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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第千九百四十八話 真相(一)


 セツナが第二次リョハン防衛戦開戦当初どこにいたのかというと、驚くべきことにこのヴァシュタリア小大陸南端の都市アレウテラスだという。それもアレウテラスにて開催中だった闘神練武祭に仕方なく参戦していたということであり、その話をレムから聞いたとき、ファリアは、なんともいえない気持ちになったものだった。

 ファリアが悩み苦しんでいるちょうどそのとき、セツナは、彼女と同じ大地の上にいたのだ。

 アレウテラスは小大陸南端に位置し、リョハンからは遙か彼方というべき都市だ。リョハンにいるファリアがアレウテラスの状況を知ることなどできるわけもないし、当然、アレウテラスにセツナたちが滞在しているということを知る由などなかった。調べられもしなければ、調べようという感覚さえない。

 当たり前だ。

 ファリアは、リョハンの戦女神だ。戦女神の職務を果たすことを最優先に考えて動いていた。そのための難民問題であり、ファリアはセツナのことを考えている余裕はなかったし、考えたとしても一方的に想うだけのことだった。まさか彼がこのヴァシュタリア小大陸にいるなどとは思いも寄らないことだ。

 情報を集めようにも、リョハン防衛を優先する以上、あまりにも広大な大地の隅々まで情報網を行き渡らせることなどできるわけもなかったし、ラムレスらドラゴン属をリョハンのための情報集めに使うことなどできるはずもない。

 周辺の都市との連携すらとれていない現状、南端のアレウテラスのことなど、風の噂に聞く程度だったし、それだけで十分だった。なによりリョハンのことが第一なのだ。ほかの都市の現状になど構ってはいられなかった。

 その結果、セツナとレムの滞在に関する情報を掴み損ねたというわけでもないのだ。

 なぜならば、セツナとレムがアレウテラスに到着したのは、ついこの間のことであり、それから数日あまりしか滞在していないというのだ。リョハンが情報を掴むには、あまりに短い期間だ。つかめなくて当然といっていい。

 それはそれとして、知っておきたかったというのは、ファリアの中にはある。

 が、同時に、セツナがリョハンに辿り着くために必死になっていたこともレムの口から伝えられ、ファリアは、感動を隠せなかったし、視界が揺らめいたことに動揺を覚えたものだった。

 セツナは、ファリアや皆のいるリョハンに一日でも早く辿り着くため、全身全霊で事に当たってくれたのだ。それがアレウテラスの闘神練武祭への参加に繋がるらしいのだが、詳細については聞いていない。

 そこは、特段、大切なことではあるまい。

 大事なのは、ファリアの知らないところでセツナがリョハンを目指していたという事実であり、彼が自分のことを想っていてくれていたということだ。

 いや、それ以上に、彼が生きていてくれたということこそだ。

 ファリアは彼が死んだなどとは想ってもいなかったし、それはミリュウやルウファたちも同じだ。皆、セツナの生存を信じていて、いつかどこかで再会できると想っていた。それでも二年以上に渡る歳月が流れれば、不安を抱きもし、もしかすると、などと想わずにはいられないのが人間だ。

 人間というのは、弱い生き物だ。

 か弱く、脆い。

 どれだけ強がっていても、どれだけ頑なであろうとも、状況が長引けばそれに引きずられ、弱い部分を見せてしまう。そして、その弱点に付け込まれ、心も弱っていくのだ。

 ファリアが自分が弱っていたなどとは想ってもいないし、認めようとはしないが、しかし、一方で自分にもそういう部分があることは否定しなかった。

 それは、セツナの姿を目の当たりにしたとき、心のたがが外れたことでも明らかだ。

 どこかで、諦めていたのではないか。

 心のどこかで。頭の片隅で。意識の奥底で。

 だから、セツナの姿を見たとき、頭の中が真っ白になり、なにも考えられなくなったのではないか。

 セツナは、違う。

 ファリアたちがリョハンにいるということを知ると、ファリアたちに逢う、ただそのためだけにリョハンを目指した。そのためにあらゆる手段を用い、あのザイオン帝国の生き残りとも手を組み、アレウテラスに至ったというのだ。

 そうして参加した闘神練武祭奉魂の儀において、セツナは、幾人もの闘士を打ち破り、アレウテラスの守護神にして闘神ラジャムに戦いを挑まれたのだという。

 レムによれば、セツナとラジャムの闘技は、闘技という枠を凌駕したものであったそうだが、それはわからないではない。

 セツナは人間だが、魔王の杖の異称を持つ召喚武装カオスブリンガーの使い手であり、その力が神をも凌ぐものであることは、先の防衛戦において実証済みだ。

 無論、その事実には、ファリアをはじめ、あの場にいただれもが驚嘆したものだったし、マリクですら驚きを禁じ得ないと評した。しかし、魔王の杖の力を持ってすれば、それくらいはたやすいことであるともいい、セツナがカオスブリンガーの力を自在に引き出すことができるのであれば、下位の神くらいなら対等以上に戦えるという。

