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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千二百五十話 再び、ログナーへ

 ザルワーン島、ログナー島の二島からネア・ガンディア軍を撃退するという二方面作戦を成功裏に導き、両島に再び安定的な秩序をもたらすことに成功したセツナたちは、二方面作戦による疲労と消耗を数日あまり龍府に留まることで癒やすこととした。

 その間、マユリとハサカラウの二神は、龍府とマルウェールの戦場を行き来し、先の戦いにおける戦死者の亡骸の運搬や、まだ戦場に留まっていた同盟軍将兵の龍府への移送を行った。マユリは方舟を用い、ハサカラウは巨大な龍となることで、多数の将兵、物資の運搬を行っている。それらはマユリ神の提案によるものであり、当初はマユリ神が単独で行う予定だったが、セツナがハサカラウにある提案をし、参加させている。ハサカラウは、シーラの評価が変わる、などと嘯けば、セツナの思い通りに動いてくれた。扱いやすい神もいたものだ、と想わざるを得ない。

 龍府での療養中、五月五日を迎えている。五月五日はセツナの誕生日であり、そのことを覚えていたファリアたちの企みによって豪華な誕生日会が開かれることなった。太后グレイシアやナージュ王女までもが参加する、さながら式典のような誕生日会は、龍府中を巻き込むほど大がかりなものへと発展したのだが、それにはセツナたちが龍府を訪れたときから龍府市民が密かに画策していたからという理由がある。

 かつての領伯であり、ガンディアの英雄であるセツナのことを慕うこと甚だしい龍府のひとびとにとって、セツナの誕生日を盛大に祝うのは当然のことである、と、龍府司政官ダンエッジ=ビューネルが囁いたが、セツナには、どうにも不思議でならなかった。確かにセツナは領伯だったが、龍府のことはダンエッジに任せきりであり、龍府のひとびとになんら寄与することはなかったはずだ。それがこうまで騒がれるほど慕われ、敬われることに違和感を覚えざるを得ない。

 もちろん、慕ってくれたり、敬ってくれることそのものは嬉しいし、その気持ちを否定するつもりはない。感謝もしている。なにより、みんなで誕生日を祝ってくれることほど嬉しいことはなかった。

 単純に疑問なのだ。

 すると、ダンエッジは、苦笑交じりにいった。

「皆、セツナ殿を慕っている。その事実を認めるだけでよろしいではありませんかな?」

 皆が好意を抱いてくれているという事実があるのだ。わざわざ疑問に思わずともいいではないか。ダンエッジのいいたいことを理解して、セツナは、彼に謝意を示した。

 龍府中を巻き込んだ誕生日会は、その日一日、夜が明けるまで続いた。龍府市内には様々な出店が建ち並び、老若男女が入り乱れてのお祭り騒ぎだったが、それにはネア・ガンディア軍の撃退や、帝国軍との同盟和議といった市民にとって喜ばしいことが続いていることも関係しているようだった。

 ザルワーン方面こそ、白毛九尾ことシーラのおかげで護られていたとはいえ、常に帝国軍の脅威に晒されていたのもまた事実だ。その帝国軍が、ネア・ガンディア軍に追い立てられた結果とはいえ、仮政府と同盟を結び、いまもその関係は続いている。

 帝国軍は元々、ネア・ガンディア軍が支配する以前のクルセルク方面を統治していたが、帝国陸軍大佐レング=フォーネフェルは、クルセルク方面を帝国軍によって再度統治するなどとは言い出さず、仮政府との同盟を堅持し、より良い関係性を構築していくことに重きをおくと宣言している。

 帝国軍は、ネア・ガンディアとの戦いによってその半数以上の兵力を失っている。多大な戦力の損失は、帝国軍将兵の士気を大いに低下させたようだった。とはいえ、それが理由でクルセルク方面を諦めたわけではない。帝国軍としては、クルセルク方面を統治する理由がなくなったことが最大の原因なのだ。

