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第二千六百一話 星を落とすもの(三)

 まるで空が落ちてくるかのように蒼穹を埋め尽くした巨大な岩塊の群れは、超巨大化した白毛九尾によって難なく破壊され、粉微塵に打ち砕かれた。破片さえも落ちてこないほど徹底的な破壊は、さすがはシーラというほかないものであり、その様子を見守っていたファリアたちは、白毛九尾の雄大な、そして神々しいまでに美しい姿に目を奪われたものだった。

 しかも、白毛九尾が戦場を覆い尽くすほどに巨大化したおかげか、その超巨大質量に踏み潰された神人や神獣が多数、行動不能に陥り、そこへ自軍将兵が殺到することで多数の敵を滅ぼすことに成功している。

 白毛九尾の超巨大化こそ解かれてしまったものの、一連の流れが、統一帝国軍に多大な勢いをもたらしたことはいうまでもない。

 元々、優勢に傾いてはいた。

 当初、大帝国側の物量、圧倒的戦力を前に統一帝国側は押され、劣勢に立たされていた。皇帝ニーウェハインを始め、だれもが奮起し、全力で戦ってなお、大帝国の優勢は揺るぎようがなかったのだ。それほどまでの物量差があり、戦力差があったのだから、持ち堪えられただけでも御の字といえるだろう。それもこれも、ニーウェハインが戦場各地を転戦し、窮地に陥った部隊の救援に飛び回っていたことが大きい。皇帝ニーウェハイン直々の救援は、窮地に陥った部隊を大いに奮起させるだけでなく、周囲の部隊、将兵の戦意を昂揚させる効果があったのだ。帝国人将兵にとって、皇帝とは神そのものだ。その神に救われたとあらば、興奮するのも当然といえば当然かもしれない。

 ともかく、そのようにして遊撃部隊の如く各地を転戦した皇帝一行により、統一帝国軍の士気は、劣勢であるにも関わらず、下がるどころかむしろ上がり続けた。際限なく上昇する戦意と士気が、すべての将兵に獅子奮迅の如き戦いを促し、だれもが死を恐れず、敵陣に突っ込んでいった。

 そんな状況を変えたのは、ファリアたち八極大光陣攻略班だ。八極大光陣における八柱の分霊との戦闘を勝利によって終えた攻略班は、疲労と消耗の中、マユリ神の一存によって主戦場に転送された。シーラやエスクといった余力を多分に残したものは、移動城塞に残り、セツナを助勢したいと息巻いたが、マユリ神はそれこそが命取りになると一蹴した。

『おまえたちがナリアとの戦闘に参加すればどうなると想う? ナリアは、率先しておまえたちを狙う。セツナの心を揺さぶるためにな。おまえたちが殺されでもしてみろ。ナリアの思惑通り、世界は滅びに瀕するぞ』

 おまえたちは、セツナの弱点なのだ、と、女神は告げ、だからこそ、遠く離れた戦場で思う存分戦うべきだ、ともいった。

 ナリアは、セツナから目を離すことができず、故に移動城塞を離れることができない。セツナを放置すればどうなるか。簡単なことだ。認識外からの攻撃によってナリアは致命傷を負うことになる。大神といえどだ。そしてそこから敗北が始まるだろう。それがわかっているから、ナリアはセツナに釘付けにならざるを得ない。逆もまた然りだが、そのため、ナリアが移動城塞外に逃れたファリアたちを攻撃してくるようなことはない、と、マユリ神は断定した。

『たとえおまえたちが狙われたとして、近くにある限り、わたしが全力で護ろう』

 マユリ神はそういったが、それはこの上なく頼もしい言葉だった。

 移動城塞より戦場に転送されたのは、攻略班のうち、生存者だけだ。そのうち、ランスロット=ガーランドを始めとする消耗の激しいものは、マユリ神の元へと転送され、休養に専念することとなった。

