飛翔船の上部を覆う天蓋に降り立つことに成功していた。

 飛翔船は、未知の金属で作られた船体と、その上方を包み込む半透明の天蓋によって成り立っている。ウルクナクト号と同じだ。そしてその天蓋は、飛翔船のほかの部分より強度が低くできており、弐號躯体の強度と腕力ならば容易く打ち抜くことができた。拳を突き入れて叩き割り、その穴の中へ躯体を滑り込ませる。そのときには、甲板上に多数の敵性存在が確認できていた。

 全身が白く変容したものたち。いわゆる神人と呼ばれる存在ばかりが甲板を埋め尽くさんばかりに溢れていた。どこからともなく現れたそれらだが、おそらくは、この船を操る神の仕業に違いない。神は空間転移を容易く行うものだ。

 甲板上に降り立つとともに神人の頭を蹴り飛ばし、その巨体そのものを吹き飛ばすと、イルとエルの二体が彼女のすぐ側に着地するのを待った。二体とも、ウルクの真似をするように天蓋を叩き割り、破片とともに降りてきた。そして、ウルクのように神人を蹴り飛ばし、着地する。弐號躯体ではないが、弐號躯体に近い力を持っているのは間違いない。

 味方は、自分を含めて三体。マユラ神は、ほかの船を落とすのに忙しいはずだ。すぐには、ウルクたちの援護には回れまい。となると、やはり魔晶人形たちだけでどうにかしなければならない。敵は、いまや甲板上を溢れんばかりに増大しており、それらがウルクたちを凝視していた。

「イル、エル。こういうとき、どういうか知っていますか」

 ウルクは、二体の先輩として恥ずかしくない振る舞いをしなければならない、と、不意に想った。イルとエルは、レムにより、ウルクの後輩に認定されているからだ。しかも、イルとエルは、ウルクの一挙手一投足を見逃すまいと、じっと見つめてきている。

「数だけは多い、というのだそうです」

 告げ、中空に飛び上がったのは、神人たちが一斉に動き出したからだ。白き異形の腕や足がウルクの立っていた場所に激突し、甲板に穴を開ける。飛翔船に用いられている金属は強固だが、傷つけられないわけではない。ウルクたちにだって貫けないものではないのだ。ウルクが天蓋から突入したのは、そのほうが効率的だからであり、それ以上でもそれ以下でもない。

「そして、数だけが頼みな相手など、わたしたちの敵ではないということも知っておくべきです」

 同時に、この数の敵すべてを相手にするのは非効率的だということも教えなければならない、と彼女は想った。

 そして、青白い閃光が眼下を灼いた。

 イルとエルが、波光大砲を同時に撃ち放ったからだ。


「各方面で戦闘が始まったようだが、我らには手勢を寄越す気配も見受けられぬ。我らを侮っているわけでもあるまい?」

 マハヴァが困惑するのもわからなくはなかった。北征船団の主戦力たるセオンレイ率いる船隊がこうも明瞭に無視されるなど、考えられないことだ。

「それはないさ」

 そんなことは、万が一にもありえないはずだ。

 少なくともセツナたちには、獅徒と直接戦闘した経験がある。その情報がリョハンと共有されていないはずもない。共同戦線を張るのだ。最低限の情報共有くらいはするだろう。そして、獅徒の戦闘能力に関する情報のような重要なものが共有されない理屈はない。つまり、リョハン側は、獅徒レミリオン率いる主戦力がもっとも脅威であることを知りながら、黙殺しているということになる。

 獅徒は、神に匹敵する力を持ち、さらには神を取り込むことで何倍にも力を引き上げることができるのだ。それほどの力の持ち主を黙殺するなど、通常、考えられる戦術ではない。

「なにか、策があるんだろう」

 それ以外には考えられないが、だとしても、圧倒的な力を持つ敵主力を無視するような戦術など、愚策も愚策といわざるを得ないのではないか。

 セツナはリョハンにはおらず、各方面の船隊を攻撃するために戦力を分散させたいま、リョハンは手薄の極みとしかいいようがない。そんな状況下でレミリオン率いる主力船隊がリョハンに辿り着けば、リョハンは終わりだ。

 いくら守護神の結界が強固であろうと、人間を通す結界では、人間ロナン=バルガザールを拒絶することは出来ない。


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