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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第千九百五十七話 英雄と戦女神(四)


 護山義侍。

 どうやら、第二次リョハン防衛戦(と呼ばれているらしい)におけるセツナの功績を高く評価した護山会議が、戦女神との協議の末、そのような勲章を新設したということのようだ。

 そして、セツナが目覚めた数日後である大陸歴五百六年三月十六日、勲章授与の式典が行われる運びとなった。既に第二次リョハン防衛戦における論功行賞および戦死者の慰霊式典は執り行われており、この度の式典では、セツナに新設の勲章を授与するためだけに行われるという話だ。

 なぜ十六日なのかというと、当然のことだが、セツナの体力の回復を待つためだった。セツナとしては翌日には動き回れる状態になっていたものの、リョハン側が慎重になり、エミルに何度となくセツナの体調を確認させた。

『無理をしたばかりなのですから、これくらい慎重な方がいいですよ』

 エミルのそんな気遣いに感謝しながらも、ほぼ万全の状態にまで回復している以上、部屋に閉じ込められているのも疲れるだけだと想ったりもした。とはいえ、エミルとの再会には喜びもひとしおだったし、彼女がいまも健気にルウファのことを想い、ルウファもまた彼女のことを愛していることを知ると、自分のことのように嬉しく想えたものだ。

 それから数日余りが経過して、ようやく医者から動き回っても構わないとの太鼓判を得たのが十五日のこと。その日のうちに護山会議に報され、すぐさま式典の準備が整えられたということだった。

 リョハンは、護山会議が政治を取り仕切っているということもあり、なにごとも動きが早いのだというが、それにしても早すぎる反応にはセツナも驚かざるを得なかった。ガンディアも動きは早い方だったが、リョハンほどではない。リョハンは一都市というのもあるのだろうが、それにしたって判断も早ければ、行動に移すのも迅速極まりない。この速さならば、大抵の問題にも即座に対応できるだろうし、市民も不満を抱かないだろう。良好な政治が行われているという証明にも想えた。

 エミルによって太鼓判を押された翌朝、セツナは、リョハン側が用意した礼服に身を包み、同じく式典用の衣装を着込んだレムとともに御陵屋敷を出た。御陵屋敷は、さながら小高い丘の上にある屋敷であることからそのような名称で呼ばれているとのことだ。確かに、空中都においてはほかよりも高い位置にあるようだった。もっとも、山頂に丘というのもおかしな話ではあるが。

 道中、護衛として護峰侍団の一番隊がついてくれている。セツナは不要だといったのだが――護衛ならばレムひとりで事足りるし、そもそもセツナに護衛などいらない――、護峰侍団は護山会議の命令であるといって聞かなかった。護山会議は、リョハンを救った英雄の身の安全を護らずして、なにが護峰侍団か、などといったらしい。そして、護峰侍団としてもそれはもっともだと想っているということだ。また、命令違反をすれば体調に迷惑がかかるという隊士たちの言葉には、反論の余地はない。セツナとて、一番隊の隊長とやらに迷惑をかけたいわけではないのだ。

 十人以上の武装召喚師に護られながら、空中都の市内を歩いて行く。行き先は、戦女神の御座す戦宮と呼ばれる建物だ。戦宮はリョハンの中心といっても過言ではない場所であり、戦女神の神殿ともいうべき場所だということだ。レムに聞いたところによれば、それはそれは寒い場所で、よくもそんなところで何年も生活できるものだとファリアを褒め称えるばかりだった。それだけではなにがなんだかわからなかったものの、戦宮に辿り着けば、疑問は氷解した。

 戦宮は、リョハン空中都の北側に位置している。御陵屋敷からはそれなりの距離を歩かなければならなかったが、セツナは自分の運動不足を解消するにはちょうどいい塩梅だと考えて、馬を用いなかった。リョハンは、三層構造の広い都市だ。移動には馬や馬車を用いることが普通であり、一般市民ですら愛用の馬を持っていることが多い。それもこの世界最高峰の峻険たるリョフ山を走り抜けることのできる馬ばかりであり、そういった馬に慣れたファリアが馬の扱いに長けていたのも、納得できるというものだ。

「空中都と山間市、山門街の行き来は結構あるってことか?」

「はい。山門街に住むものたちも、戦女神様をひと目見るため、よくよく空中都を訪れますし、空中都の住民は、寒さを凌ぐため、山間市に行くことも少なくありません」

 隊士のひとりがセツナの疑問に答えてくれる。

 リョハンは、空中都、山間市、山門街という三つの居住区を合わせて、ひとつの都市なのだ。それぞれに特徴があり、それぞれの住民は、それぞれの居住区を誇りに想っていたりする。そのことで意見がぶつかりあうことも少なくなく、時には激しい対立となったりもするようだが、多くの場合、戦女神が執り成し、事なきを得るという。戦女神は、リョハンには無くてはならない存在であるということが、その一事からも手に取るようにわかった。

