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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千二百話 違和(二)


「地上に降りた全部隊、布陣が完了し、既に戦闘を開始している部隊もあるようですよ」

 モナナ神の一言によって、ミズトリスは、はっとなった。

 モナナ神に声をかけられる直前まで、自分がなにをしていたのか定かではない。そのことが指揮官として相応しくない振る舞いであると理解しているから、彼女はなんともいえない顔になった。自分がなぜ、甲板に出ているのかも思い出せない。敵を迎え撃つためだった気もするのだが、しかし、地上戦力ばかりの仮政府・帝国軍に飛翔船を急襲することなどできるわけもない。仮に何名かの武装召喚師が飛行能力を有しているとして、防御障壁に護られている飛翔船に取り付けるはずもなく、故に疑問に想うのだ。

 自分もモナナ神も、なにを根拠に敵を迎え撃とうとしていたのか。

「そうか……」

 返事とともに思考を切り替える。

 考えるべきは、自分たちのよくわからない行動ではなく、地上のことだ。

 ミズトリスが地上に展開した戦力は、聖軍四千と神兵二千の総勢六千あまり。これが現在、ミズトリスが動員しうる全兵力であり、数の上では仮政府・帝国軍に大きく負けている。

 当初、ミズトリスがザルワーン方面再侵攻のために動員した兵数は、総勢一万五千。これが大きく減少したのは、ザルワーン島上陸目前に白毛九尾の迎撃にあったためだ。白毛九尾の猛威によって戦力の大半を失ったミズトリスは、残る六千あまりでもってザルワーン方面の制圧をしなければならなくなったが、それそのものは、大した問題ではないと考えていた。それはそうだろう。聖軍四千でも、常人揃いの仮政府軍や帝国軍に遅れを取るはずもない。

 問題があるとすれば白毛九尾の存在だけであり、その白毛九尾が消え去ったいまとなってはなんの障害もなくなったといっていいだろう。現有戦力でも、十二分に勝機はある。むざむざ、ミズトリスやモナナが戦場に出る幕もないくらい、勝利は確定的だ。

 ただひとつ、懸念があるとすれば、マルウェールの神兵団が全滅したということだ。

 降伏勧告のためマルウェールを砲撃した際、そのまま、マルウェールの住民を神兵化したのは、白毛九尾によって奪われた戦力を補充し、さらに増員するためだった。ただ殺すのではなく、後々、ネア・ガンディアの戦力として運用できることも考えれば、モナナ神の提案であるマルウェール全住民の神兵化は妙案といってよかった。神威砲の威力、ミズトリスの本気ぶりを目の当たりにした仮政府が平身低頭で降伏してくれたのならば、なおさらよかったのだが、残念ながら、彼らは強情にも徹底抗戦を選んだ。

 その際、仮政府・帝国軍の宣戦布告として攻撃されたのが、マルウェールの神兵団だ。廃墟と化したマルウェールでは、数万の市民が神威を浴び、人間から神兵へと生まれ変わり、モナナ神の命令を待ちわびれいたはずだった。

