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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第千九百十話 第二次リョハン防衛戦(四)


 ラムレスが沈黙の丘から飛び立つ直前に起こした嵐は、荒れ果てた大地を引き裂くようにして神軍本隊陣地へと到達し、敵陣を無慈悲に蹂躙していった。

 ファリアたちが唖然としている間にもラムレスと、彼の眷属たる蒼き飛竜たちがつぎつぎと沈黙の丘を飛び立ち、神軍本隊陣地へと急襲する。ドラゴンたちの苛烈な攻撃は、敵陣を大混乱に陥れ、陣地を半ば壊滅状態にしてしまった。そして、ドラゴンたちは、ラムレスに率いられ、戦線を離れていく。リョハンの各方面の守備につくためだ。

 神軍本隊に当たるのは、あくまでリョハンの戦力でなくてはならない。

 それがラムレスらがファリアたちに力を貸してくれる前提条件だった。なにからなにまでドラゴンの力に頼ろうとするものには力を貸すつもりはない、というのだ。無論、そんなことはいわれなくてもわかっていたし、まさかここまでラムレスたちがやってくれるとは思いもしていなかったというべきだった。

 ファリアは、ルウファたちとともに夕焼けの如く燃え盛る敵陣地を見やりながら、呆然とした。

「露払いって……そういうことなの?」

「いやはや、ラムレス様もひとが悪い」

「ひとではないからな」

「そういうことじゃなくてですね」

 グロリアのそっけないひとことにたじろぐルウファを横目に、ファリアは、敵陣の混乱が瞬く間に沈静化していくのを見て、目を細めた。猛火も消え、嵐も収まっている。さすがは神軍、というべきだろうか。大混乱が急速に収束し、陣形が立て直されていく様子が遠目にも認識できる。

 混乱の真っ只中に攻め込むことができれば、神軍の損害をさらに拡大することも難しくはなかったかもしれないが、それは不可能というものだ。ラムレスたちとの連携が取れていればそれも可能だった。しかし、ラムレスのいう露払いは、ファリアたちも想定していなかったことであり、彼らの攻撃に合わせて進軍することは難しかった。とはいえ、ラムレスらドラゴンの強襲が進軍陣地に多大な損害を与えたのは間違いなく、護峰侍団の士気が否応なく高まるのを感じずにはいられなかった。

 万物の霊長たるドラゴンの支援により、リョハンの勝機が見えた。

 そうして敵陣地を見ていると、ファリアたちの元に近づいてくるものがあった。護峰侍団長ヴィステンダール=ハウクムルと二名の参謀だ。ファリアは、彼を一瞥するなり、口を開いた。

「ヴィステンダール団長、状況を」

 戦況は、ラムレスらの強襲によって大きく動いた。神軍は、もはやもはや留まってはいられないということで、動き始めている。もちろん、ファリアたちもだ。ファリアとともにいる六名の七大天侍がそれぞれに呪文を唱え始めていた。シヴィル=ソードウィン、ニュウ=ディー、カート=タリスマ、ルウファ=バルガザール、グロリア=オウレリア、アスラ=ビューネル。六名の強力な武装召喚師たちの唱和にも似た詠唱は、聞いているだけで心強く、頼もしい。

「護峰侍団および七大天侍隊の配置は既に完了。あとはファリア様の出撃命令を待つのみとなっております」

「よろしい。戦闘は既に始まっています」

「既に?」

「いまのを見たでしょう。ラムレス様は、神軍の先手を打ち、各方面の敵陣地を攻撃、南、南西、西の各陣地を壊滅させました」

「八つある陣地のうち、三つも……ですか?」

 ヴィステンダールは、その厳しい面構えに驚きを浮かべた。さすがの彼にも想像もつかない出来事だったのだ。

「残すところ五つ。そのうち本陣は、わたしたちリョハン軍の手で落とします。残る四つをラムレス様とユフィたちが攻撃してくれる手筈になっています。リョハンが落ちることなどありえないということです」

「では……」

「ええ。わたしたちも、すぐさま出撃します。目の前の神軍本陣を落とし、主軍に徹底的な攻撃を加え、退散して頂きます」

 ファリアは、ヴィステンダールにそう告げたのち、沈黙の丘に展開した陣形を一瞥した。護峰侍団は、リョハンで鍛え上げられた武装召喚師たちが集められた戦闘集団だ。世界最高峰の戦闘集団といっても過言ではない。ただ、それでも百倍に近い神軍二十万と直接やりあうとなれば、勝利も確定的ではない。数こそがなによりも強いのだ。黒き矛のセツナですら、数百万の軍勢には敵わなかった。当たり前のことだ。武装召喚師もただの人間なのだ。

 しかし、その二十万すべてと同じ戦場で渡り合うわけではないというのであれば話は別だ。二十万のうちの四万ほどが、ファリアたちが対峙する敵本陣の兵力だという。そのうち、どれくらいが先程の強襲で倒れたのかは、わからない。が、決して無駄な攻撃ではなかったことは、遠目にも明らかだ。ラムレスとその眷属の猛攻は、凄まじいというほかなかった。数百を越える敵兵が散ったはずだ。

