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第二千五百二十三話 神慮(三)

 対大帝国軍総力戦における統一帝国側の総大将は、当然のことながら、皇帝ニーウェハイン・レイグナス=ザイオンだ。その補佐として、大総督ニーナ・アルグ=ザイオン、イリシア=ザイオンらがつくこととなり、皇帝の腹心たる三武卿は、八極大光陣を打ち破るための戦力に組み込まれた。

 統一帝国軍の総戦力はおよそ八十万で、そのうち、四千ほどが武装召喚師だということは周知の事実だ。八極大光陣攻略戦において戦力として数えられるのは、それら四千の武装召喚師であり、武装召喚術も使えない一般将兵は、八極大光陣を打ち破るための戦力には上げられなかった。ただし、一般将兵に一切の出番や価値がないかといえばそうではなく、大帝国軍の猛攻に対抗するには必要不可欠とのことだった。

 大帝国軍の総兵力は百二十万。そのすべてが神化した人間や鳥獣であり、常人では太刀打ちできるものではない。が、それに関しては、マユリ神には秘策ともいうべき対抗策があるとのことだった。

 八極大光陣は、その名の通り、八体の使徒あるいは分霊が構築する陣であり、その八体を打ち倒すことが、当初の目的となる。そして、その八体のうち、二体をマユラ神が受け持つということだが、マユリ神はどうするかといえば、ラミューリン=ヴィノセアとともに本陣から戦場全体の状況把握に務めるとのことだった。ラミューリン個人の力では、いくら戦神盤の能力を用いても、超広範囲に及ぶ戦場の情報を完全に把握することは不可能であり、また、マユリ神の秘策を用いることもできないからだ。

 マユラ神が受け持つ二体を除く六体には、四千の武装召喚師とセツナ一行、三武卿を振り分けた部隊で当たることとなり、そのマユリ神肝いりの編成には、不満の声を上げるものもいなかった。マユリ神が全戦力を分析した上で編成したのだ。これ以上に最適なものはないだろうという思いをだれもが抱いた。

 第一陣は、ランスロット=ガーランド、シャルロット=モルガーナ、ミーティア・アルマァル=ラナシエラたち三武卿を主戦力とし、五百名の帝国武装召喚師が加わっている。

 第二陣は、ファリア=アスラリアと五百名の帝国武装召喚師。

 第三陣は、ミリュウ=リヴァイアとダルクスに帝国武装召喚師五百名。

 第四陣は、シーラを筆頭とし、そこに五百名の帝国武装召喚師が組み込まれた。

 第五陣は、レム、サグマウを筆頭とし、帝国武装召喚師五百名が加えられている。

 第六陣は、エスク・ラーゼン=ソーマ、ウルクに加え、五百名の帝国武装召喚が選ばれている。

 四千名の武装召喚師の中から八極大光陣攻略部隊に選ばれたのは、三千名であり、一千名ほどが余ることになるが、それにはマユリ神なりの考えがあった。大帝国の戦力は、八極大光陣だけではない。数え切れない神人や神獣がいて、それらを黙殺できるわけもないのだ。少なくともただの一般将兵では、どれだけ数を揃えたところで神人の群れに薙ぎ払われるのは目に見えており、多少なりとも武装召喚師を残しておくのは、当然の判断だった。

「セツナと一緒じゃないのは残念だけど……妥当な組み合わせね」

 ミリュウが至極無念そうに告げると、ダルクスが小さくうなずいた。ミリュウに拾われたダルクスにしてみれば、ミリュウ以外のだれと組まされても困りものだったのかもしれない。ダルクスがミリュウに恩義を感じているらしいということは、セツナにもなんとなくわかっている。

「俺にはウルク殿がついて、シーラ殿はひとりってのは、どういうことなんで?」

「シーラにはハートオブビーストがある。その差だ」

「俺にはこの無敵の肉体があるんですけどねえ」

 エスクが多少不服そうな反応を見せたのは、彼が自分の実力を理解しているからこそだろう。少なくとも、いまのエスクは並の武装召喚師では太刀打ちもできない次元といっていい。常にふたつの召喚武装の装備しているのと同じなのだ。その上でソードケインを持てば、とてつもない力を発揮しうる。その力量に関しては、セツナ一行のだれもが認めるところではある。マユリ神とて、それは理解しているのだ。だからこそ、女神はいった。