 しかしそれら数万の神兵が、仮政府・帝国軍の予期せぬ攻撃によってマルウェール神兵団が全滅したということは、驚くべきことだ。

 通常戦力では不可能なことであり、仮政府・帝国軍にはなにかしら秘匿された戦力があるものと見て、注意する必要があった。

「神兵はともかく、聖軍の状況次第では、わたしも出るぞ」

「神威砲も破壊されましたしね」

「そういえば、そうだったな……」

 ふと、思い出して船首を見遣ると、破壊された砲塔からはいまも煙が立ち上っていた。

 疑問が浮かぶ。

「しかしいったいどうやって、奴らは神威砲を破壊したのだ?」

 ミズトリスの疑問をモナナ神は微笑むばかりで、手がかりひとつ教えてくれなかった。なにかひとつ、重要なことを忘れているような気がしてならなかった。


 戦況が動いたのは、ネア・ガンディア軍の方舟に変調があった直後だった。

 遥か上空、青空の彼方に浮かぶ方舟に爆発が起きたちょうどそのころ、地上の最前線で、両軍の矢が飛び交っており、飛び交う矢の真下を両軍の歩兵が突き進んでいた。

 戦場は、“大破壊”によって変わり果てた荒野であり、ところどころ結晶化の進んだ地面がその場違いな美しさを見せつけている。小川を挟んでの対峙は一瞬のことで、互いに相手を確認するなり、弓矢を飛ばしあった。馬上、射抜かれるもの、射抜くもの、弓矢の撃ち合いが次第に烈しさを増す中で、戦況を激変させたのは、ネア・ガンディア軍の最前線に到着した多数の神人だ。

 通常兵器如きではびくともしないどころの話ではない神人の到来は、同盟軍の最前線を軽々を崩壊させていく。巨大化させた腕を振り回すだけで、何人もの歩兵が薙ぎ倒され、鞭のようにしなる触手が弓兵を薙ぎ払っていく。

 そんな激戦区に単身切り込み、気炎を上げているのがシーラだ。白の甲冑を身に纏い、斧槍型召喚武装ハートオブビーストを振り回すその様は、アバードの獣姫として勇名を馳せた時代を想起させ、前線で戦う同盟軍将兵を奮起させるに至っている。猛牛の如き大角を生やした彼女の突進は、並み居る敵兵を吹き飛ばし、神人の攻撃さえも寄せ付けず、懐に潜り込んでは痛烈な一撃を叩き込んでいく。

 ファリアも、ただ戦況を見ているだけではない。銀蒼天馬騎士団の弓騎士とともに敵軍への攻撃を仕掛け、特に神人を牽制、あるいは撃破を率先して狙っていた。

 ネア・ガンディア軍の兵数は、帝国軍が想定した一万を大きく下回る総勢六千程度であり、兵力においては同盟軍が圧倒的に上回っていた。だが、物量がものをいうのは、戦力が拮抗しているか、多少下回る程度でなければならず、個々の実力において天と地ほどの差が存在する場合、数の上での有利などほとんど意味を成さないのだ。ネア・ガンディア軍は、末端の兵士に至るまで召喚武装による攻撃にさえも反応し、ときにはかわすほどの動きを見せており、その実力は常人とは比較にならないものだった。そこに多数の神人が加われば、武装召喚師でも召喚武装使いでもない常人が大半を占める同盟軍が戦力的に不利になるのは、必然でしかなかった。

 ファリアは、オーロラストームで優先的に神人を攻撃し、敵軍の勢いを削ごうとするものの、勢いが減るどころか、時間とともに増す一方だった。シーラや銀蒼天馬騎士団の武装召喚師たち、召喚武装使いたちが最前線で勇奮しているが、それもいつまで持つものかどうか。

 戦闘が始まったばかりだというのに、戦場の勢いはネア・ガンディア軍に傾きかけている。

 それもそうだろう。

 ファリアは、オーロラストーム・クリスタルビットによって、肉薄した神人の腕を弾き返しながら、背筋が凍りつくような寒気を覚えていた。ついさっきまで、開戦まで感じなかったはずの不安が突如として増大してきたかと想うと、彼女の心を蝕み、思考さえも狂わせていく。なにがそこまで自分を不安にさせるのか。ファリアはわけもわからないまま、大地を蹴り、跳躍した神人の胴体目掛けて無数の結晶体を発射した。雷光を帯びた結晶体は、神人の分厚い外皮を貫くと、そのまま体内で強烈な電熱を発して、再生する肉体を粉々に打ち砕いていく。そこへ味方の放った矢が、ちょうど露出した“核”を貫いた。神人の肉体が見事崩壊するが、ファリアの気分は晴れなかった。

 同盟軍の最前線に後続の部隊がつぎつぎと到着し、戦線に加わっていくものの、それだけで状況が好転するような状況にはなかった。むしろ、ネア・ガンディア軍の戦線もまた増強されており、さらに増える神人の数を目の当たりにすれば、絶望感が増大していくのみだった。

