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第二千四百三話 総攻撃目前(ニ)

 西ザイオン帝国の総攻撃開始予定日は、七月二十八日。

 つまり、会議から約一ヶ月後ということになるが、それでもかなりの無茶をしていることは西ザイオン帝国領の広さを考えれば、セツナにも理解できることだ。西ザイオン帝国領は、“大破壊”によって南北に分かたれたザイオン帝国本来の領土をさらに東西に二分したものだが、それでもガンディア王国の最盛期よりも遙かに広い。比べものにならないといっていい。ザイオン帝国領には、召喚車という高速移動手段があるとはいえ、それでも全土に情報を伝達するには時間がかかった。その上で、総攻撃のための入念な準備が必要となれば、一ヶ月以上の時間がかかるのは必然といえる。

 総攻撃開始まで一ヶ月以内の目処が立ったのは、すべての戦線において常に防衛準備を整えているからというのもあったし、総攻撃とはいいつつ、必ずしもそれぞれの戦線で勝利する必要はないという最大の理由が大きいだろう。

 西帝国軍の総攻撃は、東帝国軍の全戦力を前線に引き出すために必要な陽動であり、そのために万全の準備を整える必要があるとはいえ、東帝国軍を動かすという目的さえ達成できればそれでよく、各戦線の勝敗は大勢に影響を与えるものではないのだ。

 真に大勢に影響を与えるものがあるとすれば、それこそセツナ一行の勝敗の行方だ。

 それだけが唯一、西帝国の将来を左右するものであり、そのためにもセツナたちは、開戦までの一月あまり、ありあまる時間を休養に費やすのではなく、鍛錬と研鑽にこそ捧げた。もちろん、休むことも重要だったし、ファリアたちの精神的健康のため、セツナはそれぞれのわがままに付き合ったりもした。そうすることで少しでも彼女たちの心が潤えば、勝利は確定的なものとなる。

 そもそも、このたびの作戦において、セツナは、端から負けることは想定していない。

 現状、東帝国の戦力には、脅威となる存在はないのだ。

 たとえば、ネア・ガンディアにおける神々や獅徒、神人が戦力として組み込まれているような気配はない。帝国といえば、聖皇ミエンディアが召喚した神々の中でも二大神と呼ばれる強大な力を持った神の一柱、女神ナリアが加護していたはずだが、その影も形も見えない、とセツナたちにとっての大いなる女神マユリが調べ上げている。ナリアだけではない。ほかの神々の影も見当たらないという話であり、東帝国は、人間のみを戦力としているということだ。

 それは、わかりきったことではあった。

 もし、東帝国がなんらかの神の加護を得ていたのであれば、神の加護なき西帝国と拮抗し続ける理由はなく、西帝国などとっくに滅ぼし、南ザイオン大陸の統一を成し遂げていたに違いないのだ。それがなく、ラーゼン=ウルクナクトを投入するまで均衡を維持するので精一杯だったということは、神のような強大な力を持った存在が背後にいないということにほかならない。

 それだけにセツナたちには余裕があったのだ。

 強くとも、人間の武装召喚師が相手ならば、ネア・ガンディアを相手にするよりは遙かにましといっていい。ましどころか、天国と地獄くらいの差があるのではないか。

 ネア・ガンディアの神々や獅徒は、明らかに人間とは次元の異なる力を持っている。そんな化け物を相手に戦い続けるのは、骨の折れることだったし、ザルワーン・ログナーの連戦は、セツナにとっても極めて苛烈なものだった。あのような戦いを続けていかなければならないとなると、まだまだ鍛錬と研鑽が必要であり、そのための酷烈な修練が、開戦までの一月あまり、セツナを待ち受けていた。

 そうなのだ。

 セツナたちの修練の日々は、帝都ザイアス襲撃ではなく、さらにその先、ネア・ガンディアとの戦いを見据えてのものだった。

 帝都ザイアス攻略そのものは、現有戦力でも問題なく行えるだろう。もちろん、そのためには、帝都ザイアスに置かれているであろう防衛戦力を少しでも前線に引っ張り出す必要があるだろうし、それでも、相応の苦戦を強いられる可能性だって、なくはない。武装召喚師の実力はともかくとして、召喚武装の能力によっては、セツナですら手玉に取られることはありうるのだ。

 召喚武装の能力は、ときに魔法の如くであり、時間を操り、空間を支配することだってありうる。

 黒き矛を手にしたセツナにさえ効果的な召喚武装が存在してもなんらおかしくはなかったし、不思議なことでもなんでもないのだ。どういう状況でどんなことが起こったとしても対処できるようには、しておかなければならない。それ故、将来を見据えた修練もまた、帝都攻略に無縁とはいえないのだ。

