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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千二百四十九話 再会早々争奪戦

 グレイシアらとの会見を終え、泰霊殿を歩いているときのことだった。

「姉上……!」

 だれとは知れぬ呼び声に振り向けば、白髪の少年が護衛を振り切るようにして廊下を駆け寄ってくるところだった。白髪に碧眼の見目麗しい少年だ。見た瞬間、セツナはシーラによく似ていると想ったが、案の定、シーラが真っ先に反応を示す。

「セイル……陛下」

 シーラが彼の前に傅くと、立ち止まった少年は困惑気味の笑顔を浮かべた。シーラの面影のある少年がだれであるか、セツナがすぐに思い出せたのはシーラのおかげだ。セイル・レイ=アバード。アバード王国の現国王である彼は、しかし、その身分に似合わぬほど質素な装束を身につけていた。護衛と思しき兵士たちよりも簡素でさえある。

 国王とはいえ、アバード王国は、最終戦争の際、ヴァシュタリア軍によって蹂躙され、滅亡している。かつてはザルワーンと地続きだったアバードの地は、一部を除いてほとんどが海を隔てた彼方へと遠ざかっていた。”大破壊”以降のアバードがどのような情勢なのか、だれにもわからないのだ。ヴァシュタリア軍に制圧されたままなのか、あるいは、ログノールのような新たな統治機構が誕生しているのか。いずれにせよ、彼の立場はいまやアバード王家の生き残りでしかない、といえるだろう。事実、彼は、シーラの手を取ると、難しい顔でいった。

「陛下はよしてください。アバード王国は滅び、再興の目処さえないのです。わたしはアバード王家の生き残りとして、仮政府で働く文官に過ぎません」

「文官……ですか」

「ええ。でも、勘違いしないでください、姉上。わたし自身が望んだことなのです」

 セイルは、胸を張った。

 セツナが彼と最初に対面したのは、アバード動乱終結後のことだ。いまから約五年前であり、当時八歳の幼い王子でありながら、アバード王家の問題に直面しながらも、泣き言ひとついわず王家の人間としての責務を果たしてきたのが彼だ。将来が楽しみだとレオンガンドが認めるくらいの精神性の持ち主は、見た目にも大きく成長していた。年齢は、今年で十三歳になるはずだ。容貌はシーラに似てきており、いずれは龍府の女性を騒がせるほどの美男子になること請け合いだ。

「仮政府の皆様は、わたしをアバードの国王として厚遇し、首脳陣に加えようとしてくださったのですが、国も民も護れず、それどころか結果的に見捨てたものに国王を名乗る資格などあろうはずもない――そう想い、文官としてなら、ということで仮政府に協力させて頂いているのです」

 セイルの言動は、どれをとっても立派なものだ。さすがは、アバード動乱のあと、だれもが逃げ出したくなるような状況を真正面から受け止め、新たな国王としてアバードを取り纏めた人物だけのことはある。

 アバード動乱後のアバードの政治については、ガンディアが支配していたといっても過言ではないのだが、必ずしもお飾りの国王ではなかったというのは、確かなようだ。

「わたしがこうしていまを生きていられるのは、アバードより落ち延びたわたしを受け入れてくださったガンディア王国の皆様のおかげ。アバードの再興は夢なれど、いまは、ガンディア王国の皆様の御恩に報いることこそ、アバード王家に連なるものの果たすべき責務だと、わたしは想うのです」

「セイル……ああ、そうだ。その通りだ。セイル。恩に報いるために全身全霊を注ぐことこそ、アバード王家の人間たる証だ。俺がそうであるようにな」

 シーラがにこやかな笑顔でもって告げると、セイルは、顔を輝かせた。彼が感激した意味は、セツナにはいまいちよくわからない。ただ、セイルがシーラとの再会をこの上なく喜んでいることは明らかだったし、シーラの言動を素直に受け止めていることも間違いない。

「姉上がその身をもって教えてくださったことを実践したまでのことです」

「俺がか?」

「九尾様として、この地を護ってくださったのは、姉上でしょう?」

「……ああ、そのことか」

「わたしは、姉上が護ってくださるザルワーンの地をより良くすることが、姉上への、ガンディアの皆様への、セツナ様への御恩返しだと信じていたのです」

「様……って」

「姉上のこと、よろしくお頼み申し上げます、セツナ様」

「お、おい……セイル……」

「それとも、義兄上、と、お呼び申し上げたほうがよいのでしょうか」

『なっ――!?』 

 セイルが冗談めかしていってきた一言に絶句したのは、セツナだけではない。シーラもそうだが、ミリュウ、ファリア、レムまでもが言葉を失い、その場に立ち尽くした。エリナは状況が飲み込めないようで、それだけが救いといえば救いだったのかもしれない。