 不利が、圧倒的に不利に変わっただけのことだ。

 それでも最前線では、シーラが気炎を吐いている。まるで二年以上もの間眠り続けていたとは思えないほどの身体能力は、彼女がいった通り、ハートオブビーストが彼女を護ってくれていたからだろう。

 そして、そのハートオブビーストが守り抜いたのがこのザルワーンの大地であり、ファリアたちは、ハートオブビーストに変わってこの大地を護らなければならなかった。

 でなければ、ログナーに向かったミリュウたちに顔向けができない。

 戦力的には、こちらのほうが遥かに潤沢なのだ。

 一万以上の一般兵、総勢十五名の武装召喚師、数名の召喚武装使い。普通に考えれば、十分すぎるほどの戦力といえる。

 それに比べ、ログナーに向かったのは、ミリュウ、レム、エリナ、ダルクスの四名とマユリ神だけに過ぎない。無論、マユリ神がいるだけ、あちらのほうが戦力的には上ではあるのだが、ログナーの状況がわからない以上、比べるものではあるまい。

 なんにせよ、こちらのほうが兵力的にも戦力的にも整っているといえるのだから、心配するべきはログナー組のほうだろう。

(本当に?)

 ファリアは、ふとした疑問に囚われ、弓を構えたまま敵を見失った。

「ファリア殿!」

 名を叫ばれ、気がついたときには、頭上に異形の翼を広げた神人の姿があった。巨大な拳が振り上げられている。落下とともに叩きつけてくるつもりだろう。神人の背後の空の青さに想わず見惚れたのは、きっと、疑問に心を奪われていたからだ。神人がなにごとかを吼えた。拳がさらに肥大した。ファリアを逃さないように、だろう。しかし。

「やらせねえっ!」

 鋭い雄叫びとともに飛来した閃光が神人の上半身を消し飛ばした――かに見えたが、実際には、シーラが凄まじい速度で飛びかかったことにより、神人の上半身が消し飛んだようだった。そのまま、シーラが空中で斧槍を振り回し、神人の下半身をでたらめに切り刻む。神人の肉体が泡のように弾けて消えたのは、ちょうど“核”を切り裂いたからだ。

 シーラが着地するなり、ファリアに詰め寄ってきた。戦場で気が立っているのだろうが、あまりにも険しい表情は、彼女にはめずらしいものだ。

「なにぼーっとしてんだよ!」

「え、ああ……ごめんなさい。ちょっと、気になることがあって」

「そんなのはあとにしろっての! 戦場だぞ!」

 シーラの怒りはもっともであり、反論の余地などないのだが、しかし、ファリアにはどうしてもいわなければならないことがあった。不意に胸の中を席巻している正体不明の不安について、言及しなければならない。

「でも、おかしいのよ」

「あん?」

「わたしはどうして、ログナー組のほうが不安なのかしら」

「……そりゃあログナー組のほうが戦力的に……って、あれ?」

「ね? 変でしょ。戦力的に圧倒的に不安なのは、こちらのほうよ」

 空を仰ぐ。

 ネア・ガンディアの超巨大方舟が音もなくそこに浮かんでいる。十二対二十四枚の光の翼を広げて、神の使いの如く、天から戦場を睥睨しているのだ。そこにはきっと、ネア・ガンディアに与する神が乗っていて、いつ戦場に乗り込むか、その機会を伺っているに違いない。

「だってこちらには、神に対抗する手段なんてないんだもの」

 ログナー組には、マユリ神という最上級の切り札がある。

 だが、こちらには、神への対抗策がひとつもなかった。

 ならばなにを勝算にこの戦いを起こし、挑んだのか。

 敗北し、滅ぼされるための戦いだとでもいうのか。

 ファリアは、シーラの愕然とした表情を見つめながら、自分もまた、蒼白になっているのだろうと想った。



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