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第二千四百八十六話 海の使い(一)

 敵船団への攻撃のため、ウルクナクト号の甲板を覆う半透明の天蓋も、そもそもウルクナクト号全体を覆っている防御障壁も一部解除されている状態だった。そのため、急速接近してきていた神鳥の群れは、その勢いのまま甲板上に乗り込んでくるなり、セツナたちに襲いかかることができたのだ。それら神鳥の群れに対応したのは、シーラたちだ。

 いまこそ出番といわんばかりに神鳥に飛びかかったシーラは、手にした斧槍を猛然と振り回して巨大な怪物の翼を叩き切り、胴体を寸断して“核”を露出させ、その“核”を貫いて全身を崩壊させた。船は動いている。船団上空に向かって、猛進している。セツナたちは、船団への攻撃準備をしなければならず、船に取り付いた神鳥の撃退は、シーラたちに任せるほかなかった。船団に攻撃できる機会は、船団がこちらを認識したことで短くなっているのだ。その機会を逃すわけにはいかない。

 幸い、船上にはシーラ以外にもウルク、ダルクス、レムといった遠距離攻撃を不得意とするものたちがいて、彼女たちに任せることになんの不安もなかった。

 ウルクは波光砲さえ用いなければ躯体に大きな影響はないようであり、その人間とは比較しようもないほどに凄まじい身体能力を最大限に駆使し、複数の神鳥をひっ捕まえ、打撃のみで露出させた“核”をつぎつぎと撃ち抜き、破壊していく。レムは、“死神”を駆使した。五体の“死神”たちとともに踊るように舞うように戦うレムの姿は、いつ見ても艶やかだ。ダルクスは、自分たちを甲板上に固定する重力場を発生させるという役目もあり、その重力場の範囲を広げ、局所的に強化することで神鳥を捕らえ、甲板に叩きつけるといった方法でシーラたちに協力した。シーラたちは、そうやって甲板に叩きつけられた神鳥の巨躯を切り刻み、“核”を探し出して破壊することで、方舟に取り付いた神鳥を一体一体、確実に撃破していく。

 そんな中、セツナたちは大戦隊への二度目の攻撃に映っている。セツナは、大出力の“破壊光線”によって船隊を縦断するように薙ぎ払い、ファリアのオーロラストームもまた、莫大な雷光の奔流を放出して複数の敵船を飲み込んだ。エスクの虚空砲が唸りを上げ、ミリュウの擬似魔法が天地を逆巻く。そして大船団上空を突き抜け、再び転回、再度大船団を視界に捉えたセツナは、そこへ、先程から大船団に接近中だったマウアウ神らしき巨大質量が波をかき分けながら、その異様な姿を白日の下に曝す様を目の当たりにした。

「あれは……」

 セツナが思わず声を上げたのは、それはマウアウ神とはまったく異なる姿の物体だったからだ。

 波をかき分け、莫大な量の水を発散させるようにして海中から姿を現したそれは、巨大な質量を持った物体だ。巨大な白い構造物。全体的には流線型に近く、先端部が鋭角的に突き出している。全体としては白いのだが、ところどころに琥珀色の物体があり、それがマウアウ神を想起させた。だが、マウアウ神の姿そのものは見当たらない。代わりにセツナが目撃したのは、鋭角的に突き出した先端部に立ち尽くすなにものかだ。そのなにものかは、人間のような四肢を持っているが、全身が白い異形であり、隆々たる巨躯は鎧とも軍服ともつかないようなものに覆われ、肉体と融合している。長く白髪はそれ自体が生きているかのようにうねり、金色に輝く双眸が大帝国大船団を睨んでいた。

