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第二千四百四十話 後始末(八)

 ダルクスは、常に身に纏うその召喚武装の能力により、重力を操ることができる。

 その重力制御、重力操作能力により、ミリュウたちは、無事、目的地に降下できたわけだが、またしてもその重力支配能力に助けられたということになるだろう。

 ダルクスは、ミリュウの遙か前方の空中に球状重力場を発生させることで、特定の質量を引き寄せることに成功したのだ。その特定の質量というのは、もちろん、神人、神獣が発した攻撃であり、無数の光線、光弾が重力場に引き寄せられ、飲み込まれるようにして消滅してしまった。その事実は、神人、神獣たちをも唖然とさせたようであり、一瞬、神人たちの動きが止まった。その隙を見逃すダルクスではない。彼は猛然と北東方向に駆け出すと、反応した神獣が飛び上がった瞬間を見計らって右の拳を振り上げた。

 すると、ダルクスに飛びかからんとした神獣の巨躯が、まるで空に吸い込まれるかのように浮かび上がっていき、奇妙な形にねじ曲がった。上空に重力場を発生させ、拘束したようだ。だが、その程度では神獣を滅ぼすことはできない。神獣、神人は、全身のほとんどの細胞が白化症、つまり神の毒気に冒された存在であり、骨を折っても意味はなく、内臓を破壊しても無駄なのだ。神獣にせよ、神人にせよ、決着をつけるには“核”を破壊する以外に方法はなく、そのためには“核”を露出させるしかない。そして“核”の位置は一定ではなく、常に移動しているといっても過言ではないらしい。つまり神人も神獣も“核”を護るため、体内の安全な場所に移動させているということだろう。

 それ故、神人や神獣との戦いは極めて厳しく、リョハンの優秀な武装召喚師たちでようやく低強度に食らいつけるといっても過言ではなかった。

 もっとも、リョハンの武装召喚師の代表格ともいえる七大天侍のひとりだったミリュウならば、この程度の強度の神人たちに遅れを取るなど以ての外だ。それでは、リョハンの武装召喚師たちに示しがつかない。

 いやそもそも、今後の戦いについていけないといっているようなものだ。

 当然、そんなわけもなく、彼女は、ダルクスが突っ込んでいった方向とは逆の、南東方向にラヴァーソウルの柄を掲げた。刀身を失い、柄だけとなったそれは、何千何万の刃片を操縦するための魔法の杖そのものといっていい。そして、ミリュウはその魔法の杖を軽く握り、頭の中で思い描いた通りに飛び回るラヴァーソウルの刃片を用い、失われた術式を再現して見せるのだ。刃片の連結によって呪文の詠唱そのものを再現し、魔法を擬似的に再現する。彼女はそれを擬似魔法と呼んだ。

 ミリュウの周囲を漂う無数の刃片が輝きを発した直後、彼女の周辺に莫大な量の光が生じた。光は、怒濤の如き奔流となって前方、彼女が柄で示した虚空を目指して突き進み、進路上の景色を白く塗り潰すようにして神人や神獣をも飲み込んでいく。擬似魔法の光は破壊の力そのものであり、飲み込まれた神人も神獣も理不尽なまでの暴力の奔流の中で、奇怪な叫び声を上げるしかなかった。圧倒的な暴圧。破壊の限りを尽くす光の奔流は、魔法の杖の指し示す虚空の一点で収束したかと思えば、つぎの瞬間、さらなる爆発を引き起こして見せた。音もなく、熱もない。ただの破壊の力の拡散。収束地点周辺の神人神獣は、“核”もろとも破壊され尽くし、断末魔の絶叫さえも破壊されて消滅していった。

 その破壊の威力は、神人たちもろとも城壁の一部を消し飛ばすことになったが、致し方のないことだ。巻き込まれた一般人や抵抗軍将兵がいないという確信があるだけマシといえる。

「まあ、こんなものよね」

 ミリュウは、十数体の神人神獣を一網打尽に消し飛ばせたことに満足すると、すぐさま反対側に向き直った。こちらを見るエリナの目が輝いている様が飛び込んでくる。

「し、師匠、さすがです!」

 全身で感動を現すエリナの様子に相好を崩しかけたものの、つぎの瞬間にはダルクスを視線で追っている。さすがは歴戦の猛者たるダルクスだ。城壁上で縦横無尽に立ち回り、既に数体の神人の肉体を粉々に打ち砕いていた。だが、“核”を破壊しない限り、神人神獣は無制限に復元する。ミリュウは透かさずラヴァーソウルの刃片を飛ばし、ダルクスの右後方で再生を始めた神人の露出した“核”を撃ち抜き、彼を支援した。ダルクスがこちらを一瞥する。裏拳で神獣を殴りつけながら、だ。彼の行動には微塵の無駄がない。あらゆる動作が攻撃に繋がり、防御、回避に結びついている。洗練された身のこなし。彼がどれほどの修羅場を潜り抜けてきたのか、想像もつかない。ただひとついえることは、その体捌きを見ていると、ミリュウはどういうわけか安堵を覚えてならなかった。

