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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第千九百六十五話 希望


 守護神マリクとの会見を終えたセツナは、確かな満足感の中、空中都監視塔を後にした。

 マリクとの会見は、セツナに様々な情報をもたらしたのだ。

 ひとつは、呪いに関すること。神がひとと呪えば、神もまた呪われ、神ならざるものへと変わり果てるという新事実は、アシュトラがもはや恐るべき存在ではなくなったということを示している。無論、神ならざる存在へと堕ちたいまもなおセツナを恨みがましく思い、いずれまた、襲い掛かってくることがあるかもしれないが、神ではないのだ。以前ほどの脅威はあるまい。神の時代ですら、黒き矛とメイルオブドーターで対応できた相手だ。神軍の女神よりも弱かったといってよく、神の力を失ったいまとなっては脅威にすらならないのではないか。

 呪いそのもののことは、よくわからなかった。 

 呪いの影響も千差万別であるというし、セツナの歩みを止めるほどの効力があるものかもわからない。もしかすると、かけそこねた可能性だってある。その場合、アシュトラは神のままだろうが、だとしても女神ほどの脅威ではないのだから、気にすることではない。

 リョハンの置かれている状況についても、聞いた。

 ラムレス率いるドラゴン属との関係や、周辺の都市との関係についてだ。ラムレスは、ユフィーリアのこともあってリョハンに協力的というが、ユフィーリアがなぜファリアにそこまで協力的なのかについては、仲がいいからだということしか教わらなかった。ユフィーリアとファリアが仲良くなった理由については、マリクもよく知らないという。

 ファリアの二代目戦女神への就任や、七大天侍の結成などについてもつぶさに聞いた。

 ミリュウがエリナや部下とともに消息を絶った件についても。

『ミリュウのことは、済まないと想っている』

 と、マリクは申し訳なさそうにいってきたものだが、彼が悪いわけではあるまい。リョハンの周辺調査は、七大天侍に与えられた任務であり、ミリュウはその任務に従事する中でなにか事件に遭遇し、巻き込まれたのだ。責任の所在がマリクであるはずもなかった。

 マリクにも、ミリュウがどのような状況にあるのか把握できておらず、皆目見当もつかないのだという。消息を絶って以来、途切れることなく捜索部隊を手配しているものの、成果はあがっていないとのことだった。

 セツナは、状況が落ち着き次第、ミリュウたちの捜索に乗り出すことを告げると、マリクはリョハンも総出で彼女たちの捜索に当たるといってくれた。リョハンにとっても、七大天侍のひとりであるミリュウは大切な人物だということだ。なんとしてでも見つけ出し、確保しなければなるまい。

 リョハンが、第二次防衛戦以降、安定し、平穏な日々を取り戻しているということも聞いた。それについては、御陵屋敷での療養中にも散々聞いたことであり、道中、この目で確かめたことではあるが、リョハン全体を知るマリクから改めて知らされると、セツナも命を張った甲斐があるものだと思わずにはいられなかった。

 散々、マリクから感謝を述べられたため、セツナは照れくさくてかなわなかった。セツナは、だれかに感謝されるためにリョハンを救ったわけではない。そんな風にいうと、マリクはただ笑った。

『理由がなんであれ、セツナがリョハンを守ってくれた事実に違いはないよ。だから、何度だって感謝するんだ。ありがとう』

 マリクにとって、リョハンがいかに大切な場所なのか、痛感するほどの感謝ぶりだった。

 それもそうだろう。でなければ、神に戻りながら、この場に留まり、護り続けようなどとはすまい。神なのだ。強大な力を持ち、自由自儘に動き回ることだってできたはずだ。セツナがこれまで遭遇してきた神々のように、あるがまま、思うがままに力を振るうこともできただろう。