 そんなセツナが闘神ラジャムとの闘技の中で、黒き矛の秘められた力を解き放ったのは、ラジャムのやり方に業を煮やしたからだという話だった。

 レム目線の話をすべて聞いたファリアは、セツナが自分や皆のことをいまも大切に想ってくれているということを再度確認したような感覚になったものだ。

 セツナがファリアのことを大切に想ってくれているのは、彼が駆け寄ってきてくれたとき、そのさいに見せたまなざしからはっきりと伝わってきている。

 その想いは、勘違いなどではない。 

 そう言い切れるのが頑固ものの強いところかもしれない、と、彼女は自分自身に呆れかけたものだ。

 当のセツナは、未だ眠り続けている。

「レム殿。セツナ殿のこと、どうかよろしくお願い致します。目覚められたならば、すぐにでもお知らせくださると、戦女神として嬉しい限りです」

 ファリアは、戦女神として、の部分を強調して、レムとの会見を打ち切った。

 本当はファリア自身が、意識を失い、眠り続ける彼の側にいてやりたかったし、つきっきりで看護したかった。しかし、ファリアには立場がある。リョハンの支柱たる戦女神という重要な役割が、それを許さない。暇を見てはセツナの元を訪れ、その寝顔を盗み見ることのできるルウファたちのような、そんな緩い立場にはないのだ。

 もちろん、戦女神の権力を利用すれば、公然と彼の元を訪れることもできよう。戦女神は、リョハンの頂点に君臨しているも同然だ。好き放題しようと想えば、することもできるのだ。しかし、それをすれば、ファリアが目指す戦女神から大きく遠のくこととなり、二度と理想へは近づけなくなる気がした。故にファリアは、セツナの側にいたいという本能的な感情をぐっと抑え、彼の従僕にしてファリアの信頼するにたるレムにすべてを任せることにしたのだ。

 ほかのだれかではなく、常に彼の側にいて、彼の下知に従っていたレムならば、安心して任せることができる。

 ファリアは、自身にそう言い聞かせ、納得させながら、レムが戦宮を後にするのを見送った。

 難民問題という失態を護山会議長モルドア=フェイブリルが被り、責任を負って辞意を表明してからというもの、彼女は、戦女神ファリアとしての意識をさらに強く持つようになった。

 セツナとの再会に現を抜かしている場合ではないのだ。

 リョハンは、神軍の脅威を退けた。

 しかし、そこで胡座をかいていられるほど、世界の状況というのは必ずしも芳しいものではない。むしろ、いつなにが起こってもおかしくはないことは、レムの話からも伝わってきていた。

 この世には、数多の神が解き放たれた。

 かつてマリクがいった通りになったのだ。

 至高神ヴァシュタラと名乗っていた数多の神々が、ヴァシュタラとしての纏まりを失い、世界各地で己が想いのまま、あるいは神としての存在意義の赴くままに活動し始めている。その一例がアレウテラスの闘神ラジャムであり、レムたちが海洋上で遭遇したという海の女神マウアウなのだ。

 この世に満ちた神々がすべて人類の敵というわけではない。いや、多くが人類の味方であるはずだ、とマリクはいった。神とは、人間の願いや祈りより顕現した存在であり、人間に悪意を振り撒く事自体、そうあるものではないのだという。

 だが、だからといって安心しきってはいけないのだとも、彼はいった。

 このイルス・ヴァレに満ちた神々というのは、異世界の神々なのだ。

 本来在るべき世界への帰還を望み、数百年に渡って沈黙を続けてきた神が、“大破壊”へ至る聖皇復活の失敗によって、暴走を始めたとしてもなんら不思議ではないのだと。

 聖皇復活の失敗に直面した神々の中には、本来在るべき世界への帰還という望みが絶たれたと考えるものが現れてもなんら不思議ではなく、そういった神々がこの世界において想うままに力を振るったとしても、なんらおかしくはない。

 実際、闘神ラジャムがアレウテラスの守護神として君臨しているのも、この世界に居つくという覚悟あってのものだろうことは、想像に難くない。

 守護神となったラジャムはともかくとして、数多の神々がこの世界の住人にとって害をなさないとは限らないのだ。

 神軍だけが、脅威ではない。

 ファリアが戦女神として気を引き締めなおしたのは、そういうところもあった。

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