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第二千五百八十一話 大地母霊(三)


「派手……」

「確かに……」

「納得している場合か」

「でも、派手ですよ、あれ」

 帝国召喚師たちが口々に囁き合う中で、ミリュウは、土中に開けた大穴から出現した黄金色の女を見据えていた。派手といったのはミリュウだが、納得するものもいるように、実際にその女は派手としか言い様がなかった。全身が黄金色に輝いているだけではない。紅玉、青玉、緑柱玉に黄玉、瑪瑙などといった様々な種類の宝石が装飾品の如くちりばめられており、それらが強く輝いていたのだ。外見は、人間に近い。ただ身の丈が大きく違った。遠目で見ているが故に違和感は少ないが、近づけばその大きさに驚くに違いないだろう。女と認識するだけ、人間の女そのものといっても過言ではない体型だが、その大きさ、全身が黄金色に覆われ、その上から宝石で飾り付けたような姿は、人間とは言い様がない。人間には、到底真似のできない姿だ。

 分霊。

「我は土天星ジメオン」

 それは、いった。土天星ジメオン。

「大いなる光明ナリアが分霊にして、大地母霊なり」

「だいちぼれい……? なにそれ」

 ミリュウは、きな臭い顔になるのを自覚しながら、さらなる術式の構成に移行した。

「大地を司る……ということか」

「ほかが炎熱だったり水だったりするようですし、おそらく……」

「大地……か」

 ジメオンを含め、八柱の分霊は、それぞれ異なる性質、いわゆる属性と呼ばれるものを司っているらしいということは、いままでの情報からわかっている。ランスロット率いる第一陣は火天星ファラグなるものと戦っているというし、レムたちは水中に放り出され、死にかけたという。ジメオンの黄金色の肢体と、宝石の数々は、大地を司っていることの象徴なのかもしれない。そして、ジメオンが大地を司っているというのは、これまでの攻撃手段からも納得できることだ。ジメオンはこれまで、土の怪物や土巨人を作り、ミリュウたちを攻撃してきたのだ。大地には、土砂、岩や鉱石といったものも含まれるに違いなかった。

「あなたたち、なにしてるの? 攻撃よ、攻撃!」

「あ、はいっ!」

「了解!」

「まあ、そりゃそうだ……!」

 帝国の武装召喚師たちが口々にいい、それぞれの召喚武装を構えた。敵は遠距離中空。ここからでは、遠距離攻撃が可能な召喚武装しか届かないが、なにも斃すべき敵は、ジメオンだけではない。ジメオンが出現したことが影響しているのか、土の怪物、土巨人の攻撃の手が止まっていたが、このまま沈黙を続けるわけもない。土の怪物、土巨人から、主力となる遠距離攻撃型召喚武装の使い手たちを護る役割も必要だった。

 無数の矢が飛び、雷光の奔流や炎の渦、光弾がジメオンに殺到する中、分霊が動いた。ジメオンが右手を軽く翳しただけでその前面に分厚い黄金の壁が出現し、殺到した攻撃の数々を受け止めて見せたのだ。攻撃が止んだ直後、黄金の壁は溶けるように消えてなくなり、ジメオンの全身から宝石類が光を発している様が見えた。双眸自体、輝いている。もしかすると、両目も宝石なのかもしれない。

「我が眠りを妨げ、我が領域を冒したるものには、大いなる罰を下そう」

 ジメオンの宣言とともに大地が激しく揺れ、ミリュウは思わずダルクスに掴まったのも束の間、眼下の地面が引き裂かれていく瞬間を目の当たりにする。裂け目に飲み込まれないように移動しようとするも、無駄に終わる。大地は千々に割かれ、その巨大な裂け目は、ミリュウたちのみならず、土の怪物、土巨人さえも飲み込んでいったのだ。足場を失った一瞬の浮遊感から、自由落下への加速。

「堕ちよう、底へ。奈落の、墓穴の底へ」

 ジメオンはいってきたが、ミリュウは、そんな言葉に耳を貸すつもりもなかった。

「ミリュウ殿、掴まってください!」

 強い叫び声を発しながら接近してきたのは、帝国の武装召喚師の青年だ。背には大きな翼を生やしていた。飛行能力を持つ召喚武装の使い手なのだろう。彼は、ミリュウだけでなく、既に何人かを足や腕に引っかけるようにしており、ミリュウは故に彼の手を取らなかった。負担をかけすぎるからだし、なにより、自分の身は自分で護れるという自負があるからだ。