 セツナを見ているときとは違う、別の安心感が彼にはある。

 ダルクスにならば、背後を任せても大丈夫だろうという確信がなぜかあるのだ。

 それが本当になぜなのか、ミリュウには皆目見当もつかない。

 ダルクスは、敵だった男だ。彼女の父オリアス=リヴァイアがクルセルクの魔王に仕えていた当時の右腕であろう彼の正体については、魔王ユベルですら知らず、また、クルセルクに残されていた魔王軍の資料にも記載されていなかった。彼がなにものなのかわからないまま時が流れ、再会したのは昨年のことだ。神人化した少女に操られていた彼を救った結果、彼は、ミリュウの良き相棒となった。

 なぜ、彼が仲間になってくれると思ったのかも、わからない。

 なんとなく、彼ならば力を貸してくれるだろうという勘が働いたらしい。

 そして、その勘が正しかったことは、彼が全身全霊でもってミリュウの手助けをしてくれていることからもわかるだろう。

 ミリュウは、自分の勘が正しかったことに胸を張るではなく、むしろ、なぜそのように確信を抱いたのか、不思議でならないまま、今日まで過ごしてきている。

 彼は無口だ。いや、無口なのか、発声することができないのかすらわかっていないものの、それで意思疎通ができないわけではなかったし、なにより彼はミリュウたちに友好的だった。ならば、なんの不便もなく、問題もない。

 問題があるとすれば、彼の望みがわからないことだ。

 ダルクスがなにを望み、なにを求め、なんのために力を貸してくれているのか。ミリュウはそれが知りたかった。知っておかなければならないことだと思った。

 当然だろう。

 彼の目的、願望がわかれば、そのために力を貸して上げることだってできる。

 彼の望みが、たとえば救われたことに対する恩返しだというのであれば、それはもう十分に果たしたといえる。

 戦いは、激しさを増していく。

 ダルクスは頼りになるし、彼以上の協力者を探すとなれば、骨の折れる話となるだろうが、だからといって彼にこれから先も頼りっぱなしというのは、彼に悪い。

 そんなことを最近よく考えてしまう。それもこれも、戦いの先行きが不透明だからだろう。

 敵が、あまりにも強大すぎる。

 ネア・ガンディア。

 神々をも従える神皇を名乗るものを頂点に仰ぐ、軍事組織――いや、国家といっていいのかもしれない。空飛ぶ船の船団を持ち、莫大な兵力、戦力を有し、世界中で戦争を起こすことも可能な連中。そのような連中を相手に戦い続けるつもりなのだ。

 セツナは。

 ネア・ガンディアを打倒して、ようやくこの世界に安定への道が開かれるのだと、信じている。

 彼や女神マユリは。

 ミリュウには、よくわからない。

 ミリュウが、ともに戦っているのは、セツナが彼女のすべてだからであり、それ以上でもそれ以下でもなかった。この場合、相手は関係がない。ネア・ガンディアが相手だろうと、東帝国が相手だろうと、残党が相手だろうと、どうだっていいことだ。セツナの敵が彼女の敵であり、その敵を斃すことに否やはない。それがすべてだ。

 わかりやすく、単純だ。

 自分は、それでいい、と思っている。エリナにしてもそうだろう。シーラやレムもそうに違いない。ファリアだって、きっと同じだ。セツナと一緒にいたいから、ネア・ガンディアとだって戦うのだ。

 では、ダルクスは?

 彼は、いったいなんのために、ウルクナクト号に乗っているのか。

 彼の想いも知らないまま戦いに連れ回すのは、酷な話なのではないか。

 ラヴァーソウルの刃片を飛ばしてダルクスを支援しながら、ミリュウは、なんともいえない表情になる。敵は、ダルクスの方角にばかりいるわけではない。ミリュウが撃破した方向からも続々と増援が迫りつつあり、彼女はさらなる擬似魔法の詠唱に迫られていた。

 



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