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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第千九百十四話 第二次リョハン防衛戦(八)


 黙想の石林へと至る長大な戦線において、リョハン軍の戦いは激しさを増す一方であり、中でも七大天侍たちの戦いは熾烈を極めた。

 高強度の神人の撃破が七大天侍に与えられた使命であり、七大天侍の六名は、散開すると、戦場の各所を進軍中の神人を攻撃、注意を引き、まず戦線から引き離すことから始めた。高強度の神人の数は軽く十体を越え、七大天侍の数よりも多かったが、そんなことを考えている余裕は七大天侍にはなかった。数的不利など、最初からわかっていたことではある。二十万を越す大軍に対し、二千と数百の少数で挑もうというのだ。兵力差は端から認識していたことであり、それを戦力差で覆そうというのが、この戦いの根幹だった。

(その戦力差も、現状、危ういところだけど)

 ルウファ=バルガザールは、シルフィードフェザーの飛行能力を全開にして飛び回りながら、高強度の神人を三体、引き寄せることに成功していた。強度の高い神人というのは、質量の大きな神人のことだ。つまり、常人とは比べ物にならない体格の神人ばかりということであり、ルウファが引きつけた神人はいずれも巨人と言い表してもおかしくはない巨大さを誇るものばかりだった。とはいえ、本物の巨人の末裔に比べれば可愛いものであり、その力ももしかすると、本気のグリフよりは下かもしれない。本気のグリフといえば、黒き矛のセツナと渡り合うほどの力を発揮してみせたのだ。さすがに高強度の神人といえど、セツナと渡り合えるとは思い難い。

 三体の白き巨人を主戦場から引き離すよう誘導しながら、ルウファは攻撃の手を緩めない。シルフィードフェザーの羽を弾丸のように発射して肉を削ぎ、小さな竜巻で表皮を抉る。さらには大気を圧縮した球を叩きつけ、真空の刃で手足を切断してみせる。そうして苛烈な攻撃を加えることで、神人の注意を引きつけなければ、彼らは主戦場に足を向け、リョハン軍を蹂躙しようとするだろう。

 無論、ただ注意を引きつけるためだけに攻撃を繰り返しているわけではない。それでは、いくら体力があっても持たない。ルウファが神人を攻撃する際、狙う部位は毎回違っていた。つまり、神人唯一の弱点である“核”の捜索も同時に行っていたということだ。神人を斃すには、“核”を破壊する以外に方法はない。そして、“核”を見つけ出すには、地道に神人を攻撃し、その肉体を破壊していく以外にはないのだ。

 ただし、神人の肉体というのは、その強度によって硬度が大きく異なる。ルウファが相手にしている三体の神人のいずれもが、並の攻撃では傷をつけることすら困難な硬度を誇る外皮に覆われており、羽弾では外皮を削り取るくらいしかできなかった。しかもルウファは三体の神人による苛烈な攻撃を回避しながら攻撃を仕掛けているわけであり、それぞれの“核”を見つけ出すのは至難の業といえた。

(三体はさすがにきついか)

 神人が繰り出してくる多様な攻撃を疾風となってかわしながら、内心、舌打ちする。しかし、泣き言をいっている場合ではないのは、ほかにも三体以上の神人を相手にしている同僚がいるからだ。彼の師匠グロリア=オウレリアなどは、五体もの神人を引きつけながら、圧倒的に優位な闘いを見せている。シヴィル=ソードウィンは三体、ニュウ=ディーは二体、それぞれに引きつけており、カート=タリスマとアスラ=ビューネルは一体ずつ、受け持っている。カートのホワイトブレイズが唸りを上げ、一体を氷漬けにするのが見えると、ニュウのブレスブレスが生み出す極光が神人の肉体を半分ほど消し飛ばした。

 激戦の中にあるのは、ルウファだけではない。

 七大天侍のいずれもが、高強度の神人との死闘の中にいる。

 ルウファは、同僚たちの頼もしい戦いぶりに目を細めると、戦女神が護峰侍団を叱咤激励する声を聞いた。ファリアの声の凛とした響きは、ルウファの心も奮い立たせてくれる。虚空を駆け抜け、伸びてきた無数の手をかわしながら風弾で撃ち落としていく。神人の攻撃手段というのは、なにもその肉体に頼ったものだけではない。その巨躯で直接殴りつけてくるだけでも脅威的であり、一撃でも貰えばそれだけで再起不能になりかねないのだが、それ以外にも多様な方法で攻撃してくるのだ。