 彼は、そうしなかった。

 リョハンの守護神として、在り続けている。

『それがぼくだからね』

 彼は、透明なまなざしをセツナに向けたものだ。

『この世には数多の神々がいる。それこそ、数百ではくだらない数の神々が、数百年の昔、聖皇の手によって召喚されたんだ。ぼくは、そういった神々とは違う。ひとりの少女の切なる願いによって、この世界に辿り着いた。それが、ファリアなんだ』

『先代戦女神様か』

『うん。ぼくは、彼女の願いのまま、彼女を見守り続けた。そして、彼女の望むまま、彼女の話し相手となった。人間の肉体を得たのも、そのためさ。すべては、彼女だけの神様としてぼくがあったからだ』

『たったひとりだけのための神様……か』

『そうだよ。ぼくは、ファリアのためだけの神様だった』

 彼は、少しばかり照れくさそうにいった。

『そのファリアがぼくにリョハンを守ってほしいと願ったんだ。ぼくは、たったひとりの信者のために、この地の守護神となった。頼りない守護神かもしれないけれどね』

 彼は第二次防衛戦の有様を思い出したのか、自虐的にいってきたものだ。が、彼が守護神としてリョハンのひとびとに敬われ、尊重されていることは、セツナもよく理解している。レムが仕入れた情報や、御陵屋敷の使用人たちの話からも伝わってくるのだ。

 彼が守護神としてリョハンを護り続けているからこそ、平穏を享受できているという事実を、多くのリョハン市民は理解しているということだ。

 そのことを伝えると、マリクはまたしても照れくさそうにした。そういった彼の反応から、彼に人間くささが多分に残っていることがわかって、セツナはなんだか嬉しくなったものだ。神様になったからといって、人間時代のすべてを失うなど、悲しすぎる。

 神についても、わかったことがある。

 マリクがいったように、イルス・ヴァレに存在する神々というのは、そのほとんどが聖皇ミエンディア・レイグナス=ワーグラーンの召喚魔法によって、異世界から呼び出されたものたちだ。聖皇がなんのために神々を召喚したのかについては、マリクも知らないという。マリクは、皇神ではなく、かの神々についても詳しくはないのだ。

 ただ、皇神の大半がヴァシュタラとなってヴァシュタリアを、最大の力を持つ二柱は、それぞれ独自の勢力を作ったことについては、知っていたようだ。その目的については理解しておらず、最終戦争がなんのために引き起こされたのかも、想像の域を出なかったという。そして二年前、“大破壊”が起きた理由についても、彼は把握していなかった。まさか聖皇復活の儀式を推進するものたちと、それを阻止するものたちが激突したとは、想像もできなかったようだ。

 ただ、“大破壊”を契機として、神々は、まるで軛から解き放たれたように世界中に散ったことは把握している。故に世には神威が満ち、世界は毒されたのだと。

 白化症、神人症とでもいうべき症状や、結晶化現象がこの世界を侵し始めたのだ。白化症については、セツナもよく知っていることだが、結晶化については詳しくは知らなかった。どうやら植物や鉱物が神威に毒されると、人間や他の動物のように神化するのではなく、透明な結晶へと変化していくらしい。生物である植物にとっては明確な死であるそれが、なぜ、植物や鉱物のみに起こるのかは、わかっていない。ただ、神威という神以外の存在にとってある種の毒を浴びた結果起こりうる変容であり、一度起きた変容を止めることは神の力でもってしてもできないということは確かだという。

