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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第千九百十七話 第二次リョハン防衛戦(十一)


 戦線が熱を帯びていくに連れ、リョハン軍の戦意はいや増すばかりだった。

 七大天侍の華麗なる戦いぶりが主戦場にいる護峰侍団の武装召喚師たちの目や耳にも届いており、彼らが大型神人を撃破するたびに歓声が上がった。そしてそのたびに士気が昂揚し、神軍の一般兵や神人への攻撃は勢いを増していった。一度火が点けばちょっとやそっとのことでは止まらなくなっていた。もとより、リョハンをなんとしてでも守らなければならないという強迫観念がある。ここで神軍本隊を撃退できなければ、リョハンに未来はないのだ。リョハン軍のだれひとりとして、ここで手を抜こうというものはいなかった。

 ファリアもそうだ。

 加熱する最前線において、だれよりも声を上げ、だれよりも敵を叩いた。最前線に展開された神人の群れを突破すると、ヴィステンダールらとともに敵陣に風穴を開け、敵本陣に向かって邁進していった。つぎつぎと襲い掛かってくる神軍兵士をこれでもかという雷撃の嵐で退けながら、的確に指示を下して戦線を維持し、陣形の崩壊を防ぐ。怒涛の如く押し寄せる敵兵の集団には護峰侍団二番隊以下、複数の部隊が対応した。ファリアたち本陣突撃部隊への援護の手は止まない。召喚武装の攻撃が苛烈に敵陣を強襲し、敵兵をばったばったとなぎ倒す。神人が道を塞ごうとも、勢いに乗るリョハン軍の前では障害物にさえならない。ヴィステンダールの剛刀が唸りを上げて両断し、スコールの雷槍が紫電となって“核”を貫く。崩壊する神人の体を黙殺し、敵陣に向かって激走する。

 討つべきは、神軍の総大将であり、総大将は本陣にいるはずだった。少なくとも、戦女神のように前線に出張るような総大将は、そういるものではない。総大将は、軍勢の要なのだ。前線に立てば全軍の士気も否応なく高まるが、同時に身を危険に曝すということでもある。総大将が討たれれば、いや、負傷するだけでも全軍の戦意に関わるのだ。本来であれば後方に控えるのが総大将というものであり、そのことはファリアもよくわかっている。

 ガンディアに属する武装召喚師として様々な戦場を経験してきたが、総大将がみずから前線に立った例など数えるほどしかなかったと記憶している。特に国王たるレオンガンドが戦地に赴かない戦いは、いくらでもあった。それが国の頂点に立つものとして当然の振る舞いであり、国の主たるものは、臆病なくらいでちょうどいいのだ。

 だが、しかし、リョハンの戦女神となると、そうはいかない。戦女神たるもの、リョハンの民の希望を背負い、光となって前線に立たなければならなかった。

 戦女神は、リョハンの支柱だ。リョハンという天地を支える光なのだ。

 だれもが戦女神を見ている。戦女神の姿にこそ、リョハンの希望を見出している。だからこそ、立たなければならない。だれよりも前に立ち、だれよりも多くの敵を倒さなければならない。戦女神此処に在り、と、示さなければならないのだ。

 あの英雄のように。

 ファリアは、脳裏を過ぎった英雄の姿を振り切ることはせず、むしろ、その姿を自分に重ね合わせることで勇気が出るのだと思っていた。事実、彼のことを想うたび、彼の戦いぶりを思い起こすたび、彼女の力はさらに漲り、感覚もまた、研ぎ澄まされた。彼の片腕として、数多の戦場を駆け抜けてきたのだ。彼の戦いぶりはこの目に焼き付けている。英雄の呼び名に相応しい彼の生き様もまた、脳に刻みつけている。

 彼になろう。

 セツナそのものに。

 そう想ったとき、ファリアの肉体はまるで重力の軛から解き放たれたかのように軽くなった。オーロラストームから流れ込んでくる力が肉体の隅々にまで行き渡り、肉体を勇躍させる。神人の苛烈な攻撃も、神軍の数に物を言わせた猛攻もものともしない。恐怖はなかった。体はただ熾烈な戦いの呼吸に順応し、反応する。敵の攻撃をかわし、反撃の一撃を的確に叩き込む。神人の肉体を破壊し、“核”を露出させ、味方武装召喚師に止めを譲る。雑兵をつぎつぎと打ち抜き、殺すか、殺しきれなければ動きを止める。ここは戦場。生きるか死ぬかのいずれかしかない。敵に手加減する余裕などあろうはずもない。敵への手加減は、自軍への裏切り行為にほかならない。哀れみを抱いて生かした結果、味方に新たな被害を生じさせるなど、許されざることだ。殺せる敵はすべて殺す。戦女神は、血みどろの戦場の中でこそ輝くのだ。

「二番隊、四番隊、左翼に展開! 五番隊、六番隊を右翼へ!」

「了解しました」

「では!」

 ヴィステンダールの指示が護峰侍団の各部隊をつぎつぎに動かしていく。戦場は混沌としているが、ヴィステンダールはその状況を的確に見抜く広い視野を持っているということだ。無論、ファリアの目にも、戦場の現状は把握できている。そして、ヴィステンダールの判断が正しいことも理解できている。だからなにもいわず、前進するのだ。護峰侍団のことは、団長だる彼に一任すればいい。安心して、前進できるというものだ。

「七番隊、八番隊は後方から援護、九番隊、十番隊は、七大天侍と合流!」

「はい~」

「まじかよ!」

 隊長の反応は様々だが、だれひとり、どの部隊ひとつ、ヴィステンダールの意向に逆らうことはない。護峰侍団ほど統率の取れた組織もないのだ。普段は戦女神派だの反戦女神派だのと割れることもある組織だが、リョハンを防衛することにかけては一瞬にして一丸になる。まさに一枚岩となりうるのだから、これほど頼もしいことはない。

