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第二千百八十五話 マルウェール神人戦(一)


 神人の双眸が瞬いた。

 馬を急停止させる。目の前の地面に光線が走り、つぎの瞬間、連鎖的な爆発が巻き起こり、光の壁の如く立ち上った。馬が嘶き、棹立ちになるのを宥めながら、爆光の彼方から急速接近する無数の殺気を感じる。セツナは咄嗟に手綱を手放すと、その手でファリアの腰を抱えるなり馬から飛び離れた。光の壁を貫き、複数の神人が飛び込んできたのは、その直後だった。完全に白化した神人の姿には、人間だった頃の面影はない。神人がその背中から伸ばした触手のような器官で、セツナたちが乗っていた馬を串刺しにすると、馬は、悲鳴を上げる間もなく爆発した。閃光の中に肉片が混じるのを認める。歯噛みする。一瞬の判断の遅れが命取りとなる。それが高強度の神人との戦いだ。

 ファリアがセツナの腕の中でオーロラストームを掲げた。中空、オーロラストームが雷鳴を轟かせると、閃光の嵐が巻き起こって複数体の神人を飲みこんだ。着地と同時にファリアを開放し、シーラが馬より飛び降りるのを視界の端で確認する。そこへ神人の肥大化した腕が叩きつけられ、馬が一瞬にして潰された。ハートオブビーストが閃き、神人の腕を切り裂く。が、瞬時に再生し、さらに触手が伸びてシーラへ殺到する。そこへ光の矢が飛来し、触手を吹き飛ばす。銀蒼天馬騎士団の武装召喚師だろう。

 セツナは、透かさず黒き矛を構えると、目の前の神人に飛びかかった。ファリアが雷撃を叩き込んだ神人は半壊した肉体の再生を行っている最中だった。反応し、反撃に移ろうとした神人の首を切り離し、さらに胴体を滅多切りにする。それでも再生を続ける神人に対し、セツナは別の手段を用いるべく口早に呪文を唱えた。

「武装召喚」

 右手の矛で別の神人の攻撃を捌きながら、瞬時に具現化した別の召喚武装を左手に掴み取る。冷ややかな感触とともにわかる重量とその巨大さは、彼の望み通り、アックスオブアンビションが召喚されたことを示している。即座に大斧を振りかぶり、目の前の神人に叩きつける。神人は、攻撃を避けない。その生命力、再生能力の高さ故か、危機回避能力が極めて鈍重になっているのだろう。人間ならば、ほかの生物ならば確実に回避行動を取ろうという攻撃に対しても、神人は受けて立とうとする。それでどうにかなるのが神人なのだが、しかし、圧倒的な破壊力に対しては、その過信が――いや、神人故の特性が仇となる。

 アックスオブアンビションは、広範囲を圧砕する能力を持つ。

 黒き矛の“破壊光線”も、直撃地点から一定の範囲に破壊を撒き散らすが、消耗の度合いでいえばアックスオブアンビションの普通の攻撃のほうが遥かに低い。黒き矛と同時併用しても軽いくらいだった。故にセツナはアックスオブアンビションを召喚し、叩きつけたのだ。その瞬間、広範囲圧砕が発動し、神人の肉体が粉々に破壊された。“核”が露出する。光の矢が“核”に突き刺さり、再生を始めんとした神人の肉体が脆くも崩れさった。光の矢の使い手が何者なのか、確認するまでもない。好機を逃さぬ凄腕には唸らざるをえないが、味方なのだ。いまは、その腕前に甘えればいい。

 周囲、戦闘は一瞬にして激化していた。

 マルウェールの廃墟から飛び出してきた神人が戦線を形成し、同盟軍の前線部隊を激突したからだ。神人は、セツナたちが撃破した一体以外にも、複数体が既に撃破されている。しかし、高強度の神人だけあってどれもこれも強敵であり、中でも後方に控える超大型は、マルウェール付近から動かず、遠距離攻撃に徹しており、難敵という以外にはなかった。放っておけば、被害が拡大する一方だ。既に超大型神人による攻撃で何十人もの味方がやられている。

「ここは任せた」

「任されたわ」

 頼もしいファリアの返事を聞いて、セツナはにやりとした。リョハンの戦女神として二度に渡る防衛戦を潜り抜けてきた彼女には、指導者としての風格がある。彼女にならば、任せきっても構うまい。とはいえ、なにもせず、すべてを投げっぱなしにするのも問題だ、といわんばかりに、セツナは、アックスアンビションを神人の群れの真っ只中で叩きつけた。広範囲破壊が複数体の神人の肉体を半壊させる。そこへファリアのオーロラストームが追撃を浴びせ、いくつかの“核”を露出させた。あとは確認するまでもない。

