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第二千四百三十八話 後始末(六)

「いやあ、なかなか体験できるものじゃないねえ。あの高度からの降下なんてさ」

 エスク=ソーマの軽々しい発言に渋い顔をしたのは、ファリアだけではなかったようだ。

「おまえはなんでそんな平気なんだよ」

 シーラが言葉だけで噛みつきながら、急速に伸びてきた純白の腕を切り落とした。周囲の神人神獣が、降下地点に向かって集まりつつあり、その先鋒がこちらを射程距離に捉えている。もっとも、ファリアの射程距離のほうが遙かに遠く、彼女は、着地の直後、降下地点にいた神人神獣を撃滅してからというもの、オーロラストームによる遠距離狙撃に終始していた。

「そりゃあ男の子だからさ。大将だって平気だったろ?」

「セツナには翅があるじゃない」

「そうだそうだ。セツナは自分で制御できるから平気なのは当然だろうが」

「そういう問題なのか?」

「そういう問題よ」

「そういう問題だ」

 ファリアは、シーラとの完全な意見の一致にも喜べず、目を細めた。こちらに向かってくる神人、神獣の数は際限なく増えている気がする。いや、気のせいなどではない。サーファジュールに存在する神人、神獣の総数は二千程度。マルウェールの数万に比べればどうということはないが、それでもこちらに比べれば圧倒的に多いという事実に違いはないのだ。

 さらにいえば、神人の強さというのは、必ずしも一定ではない。強度の差によって、目に見えて強さが変わってくる。低強度の神人ならば並の武装召喚師で戦えるだろうが、高強度の神人ともなれば、優秀な武装召喚師が数人がかりでようやく倒せるほどとなる。神人の強度など一目でわかるはずもなければ、強度そのものの限界も不明であり、場合によってはファリアたちですら苦戦を強いられる可能性は、ないわけではなかった。

 とはいっても、ファリアたちは現在、女神マユリの加護を受けている。高空からの落下で死ななかったのも女神の加護のおかげであり、女神の加護がある限り、ある程度の攻撃で傷を負うこともない。故にファリアたちは、無数の神人、神獣が殺到してくる中で平然と口論することだってできたのだ。

「そういうもんかねえ……まあ、いまはそんなことより、第一目標の達成を優先するべきか」

「そうね。わたしが支援するから、エスクは右を、シーラは左を頼むわ」

「ああ、任せろ!」

「おうともさ!」

 頼もしい返事とともにふたりが敵陣真っ只中へと飛び込んでいく。

 三人は、サーファジュールの外周城壁、その東側の出っ張った部分に降下している。セツナが提案した降下強襲作戦の目的は、神人、神獣の注意を引き、サーファジュール中の神人、神獣を四方に集めることにある。この度のサーファジュール攻略作戦の最終目標は、サーファジュールを抵抗軍より解放することであり、また、抵抗軍を降伏させることだ。そのための第一目的が、神人、神獣の殲滅なのだ。

 神人、神獣は、もはや人間やその他の生物とは有り様の異なる怪物であり、神の使徒といっていい存在なのだという。交渉の余地もなければ、わかり合うことなど不可能であり、手を差し伸べようとするだけ無駄だということだ。

 一方、抵抗軍の将兵とは、まだしも交渉の余地はあるだろう。神人や神獣を使役しているもの――セツナやマユリ神は、抵抗軍頭領である旧東帝国陸軍大将ゼネルファー=オーキッドだと睨んでいる――はともかくとして、それ以外の人間とは、話し合う猶予は残されているはずだ。少なくとも、末端の兵士たちは、このような戦いを望んで、抵抗軍に身を投じたわけではないだろう。

 ファリアは、そう信じたかった。

 東帝国の唐突な降伏、敗戦が信じられないから、受け入れられないから、陸軍大将の扇動に乗っただけであり、神人や神獣を駆使することなど考えてなどいないはずだ。ひとの道を外れてまで、そうまでして、現実を否定したいとでもいうのか。

(その気持ちは……わからなくはないけれど……)