「むしろ、ウルクが全力で戦えない以上、おまえと一緒のほうがいいと考えたまでだよ、エスク」

「あー……そういうことなら、納得」

「エスク。迷惑をかけるかもしれませんが、なにとぞ、ご協力の程を」

「あー、いや、別にそんなつもりでいったわけじゃないからさ、気にしないでくれよ、ウルク殿」

「わかりました。気にしません」

「あ、ああ……」

 ウルクのきっぱりとした反応には、さすがのエスクも当惑したようだった。そんなふたりのやりとりをみて、ウルが微笑を浮かべる。

「俺にはハートオブビーストがある、か」

 シーラはひとりつぶやき、決意を新たにしたようだ。ハートオブビーストが真価を発揮するには、条件がある。マユリ神のいいようだと、まるでその条件が満たせるような戦場になることを予見しているかのようであり、その事実がシーラの気を引き締めさせたのだろう。

 血が、流れる。

 そればかりは、避けようがない。

 勝利のためだ。未来のためだ。多少なりとも、犠牲を払うほかなかった。

 敵が敵だ。

 敵が、ただの人間ならば。ただの人間の軍勢ならば、これほどの大軍勢を動員する必要はない。セツナたちだけで本陣に切り込めば、それだけで終わるだろう。しかし、今回ばかりはそうはいかなかった。そうしようとして、失敗した。不可能だということがわかったのだ。

 八極大光陣を攻略する以外にはなく、そのために多大な犠牲を払わなければならないということも、想像がつく。だれひとり失わず討てるほど、容易い相手ではない。そんな相手ならば、セツナひとりで滅ぼし尽くせばいい。

 物事は、そう都合よくいくものではない。

「あの……わたしは……?」

 エリナが、おずおずとマユリ神に問いかけたのは、部隊編成において一切名を上げられなかったからだ。エリナは、先の戦いでも、これまでの戦いでも、セツナたちと行動をともにし、いくつもの戦場を経験した武装召喚師だ。才能においては、師匠であるところのミリュウのお墨付きがあり、彼女ほど武装召喚術に愛されたものもいないと言わしめるほどだ。そして、その才能は、日々の修練と研鑽、経験の積み重ねによって大いに開花し始めている。八極大光陣に参戦させない手はないはずだが。

「エリナ。おまえにはわたしとともに本陣に残ってもらう」

「どうしてですか?」

「おまえの召喚武装フォースフェザーが極めて有用だからだ」

「フォースフェザーが?」

「そうだ。先程もいっただろう。わたしには秘策がある、と」

「弟子ちゃんが秘策に関係あるの?」

 ミリュウが口を挟んだのは、当然、エリナのことだからだ。愛弟子のこととなると目の色を変えるのがミリュウだ。そして、そんなミリュウだからこそ、エリナも彼女を愛して止まないに違いない。

「エリナだけではない。ハスライン=ユーニヴァス、ラズ=フォリオン、カルーナ=エニスらには、わたしの秘策に協力してもらう」

 と、マユリ神が上げた名前のうち、セツナが理解できたのは、エリナとハスラインだけだった。ハスライン=ユーニヴァスといえば、帝都急襲時にセツナの前に立ちはだかり、いらぬ殺戮をさせた張本人として記憶に残っている。ラズ=フォリオン、カルーナ=エニスについては、話題に上がったこともない。つまり、マユリ神は、セツナの知らない帝国軍の内部事情にまで精通しているということだ。

「だから、その秘策ってなんなのよ」

「戦神盤の能力は、諸君も知っての通りだと想うが」

「戦場全体を把握する能力でしょ」

「うむ。その能力を応用することで、他の召喚武装の能力を戦場にいる自軍将兵全員に付与することが可能だということがわかったのだ」

「は?」

「なにそれ」

「なんだって?」

「それってつまり……」

「つまり、だ。エリナのフォースフェザーによる支援を一部隊に留めるのではなく、すべての部隊に効果を発揮させることができる、ということだ。八極大光陣攻略部隊だけでなく、全戦力に、な」

 マユリ神は、そこまでいうと、鼻息も荒く勝ち誇るようにいった。

「これがわたしの秘策だよ」

 それまで重苦しい空気に押し潰されそうだった軍議の場が、一気に明るくなったのは言うまでもない。

 補助系、支援系の召喚武装は、攻撃面では決して優秀とはいえないが、戦闘において役に立たないわけではない。むしろ、格上の存在ともいうべき神々との戦いにおいては必須といっても過言ではなかったし、そういった能力が全軍に作用するとなれば、状況は一変しうる。

 少なくとも、敗戦の可能性は払拭された。

 だれもが、そう想った。


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