 ファリアは、リョハンの柱たる戦女神として、彼ら護峰侍団とともに戦場を駆け抜けられることを好ましく想った。同時にそんな彼らに負担をかけ続けてきたことに胸を痛めたし、後悔もした。だが、そういった想いが胸の内を駆け抜けたのは、一瞬のことだ。いまは目の前の戦いに集中しなければならない。感傷は、戦いに勝ってからすればいいのだ。 

 前方、突如として暴風が吹き荒んだかと想うと、敵陣に風穴が空いた。複数の神人と何百人もの雑兵が突風にさらわれていったのだ。そこへ颯爽と降り立つのは、十二枚の白翼を広げた天使であり、ファリアは一瞬、その姿に目を奪われた。ファリアだけではない。夜闇の迫る戦場にあるだれもが、その神々しいまでの姿に見惚れかけていた。ルウファ=バルガザールだ。

「我、守護天使ルウファなり。これより、戦女神が戦場に勝利の道を開かん」

 芝居がかった口調で、彼は告げた。そして、十二枚の翼が光り輝く旋風を巻き起こし、ファリアたちの進路上を埋め尽くしていた神軍兵をつぎつぎと吹き飛ばしていった。

「征かれよ、戦女神。そして、栄光に満ちた勝利を我らの手に!」

「任せなさい。勝利を我らの手に」

 ファリアは、ルウファの芝居に付き合いながら、彼が残された発動時間の限りを使って援護してくれたことに心の中で感謝した。そして、ヴィステンダール、スコールらを振り返り、うなずき合って駆け出す。

 敵本陣までの進路上の敵は、尽く吹き飛ばされていた。それはすなわち、ルウファのシルフィードフフェザーの能力が凄まじいということにほかならない。シルフィードフェザーの最大能力は、時間制限付きだが、その分強力無比なのだ。制限時間中であれば、ルウファとシルフィードフェザーにおそらく敵はいまい。それだけに制限時間はわずか二分あまりと短く、頼りすぎるわけにもいかないものの、彼が切り開いてくれた血路は、勝利への道標となり得た。

 神軍本陣がファリアの視界に入っている。

 方舟の前方に築かれた神軍本陣には、高強度の神人が十数体はいることが判明している。低強度の神人はその倍以上。本陣の守備を固めるのは当選のことだが、それにしても多い。だが、本陣を落とし、本隊を撃退することさえできれば、神軍は撤退せざるを得なくなるはずだ。それならば、この決戦にすべての力を注ぎ込めばいいのであり、後先考える必要はなかった。

 そうであれば、十数体の高強度神人であっても敵ではない。

 ファリアは、本気でそう想っていた。

 いまの自分ならば、どんな敵が相手であれ、倒しきれる。そう信じることで、無限に力が湧いた。自分はあの英雄なのだと。セツナなのだ、と。

 そう想った矢先のことだ。

 突如、前方、敵本陣上空に閃光が生じた。

 まばゆくも神々しい光の出現にファリアたちは足を止めた。心が、体が震えた。潜在的な畏怖が呼び起こされたのだ。脳が警戒を呼びかけ、全神経が研ぎ澄まされる。圧倒的な力を認知したのだ。

 神――。

「戦女神様、あれは……」

「おそらく、神軍を率いている神でしょう」

「神……」

「勝ち目、あるんですか?」

「勝ち目があるかどうかは問題ではありません」

 ファリアは、震える体を押さえつけるように告げた。神の如き光を睨み、それがひとの形を成していくのを認める。マリクとはまるで異なる姿ではあったが、感じる気配は近い。人間とも皇魔とも異なる気配。人間が潜在的に畏れを感じてしまう波動。神威。

「勝たなければリョハンに未来はないのですから」

「そりゃあ、そうだ」

「異論はありません」

「ま、斃すしかないか。相手が神だろうとなんだろうと」

「では、征きます」

 ファリアは、団長、隊長たちに告げ、踏み出そうとした。だが、それはできなかった。

「戦女神様!」

 彼女を呼び止めたのは、ニュウ=ディーであり、左後方を振り向くと、光を発する円盤を手に駆け寄ってくる彼女の姿があった。円盤は、マリク神が彼女に遠距離連絡用にと手渡したものであり、それが光っているということは、マリクがなにかを伝えてきたということだ。ファリアは胸がざわつくのを止められなかった。ニュウが血相を変えているのもそうだが、マリクがわざわざ連絡を寄越してくるということは、余程のことだ。なにか、良からぬことがリョハンで起きたとしか考えられない。

 ファリアは、ニュウが息を切らせてまで駆け寄ってきたのを見て、努めて冷静に問いかけた。

「なにがあったのですか、ニュウ」

「それが……」

 ニュウはみずから質問に答えるのを憚るかのように、円盤を掲げてきた。円盤の中心から立ち上る光の中に小さなマリクの姿が浮かんでいる。マリクは、深刻な表情で、こちらを見ていた。

『麓特区が神人の巣窟と化したんだよ、ファリア』

「えっ……!?」

 ファリアは、マリクの言葉を理解した瞬間、頭の中が真っ白になった。だから、だろう。背後から迫る殺気にも気づくのが遅れた。

「ファリアちゃん、危ないっ!」

 悲痛な叫びが聞こえたとき、ファリアの視界に飛び込んできたのは、複数の光の帯に貫かれたスコールの背中だった。




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