 セツナは地を蹴り、飛んだ。送還と召喚。アックスオブアンビションを戻し、代わりにメイルオブドーターを召喚する。召喚と同時に広げた翅を虚空に叩きつけ、急加速する。数体の神人がセツナを追い、また、敵陣後方の神人のいくつかがセツナに反応した。神人の掲げた手の先に光が収束する。放たれるのは無数の光弾。セツナはそれらを急上昇することで回避しつつ、後方への流れ弾を防いだ。水平に回避すれば、間違いなく味方が被弾することになる。

 乱射される光弾を軽々と回避しながら、超大型神人がこちらに反応を示したのを確認する。異形化した頭部がセツナのいる上空に向いたのだ。天を衝くほどというのは言い過ぎにせよ、グリフに匹敵するほどの巨体を誇るそれは、しかしながら、グリフとは異なる鈍重な動きを見せている。その点、グリフとはまったく違うといっていいだろう。グリフは、その巨躯からは想像もできないほどの戦闘速度を誇るのだ。

 とはいえ、その破壊力は、グリフにも引けをとらないのは、先の爆発光線でわかっている。セツナは、超大型神人の双眸に光が灯るのを認めると、メイルオブドーターを加速させながら、左右に大きく揺れ動いた。光弾の弾幕を掻い潜りながら、さらに長時間持続する爆発光線をかわしていく。凄まじい熱量に汗が吹き出すが、構うことはない。そうして弾幕を抜け切ると、つぎは無数の触手が眼前を覆わんばかりに展開した。まるで純白の網だった。高速飛行するのであれば、拘束し、動きを封じればいい、というのだろう。神人にしては考えたほうだが、それくらい、セツナだって想定している。黒き矛の切っ先を向け、“破壊光線”を発射する。穂先が白く膨張したかの如き光の奔流が触手の網を突き破り、そのまま、超大型神人の肩口に突き刺さり、爆裂する。普通なら上半身が消し飛ぶほどの破壊力も、超大型神人の前には、肩が破壊される程度に留まり、それも瞬時に復元してしまうのだから堪ったものではない。

 神人の強度というのは、基本的にその質量に応じると考えていいようだ。つまり、大きければ大きいほど強いという単純さであり、超大型神人は、その大きさに見合うだけの強度があるということになる。

(だからなんだってんだ)

 セツナは、超大型神人の視線を逃れるように曲線を描き、そのまま喉元に切っ先を叩きつけた。セツナに殺到する神人の触手を無視し、切っ先が喉元をえぐった状態で、再び、“破壊光線”を発射する。今度は、先程よりも高威力、高密度の“破壊光線”であり、その破壊は、先程の比ではない。爆圧が反動でセツナの体を吹き飛ばすほどだ。超大型神人の上半身が消し飛び、無数の触手もその爆発の余波に飲まれて灼かれていく。そこで、セツナの攻勢は終わらない。爆発光の中に無傷の“核”を見出したときには、虚空を蹴るようにして飛び出し、“核”へと殺到していた。矛を振り下ろし、“核”を切り裂く。圧倒的質量を誇る超大型神人といえど、“核”を破壊されれば、どうしようもない。無限の再生力を失った巨躯は、氷が溶けるよりも早く消えてなくなる。

 神人の群れに動揺が走った。

 どうやら、超大型神人は、神人たちにとって指揮官のような立ち位置にあったようだ。神人の詳細については、わかっていない。マリクの話によれば、神化したものは、それ以前の生物とはまったく別種の存在へと変容するということであり、人間であれば、人間だったころの記憶や人格を失うという。しかし、神人そのものが思考するかどうかについては、聞いていなかった。もしかすると、神人にも思考する能力があるかもしれず、そのため、超大型巨人が指揮官としてマルウェールの神人たちを統制していたのではないか。

 だとすれば、神人たちがマルウェールを離れなかったのは、超大型神人の命令によるものなのだろうか。

 無論、そうではなく、ネア・ガンディアの神がそう命じたから、動かなかったという可能性のほうが遥かに高い。

 神人が思考しようができまいが、神に操られる尖兵であることに変わりはないのだ。

 超大型神人が消えたことによる動揺が瞬く間に消え去ったことからも、それが伺える。神人たちは、すぐさま思考を切り替えたようだった。セツナの周囲の神人は、ただ、その力をセツナに集中させた。

 超大型新人は撃破した。

 しかし、マルウェールの神人は、殲滅できたわけではない。

 戦いは、これからが本番だ。


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