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第二千五百八十話 大地母霊(二)

 ダルクスと帝国武装召喚師たちの連携によって、土の怪物の三分の一ほどが消滅したが、それ以外にも多数の土の怪物が帝国武装召喚師の手にかかって消滅しており、現状、ミリュウたちは、優勢に立っているといっても過言ではなかった。土の怪物が決して弱いわけではないだろう。厄介さでいえば、“核”を破壊すればどうにかなる神人神獣よりも、体を構成する質量を完全に消滅させなければならない土の怪物、土の巨人のほうが遙かに上だ。

 ただし、攻撃面、防御面から見れば、神人等のほうが上かもしれない。土の怪物たちの攻撃能力も決して低いわけではないし、土砂でできた体の特性を思い切り利用した変形攻撃は、厄介といえば厄介だ。たとえば思わぬところから怪物の角や尾が伸びてきて、攻撃を食らうものが後を絶たなかった。しかし、負傷こそすれ、致命傷さえ避ければ、容易く回復しうるのが現在のミリュウたちだ。神人や土の怪物ほどではないにせよ、常人とは比べものにならない回復能力を得ている。

 そのおかげで極めて積極的に攻め立てることができるといっても過言ではなく、帝国武装召喚師たちは、自分たちの損傷を恐れることなく土の怪物、土巨人に挑みかかり、攻撃を食らい、傷を負いながらも着実に戦果を上げていく。だれもが昂揚していた。だれもが、やる気に満ちていた。とてつもない興奮状態が戦場を包み込んでいる。これもまた召喚武装の能力による影響のようだが、だからこそ善戦できているといっていいのだから、なにもいうことはあるまい。

 ミリュウは、セツナの不在を不満に思わない自分に違和感を覚え、苦笑しながら、燃え上がる戦意に身を任せていた。ときにはラヴァーソウルを鞭のように振り回して土の怪物を蹴散らし、ときには単純な擬似魔法を放つことで質量を消し去り、大魔法でもって多数の怪物を根こそぎ消滅させる。ミリュウの戦い方は、変化に富んでいる。そんなミリュウの戦闘を支援してくれているのがダルクスであり、ダルクスとの息の合いっぷりは、ミリュウ自身、心地よいと思えるほどのものだった。かつての敵同士、命を取り合った間柄とは思えないが、それをいえば、セツナやファリアだって最初は敵だったのだ。

 いまでこそともに戦っている帝国人だって、敵といっても過言ではない存在だった。ミリュウが直接戦ったことがあるのはシャルロット=モルガーナだけとはいえ、最終戦争では、ザイオン帝国はガンディア領土を蹂躙した怨敵であり、その事実はいまも忘れがたいものとして残っている。そういった想いを乗り越え、協力し合っているのだから、運命とは不思議なものだ。

 特にダルクスにそう感じるのは、彼とはあまりにも息がぴったりだからだろう。彼には、ミリュウの戦い方が手に取るようにわかるらしく、ミリュウが牽制のために放った攻撃がダルクスの連携によって完成し、敵を消滅させたときなどは、そのあまりの連携の完成度に思わず笑いたくなるほどだった。

 そして、逆もまた、然りだった。

 戦闘中、ダルクスがなにを考え、どのような行動に出ようとしているのか、その挙措動作だけでなんとなくわかってしまう自分がいた。そのことに疑問も生じないのは、いまさらだからだ。ダルクスが彼女の配下となったのは、かなり前のことであり、それ以来、ともに戦い続けている。だから息が合っている、というわけではなく、彼と共闘した最初の戦いから息が合っていて、エリナにも驚かれるほどだった。それくらい、相性がいいらしい。

 だから、というわけではないが、ミリュウはダルクスに絶大な信頼を置いていたし、ダルクスならば、安心できた。彼ならばどのように無茶な振りをしても、必ずや受け止め、成し遂げてくれるだろう。

 実際、ダルクスは、ミリュウの戦いによくついてきてくれていた。セツナかファリアでなければわからないであろうミリュウの行動を読み切っているのは、やはり、相性の問題なのか、どうか。

