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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第千八百三十五話 偽りの女神(二)


 爆風に煽られながら、シグルドは、地上へと落下する中で、頭上に閃く光芒を見た。

 シグルドたちを乗せていた船体前部は、マイラムのすぐ真上を降下していたのだ。そして、かなり地上に近づいたのを確認したところで、彼は女神に挑発的な台詞を投げかけた。どうせ、女神はシグルドたちがマイラムに降り立つのを許さないに違いない。それならばいっそのこと、機会を作るべきだと判断した。

 同じ強襲部隊の皇魔たちが女神に攻撃する千載一遇の好機。

 そのためにシグルドは死を覚悟しなければならなかったが、それくらいの覚悟、この強襲部隊に参加したときから決まっていたことだ。いや、シグルドはとうに死んでいるといっても過言ではない。いまを生きているのは、死に損なった結果に過ぎないのだから、死ぬことにはなんの恐怖もなかった。

 ルクスの死によって生かされた命を失うことについては様々な想いがあるし、彼のためにも生きなければならないという考えもある。だが、それはそれとして、死ぬことへの恐れはなかった。それがシグルドの蛮勇を呼び起こす。

 シグルドの挑発がきっかけとなって、女神がこちらを攻撃した刹那、皇魔と武装召喚師による一斉攻撃が女神に襲いかかった。リュウディースたちの魔法が連続的な爆砕を引き起こし、武装召喚師たちの猛攻がマイラム上空を白く染め上げ、天地を震撼させる。さながら小規模な“大破壊”とでもいうべき光景が繰り広げられ、その爆発の余波がシグルドたちをさらに力強く吹き飛ばす。船体の破片がシグルドの左頬に切り傷を作ったが、その程度で済んだのは僥倖というほかないだろう。

 爆音に次ぐ爆音。

 凄まじいとしかいいようのない連続攻撃は、一切の情け容赦がなく、建物の屋根に叩きつけられたシグルドもその痛みを忘れて見入るほどだった。ばらばらになった船体が周辺に降り注ぎ、《蒼き風》の団員たちがつぎつぎとシグルドの周囲に落ちてくる。高度が低かったこともあり、皆、無事のようだった。

 猛攻は、続いている。

 真っ二つにされたまま浮かぶ船体の上から繰り出される様々な攻撃が、マイラムの空に地獄のような光景を描き出していく。

「これなら女神も倒せますよね?」

「ああ……」

 シグルドは、部下の問いにそう答えるほかなかった。

 そう信じるしかない。

 女神の打倒は、シグルドの仕事ではないのだ。女神撃破は、皇魔と武装召喚師ら決戦戦力の役割であり、彼らが死力を振り絞った猛攻で駄目ならばほかに打つ手はない。全滅のときを待つしかないのだ。

 しかし、シグルドの胸には、漠然とした不安が去来していた。いま目の前で苛烈としか言いようのない攻撃に曝されているはずの女神マリエラだが、この程度の攻撃で倒せるとはとても想えないのだ。

 マリエラは、神などではない。

 それは、まず間違いなかった。ただの巡礼教師だった女が、なんらかの力を得て神を名乗っているだけに過ぎないはずだ。人間が神になれるはずもない。が、人間とは比べ物にならない力を持っているのもまた間違いがなかった。船隊を一瞬で壊滅状態へと陥れた攻撃も、先程の攻撃も、白異化体を支配下に置く能力も、様々な奇跡を見せたという話も合わせると、とんでもない存在であることは疑うべくもない。

 あれほどの力を持ったものが、そう簡単に倒せるだろうか。

 嫌な予感に、胸中で頭を振る。

(あれで駄目なら、どうすることもできねえだろ)

 シグルドは、連続的な爆発の光によって白く染まる夜空を見つめながら、心の中で吐き捨てた。シグルドとグレイブストーンでは、女神を討つなど到底不可能だ。グレイブストーンの扱いには慣れたものだし、並の武装召喚師にも勝るとも劣らない力を発揮することはできる。だが、近接戦闘に力を発揮するグレイブストーンでは、女神に近づくこともできまい。だからこそ、武装召喚師と皇魔による遠距離からの波状攻撃に望みを託したのだ。

 が――。

 シグルドは、爆発光の中、いくつもの光が閃くのを見た。その閃光は、つい今しがた、シグルドたちの船を破壊した女神の光そのものであり、つぎの瞬間、無数の光線となって爆煙を切り裂き、上空に残るすべての船体を貫通していた。直後、都合五つの船体が爆散し、それぞれの船に乗っていた皇魔や人間が一斉に投げ出される。そしてその瞬間、船を牽引していた皇魔たちが吼え、女神のいる位置に向かって飛翔するのが見える。閃光。光の刃の如き光の群れがネグルベフとベスレアたちを瞬く間に切り裂き、肉片へと変える。血飛沫が上がった。

