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第二千百九十七話 空中戦(二)


「待たせたわね、マユリん」

 ミリュウは、機関室に飛び込むなり、脇目も振らず女神の目の前まで駆け寄った。マユリ神は、機関室の中心に備え付けられた水晶球の上に、いつものように鎮座している。ミリュウの姿を目視するなり、女神は多少、安堵したような表情をしてみせた。

「状況は?」

「ネア・ガンディアの方舟はエンジュール上空よりこちらに向かって移動を開始している。が、その速度は微々たるものだ。このままでは、接触するには一時間以上はかかるだろう」

「確か、あちらの方舟は、こちらの方舟よりも随分と大きいのでございましたね。ですから、遅いのでしょうか?」

 とは、レムだ。彼女も、ミリュウとともに機関室に移動してきていた。ちなみに、エインを始めとする客人たちの相手はエリナとダルクスに任せている。エインたちにとってはなにがなんだかわからないことだらけだろうが、いまは我慢してもらうよりほかはない。

 こちらとしては、エインたちから得られた情報は、有用なものもなくはなかったが。

 彼らの話によれば、敵戦力はウェゼルニルただひとりなのだという。無論、方舟を利用しているということは、方舟の動力となる神が同行しているはずであり、ウェゼルニルひとりではないことは明白なのだが、エインたちはその事実を知らなかったのだから仕方がない。

 ともかく、ログナー方面への攻撃には、現在のところ、ウェゼルニルひとりしか投入されていないということであり、それが全戦力である可能性は極めて低い。最低でも神が控えている。ウェゼルニル単独でもとんでもない強さだという話も聞いていて、皇魔が束になっても敵わない相手だということだ。神の加護を得ているのは間違いないだろう。

 それほどの敵と戦うのだ。

 場合によっては、エインたちに協力を仰がなければならないかもしれないが、極力、この船の戦力でどうにかしたい、と、ミリュウは考えていた。

「いや、そうではあるまい。こちらの出方を伺っているのだ」

「なるほど。だったら、見せつけてやりましょ。相手のお望み通りね」

 ミリュウは、視線を巡らせ、機関室の壁面に展開された光の映写幕を確認した。マユリの御業というよりは、方舟の機能であるらしいそれらには、方舟周辺の風景が映し出されていれば、周辺の地図も映像化されていた。

「どうする?」

「最大速度で接近後、神威砲を叩き込んでやるのよ」

「構わんが……効くとも思えんぞ」

「いいのよ。まずは、こっちの神様がどれだけ凄いのか、見せつけてやるの。格の違いをね」

「まったく……ミリュウはわたしを少々買いかぶり過ぎではないか?」

 そういう女神の声は、多少、弾んでいるように聞こえたのは、決して気の所為などではあるまい。ミリュウは、そんな女神に対し、真剣そのものの眼差しを向けて、告げた。

「信じてるもの」

「……では、征くぞ」

 マユリ神は、眩しいものでも見るように目を細めた後、そう告げた。

 

「あれが報告にあった、竜に奪われったていう飛翔船か」

 そして、セツナ=カミヤに与する神の乗る船でもあるということをウェゼルニルは、ザルワーン侵攻中のミズトリスからの報告で知っている。セツナがリョハンを護るべく現れたのを目の当たりにしているのだ。リョハンに味方した竜属からリョハンに渡っただろう飛翔船がセツナに預けられたという可能性は極めて高い。リョハンの戦女神ファリア=アスラリアは、ガンディア時代のセツナの部下であり、恋仲の相手だったはずだ。なにより、飛翔船を有効活用しようというのであれば、もっとも強大な力を持つ人物に預けるのが一番だろう。それは、容易に動かすことのできないリョハンの人間ではなく、外部の、自由に世界を飛び回ることのできる人物であるべきだ。

