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第二千五百八十九話 神雷、斬り裂いて(五)

 雷による攻撃は効果がないに違いないというのは、相手が雷を司る分霊だからという先入観に過ぎない。しかし、攻撃の機会が少ない可能性を考慮すれば、その先入観に従うべきだと彼女は判断し、オーロラストームによる雷撃ではなく、クリスタルビットによる直接攻撃に専念することとしていた。クリスタルビットはオーロラストームの発する電光によって遠隔操作しているが、その電光が無効化されたとして、結晶体による打撃そのものは通るはずだ。事実、ディルムラの巨躯は、武装召喚師たちの猛攻を受け、損傷している。絶大な攻撃力を誇るディルムラだが、体の強度はそれほどでもないのかもしれなかった。

 複数のクリスタルビットを束ね上げ、ひとつの塊にする。鋭角的なそれはさながら結晶の槍のようであり、彼女はビットジャベリンを命名した。ディルムラの巨体を攻撃するには、結晶体の通常の大きさでは物足りないと考えたのだ。通常の結晶体では攻撃する面積が小さすぎる。その点、ビットジャベリンはその大きさからして、十分な威力を発揮してくれるだろう。

 ディルムラの周囲に展開する武装召喚師たち、地上の武装召喚師たちの猛攻は凄まじいとしか言い様がなく、ファリアが参加するまでもなく打倒できるのではないかと想わなくもなかった。しかし、それはやはりただの幻想に過ぎず、現実には不可能だということがすぐさま判明する。

 ディルムラが動いたのだ。

 最初、ただ長槍を振り回し、周囲の武装召喚師たちを払い除けようとしていたが、その巨躯から来る身動きの鈍さは、武装召喚師たちの回避行動を完璧なものとした。ディルムラはとにかく巨大だ。その巨躯を俊敏に動かすことは難しいらしく、故にディルムラは、長槍を振り回すのを止めたようだ。ただし、武装召喚師たちの迎撃を諦めたわけではない。ディルムラは、足の爪先まで伸びた銀髪に電光を走らせると、その髪を動かして見せた。電光を帯びた毛髪はさながら触手のように周囲の敵対者を攻撃し始める。ただでさえ長い髪が自由自在に伸縮し、さっきまでの鈍重さからは考えられないほどの速度で動くものだから、何人もの武装召喚師がかわしきれずに攻撃を受け、打ち落とされていく。その様から、掠っただけで物凄まじい電流を浴びせられ、意識を失ってしまうらしいことがわかる。

 ファリアは、ジナに注意を促すと、自身は、ビットジャベリンとクリスタルビットの制御に集中した。すべての結晶体を投槍としてくみ上げたわけではない。残したクリスタルビットには別の役割があり、その役割とは、ファリアとジナを包み込む結界の構築がひとつ。もうひとつは、とっておきだ。ファリアが力を求めた末に辿り着いた境地。その出番は、必ずやあるだろう。

 ビットジャベリンだけで決着がつくとは、とてもではないが思えない。ビットジャベリンはクリスタルビットによる突撃の威力を底上げするだけのものだ。本来ならばそこに雷光を纏わせることで、さらなり破壊力を与えることができるが、ディルムラには電撃、雷撃が効かない可能性が高い以上、それはできない。

 ディルムラの巨躯は、電光を帯びた毛髪が乱舞する中にあり、まるで嵐の中心のような様相だった。ただの嵐ではない。雷を帯びた嵐だ。大気を掻き混ぜ、焦げ付かせていく。ある程度の距離まで接近しなければ攻撃できなかった武装召喚師たちも、これにはお手上げだった。地上からの攻撃も、分霊の毛髪に遮られ、届かない。ディルムラの防御は、完璧に近い。

