表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2598/3726

第二千五百九十七話 反撃のとき(二)

 ついに訪れた反撃の機会を逃すまいと飛びかかったセツナは、一瞬にしてナリアとの間合いを詰めた。完全武装状態による全能力の超絶的な強化およびマユリ神の加護、召喚武装による様々な補助が複合的に絡み合い、セツナの力をこれまでにないくらいに引き上げている。

 それこそ、大いなる女神ナリアとの戦闘も可能とするくらいに。

 それは、ナリアが目を見開き、驚きを示したことで明らかとなる。

 懐に踏み込み、矛の切っ先を突きつけようとした。爆ぜる。ナリアの衣が矛先を受け止めたのだ。力の衝突。神威と、黒き矛の力。性質の異なる強大な力同士が接触したことによって爆発が起き、セツナは、その余波から身を守る必要に迫られた。メイルオブドーターの翅で自身を庇えば、直後、凄まじい衝撃が連続的にセツナに襲いかかり、後方に吹き飛ばされる。ナリアの光輪から放たれた無数の光弾が護りに入ったセツナを吹き飛ばし、距離を開けたのだ。

 だが、痛撃にもならない。メイルオブドーターの翅の防壁もまた、通常以上に強固なものとなっている。大神の攻撃を防ぎきるほどだ。

(戦える……!)

 セツナは、翅を広げて空中で態勢を立て直すと、羽撃かせた。あのときとは明らかに違う手応えがある。あのとき、つまり、八極大光陣の中に在るときとは、だ。こちらの攻撃が通ったわけではない。が、ナリアにしても、セツナの攻撃を防がなければならないという意識が働いていることは明らかだ。攻撃を受けてはいけないという意識は、つまり、通用するということにほかならない。そして、なによりナリアの攻撃が見えていた。攻撃の予測が立ち、攻撃の軌道が見え、攻撃の威力が分かった。

 これは、八極大光陣中にはなかったことだ。

 八極大光陣は、確かに絶対無敵の布陣といっても過言ではなかった。

 少なくとも、セツナが完全武装状態になっても手も足もでなかったのは間違いなく、現有戦力では太刀打ちできない状態だったのだ。ナリアの攻撃は見えず、予測も立てられず、受けることもかわすこともできなかった。こちらの攻撃が届きもしない。圧倒的。絶対的といってよかったのだ。

 それが崩れた。

 絶対性が失われたいま、セツナは、俄然、やる気に満ちていた。

 中空、鋭角的な軌道を描き、ナリアとの距離を詰める。直線を進まないのは、ナリアの光輪から光線が途切れることなく飛来してきているからだ。目標を見失った光線は、壁や床に激突し、大爆発を起こしている。このままでは、玉座の間が崩壊するのも時間の問題だが、ナリアにはどうでもいいことらしい。その破壊力からもセツナを殺すつもりであるらしいことが窺い知れる。

「本気になったか! ナリア!」

 叫び、ロッドオブエンヴィーの能力“闇撫”を発動させる。杖の髑髏、その口腔から吐き出される闇の奔流が巨大な異形の手となり、軌道を変えてセツナに迫り来る光線を軽々と払い除けた。弾かれた光線が四方八方に飛び散り、いくつかはナリアの周囲に着弾し、大爆発を起こす。爆煙の中、しかし、ナリアは悠然と佇むようにそこにいる。依然、優勢にあるとでもいわんばかりだ。

「本気? このようなものが本気だと、本当にお想いですか?」

「はっ……いつまで余裕を保っていられるかな」

「いつまででも」

 ナリアが涼しげなまなざしでいってくる。

「わたしの勝利は揺るぎませんよ、セツナ。後悔するのは、余裕を失うのはあなたなのですから」

 女神が右手を掲げ、頭上を仰いだ。セツナは、急停止すると、咄嗟に飛び退き、距離を取った。ナリアの神威が増大するのがわかったからだ。増大した神威は、そのまま莫大な光量となって視界を塗り潰す。セツナは、一対の翅を前面に展開し、防壁で全身を包み込んだ。衝撃が来る。爆圧。轟音と震動。熱量が吹き荒び、なにもかもが吹き飛ばされていく感覚があった。