 帝国軍が”大破壊”以降、クルセルク方面の統治に乗り出したのは、帝国本土と連絡が取れなくなったことが大きい。帝国軍を支配し、命令を下すことができるのは、ザイオン帝国皇帝ただひとりであり、その勅命による小国家軍侵攻は、”大破壊”後も彼らの中に生きていた。故に彼らはザルワーン島全体を支配するべく軍事行動を起こしていたのであり、クルセルク方面を制圧すると、ザルワーン方面の制圧も試みた。しかし、ザルワーン方面は白毛九尾によって堅く守られていたため、彼らはクルセルク方面に籠もり、統治運営を続けていたのだ。

 それが、セツナとの接触、交渉によって、無意味であることを知った。

 先の皇帝シウェルハイン崩御とニーウェの皇位継承は、レングら帝国軍将校を大いに動揺させた。彼らは、先帝シウェルハインにではなく、新皇帝ニーウェハインにこそ指示を仰がなければならず、それこそが最優先事項となったのだ。とはいえ、新皇帝から指示を受けるまでは先帝の勅命が効果を失うことはなく、帝国軍としてはザルワーン島にいる以上、ザルワーン島の制圧に動かなければならなかった。

 それを制したのがセツナとの交渉だ。

 セツナが帝国本土に向かい、新皇帝と会見することを知ったレングは、セツナにこの島にいる帝国軍残党のことを知らせて欲しいと頼み込んだ。セツナはこれを了承、必ずやレングたちの想いをニーウェハイン新皇帝に伝えると約束した。その代わり、仮政府との間に休戦協定を結び、同盟和議に応じることを求め、レングはそれを了承した。

 かくして仮政府と帝国軍の同盟和議はなり、ネア・ガンディア軍との戦いに至ったのだが、戦後も同盟を継続することについては、両者の間で疑問の声すら上がることはなかった。仮政府にしても、帝国軍にしても、ネア・ガンディア軍との戦による傷を癒やすことが先決だったし、なにより、相争うことに意味を見いだせない状態だった。

 クルセルク方面は、というと、ネア・ガンディア軍から解放された状態で放置され、しばらくの間、無政府状態に陥っていた。クルセルク方面は、先もいったように最終戦争以降、帝国軍の支配下にあり、レングら帝国軍残党によって統治運営されていた。帝国軍残党による統治は秩序だったものであり、極めて安定的かつ、平和的なものだということもあり、そのため、仮政府も軍備が整うまでは手を出す必要はないと判断していた。

 そういう事情もあり、クルセルク方面のことを完全に放置していたところ、ネア・ガンディア軍が現れ、帝国軍をクルセルク方面から追い出してしまった。クルセルク方面はネア・ガンディアの支配下に組み込まれたが、統治と呼べるものさえなかった、という。要するにクルセルク方面の各都市に任せきりだったのだ。無論、それにはネア・ガンディアなりの言い分も理由もあるだろうが、どうでもいいことだ。

 無政府状態に等しくなったクルセルク方面だったが、仮政府首脳陣が飛び回り、ネア・ガンディア軍を撃退したということを伝えると、クルセルク方面の全都市が仮政府の庇護下に入ることを了解した。首脳陣がクルセルク方面を飛び回ることができたのは、ひとえに方舟のおかげであり、グレイシアらはセツナたちに感謝ばかりしていた。

 ザルワーン島にある唯一のアバードの都市センティアも、仮政府の庇護下に入った。アバードは、ガンディアの領土ではないが、アバードが国としてもはや存在しないいま、その秩序を護るためには仮政府に組み込む以外にはなく、かつてのアバード国王セイルも当然といった反応を示したという。

 かくして、ザルワーン島は、仮政府の名の下に統一され、島内ではガンディア再興の機運が高まりつつあった。

 仮政府のひとびとには、ネア・ガンディアと名乗る軍勢は、ガンディアの名を騙っているだけの敵対者である、という認識が徹底されており、獅子神皇ことレオンガンド・レイグナス=ガンディアも偽者だとだれもが信じていた。

 セツナだって、獅子神皇がレオンガンド本人などと想っているはずもない。

 レオンガンドがマルウェールを滅ぼすどころか戦いに無関係な市民を巻き込むことを了承するなど、ありえない。

 レオンガンドの名を騙る偽者を指導者と仰ぐ組織など、ガンディアでなどあるものか。

 セツナは、強くそう信じていたし、そこに一切の疑問を持たなかった。

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