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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第二千九十五話 出発前夜(一)


 山道を進むよりずっと早く空中都に辿り着いたセツナは、ミリュウとともに挨拶をして回った。

 護峰侍団本部では隊長格、団長に会い、議事堂では護山会議の議員たちと言葉を交わした。当然、アレクセイ=バルディッシュにも直接会って少しばかり話し込んだ。

 護峰侍団の隊長格の多くはセツナに対して素っ気なかったが、一部は、セツナがリョハンに長期的に滞在することを熱望し、出発の取り止めを直接訴えてくるほどだった。そもそも、セツナと護峰侍団の関わりというのは極めて薄い。セツナは、第二次防衛戦で初めてリョハンに貢献し、ミリュウ隊の捜索にも尽力したとはいえ、護峰侍団から見れば、突如現れた人物という域を出ないだろう。無論、セツナが第二次防衛戦の要となったことは認めてくれているし、そのことについては多大な、それこそ言葉では言い表せないほどの感謝を持ってくれているようだ。

 とはいえ、セツナのリョハンに引き止めておきたいと考えるほどの人物は少ない。いや、引き止められると思えないから、行動に移さなかった、というべきなのかもしれない。先もいったようにセツナと護峰侍団の関わりは極めて薄い。二年以上に渡ってリョハンで生活し、団員たちと関わりのあったミリュウやエリナならばともかく、ついこの間、降って湧いたように現れ、護峰侍団とは無縁の日々を送っていたセツナには、護峰侍団の団員や隊長たちと関わり、親交を深める機会さえなかった。

 そんな関わりの薄い相手をどうやって引き止めるというのか。

 隊長格の多くが諦めに似た想いでセツナを見送るのも必然だったし、一部の隊長たちがそれでも健気なまでのリョハンへの想いを伝え、セツナを引き止めることに必死になったのもわからないではなかった。

 リョハンの防衛面に於いて、セツナがこの地に滞在し続けることほど心強いことはあるまい。

 セツナは、窮地劣勢に立たされたリョハンをたったひとりで救って見せたのだ。

 まったくといっていいほど関わることがなかったとはいえ、戦力としてのセツナの有用性、重要性を理解できないほど、護峰侍団も愚かな組織ではない。理解し、認識していても、引き止めることはできそうにないから、感謝の言葉だけを伝えてきたのだ。それでも諦めきれない一部の隊長たちは、必死にセツナの説得にあたったが、セツナの考えが変わることはなかった。

 セツナとしては、彼らの望みを叶えてやりたいとは想っているし、いつかリョハンに戻ってくるつもりではいた。だが、いますぐは無理だった。まずは、つぎの目的を果たさなければならないし、その目的であるところの帝国との約束を果たしたとしても、即座にはリョハンに戻ってくるつもりはなかった。

 ひとを探さなければならない。

 あの日、世界はばらばらに引き裂かれた。

 それと同じようにして、セツナは、仲間と散り散りになった。

 その仲間を探したいと考えている。

 ただし、皆が生きているとは限らない。最終戦争、それに“大破壊”がなにもかもを飲み込んでしまった。なにもかもを打ち砕いてしまった。失われた命もあるだろう。もう二度と、元に戻ることはあるまい。それを理解した上で、それでも、セツナは皆を探したいと想っていたし、無事を確認しておきたかった。

 それが、前に進むための力になるのだから。

 護峰侍団の隊長たちといつかの再会を約束したのち、議事堂では護山会議の議員たち総出の説得攻勢が待ち受けていた。護峰侍団の隊長格の多くが説得を諦めたのとはまったく逆といっていいくらい、議員たちは、熱烈なまでにセツナをリョハンに引き留めるべく、大攻勢に出てきたのだ。無論、言葉による説得だったが、土地や金品、地位でセツナを釣ろうとするまでに至った。セツナは当初、議員たちの猛烈なまでの熱量に気圧され、唖然としたものだ。

 彼らがなぜそこまでしてセツナをリョハンに引き止めたいのか、については、護峰侍団の隊長たちと同じ理由だ。

 リョハン防衛の要として期待できるからだ。

 セツナひとりいれば、神軍がどれだけの戦力を投入してきたとしても切り抜けられる、と、だれもが信じているようだった。

(まるで信仰だな)

 と、セツナは、熱烈な議員たちの説得攻勢の中で思わずにはいられなかった。だが、それも致し方のないことだろう。リョハンが絶望的な状況を脱したのは、すべてセツナのおかげであると戦女神が宣言し、リョハン市民に知らしめたのだ。リョハンのひとびとは、戦女神を本当の神以上の存在として崇敬している。彼らが戦女神の言葉を疑うはずもなく、市民にとって、セツナは英雄そのものとなっていた。

 護山会議の議員たちは、そういった一般市民よりは実態を知り、冷静に認識しているようだったが、それでも、第二次防衛戦におけるセツナの活躍は、だれにも真似のできないものであるという事実に違いはない。セツナがたったひとりで神軍の女神を圧倒し、総撤退のきっかけを作ったことは、ファリアのみならず、マリク神も認め、戦場にいた護峰侍団の幹部、団員、またリョハンの防衛に当たっていたひとびとまでもが目の当たりにしたことなのだ。