 ダルクスが再び重力場によって多数の土の怪物、土巨人を拘束したところへミリュウの大魔法が炸裂し、周囲の地形ごと消滅させると、戦況は、もはや揺るがぬほどにこちらの優勢となった。土の怪物はほぼほぼ消滅し、残すところ数体となり、土巨人は二体しか残っていない。その残りわずかな敵戦力も、帝国人の猛攻によって瞬く間に消滅していった。数が少なくなればそれだけ攻撃を集中させることができるのだ。敵が少なくなれば少なくなるほどこちらが有利になるのは、当然といえば当然だろう。

 とはいえ、土の怪物と土巨人を消滅させきることは、不可能だった。

 なぜならば、どれだけ消滅させようとも、消滅させた直後には新たな怪物が土中から出現しているからであり、この大地を埋め尽くす土砂を尽く消滅させでもしない限り、土の怪物や土巨人の出現を止められそうにはなかった。そして、この地平の果てまで埋め尽くす莫大な量の土砂を完全に消滅させることなど、ミリュウたちにできるわけもない。たとえ力の限り土砂の消滅作業に集中したところで、土砂を消しきる前に体力や精神力を消耗し尽くすのは目に見えている。それにそのような時間的猶予はない。

「どうします? このままでは、いたずらに消耗し続けるだけですが」

「そりゃ分霊とやらを斃すことが先決だろ」

「その通りよ」

 ミリュウは、帝国召喚師の意見を肯定すると、彼らが土の怪物を相手に大立ち回りを演じる様を見回した。槍や剣、斧や杖といった様々な召喚武装でもって激闘を繰り広げる彼らだが、まだまだ余裕が残っているように見える。本当に斃さなければならないのは彼らがいうように分霊なのだから、その手先如きに消耗し尽くしてもらっても困るのだが、それにしたって上出来だろう。ミリュウはというと、彼らの奮戦を横目に、ダルクスに後方を任せ、擬似魔法の術式構築に専念していた。このような戦闘を続けることに意味はない。ただの消耗戦だ。そしてその消耗戦こそ、敵の思う壺なのだ。

「だから、こうしてやるの」

 彼女は告げ、つぎつぎと出現する土の怪物たち、その出現地点に存在する大きな空白に向かってラヴァーソウルの柄を翳した。土の怪物の出現というのは不規則かつ無制限であり、どこにでも出現するかのように思っていたのだが、よくよく観察してみると、ただ一点、空白地点とでもいうべき場所が存在したのだ。どれだけ土の怪物、土の巨人が出現しようとも、地表が化け物で埋め尽くされようとも、そこからは新たな怪物が出現しなかった。怪物が限界まで出現したわけではないことは、それ以降も湯水のように現れては襲いかかってきていることからも明らかだ。つまり、その空白地点にはなにがしかの意味があり、それこそ、怪物たちの主たる分霊の座所の直上なのではないか、ということだ。

 ダルクスや帝国召喚師たちが稼いでくれた時間は、そのまま、ミリュウに大魔法の術式を編み上げる時間となり、その努力がいままさに結実した。擬似魔法の発動とともに、ミリュウが翳した柄の先へ、莫大な量の光が収斂したかと思うと、瀑布のように降り注ぐ。破壊的な光の集中豪雨。空白地点の地面が瞬く間に抉れ、土も砂も跡形もなく消滅し、巨大な穴が作られていく。その間、怪物たちがミリュウに向かって襲いかかってきたが、そこはダルクスが対応する。彼が生み出した重力場が敵だけを吸い寄せ、拘束したのだ。そこへ、帝国召喚師たちの攻撃が殺到し、怪物たちもまた、為す術もなく消滅していく。激戦の中、なにもいわずとも連携攻撃ができるのは、優秀な武装召喚師の証だろう。

 そして、ミリュウの擬似魔法によって生まれた大穴の中から、それは現れた。

「我が眠りを妨げるものは、たれぞ」

 地の底から響くような女の声とともに大穴の中から出現したのは、黄金色の女だった。

「なにあの派手な奴」

 ミリュウは思わず本心を口にした。実際、それは派手としかいいようのない存在だったのだから、致し方がない。




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