「どうします?」

「ここでいいわ。ここからなら、十分に届く」

 ジナにいい、ファリアは、オーロラストームを掲げた。全神経を集中させ、二十本のビットジャベリンを解き放つ。雷光を帯びた結晶体の塊は、紫電の尾を引きながら虚空を駆け抜け、ディルムラへと殺到する。ディルムラは、依然、嵐の防壁を築いている。その防壁のただ中へとビットジャベリンを突っ込ませるが、一本、二本と毛髪の結界に粉砕され、無数の結晶体へと戻された。ファリアはビットジャベリンの操作に専念し、ディルムラの毛髪の隙間を縫うように飛ばした。さらに何本も折られ、結晶体に分裂するが、いくつかは毛髪の壁を突破した。毛髪の結界さえ突破すれば、ディルムラの巨躯はすぐそこだ。しかし、即座に攻撃はせず、巨躯を這い上がるように上昇させ、ビットジャベリンの攻撃地点を探す。胸部、人間でいう心臓の辺りに防壁を通過したすべてのビットジャベリンを集中させた。

 結晶槍は、しかし、ディルムラの胸に触れることさえできなかった。どこからともなく伸びてきた毛髪がすべてのビットジャベリンを捕らえ、圧壊させたのだ。結晶槍はばらばらになり、無数の結晶体へと戻る。が、結晶体そのものが破壊されたわけではなく、しかも結晶体のほとんどは拘束を逃れている。ファリアは即座にビットジャベリンを作り直すと、ディルムラが反応するより早く、その胸を攻撃した。結晶の槍が五本、ディルムラの胸部に突き刺さり、嵐のように渦巻いていた毛髪の動きが止まる。

 電光を帯びた銀髪が舞い上がり、さながら無数の翼のように展開すると、ディルムラは、左手で胸に刺さったビットジャベリンを引き抜き、粉砕して見せた。ビットジャベリン程度では、胸を貫くことなど不可能、とでもいうのだろう。

「そんな!」

「いいえ。これくらい、わかっていたことよ」

 ファリアは、ジナに向かって冷静に告げると、空中に飛散する結晶体のすべてに呼びかけ、一カ所に収束させた。巨大な結晶の剣を作り上げ、飛び回らせる。

「相手は、大神ナリアの分霊。あの程度の攻撃で斃せるなんて、想ってもいないわ」

 結晶槍による攻撃は、オーロラストームの最大威力の雷撃とは比べるべくもなく、弱い。無論、ただの人間が相手ならば、結晶体を急所にぶつけるだけで斃せるが、相手が分霊ならば話はまったく別だ。電流を流しても効果がないのならばなおさらのこと、結晶体だけでは斃せるはずもない。では、どうするか。ファリアはまず、ディルムラの弱体化を図ろうとした。

 ディルムラの中でもいまもっとも脅威なのは、その長槍から繰り出される雷撃だ。間断なく発射される広範囲破壊攻撃は、こちらを蹂躙するにたるものであり、放っておけば一方的にやられる可能性がある。実際、雷撃の乱射で壊滅しかけたのがファリアたちであり、もしディルムラが空中の武装召喚師たちを無視して地上戦力の一掃に集中していれば、いまごろ部隊は半壊していただろう。その点では、ディルムラの気分屋な性質に助けられている。

 だが、それ故、恐ろしくもあるのだ。ディルムラがその気になれば、いつでも地上部隊が壊滅する可能性がある。

 ならば、と、ファリアは多くの結晶体をディルムラの懐に潜り込ませるべく、投槍を形成、叩きつけたのだ。すべて粉砕されてしまったが、それこそ、彼女の思惑通りだった。ビットジャベリンは砕かれたが、多くは、元のクリスタルビットに戻っただけなのだ。中には完全に粉砕されたものもあるが、問題はない。大事なのは、無数のクリスタルビットがディルムラの極至近距離に潜り込んだという事実であり、それらクリスタルビットが彼女の意のままに大剣を組み上げることに成功したことだ。

 そして、結晶体の大剣は、旋回し、ディルムラの右手首を切り落とした。

 右手首は、ディルムラの長槍ごと地上に落下し、ディルムラは、吼えた。

 分霊の全身から発散された雷光が、世界を震撼させた。


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