「あたしはだいじょうぶ」

 告げ、彼女は、ラヴァーソウルの刃片を呼び集めた。柄の磁力を研ぎ澄まし、術式構築に割いていたいくつかの刃片を眼下、果ての見えない空洞へ整列させる。さらにいくつかの刃片を自分やダルクス、落下中の武装召喚師たちの元へ寄越すと、下方の刃片群でもって磁力場を生成した。落下は、止まらない。だが、刃片群が視界に入ってきた瞬間、ミリュウの体を異様な感覚が突き抜け、落下が止まった。ミリュウを覆う磁力場と、刃片群の磁力場が反発し合い、落下を防いでいるのだ。

 飛行能力持ちが救出した武装召喚師以外は、全員、ラヴァーソウルの磁力場の上にいる。その横や前を土の怪物や土巨人が落下していく様は滑稽というか、なんというべきか。 

「た、助かりました……」

「ミリュウ殿、凄い……」

「これが歴戦の武装召喚師の実力……」

「さすがは統一帝国の英雄様」

「感心するのは後にして頂戴。敵を斃せてもいないんだから」

 ミリュウは、数々の賞賛にこそばゆさを感じつつ、振り切るように告げた。落下死という最悪の運命は防ぐことができた。しかし、それだけだ。敵は、分霊・土天星ジメオンは未だ健在であり、手傷ひとつ与えられていない。頭上を仰げば、大地の切れ目をゆっくりと降下してくる様が見えた。黄金色に輝くその巨躯は、遠くからでもよくわかる。

 このまま、磁力場の上で戦うとなると、こちらが圧倒的に不利だ。磁力場の上では自由に動けないし、動けたとしても狭い。磁力場から離れれば、落下が待っている。かといって、地上に逃げることに意味があるのか、という問題もある。ジメオンは、その気になれば大地にこのような大穴を開けることくらい容易いらしい。それもそうだろう。ここはジメオンの領域であり、ジメオンは大地を司る。地形を変化させることくらい簡単なのだ。それはつまり、地上に上がったとしても、すぐさま同じような状況に陥る可能性があるということであるとともに、この大地の裂け目の中で戦うのもまた、相手の掌中で戦うのと同じくらいつらいことなのではないか、と思えた。

 とはいえ、現状、打開策が思い当たらない。

 全員が飛行能力を持つ召喚武装の使い手ならばまだしも、そうではない。飛行能力の使い手だけで百人はくだらないとはいえ、それだけでは全員を運びながら戦うなど不可能だ。全員にいまから飛行型召喚武装の術式を編めというのは、むちゃくちゃにも程がある。ミリュウ自身、そんなことに無駄な力を割きたくはない。ならば、どうするべきか。

 ミリュウは、ジメオンが悠然と下りてくる様を見遣り、その余裕ぶりに苛立ちを覚えた。ジメオンにしてみれば、余裕も持とう。こちらには、対抗手段がないのだ。ジメオンは、ミリュウたちが己の術中に嵌まったと思っている。実際にその通りなのだから返す言葉もないのだが、だからといって、ジメオンの思惑通りに物事が進むなど、悔しくてたまらない。というより、その通りに進めば、こちらの敗北だ。そのようなこと、認められるはずもない。

 不意に肩を叩かれ、振り向くとダルクスがこちらを見ていた。彼が小さくうなずき、頭上を仰いだ。その視線の先には、遙か頭上、大地の裂け目がある。彼になんらかの考えがあるということだろうか。ミリュウは、彼に全幅の信頼を寄せている。疑う理由はない。彼女は、腕輪型通信器を起動させた。

「マユリん、聞こえる?」

『どうした?』

「あたしが合図したら、上空に転送して欲しいの」

『わかった』

 マユリ神の返事は、簡素なものだ。それは、女神がすべての戦場を掌握しなければならない立場にあるからに違いなかった


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