 その後、セイルの発言を巡ってミリュウがシーラに食ってかかり、レムが囃し立て、ファリアが宥め賺すといったいつものやり取りが展開されたのだが、その間、セイルはというと、シーラの狼狽ぶりをみてにこにこしていた。敬愛する姉の取り乱す様を見て喜ぶのは、どういうことなのか。

 単純に、シーラと再会できたことを喜んでいるだけかもしれない。

 それからしばらくして、またしても再会を果たした人物がいる。

 ユリウス・レイ=マルディアとユノ=マルディアの兄妹だ。

「セツナ様ー!」

「セツナ様!」

 ふたりとの再会も、向こうから声をかけられたことから始まる。天輪宮の中庭でファリアたちと寛いでいたところ、廊下を駆け抜けてきたのがふたりだったのだ。いずれも質素な服装で、セイル同様、護衛の格好のほうが派手に見えた。

「あれ……?」

「あれとはなんでございます? あれとは」

「そうですよ、酷いです」

 ユノとユリウスは、可愛らしいとさえいえるような憤慨ぶりでセツナに詰め寄ってきた。

 

 ふたりは、マルディア王家の人間だ。ふたりは双子の兄妹であり、約二年前に逢ったときもそうだったが、いまも極めてよく似た顔立ち、背格好をしていた。ただ、体格に男女の差が出ていて、同じ格好をしていても、よく見れば間違えることはないだろう。もっとも、よく見れば、だ。まったく同じ格好をしていれば、どちらがだれなのか、一瞬ではわかるまい。それくらいよく似ている。ユノは女らしく成長していることから、ユリウスが中性的という以上に女性的な顔立ちをしているということだ。

「なんで?」

「ユノのこと、お忘れでございますか?」

「その兄のことも」

「いや、忘れるわけがないでしょう。でも、どうしてここに」

 セツナが疑問に想ったのは、ふたりがこの間まで龍府にいなかったからだ。

 先ほどシーラと再会し、いまも一緒に語り合っているセイルは、文官の修行と称してナグラシアに出向いていたといっていた。シーラが白毛九尾から元の姿に戻ったという報せを聞き、許可を得て龍府に向かい、辿り着いたのがつい先ほどなのだという。ということは、ふたりもそうなのかもしれない。元々龍府にいたのであれば、セツナたちが最初に龍府を訪れたとき、真っ先に顔を見せてくるはずだ。

「わたくしと兄上は、スルークで仮政府の仕事に従事しているのでございますが、セツナ様方が龍府に姿を見せたという報せを聞き、無理をいって龍府に出向させて頂いたのでございます」

「本当はもっと早くに龍府に来たかったのですが、中々そうも行かず……つい先ほど到着した次第で」

「でも、ちょうど良かったですわ。セツナ様も皆様も、戦地に赴いておられたとか」

「目当てのセツナ様がいないときに龍府に辿り着いたとあれば、待ちぼうけになるだけだからね」

「はい!」

 双子の兄妹は、顔を見合わせると、いかにも仲良くにっこりと笑い合った。

 マルディアもまた、最終戦争の際、ヴァシュタリア軍の猛攻によって滅ぼされた。ガンディアに関連する国でエトセアに次ぐ早さで滅ぼされた国となるだろう。ヴァシュタリア軍の圧倒的な戦力によって国が蹂躙される最中、ユリウスは、わずかばかりの手勢とともに命からがらマルディアを脱し、ガンディアはザルワーン方面龍府に落ち延びたのだ。ガンディアがユリウスらマルディアの遺臣を保護するのは、立場上、当然といえた。

 マルディアは、ガンディアと盟約を結んだ国であり、支配国と被支配国の関係だった。もちろん、支配国がガンディアで、被支配国がマルディアだ。

 ユノは、マルディアのガンディアへの隷属の証として、人質としてガンディアに送り込まれ、龍府預かりの身となっていた。故に最終戦争、”大破壊”を生き延びることができた、といっていいだろう。

 もし仮にふたりがふたり、マルディアに残っていれば、どうなっていたことか。

 セツナは、一段と女性らしく成長したユノと、同じく立派に成長したユリウスとの再会と無事を喜び、しばらく話し込んだ。

 そこへエリルアルムが姿を見せると、なにやら不穏な空気が漂い始め、最後にはレムが主導となってセツナ争奪戦なるものが始まったものだから、もう大変。

 セツナを巡る女性陣の争いは、天輪宮中を巻き込む形で発展し、太后グレイシアやレオナ王女までもが飛び入り参加し、それはそれは龍府史上稀に見る大騒動となったのだった。

 



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