 ファリアは、死に瀕するほどの重傷を負ったものの、その後、しばらくして回復したこともあり、戦いに参加することとなった。シーラ、レム、エスク、ミリュウ、ダルクス、ウルク、ミーティア、シャルロットらも参戦し、マユラ神もファリアたちを支援するべく戦場に降り立った。

 サグマウも当然戦場に転送されたが、その直後、彼の主たる海神マウアウが出現し、戦場の一角を大津波によって押し流してしまった。そこから、統一帝国側の大反撃が始まったのだ。

 ファリアたちは、レムを除いて海神マウアウと逢うのは初めてだったが、マウアウ神は、ファリアたちのことをとてもよく知っているかのような態度を取った。話によれば、マウアウ神は、セツナの記憶を読み取り、その中でファリアたちを知ったということのようだ。しかも、セツナ視点のファリアたちだ。印象が悪かろうはずがない。

 マウアウ神の参戦は予期せぬものだったが、おかげで戦力差は覆ったといっても過言ではなかった。

 大帝国には、大神ナリアがいる。大神ナリアの力は、マユリ神、マユラ神とマウアウ神が力を合わせたとしても凌駕できないくらいに強大だという。そんな強敵にセツナひとりでだいじょうぶなのか、という疑問や不安も湧いたが、ファリアたちにはセツナを信じる以外に道はなかった。不安だからと助勢したが最後、セツナの弱点となって足を引っ張ることは目に見えている。むしろ、セツナの近くにいないほうが、助力していることになる、ということだ。悔しいが、それは認めるしかない。

 分霊は斃せても、神を斃せる力はない。

 それに、ファリアたちはいずれも多かれ少なかれ消耗しており、全力で戦うのも難しい状態だった。そんな状態でナリアとの戦いに参加すれば、一瞬にしてナリアの手にかかり、セツナを窮地に立たせることになるに違いない。

 マユリ神の判断は妥当としかいえなかった。

 それに、大帝国軍との戦闘を優位に進めることは、セツナの憂いを断つことにもなる、という事実もある。

 マユリ神、マユラ神、マウアウ神の助力によって統一帝国軍は、それまでとは比較にならない戦力を得た。ファリアたちが参戦したこと以上に、二柱の神が参戦したことのほうが、全体への影響は大きいだろう。特にマウアウ神が起こした大津波は、戦場となった大地を水浸しにしたものの、数万体の神人や神獣を遙か遠方に押し流し、統一帝国側の戦意を否応なく高めている。

 ファリアもオーロラストームや閃刀・昴を用いて神人との戦いに身を投じ、シーラは白毛九尾となって戦場を蹂躙した。エスクがホーリーシンボルも全開に暴れ回れば、ミリュウが擬似魔法を炸裂させる。ダルクスの重力制御が神人を拘束し、シャルロットやミーティアがそれらを殲滅する。レムは“死神”たちと踊るように戦い、ウルクは、打撃だけで神人を破壊してみせる。生き残った武装召喚師たちも大いに戦った。

 八極大光陣の戦いとは比べものにならないのは、その容易さだろうか。

 神人、神獣、神鳥は、いずれも無限の再生力と強靱な肉体、戦闘能力を誇るが、分霊と比べると、次元が違うといっても過言ではないくらいに弱く感じられた。無論、神人には、分霊にはない物量があるのだが、それでも、何千何万の神人を纏めて相手にするよりも、一柱の分霊を相手にするほうが困難だったのではないかと思えた。

 それがファリアたちの戦いぶりにも現れている。

 ファリアたちは、劣勢だった戦況を覆し、優勢も優勢、勝勢といっていいほどの状況へと好転させたのだ。

 もはや、統一帝国軍が大帝国軍に負ける要素などはないだろう。こちらには神々がついていて、全将兵は神々の加護によって大いに強化されている。死傷者をなくすことは不可能だが、抑えることはできている。多少の負傷は瞬く間にいえ、腹を貫かれるような重傷さえも、治ってしまうくらいだ。このまま戦い続ければ、物量差をも覆し、勝利することも夢ではない。





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