 気がつくと、セツナの頭上を覆っていた天井がなくなり、突き抜けるような蒼穹が広がっていた。ナリアは、セツナを攻撃したのではなく、目くらましに建物を破壊したようだ。目くらまし。そう、前方に視線を戻せば、ナリアの姿はなかった。だが、その圧倒的な神威の居場所は、肌でわかる。凄まじい気配であり、セツナほどの感知能力がなくとも容易く察知できるだろうと思える。

 その圧倒的な気配がどこにあるかといえば、八極大光陣を司る分霊がいた塔のひとつだ。

 ナリアの目的は、考えるまでもなくわかる。そこにいるはずのセツナの大切なひとたちをひとりずつ確実に殺していくつもりなのだ。

(……なるほどな)

 それならば、それが成功すれば、確かにセツナには絶望的な結末が待っている。八極大光陣を打破したはいいが、ファリアたちを失えば、意味がない。そこには希望はなく、光明もない。あるのは、無明の暗黒。絶望の未来。そうなれば、全滅という結末を突きつけられれば、セツナは、前言を撤回せざるを得なくなるかもしれない。周囲の声など耳に入らず、破壊の力を解き放ってしまうかもしれない。世界を滅ぼしうるほどの力を。

 だが、セツナは焦らなかったし、ナリアの行動が空振りに終わることも知っていた。

 ナリアの気配が消え、別の塔へと移った。かと想えば、すぐさまつぎの塔へと転移し、女神は塔から塔へと転移を繰り返した。

 そして、ついに諦めたのか、セツナの前に姿を現した。青空の下、幾重もの光輪を背負う女神の姿は、神々しいというほかないが、その涼しげな表情の中に怒りが混じっている気がして、セツナは内心、ほくそ笑んだ。余裕が失われつつある。感情が乱れつつある。

「残念だったな。俺たちの女神様は、優秀なんだよ」

 セツナは、ナリアを見据えながら、脳裏にマユリ神を思い描いていた。八極大光陣の攻略後、消耗しきったであろう攻略班の面々は、マユリ神の意思によって移動城塞から転送されたのだろう。マユリ神のことだ。セツナからの連絡がなくとも、指示がなくとも、それくらいのことはしてくれるだろうし、それが最善と判断すれば、セツナだって転送してくれるに違いない。

 分霊との戦いは、死闘という言葉も生ぬるいものだったはずだ。消耗も激しく、疲労困憊のものも少なくはあるまい。そういったものたちを戦場に放置するのは危険だったし、なにより、八極大光陣を失ったナリアは、自由の身となるのだ。ナリアの目論見は、わかりきっている。セツナを絶望させるという一点だけだ。そのためならばあらゆる手段を用いるのがナリアであり、その非道さについては、既に理解していた。マユリ神がファリアたちを移動城塞から退避させるのは、当然といえば当然だった。

「優秀というのでしたら、あのとき、わたしと戦わせようとはしなかったでしょうに」

「いや、優秀だからこそ、戦わせたんだろ」

「勝ち目がないというのに?」

「勝ち目の有無は、あのときにはわからなかったさ」

 セツナは、ナリアが冷静さを取り戻しつつあることに気づき、目を細めた。

「やってみなけりゃわからないからこそ、挑んだ。その結果、敗れ去り、俺はすべてを失った。だが、女神様は優秀だからな。時を戻してくれた。おかげで、俺は失わずに済む」

「いいえ。失うのですよ、セツナ」

 ナリアは、冷ややかに笑ってきた。

「あなたはすべてを失い、すべてを滅ぼす。それが魔王の杖の護持者たるあなたの運命。あなたの未来。あなたの行く末」

「はっ」

 セツナは、ナリアの言いぐさを否定した。

「ひとの将来を勝手に決めるんじゃねえよ」

 黒き矛を構え、すべての眷属を構える。完全武装状態。ナリアにも引けを取らない力があるのは間違いない。現状、いまだナリアのほうが多少なりとも優勢のように思えなくもないが、それは端からわかっていたことだ。相手は、皇神の中でも最高峰の力を持つ大神。その力量たるや、セツナがこれまで戦ってきた神々とは比較しようもないほどだという。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