 議員たちがその実態を知り、セツナをリョハン防衛の要にしたいと考えるのは、当然の帰結といっていい。そして、政治を司る議員のほうが軍事を司る護峰侍団よりも、説得交渉に熱烈なのもまた、当たり前のことなのかもしれない。

 セツナが後味の悪さを感じるほどの説得攻勢だったものの、彼は、自分の目的を優先した。もちろん、神軍がもし、リョハンを三度侵攻するようなことがあれば、そのときは、方舟を用いるなり、完全武装を用いるなりして駆けつけるつもりでいたし、リョハンを見捨てる気はさらさらない。

 というようなことをいうと、議員たちはようやく安堵したようだった。

 第二次防衛戦においても、セツナは、どこからともなく現れ、戦線に参加しているのだ。セツナがどれだけリョハンから離れたとしても、必ずや駆けつけると約束すれば、安心もしよう。

 ようやく説得攻勢を乗り切ったところで、アレクセイと少しばかり話をした。

「護山義侍殿には、随分と済まないことをしたようですが、彼らにも悪気があったわけではないのです。どうか、平にご容赦を」

 アレクセイは、彼の執務室にセツナを通すなり、開口一番、頭を下げてきた。彼自身は説得攻勢に加わっておらず、議事堂を揺るがすほどの大攻勢に耳をそばだてていたようだ。

「いえ、謝られるほどのことじゃないですよ。皆さん、リョハンのことを真剣に考えているからこそでしょうし」

「そういっていただけると、助かります」

「でもでも、いくらなんでもひとに頼りすぎよ」

「わたしも含め、議員には力がない。他人に頼るしか能がなく、それだけでこの空中都市を運営してきた。それでいい、とは言い切りませんが、力だけがすべてでもありますまい」

「それは……そうだけど……でも」

「ミリュウ殿がおっしゃりたいことは、よくわかっているつもりです。彼らも戦女神にばかり負担をかけるような、そのような方針は改める必要があると考え、日々、話し合っている最中なのです」

 アレクセイが難しい顔をしたのは、そのことがいかに困難であるかを物語っていた。

「形になった構造を変えようとするのは、簡単なことではない。ましてや、リョハンはこの数十年で戦女神を中心とする楽園にしてしまった。戦女神以前のリョハンを知るものの方が少ないくらいです。戦女神への信仰は有って当然のものでありますし、戦女神を信じることで心の平穏が訪れるとだれもが想っている」

「それじゃあ、駄目なんですか?」

「駄目よ」

 ミリュウが即座に否定してきて、セツナは、彼女を見た。眉根を寄せた彼女の真剣なまなざしに、気圧される。

「ファリアは、人間なのよ」

 ミリュウが、静かにいった。

「ファリアが戦女神として立派にやっていることは、認めるわ。清く正しく美しい、まさに女神のようなひとだもの。あのひと以上の女神様なんてどこにもいないでしょうね。でも、ファリアがどれだけ戦女神をやったところで、人間は人間なのよ。神のように奇跡を起こすことはできないし、なんでもできるわけじゃない。命にだって限りがある」

 神は、信仰がある限り、無限に長く生き続ける、という。永久に近く、不滅であり続けるという。信仰が続く限り。故に神々は信仰を求める。故に、本来在るべき世界に帰りたがっている。信徒の元に。信仰の根源に。神々が聖皇復活を望んだ最大の要因がそこにあるのだ。

 だが、ミリュウもいったように、ファリアは、そうではない。

 ファリアは、ただの人間だ。特別な力などなにひとつ持たない、ありふれた人間のひとりに過ぎない。武装召喚術は、学べば皇魔でさえ使える技術であり、特異な力ではないのだ。信仰によって、無限の生命力と奇跡を起こすほどの力を得られるはずもない。

「まさにその通り。リョハンは、このままでは戦女神様に、あの子に並々ならぬ負担を強い続けることになるでしょう。されど、あの子は、そのような負担を負担とは思わず、不満も漏らさないでしょう。頑固者ですから。戦女神を自分の使命、責務として認識している以上、やり遂げようとするでしょう」

「それがファリアのいいところもあるし、悪いところでもあるわね」

「……ああ」

「ですから、あの子への負担を減らせる構造に作り変えなければなりません。それは簡単な話ではありませんし、一朝一夕にできることでもありません。気長に、少しずつ、変えていくしかないのです」

「ま、それならいいんじゃない。負担が少しでも減るなら、ファリアもきっと、戦女神をやり通せるわよ」

「そうだな」

 ファリアならば、そうだろう。

 セツナは、ミリュウと自分のファリア像が大きく差がないことに少しばかり安堵した。が、よくよく考えれば当たり前のことであるとも想った。ミリュウとセツナのファリアに対する視点というのは、極めて近い。それもそのはずで、ミリュウは、セツナの記憶に多大な影響を受けた状態で、ファリアと知り合ったからだ。彼女のファリアを見る目というのは、セツナの彼女への心証に基いている。

 セツナとミリュウのファリアへの評価が近いのは、必然だということだ。

 そのあとも、しばらくアレクセイと他愛のない話を続けた。

 アレクセイは、セツナを引き留めようとはしなかった。

 むしろ、後押しさえしてくれたのだ。



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