 白化した部位を自在に変容させることができるというのが、神人の特徴だ。腕を伸長させることなど当たり前であり、無数の触手のように伸ばすこともできれば、巨大な武器を作り出し、攻撃してくることもあった。また、白化部位を矢のように撃ち出してくることもある。さらには、白化部位に頼らない攻撃手段として、口から光の奔流を吐き出してくることもあった。神人たちの発する光線が大地を焼き払い、黙想の石林周辺は大惨事になっていたが、どうしようもない。

 ルウファは、そんな激烈な攻撃をからくもかわしながら、わずかばかりの機会を見出しては攻撃を繰り出し、神人の弱点を見つけ出そうと必死になっていた。必死にならざるをえない。高強度の神人は、災害そのものだ。放っておけば、リョハン軍が壊滅の憂き目を見る。かといって、リョハン軍の戦力を高強度の神人に分散させれば、低強度の神人やそれ以外の戦力によって蹂躙されるだろう。数の上では神軍のほうが上なのだ。戦力を分散させたとき、そのときが敗北の始まりとなる。リョハン軍が神軍に打ち勝つためには、高強度の神人を七大天侍が受け持つ以外に道はないのだ。

 とはいえ、これでも数は減らしたほうだった。

 既にグロリアが三体、シヴィルが二体、ほかそれぞれ一体ずつ、高強度の神人の撃破に成功している。つまり、開戦当初は現状よりも数多くの神人がいたということであり、その絶望感たるや凄まじいものがあったということだ。

(……そう、つまり)

 ルウファは、三体の巨人の攻撃を分散させるべく、引き寄せた三体の外周を大きく旋回しながら、加速していった。翼を広げ、シルフィードフェザーの力をさらに引き出す。

(なせばなる、っていうこと……!)

 限界まで引き出した力は、ルウファの飛行速度をさらに引き上げ、神人の攻撃をまったく寄せ付けないまでになった。さらには攻撃対象を見失わせ、神人たちを混乱させることに成功する。だが、これだけではどうにもならない。神人を撃破するには、“核”を破壊する必要がある。“核”の位置は一定ではない。神人ごとに異なる箇所にあるだけでなく、常に移動している可能性すらあるのだ。一度発見したからといって、安心してはいけなかった。すぐに攻撃を加え、破壊しなければ、また位置の特定から始めなければならなくなる。

 とはいえ、必ずしも“核”の位置を特定する必要があるわけではない。

 ルウファは、三体の神人の巨躯を見下ろす高度にまで上昇すると、一瞬、動きを止めた。神人たちは、その一瞬の隙さえ見逃さず、同時に攻撃を仕掛けてくる。神人の白化した頭部がこちらを仰ぎ見、口腔が大きく開かれた。喉の奥底から光が吹き出してくるのがわかる。が、ルウファは慌てない。騒がない。ただ、命じる。

「シルフィードフェザー・オーバードライブ」

 シルフィードフェザーの全能力解放の瞬間、ルウファは、あらゆる感覚が肥大するのを認識した。一対二枚の翼が六対十二枚に激増し、翼の数だけ大気の掌握能力が増大する。それだけではない。シルフィードフェザーの能力の限界そのものが凄まじいまでに引き上げられ、ルウファへの副作用そのものも拡大している。爆発的な力の増大と同時にルウファは、自身の周囲の大気を瞬時に圧縮させ、分厚い真空の障壁を形成した。地上から上空に向かって昇ってくる三つの光芒は、真空の壁に激突し、爆発を巻き起こす。閃光と熱が吹き荒れたようだが、ルウファには触れることもなかった。

 シルフィードフェザーの真価は、これだけでは留まらない。

 ルウファは、真空の壁を解除すると、すぐさま地上に向かって降下した。三体の神人がそれぞれに無数の触手を伸ばし、ルウファを撃ち落とさんとする。だが、それら無数の触手は、ルウファに触れようとする直前に細切れになって虚空に散乱した。神人には、なにが起こったのか理解できているのかどうか。ルウファは、三体の神人のちょうど中心に入り込むと、さらに殺到する神人の触手を黙殺し、十二枚の翼を最大限に広げた。

 最大能力解放中、最大威力の攻撃がいままさに吹き荒び、押し寄せる無数の触手を根こそぎ吹き飛ばすと同時に高強度を誇る神人の肉体も尽く消し飛ばしていった。

 

 



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