 戦女神が不在の時期、リョハンは護山会議によって収められていた。それはそれで上手く回っていたというし、そのままなにごともなければ、まさに人間の時代へと突入していただろうとは、レムが耳で集めた情報からも伝わってくる。しかし、そううまくは行かなかった。“大破壊”が起きたからだ。“大破壊”は、それまで護山会議が構築しようとした秩序を完膚なきまでに破壊した。リョハン市民のだれもが戦女神に救いを求め、喘いだのだ。護山会議も、人間の時代の到来を諦め、戦女神に頼らざるを得なくなった。

 ファリアに戦女神継承を打診し、ファリアは迷っただろうが、それを受け入れた。

 それがおよそ二年前のことだ。

 それからというもの、リョハンは安定した日々を送ることができているというのだから、いかにリョハンが戦女神という存在に頼り切っているかがわかろうというものだ。そして、そんな立場にあって、責任を果たそうと戦い続けるファリアの心労を想うと、なんともいえない気持ちになる。

 決して、セツナには肩代わりのできないことだ。

 戦闘ならば、剣や弓を用いる戦争ならば、セツナの出番はある。しかし、政治となれば話は別だ。それもリョハンは、セツナ以外の政治的手腕の持ち主であったとしても、ファリアの代わりを果たすことなどできようはずもない。ファリアでなければだめなのだ。

 戦女神でなければ、だめなのだ。

 先代に選ばれた後継者だからこそ、すべては上手く回っている。

 リョハンの古代遺跡然とした町中を通り抜けながら、セツナは、レムやルウファたちから聞いた話を元にして、そのようなことを考えていた。いまから向かう先に待つのは、セツナの知るファリア・ベルファリア=アスラリアではなく、二代目戦女神ファリア=アスラリアなのだ。そのことをしっかりと頭に入れて置かなければ、失望してしまうかもしれない。

 そういうこともあり、セツナには空中都の町並みを目で見て愉しむという精神的余裕はなかった。ファリアのことばかり考えている。

 そして、目的地に辿り着くと、御陵屋敷と同じく古代遺跡の遺構そのものを利用した戦宮の全容がセツナの目に映った。四方を分厚い石壁で囲われながらも門扉がなく、そのために警備の人間がいなければだれでも自由に出入りできそうな印象を受けた。それはなにも門だけの話ではなく、戦宮内にも扉などは一切ないらしく、建物全体が開放的な空間になっているという話だった。それ故密談には向かず、ちょっとした大声が戦宮内に響き渡るため、内部にいるものは普段から小声で話すようになるということだ。

 戦宮の正門は、護峰侍団の隊士たちによって護りを固められているものの、セツナたちが近づくと、最敬礼でもって迎え入れられた。そして、ひとりの老紳士が門の内側に立ち、まるでセツナを待ち受けているようだった。

「お待ちしておりましたぞ、英雄殿」

 老紳士は、厳粛な表情、態度でセツナに話しかけてきた。

「英雄だなんて、そんな」

「謙遜なさる必要はありますまい。貴殿は、このリョハンを窮地より救った紛うことなき英雄。故にこそ、この度、貴殿の活躍を表彰するのですからな」

 礼服の上から防寒着を身につけた老紳士は、セツナのことをじっと見つめていた。その鈍く輝く目は力強く、只者ではないという雰囲気があった。

「申し遅れましたな。わたくしは護山会議の議長代理を務めるアレクセイ=バルディッシュ」

 その名を聞いた瞬間、セツナはあっとなった。バルディッシュといえば、ファリアの祖母の家名であったし、アレクセイ=バルディッシュという名には聞き覚えがあった。ファリアから直接聞いたのだ。忘れようはずもない。

「ファリ……いや、戦女神様のお祖父様……ですよね?」

「御存知でしたか」

「昔、彼女から聞いたことがありましてね。あなたのことを心から尊敬していると」

「……そう、ですか」

 アレクセイが虚をつかれたような反応を見せたのは、もちろん、セツナが発した言葉が予期せぬものだったからに違いない。セツナもなぜ、あのようなことをいったのかは、わからない。ファリアの祖父だから、気に入られたかったのかもしれない。

「戦女神様は、奥で貴殿の到着をお待ちです。どうぞ、ついてまいられよ」

 アレクセイに案内されるまま、セツナとレムは戦宮の中へと入っていった。


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