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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

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第千八百四話 フロード・ザン=エステバン

 騎士団本部での三者会談は、騎士団、帝国、そしてセツナたち三者にとって有益な結論をもたらした。

 西ザイオン帝国は、対東ザイオン帝国のための戦力不足をセツナとレムの確保によって補うことに成功した。これ以上の補強は必要ないのではないか、とランスロットが評するほど、帝国内におけるセツナの評価は高いらしい。

 ならばなぜ最初からセツナに協力要請をしなかったのかというと、単純に帝国側がセツナの立場を誤解していたからのようだ。どうやら帝国側は、セツナがベノアガルドに所属しているものと思い込み、騎士団に協力要請をしたのも、騎士団を口説き落とせば、セツナを借り受けられるものと想っていたかららしい。

 フロードたちがセツナを指して名誉騎士殿と呼ぶことが、ランスロットやニーナに誤解を与えたのは間違いない。

 その誤解が解消されると、最初からセツナに申し込んでおけば良かったというランスロットに対し、ニーナは、いずれにせよ騎士団と話し合う必要があったのだからこれでよかったのだ、と告げた。ベノアガルド領土に野営地を築き上げてしまったことに関しては、騎士団に説明する責任がニーナにはあったのだ。その上、セツナだけでなく騎士団からも戦力を借りることができれば御の字だったのは間違いなく、たとえセツナの立場を正しく理解していたとしても、騎士団と交渉しただろうとのことだ。

 

 セツナは、リョハンを目指すための船を手に入れることができた。海を渡るために必要不可欠なものだ。しかも、南ザイオン大陸から遥々大海を渡り、ベノア島までやってきたという実績付きの船だった。これならば、リョハンを目指す長旅にも耐えうるだろうし、それだけの航海技術もあるだろうと安心できた。

 ニーナたちも船のことは安心していいと胸を張っていた。ただし、ニーナは船旅が心底苦手らしく、あまり勧められるものではないと青い顔をしていたが。

 リョハンの位置は不明なままであり、探し出すまでにどれだけの時間がかかるかはわからないが、ともかく、海を渡る手段を得たのだ。これはなにものにも代えがたい成果だといえる。

 ベノア島の諸国で海船を建造中の国を探し出したり、騎士団が船を完成させるのを待つよりも余程良い結果だといえる。なぜならば、ベノア島の国々は、内陸地だからだ。川や湖で船を浮かばせたことはあったとしても、大海を航行したことなどあろうはずもないのだ。航海技術など存在するわけもない。

 その点、帝国軍の航海技術は、ここまでたどり着けた時点で折り紙つきだ。

 なんの心配もいらないのではないか。

 セツナは、そう楽観的に考えていたし、レムなどは、初めて海に出ることに興奮気味だった。

 海を見ることさえ、レムは野営地を訪れたときが初めてだったのだ。あのときは、騒いでいる場合ではないということもあって必死に興奮を抑えていたそうだが、あとになって聞いた話では、かなり高ぶっていたということだ。水平線の果てまで続く青い領域を目の当たりにして、彼女は途方も無いものを感じたらしい。

 

 騎士団は、セツナに恩義を返すことができた、と喜んでいた。

 セツナはとっくに多大な恩返しをしてもらっているというのに、騎士団の尽きることのない感謝ぶりには頭の下がる想いがした。

 騎士団長オズフェルト・ザン=ウォードは、この程度ではセツナへの恩を返せたといい切れるものではないのだという。

『セツナ殿は、このベノアガルドを存亡の危機から救ってくださった英雄。救世主といっても過言ではないのです。この程度の働きで満足されては、騎士団の立つ瀬がない』

 オズフェルトの驚くべき言葉に、ルヴェリスもシドも穏やかにうなずくのだ。

 セツナは、そこまでのことをしたつもりはない。セツナがベノアガルドのため、騎士団のために働いたのは、騎士団への恩を返すためだった。レムを二年もの間守り抜いてくれたテリウスへの感謝を敬意、それにマリアを保護し、尊重してくれていたこともある。それらへの恩返しがため戦ったのであり、恩返しに恩返しをされるのは、少しばかり、不思議な感じがした。

 もっとも、悪い気分ではない。

 むしろ、きわめて爽やかな気分であり、騎士団のそういうところは尊敬に値するものだと再認識したのだった。

 オズフェルトは、騎士団が今後もセツナを支援することを明言し、将来ベノアガルドに立ち寄った際にはぜひ騎士団本部に立ち寄って欲しいといってきた。セツナは一も二もなく了解し、騎士団の姿勢に感謝した。