 オーロラストームの結晶体を展開し、無数の雷撃を放射状に乱射しながら、彼女は想った。目の前の現実を受け入れられないときだって、なくはなかった。すべてが嘘だと、夢であってほしいと想ったこともある。だが、だからといって、その現実を否定し、覆すためにひとの道を踏み外すなど、あってはならないことではないのか。

 莫大な量の雷光の帯がつぎつぎと神人や神獣を打ち据え、電熱によってその強固な外皮を灼き、打ち砕いていく中、ふたりの戦士が駆け抜けていく。

 ファリアから見て右手、つまり北西方向に突貫するのはエスクだ。雷撃の嵐の中と飛びかかってきた複数の神獣を虚空砲と名付けられた衝撃波で吹き飛ばせば、無限に伸長する光の刃を振り回して神人神獣を見境なく切り刻んでいく。神人や神獣の強固な外殻をもってしても、ソードケインの光の刃を耐えるのは難しいらしく、神人の巨躯があっという間に細切れになった。だが、神人も神獣も、その程度では滅びない。即座に再生が始まっている。エスクが鼻で笑った。彼の背後に光の環が浮かび上がったかと想うと、目にも止まらぬ速度で光の刃が螺旋を描いた。さながら光の竜巻の如き剣閃が無数の神人、神獣の“核”を一瞬のうちに破壊し尽くしてしまう。

 他方、ファリアから見て左手、つまり南西方向を駆け抜けるのはシーラだ。血の出ない神人神獣ばかりのこの戦場ではハートオブビーストの能力が使えないということもあり、ファリアはエスクよりもシーラを重点的に支援することに決めていた。そのため、シーラが敵陣に到達するころには、雷撃の嵐によって“核”を露出した神人や神獣が少なからずいて、彼女はそれらをハートオブビーストのひと突き、一閃で打ち砕いて見せた。

 無論、その程度で敵が殲滅できるはずもない。

 後方から続々と投入されてくる神人と神獣を見遣り、ファリアは気を引き締め直した。

 


 レムは、サーファジュール外周城壁の四方にある出っ張りのうち、南側をひとりで受け持つことになり、内心、得も言われぬ幸福感を覚えたものであり、高空からの降下の最中もまさに幸福を噛みしめていたものだったため、恐怖もなにも感じなかった。そもそも、女神の加護があるため、どれだけの高さから落ちてもなにひとつ恐れることはないし、彼女の場合、たとえ女神の加護がなかろうとも問題がなかったのだが、それはそれとして、だ。

 ほかが三人ひと組で受け持つところをひとりで受け持つ事態になったことに関してはファリアやミリュウたちには心配されたし、セツナにも気遣われたが、レムにとってはこの大抜擢ほど嬉しいことはなかった。それはつまり、セツナに自分ならばひとりでもだいじょうぶだと、切り抜けられるに違いないと信頼されているという証明にほかならない。もちろん、レムにはファリアやミリュウたちにはない特性がある。

 それは、死なないということだ。

 不老不滅故にどのような無茶をさせても問題がないのだ。

 とはいえ、セツナの性格を考えれば、レムの特性を最大限に利用するような方法は躊躇うだろう。たとえレムが不滅であり、死なないのだとしても、痛みを感じないわけではない。セツナは、そういったことを考慮して、しすぎてしまうきらいがある。そのため、レムを単独で敵陣に突撃させるという極めて効率的な戦術を取ってこなかったのだ。

 だが、今回は違った。

 別に、外周城壁の四方に戦力を分散して降り立つ必要はない。神人神獣を集めるだけならば三方に降下するだけでも、なんの問題もないはずだ。しかし、セツナは、四方に敵戦力を分散させるほうが効率的に神人神獣を殲滅できると判断し、そのためにレム単独の作戦行動を戦術に組み込んだのだ。

 レムは、その作戦を聞いたとき、セツナにやっと認められたのだ、と想った。

 そして、心の底から溢れてくる嬉しさの奔流の中で、セツナに抱きつきたい気持ちを抑えるのに必死にならなければならなかった。

 作戦会議中、そのような行動を取れば、ミリュウたちになにをされるかわかったものではない。



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