 鍛え上げて損はない。

 そんなことを言い聞かせるようにして、セツナたちは、修練の日々に明け暮れた。


 七月も半ばを迎え、南ザイオン大陸そのものが熱を帯び始めると、セツナたちの修練にも熱が入っていった。

 当然のことながら、セツナたちの修練はもっぱら西ザイオン帝国帝都シウェルエンドの外で行われ、日々、地形を変えるような戦いぶりは、自然災害に勝るとも劣らないものであり、皇帝直々に苦言が呈されるほどだった。セツナたちもやり過ぎを反省したものの、そうでもしなければ自分たちの身につかないこともあり、マユリ神に協力を要請する羽目になった。

 マユリ神は、各地に総督たちを送り届けたのち、セツナたちの修練に合流している。女神は、セツナたちの肉体的、精神的疲労を回復することで修練の効率化を促す役回りだったが、皇帝の苦言のあとは、自然環境保護のため、セツナたちの修練場所を防御結界で覆うことも、女神の役割となった。それにより、セツナたちは遠慮なく修行を行えるようになったものの、ますます加熱する修行は、もはや実戦さながらであり、地獄のような光景が日々繰り広げられることとなった。

 修行風景を見に訪れた三武卿や大総督が言葉を失ったほどの修行の日々は、セツナたちの実力を底上げするものとなったのは間違いない。

 少なくとも、セツナは、黒き矛と眷属の同時併用の効率化に成功しており、それによって大幅な継戦能力の向上となった。

 また一歩、完全武装状態の完成へと近づいたことを実感しながら、セツナは、東帝国軍総攻撃の日を迎えることとなったのだ。

 完全武装の完成こそ、対ネア・ガンディアに必要不可欠なものであることはいうまでもない。

 黒き矛と眷属の全能力解放は、神々との戦いに必須となること間違いないのだ。

 そのためにも、この一月あまりの修行期間は、極めて有用なものとなった。

 修行期間によって鍛え上げられたのは、セツナだけではない。ファリアもミリュウもレムもシーラも、エリナ、ダルク、エスクのいずれもが、この一月を一切無駄にしなかった。

 ファリアは、オーロラストームにさらなる可能性を見出すとともに、祖母より受け継いだ召喚武装である閃刀・昴も自由自在に扱えるようになっていた。

 ミリュウは、ラヴァーソウルの刃片による術式構築の高速化を試行錯誤し、擬似魔法の発動までの時間短縮に四苦八苦していたが、少なくとも修行以前よりは速くなったようだ。

 シーラは、ハートオブビーストの使い手としてより強くなった。

 レムは、“死神”との連携を極め、また、ログナー島での戦いに見せたセツナとの同調能力を試した。完全武装状態との同調により、“死神”たちにも眷属と同様の武器を持たせる能力だが、それは極めて負担が大きいことが判明した。そのため、ここぞというとき以外は使えないだろう。

 ダルクスは、持ち前の重力制御能力に磨きをかけた。彼の召喚武装は、常に身に纏う黒甲冑だが、その能力といえば、重力場を生み出したし、重力球を形成したりというものだが、その威力、範囲、精度が向上した。

 超一流の武装召喚師、召喚武装使いとともに行った苛烈極まる修行は、ミリュウをして天才といわしめたエリナにさらなる成長を促している。エリナの成長は、セツナ一行の戦闘能力の向上そのものといっても過言ではないだろう。エリナのフォースフェザーは、支援能力を持った召喚武装の中でも白眉といっていいのだ。フォースフェザーをさらに使いこなし、能力を引き出せるようになれば、エリナの支援能力そのものが向上するということであり、それだけでセツナたちはさらに強くなれる。

 それは、今後の戦いを左右するものとなるだろう。

 また、修行期間は、各々の能力の確認と、それによる連携の確認も行えた。

 特にこれまで長期間離れていた上、新たな能力を得たエスクとの連携の確認は、セツナたちには必要不可欠なものだったかもしれない。ソードケインのみならず、エアトーカー、ホーリーシンボルの能力をも得たエスクは、以前にも増して凶悪な存在となっているのだ。そんな彼の能力、実力の把握は、セツナたち全員に必須といってよかった。

 エスク自身、これまで意識していなかった能力の連携を考えるようになり、さらに強くなっている。

 この一月あまりの準備期間は、修行期間として、セツナ一行の戦闘能力を大幅に向上させるに至ったのだ。

 そうして、セツナたちは、総攻撃の日を迎えた。

 


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