「なんだ……?」

「マウアウ様ではないのですか?」

「わからない。よくわらかないんだ」

 確かにマウアウ神の気配はする。それは間違いない。だが、肝心のマウアウ神の姿はなく、まったく別のなにものかが巨大な構造物を動かしている、そんな感じなのだ。そして、その巨大質量は、海上を物凄まじい速度で移動し、大船団を目指している。合流しようとしているわけではないのは、その速度からも明らかだ。もし合流するのであれば、そろそろ速度を緩めなければ激突してしまう。が、マウアウ神の気配を発する構造物は、むしろ速度を上げたような様子すらあった。立ち上る波の高さ、量が増している。大船団から飛び立った神鳥の群れが、ウルクナクト号のみならず、接近中の物体へも差し向けられる。が、一足遅かった。止められない。止まらない。

 巨大構造物は、その物凄まじいとしかいいようのない勢いと速度のままに大帝国大船団の中に突っ込み、数十隻の船を蹴散らすように粉砕していった。いや、数十隻どころではない。百隻を軽く越える数の船をつぎつぎと撃沈していく様には、セツナたちも言葉を失うほかなかった。このような事態は、予想だにしていなかったことだ。まさか自分たち以外にも大帝国大船団を攻撃するものが存在するなど、想像しようもない。

「味方……なの?」

「少なくとも、大帝国が共通の敵ではあるらしいが」

 マウアウ神ならば、味方といいきっていい。

 セツナは、かつて対話に応じてくれたマウアウ神が自分の敵に回るとは想えなかった。別れを惜しみ、再会を約束した女神があのときの約束を破るはずもない。しかし、大船団を蹂躙し、大船団から猛攻撃を受けている最中の構造物は、マウアウ神そのものではなさそうなのだ。マウアウ神そのものであれば、あの美しい女神の姿も、化け物としかいいようのない下半身も、見せつけるようにして船団を蹂躙するに違いない。だが、そういう風ではない。では、どういうことか。

『あれはどうやら神の加護を受けたもののようだ』

「加護……」

 マユリ神からの通信により、セツナの脳裏に過ぎったのは、変わり果てたマルカールの姿であり、ゼネルファーの姿だ。確かに、構造物上の異形の存在は、マルカールやゼネルファーの成れの果てに近い印象を受けなくもない。人間の面影を多少なりとも残しながら、結局は人間たりえない化け物。そんな姿。

『サーファジュールで戦ったゼネルファーと同じだ。神の大いなる加護によって人間であることを捨てたもの。あるいは、人間ではいられなくなったもの。いずれにせよ、かつて人間だったものであることは、間違いない』

「じゃ、じゃあ、俺が感じたマウアウ様の気配ってのは……」

『あのものがマウアウ神の使徒だからだろう』

「マウアウ様の……使徒」

『このたびの行動がマウアウ神の意図によるものなのか、使徒の独断によるものなのかは判断しようがないがな』

 マユリ神の通信を聞き終えたセツナは、大船団の真っ只中を突っ切っていった構造物とそれを操っているらしい海神の使徒を見遣っていた。この戦いは、マウアウ神の意図とは想えなかった。なぜならば、マウアウ神は、支配海域の静謐だけを望んでいたのであり、それ以外のことになんら興味を持っていなかったからだ。もしほかに考えていることがあるとすればそれは本来在るべき世界への帰還であり、聖皇復活に失敗したいま、ほとんど諦めかけているようだった。だからこそ、ヴァシュタラから分離した際、野に下ったのだろうが。

 そのような女神が、遙か東の海の出来事に干渉しようとするだろうか。それもただの海の出来事ではない。大帝国大船団は、海の平穏を乱しているわけでもなんでもなく、南大陸を目指して南進しているに過ぎないのだ。海神が海の平穏を護るために動くというのはわかるが、それ以外のことで積極的に動くのは想像できなかった。

 セツナの知っているマウアウ神ならば、なおのことだ。

 となれば、使徒の独断ということになるが、だとすれば、それくらいの宰領を与えられているということにもなるだろう。

 海神の使徒ということは、海神に仕えることが最優先にされているはずだ。

 ここは東の海。

 マウアウ神の領海からしてみれば、遙か彼方だ。

 そんな海にまで出向くとなれば、それ相応の宰領がなければなるまい。

 


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