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第二千四百四十ニ話 後始末(十)

「こうなるのは予想していたがな」

 セツナは、激戦地と化したサーファジュール市内を突き進みながら毒づくようにいった。

「いくらなんでもこりゃあんまりだ」

 サーファジュール外周城壁北端部より、城壁上の神人、神獣を一掃しながら市内へと至ったセツナを待ち受けていたのは、市内に残っていた神人神獣の群れと、総勢三万の抵抗軍将兵たちだ。抵抗軍将兵の中には当然のように武装召喚師がいたものの、その絶対数は少ない。多く見積もっても三桁には届くまい。とはいえ、それら武装召喚師が全員セツナひとりで相手にするとなれば難関となるだろうが、そのようなことはなかった。

 セツナがサーファジュール市内に到達した頃には、他方の強襲部隊もまた市内に到達しており、各地で戦闘を開始していたのだ。武装召喚師たちは、各方面の対応のため、戦力を分散しなければならない。四方に降り立った敵部隊のいずれが最高戦力なのかなど、そう簡単にわかるはずもないのだ。

 ラミューリン=ヴィノセアの召喚武装・戦神盤と同様の能力を持った召喚武装でもない限りは。

 そして、戦神盤のように戦場の情報を完璧に近く把握できる召喚武装など、そうあるものではないだろう。少なくとも、セツナはこれまで、戦神盤に類似した召喚武装にでくわしたことがなかった。召喚武装の副作用による五感強化のおかげで戦場を見渡すようなことはできる。が、それは、戦場に存在する戦闘員の力を情報として可視化できるという戦神盤の能力とはまったく異なるものだ。

 もっとも、セツナは、黒き矛とメイルオブドーター、マスクオブディスペアの三種同時併用によって圧倒的に強化された五感により、戦場の風景を脳裏に明瞭に描き出すことに成功しており、戦神盤などなくとも、神人がどこにいて、一般兵や武装召喚師がどう動いているのかまで精確に把握できている。ただし、戦神盤のような確実性はない。

 戦神盤は、戦場に存在する戦闘員の戦力を可視化することができ、それにより、ラミューリンは全戦力をセツナにぶつけることで状況を打開しようとしたらしい。結果、セツナを打倒することはできず、五千あまりの兵や武装召喚師たちを犬死にさせてしまったため、戦神盤最大の力を用いて時間を開戦時に戻したということだ。そのおかげで、セツナたちは帝都を無血開城させることができたのだから、ラミューリンとミズガリスの判断にはいまでも感謝している。

 無駄に血を流したくないというのは、なにもニーウェハインの望みだけではないのだ。

 セツナ自身、できるならば命を奪いたくはなかったし、できる限り殺さずに済む方法、手段を模索したいという想いが強かった。

 この戦場でも、そうだ。

 神人、神獣を殲滅するのは、それ以外に方法がないため、致し方がない。白化症の末期症状というよりは、成れの果てといったほうが近い状態である神人や神獣は、もはや元の生物とはかけ離れた存在であり、生物とさえいえないものだというのだ。そこまでいけば元に戻すことは神にさえ不可能であるといい、交渉の余地もない以上、滅ぼすしかない。

 それは、いい。

 そうとわかれば、そうと決まれば、そうするだけのことだ。

 しかし、神人や神獣以外の抵抗軍将兵たちの命は、無闇に奪いたくはなく、それ故、このサーファジュール解放作戦が困難なものになっているといっても過言ではなかった。

 抵抗軍将兵を殲滅する作戦であれば、これほど楽なことはあるまい。

 だが、現実には、そうではない。帝国人たる抵抗軍将兵を殺さないように手加減をして戦わなければならず、神人神獣とともに戦場に入り乱れる彼らの存在には、セツナも顔をしかめざるを得なかった。神人、神獣だけならば、なんのことはない。周囲に被害が及ばないよう注意しながら戦えばいいだけのことだ。いまのセツナならば、この程度の神人や神獣の相手など児戯に等しい。 

 召喚武装の三種同時併用は、完全武装状態とは程遠いものの、身体能力を極大に引き上げ、あらゆる感覚を急激に向上させているのだ。神人の攻撃も神獣の連携も、セツナに掠ることさえない。それは一般兵の攻撃にも同じことがいえる。武装召喚師の攻撃さえ、セツナを捉えることは不可能だ。そして、セツナの攻撃は、神人にも神獣にも回避不能であり、一撃が怪物たちの強固な肉体を粉々に打ち砕いた。つまり、セツナは圧倒的な存在となっているのだ。