 セツナが、飛翔船を活用して世界中を飛び回り、ウェゼルニルたちの敵として立ちはだかるだろうということはわかりきっていたことでもある。

「奪われた……ねー」

「なんだ? なにか疑問でもあるのか?」

「いやいや。別になんとも想っていないよ」

 ハストスは冷笑を浮かべてきたが、ウェゼルニルは、少年神の反応については深く考えないことにしていた。どうせ、ろくでもないことを邪推しているに違いないのだ。

「で、どうするの?」

「どうするもこうするもねえだろ」

 ハストスの質問は、従属神として当然のものだったが、ウェゼルニルは吐き捨てるように告げた。

「全力でもって叩き潰し、ネア・ガンディアの、神皇陛下の威光を遍く示すのだ」

 相手の飛翔船は参型の一隻で、ゼイブブラスと命名されている。

 ウェゼルニルが駆る弐型飛翔船フィアレルとは、船体の規模も飛翔翼の数も大きく異なり、積載量など比較のしようもない。推力も比較しようがないほどの差があり、当然、弐型飛翔船のほうが速く飛行することができる。積載した兵装も、弐型と参型では比べ物にならない。すべてにおいて、弐型は参型を圧倒しており、正面からぶつかりあえばこちらが勝つのは明白だ。

「はいはい、わかったよ。相手もそのつもりみたいだし」

「動いたか」

「最大速度でこちらに接近中」

 前方を見遣ると、虚空に張り巡らされた映写光幕に映し出された蒼空を凄まじい速度で突き進んでくる一隻の飛翔船の姿があった。十二枚の光の翼を広げたそれは、まさしく参型飛翔船であり、形状もセイブブラスそのものだ。そして全面に神威による障壁を展開したまま突っ込んでくるその様は、さながら死兵の如くであり、その勢いのままフィアレルに突貫し、フィアレルを轟沈させるつもりのように見えた。

「神威砲で撃ち落としてやれ」

「りょーかい」

 ハストスの返事とともに映写光幕が白く塗り潰された。船首に備え付けられた砲塔から解き放たれた神威が、一条の光芒となってフィアレルの前方を焼き尽くしたのだ。それも一瞬ではない。かなりの時間、映写光幕は白く染まったままであり、ハストスが凄まじい威力の神威砲を発射したことがわかった。それも瞬時に発射したことから、いつ命令が下ってもいいように準備していたようだ。

「へえ……中々やるね」

「どうした?」

「障壁を貫けなかったよ」

 ハストスが、極めてあっさりと告げてきた。

「結構本気だったんだけど」

「ほう」

 ウェゼルニルが目を細めたつぎの瞬間だった。

 凄まじい衝撃がフィアレルを襲い、ウェゼルニルは床から足が離れるのを認めた。そのまま転倒するのを体を捻って回避しながら、映写光幕を見遣る。濛々と立ち込める爆煙を貫くようにして敵飛翔船の船首が現れ、そのまま突っ込んでくる瞬間を目の当たりにする。開放された船首には、神威砲の砲塔が覗いている。砲口に光が満ちた。神々しくも破壊的な光が映写光幕を埋め尽くす。再び、衝撃。今度は、先程よりも何倍も強烈なものであり、ウェゼルニルもその場に転倒せざるを得なかった。

 その際、同調機の上を見れば、少年神が明らかに焦った表情をしていた。

「ハストス!」

「わかってる! でも、これは……」

 ハストスが冷静な態度を崩すのは極めて珍しいことであり、ウェゼルニルは、嫌な予感を覚えた。そしてそういう予感ほど当たるということも、彼は知っている。

「これは……なんだ?」

「……これほどの力を持った神が野に隠れていたっていうの……?」

「あん?」

「敵飛翔船を操縦している神のことだよ」

「ハストス、それはつまり、あなたより格上ってことか?」

「認めるしかないね」

 ハストスは、皮肉屋の表情をついには自分自身にまで向けて、嘲笑った。三度目の衝撃が波動となって船体を貫き、連鎖的な爆発音と衝撃がウェゼルニルの鼓膜を震わせた。

 


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