 シグルドは、呆然とするほかなかった。

 強襲部隊は、一瞬にして壊滅状態へと陥ったのだ。もはや建て直す方法はない。もはや、女神に対抗する手段はない。もはや、生き残る術はない。

 爆煙が消え去ると、光を放つ人体が夜空に浮かんでいた。

 その発光体は、ゆっくりと降下してくると、シグルドの目の前に移動してきた。

「……なにか、したのですか?」

 女神マリエラ=フォーローンは、美しい笑顔を浮かべたまま、そう問いかけてきた。

 彼女は、無傷だった。

 あれだけの、それこそ小さな天変地異といっても過言ではないほどの攻撃を受けながら、一切の傷を負っていないのだ。召喚武装と皇魔による波状攻撃。常人ならば耐えられないどころか、白異化した人間や皇魔であっても耐えきれるものではない。ドラゴンでさえ滅びざるを得まい。それなのにマリエラの体には傷ひとつついていなかった。いや、体だけではない。彼女が身に纏う法衣にさえ、傷がなかった。

 つまり、先程の猛攻は、女神に一切届いていなかったということだ。

 シグルドは、敗北感に打ちのめされながら、歯噛みし、剣の柄を強く握りしめた。抜く。グレイブストーンの折れた刀身が月光に曝され、碧く透き通った輝きを帯びる。

「折れた剣を持ち歩くだなんて、変わった趣味ですのね?」

「なんとでもいえ。これが俺だ」

「いっている意味がわかりませんよ」

「うっせえ。化け物が」

「うふふ。なにも恐れることはありませんよ。わたくしは、あなたたちに手を下すつもりはありません」

「なんだと」

「あなたたちがわたくしの元に下り、わたくしの信徒となるのであれば、救って差し上げるといっているのですよ。どうです? 女神教団に入り、栄光に満ちた未来を掴み取りませんか?」

 マリエラのその言葉が、彼女の本心なのは疑いようもない。シグルドたちの興味を引き、隙を作るための嘘ではないことは、彼女のその表情を見れば明らかだ。自分の優位を信じて疑わず、シグルドたちを見下しきっているものの目だった。実際、彼女の優位な立場に変化はない。彼女は、圧倒的に優勢だった。わざわざシグルドたちの隙を見つける必要はないのだ。先程のような攻撃をすれば、シグルドたちは一瞬にして全滅する。それは疑いようのない事実だ。

 だが、だからといって、生き残るために女神教団に入るなど、願い下げだった。吐き捨てる。

「冗談も休み休みにいえってんだ」

「冗談?」

「あんたのような気色の悪いカミサマを信仰するなんざ、くそくらえだっつってんだよ!」

「……あらあら」

 女神は、悠然とした態度を崩すまいと、穏やかな表情を浮かべたまま、問いかけてくる。

「わたくしのどこが気色悪いというのです?」

 シグルドは、周囲の状態や自分が置かれている状況を確認しながら、全身に充溢する力を認めた。グレイブストーンから流れ込んでくる力は、膨大極まりないものだ。これほどの力を平然と扱っていたルクスを無意識に尊敬する。ルクスの才能、実力については元よりなにもいうことはなかったが、まさかこれほどまでのものだったとは想像することもできなかった。

 召喚武装を手にしていたから強かったのではないのだ。

 元から強かった人間が召喚武装を手にしたら、手がつけられなくなった――というのが、ルクス=ヴェインという男だった。

 そんな男が命を賭してようやく撃破できたのが、ラディアン=オールドスマイルだ。

 シグルドの見立てでは、マリエラもラディアンと同じだ。ラディアンと同じ、神の加護によって変異したに違いない。女神を名乗るマリエラ自身は認めたがらないだろうが、シグルドが感じる気配は、ラディアンと似通ったものだった。

「年齢を考えろよ」

「年齢?」

 マリエラの表情が凍りついた。

 巡礼教師マリエラ=フォーローンは、“大破壊”以前の情報では、四十代後半に差し掛かっていたはずだった。そのわりには、目の前の女神は若すぎた。それこそ二十代といっても通用するほどに。

「若作りしすぎなんだよ、このババア!」

「……死になさい」

 女神は、笑顔を消した。


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