 ファリアは、口早に呪文を唱えると、オーロラストームの召喚を成功させた。怪鳥が翼を広げたような形状をした弓のような召喚武装は、ほかの召喚武装と比べても奇異だった。弓と呼んでいるが、弓ではないのだ。巨大な翼を構成する無数の結晶体が電光を生み出し、それを束ねて撃ち出す機構は、弓とはいい難い代物だろう。形状がどことなく弓のようだから、弓型の召喚武装と認識しているだけのことだ。

 七大天侍たちも召喚を終えている。

 シヴィルは金色の長衣ローブゴールドを身に纏い、カートは大斧ホワイトブレイズを肩に担ぐようにしている。ニュウのブレスブレスは両手首に絡みつく腕輪であり、ルウファのシルフィードフェザーは白い外套のようだが、それが本質ではない。グロリアのメイルケルビムも一見美しい鎧だが、その能力は防御に特化したものというわけではなかった。アスラの三鬼子は三つの形態を持つきわめて珍しい召喚武装であり、いまは勾玉形態となっている。だれもかれも強力な武装召喚師であり、七大天侍の名に相応しい実力者揃いだ。彼らが側に居てくれるだけで、この上なく心強い。

 それからファリアは、ヴィステンダールに促されるまま、自陣の先頭に立った。敵軍は、とっくに動き始めている。もたもたしている暇はない。が、戦女神たるファリアがなんの下知も出さないまま、戦いを始めるというのはどうもしまりが悪いのだ。

 だから、というわけではないが、ファリアが護峰侍団の団員たちの前に立ち、彼らの視線を一身に浴びながら、演説をしなければならなかった。戦女神は、戦場において味方の戦意を昂揚させるのもまた、重要な役割だった。祖母が戦女神と呼ばれた所以がそこにある。

「皆のもの、よく聞きなさい! これよりはリョハンのため、偉大なる御山を護るため、死力を尽くさねばなりません! 我らが負ければ神軍なるものどもの手によって、我々を抱き、我々とともに歴史を紡いできたあの御山を穢されることになるのです! もちろん、そこに住む人々も、わたくしたちの家族、友、民のいずれもが、神軍の手によって蹂躙されるでしょう!」

 ファリアは、思うままに声を上げ、団員たちに語りかけた。頭の中で思いつく限りの言葉。どういえば奮い立つか、どのような言葉を選ぶべきか、など、考えてもいない。ただ、訴える。彼らの心の中にあるリョハンへの痛々しいほどの愛情を呼び起こすべく、魂をぶつけるのだ。それ以外にはなかった。戦女神として半人前な自分には、祖母のような理想像を体現することはできない。だったら、本心を曝け出すしかない。吼えるしかないのだ。

「そんなことを許す訳にはいかない、そうでしょう?」

「戦女神様の仰る通りだ! 皆、気炎を上げろ!」

「リョハンを護るのだ! なんとしても!」

『おおおおおっ!』

 護峰侍団の団員たちの反応に、ほっとしている場合ではなかった。

 ファリアの想いは

「敵は二十万。されど、おそるるに足りません。敵陣の約半数は既に壊滅状態に陥っています。我らには、竜の加護がある。守護神がついている。我らが負ける道理はありません。正義は、我らにあり!」

『おおおおおおおおっ!』

「我らが安寧を蝕み、御山を穢さんとする愚かな者共に裁きの鉄槌を下すのです!」

『女神様! 戦女神様!』

「続きなさい! 御山のために!」

『御山のために!』

 昂揚する意識のまま、ファリアは進軍方向に向き直った。その際、シヴィルたちと目が合い、彼らの柔らかな微笑みに気づき、少しばかり照れが生まれたが、瞬時に消え去る。ヴィステンダールも、静かにうなずいてきた。それこそ、戦女神に求められるものだといわんばかりの反応には、安堵するほかない。ヴィステンダールは、反戦女神の筆頭。その彼が認めてくれたのであれば、間違いあるまい。そして、彼が認めたということは、護峰侍団の団員たちも彼女の意に従ってくれるということだ。

(これなら……いける!)

 神軍本隊は、既に沈黙の丘に向かって動き始めている。三万から四万の大軍勢。単純計算でリョハン軍の二十倍近い兵数だ。しかし、リョハン軍のだれひとりとして、その数に怖じることはなかった。十倍二十倍程度、おそるるに足らないのだ。

 ファリアは、そのことを確認すると、オーロラストームを掲げた。結晶体を展開し、巨大な弓を形成する。全結晶体の発電によって生じた電光を巨大化した弓の前面に行き渡らせながら、敵軍との距離を図る。敵軍の先鋒隊が射程に入った瞬間、彼女はオーロラストームの雷光を解き放った。

 極光の嵐が、開戦を告げる爆音を轟かせた。


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