 それ故、ただの人間である抵抗軍将兵を相手にするのが困難となる。

 多少加減した程度では、殺してしまいかねない。

 実際、軽く触れたつもりが凄まじい衝撃を与え、殺しかけたことがあった。それ以来、セツナは一般兵との戦闘に関して、極めて慎重にならざるを得なくなっていた。ちょっと力を入れるだけで殺してしまうとなれば、気を抜くことができない。神人のような強敵よりも、雑兵との相手のほうが緊張するという、いかにも本末転倒のような状況になっているのだが、それも致し方あるまい。

 それが強大すぎる力を得るということなのだ。

 サーファジュールの広大な市街地を駆け抜けながら、神人、神獣を撃破していく。全部で約二千体いた神人たちは、いまや三桁を切るほどにまで減少しており、その数も秒単位で減っていた。殲滅までもう少しだ。となれば、あとは神人たちを使役しているものを斃し、その後、抵抗軍を降伏させるのみだが、その使役者がだれなのかはわかっていない。

 セツナたちは、抵抗軍頭目ゼネルファー=オーキッドが神人たちの使役者だろうと見ているものの、それが正しいのかどうかは現状では不明なのだ。もしかすると、ゼネルファーの腹心かもしれないのだ。それくらいの立場のものでなければ、神人たちを抵抗軍の戦力に組み込むことはできないため、末端の一般兵だということはないだろうが。

『ゼネルファー=オーキッドの現在地が判明したぞ』

「やっとか。どこにいる?」

『サーファジュールの中心区画に聳える建物の中だ。待て……みずから打って出るつもりのようだぞ』

「は? なんだって?」

 セツナは予期せぬ通信に足を止めた。前方から飛来する無数の矢に対し、矛を振り上げて対応する。矛の一閃が巻き起こす風圧が矢の尽くを巻き上げていった。

『彼は、おまえたちが神人や神獣に撃滅されるものと見ていたのだろうな。だが、現実は、その逆だった。神人も神獣も、おまえたちによって殲滅されようとしている』

「だから、みずから打って出るって?」

 前方、建物の影から大型の神人が顔を覗かせてきた。口を大きく開いたかと思えば、光線を吐き出してくる。強力な破壊力を持った一条の光芒。セツナは飛び退くこともせず、メイルオブドーターの翅を全面に展開して、光線を受け止めた。闇の翅でできた膜と衝突した光線は凄まじい音を立てながら無数の爆発を起こす。回避していれば、市街地に被害が出ていたことだろう。爆発が途絶えた瞬間を逃さず、飛び込む。爆煙の中に身を潜めれば、敵兵の攻撃目標にもなりえない。

「ただの人間だろ?」

 爆煙の中を突っ切り、神人に殺到する。神人の巨腕がうなりを上げてセツナに掴みかかってきたが、彼は中空で旋回しながら矛を振り回した。巨腕を細切りに切り刻み、そのまま首を切り落とし、胴体を両断する。さらに無数に切り裂いて“核”を露出させ、石突で突き壊す。神人の肉体が消滅するのを見届けることもなく、その場を飛び離れる。どこからともなく飛来した矢が地面に突き刺さった。

『どうだろうな。神人や神獣を使役する能力を持つものが、ただの人間だとは考えがたい……しかし、わたしの眼に映る範囲の人外は、残りわずかな神人と神獣だけだ』

「どういうことだ?」

『ゼネルファーは人間だ。その周囲にいるものもな。だが、彼が神人たちを使役しているのは間違いない。つまり、彼はいずれかの神から神人たちを使役する権限を与えられたということだ。人間の中に自然発生的に神人の使役者が現れることなど、万にひとつもないのだからな。そして、神からそのような権限を与えられるものは、ただの人間ではありえない』

「……そういう人間には、心当たりがあるよ」

 セツナの脳裏に浮かんだのは、サンストレア市長マルカール=タルバーの人間としての姿であり、神人を使役するものとしての異形の姿だ。マルカールにそのような力を与えたのは、アシュトラだったか。

 神は、ひとの祈りより生まれるという。

 ひとの祈りより生まれ、ひとを祝福するために存在するのだと。

 しかし、すべての神が等しくひとびとを祝福するわけではないということは、セツナのこれまでの経験上からわかりきっていることだ。アシュトラのような邪悪な神も存在し、人間を操ることになんの呵責も持たない神がいたとしても、当然といってよかった。三大勢力を裏から支配していた神々がそうだったのだ。すべての神々がそうであったとしても、なんら不思議ではない。

 一部の、人間に対して極めて友好的な神々のほうがめずらしいのかもしれなかった。

「人間になりすまし、ひとの世を支配しようと目論んでいた奴にならさ」

『つまり、そういうことだ』

 マユリ神の一言と同時だった。

 セツナの進行方向、市街地の真っ只中に巨大な光の柱が聳え立ち、凄まじい圧力が電熱のように大気を駆け抜けたのだ。


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