 白化症、結晶化のこれ以上の拡散、蔓延を止める方法はないのか、とセツナはマリクに問うた。マリクは、ない、とはいわなかった。

『すべての神々が神威の発散を最小限度に抑えれば、白化症を発症することも、結晶化が発生することもなくなるだろうね』

 とも、いった。

 しかし、彼は首を横に振るのだ。

『でも、それは現実的には不可能なことだ』

『どうして?』

『セツナ。君は、自分以外の、それこそ虫や植物のために呼吸するのを抑えて欲しいといわれて、納得できるかい?』

『そりゃあ……』

『無理だろう。自分とは無縁のものたちのために、そこまでする義理も道理もない。だれだってそう考えるし、それが当たり前のことだ』

『では、神威とは、神様にとっての呼吸と同じようなものなのでございます?』

 レムが尋ねると、マリクがうなずいた。

『そういうことだよ。神威とは、神の力そのもののことだ。神が神である限り、発し続けるもの。ぼくだって、いまも神威を発散している』

 彼はそういいながら、淡く輝く手を掲げた。まるでその輝きこそが神威だといわんばかりだったし、その神々しさは、神威と呼ぶに相応しいように思えた。

『そうなのか』

『ああ、でもだいじょうぶ。ぼくに触れるほどに近づいても、ぼくの神威が君たちの肉体を侵蝕することはないよ。最小限度に抑えているからね』

『つまり、呼吸を抑えている、と』

『正解』

 マリクがにこりとした。

『神威の発散は、人間や多くの生物にとっての呼吸と同じようなものなんだ。そればかりは、どうしようもない。ただ、周囲に影響を与えるほどに強い神威を発するかどうかは、神次第だ。ぼくのように抑えることだって不可能じゃない。そしてほとんどの神は、本来あるべき世界においては、信徒たちの手前、神威の発散を抑えているはずだ。神人化したものたちは、祈りを捧げることはないからね』

『じゃあ……』

 神々を説得することで、神威の増大を防ぐことができるのではないか。そんなセツナの意見に対し、マリクは冷ややかに告げてきた。

『だからこそさ。彼らにとって、この世界は自分たちの世界じゃあない。異世界が自分たちの神威に毒され、荒れ果てようと知ったことじゃあないんだよ。この世界に生きるものたちのため、なんていう頭があれば、世界を滅ぼさんとする聖皇を復活させようとはしないだろう』

 マリクの説明にセツナは返す言葉もなかった。確かにそのとおりだ。皇神たちがもし、この世界のひとびとのことを第一に考えてくれるようなら、

『ですが、この数百年は無事だったじゃありませんか? 白化症や結晶化など、聞いたこともありませんよ?』

『そう……なんだよね。そこがどうも引っかかるんだ』

 マリクが腕組みをした。難しい顔で、遠くを見やる。

『神威が満ち溢れたのは、“大破壊”と時を同じくしている。“大破壊”以前にも、神々はいた。当然のように神威を発していた。でも、神威がひとびとを毒するどころか、世界を侵蝕することはなかった。それは沈黙の歴史が証明している』

 沈黙の歴史とは、数百年に及ぶ三大勢力拮抗の時代のことだろう。三大勢力が神々によって作り上げられたものであり、神々が常に在ったことを考えると、神威に毒されたものがいないというのは、どうにも不自然だった。神人が発生する度、結晶化が発生する度、三大勢力がもみ消してきたとは、少々考えにくい。なにも、三大勢力の勢力圏内のみで発生するとは限らないのだ。

『つまり……解決策があるということか?』

『わからない。ただ、希望はあるということ』

『希望……』

 それがどのようなものかわからないが、もしかすると、この死へと向かう世界を救う手段があるかもしれないということがわかっただけでも、価値のあることだった。

 世界は、緩やかな死の中にある。

 神々の神威が世界を侵蝕し、生物、無生物に関わらず変容させているからだ。いずれ、だれもかれも神威に毒され、神の手のものへと成り果てたとき、すべてが結晶化したとき、この世界は終わるといってもいいだろう。

 そうなる前に、神威の拡散を防ぐ手段を見つけることができれば、状況を改善することもできるだろう。

 セツナの成すべきことがひとつ、増えた。

 だがそれは、この世界で生きるセツナにとっても重要なことであり、セツナは、なんとしてでもその手段を見つけ出さなければならなかった。このまま、世界が神々の力に毒され続けるのを見てみぬふりなどできるわけもない。

 自分自身のためではない。

 ファリアやミリュウ、レムや皆が生きていく世界のために、だ。

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