 

 三者による会談の成果は、そのようなものであり、三者それぞれにとって喜ばしい結果となったことには、セツナも文句はなかった。

「海を渡る手段が確保できてようございましたね、御主人様」

「ああ。まったくだな」

 無事会談が終わり、騎士団本部を後にしたセツナは、レムとともにベノアの中枢区を歩いていた。会談の結果を受けての帝国側との調整については後日行われることとなり、それまでセツナたちは自由の身となったのだ。そのため、セツナはこの時間を利用して、マリアに挨拶するべく、騎士団立大医術院に向かった。

 ベノア島を出るということは、しばらくはここに戻ってこないということだ。無事にリョハンにたどり着けるかどうかさえ、不明なところがある。リョハンにたどり着けたとして、それが何ヶ月、何年先になるのかもわかったものではないのだ。

“大破壊”によって世界はばらばらになった。その影響が今後の旅路に現れてくるのだ。広大な海のどこにリョハンの存在する大地が浮かんでいるのか、まずはそれを探し出さなければならない。長旅になるだろう。

 マリアになにもいわず出ていくなど考えられなかった。

 そもそも、リョハンに行くことになったのは、マリアに勧められたからだ。ファリアたちが待つリョハンに行くべきだ、と。

「船が手に入らなかったら、一生をここで終える可能性があったものな」

 ベノア島内の国々が外海に繰り出すための船を建造しているかもしれないという話は、可能性だけの話であり、それもほんのわずかな可能性といってもよかった。“大破壊”後の混乱から完全に立ち直ったというのであればまだしも、そうではなく、国内情勢のみならず近隣諸国のことを考えなければならない以上、諸外国が船の建造に乗り出す可能性は極めて少なかった。それでもその可能性に賭ける以外にはなかったのだが。

「一生だなんて。ベノアガルドの皆様が船を建造してくださいましたよ、きっと」

「それも甘え過ぎでどうかと想うが」

 セツナが本音を漏らした瞬間だった。

「なにを仰る!」

 背後からわっと声をかけられて、セツナは心臓が口から飛び出るのではないかと想うほどの驚きを覚えた。振り向くと、フロードがそこにいた。

「おおっ、フロードさんか……びっくりした」

「いやこれは失礼」

 フロードがセツナの驚きぶりを見て、すぐさま謝罪してきた。

「ですが、名誉騎士殿。我が騎士団、我がベノアガルドは、あなたには限りない恩義があるのですから、船の一隻や二隻、名誉騎士殿に献上したところで、当然のことですぞ。名誉騎士殿が気にすることなどなにひとつない」

「一隻二隻って、いやいや」

「名誉騎士殿は自己評価が低くすぎますな」

 フロードが表情を険しくしたのは、彼なりに想うところがあったからなのだろう。

「名誉騎士殿がなされたことは、ベノアガルドの歴史に刻まれるべきほどの大事。名誉騎士殿がおられなければ、いずれネア・ベノアガルドによって攻め滅ぼされていたのですからな。アシュトラなる邪神が去ったいま、ネア・ベノアガルドはおそるるに足らず。イズフェール騎士隊との関係も良化し、ベノアガルドの将来は明るくなりました」

 フロードの一言一言が胸に響くようだった。言葉に実感が込められているからだろう。

「それもこれも名誉騎士殿が力を尽くしてくださったおかげにほかなりませんぞ」

「褒めすぎだよ、フロードさん」

「すぎなどと。これでもまだ賞賛したりませんぞ」

「ははは」

「笑い事ではなく、ですな」

 フロードが多少あきれたような顔をした。セツナの反応がよくわからないからだろうが。

「ありがとう、フロードさん」

「はい?」

「フロードさんのおかげで、ベノアガルドでの日々が愉快でさ」

「ほほう。それはようございまするな。わたくしも役割を果たせた、というわけですかな」

「十全に」

 セツナがいうと、フロードはにっこりと笑った。フロードの人懐っこい笑顔は、見るものの心に大いなる安らぎを与える力があるのだとセツナは何度となく認識する。だからこそ、彼は正騎士の中でも特に一目置かれ、セツナたちの世話係を任されていたのかもしれない。

 そんなフロードとも、もうじきお別れとなる。

 寂しいことだが、仕方のないことでもあった。

 ベノアガルドの騎士団騎士たる彼をリョハンへの長旅に連れていくことなどできるわけがない。彼には妻子がいる。家族を放ってセツナたちに旅に同行するなど、あるべきではない。

「名誉騎士殿にそういっていただけたのであれば、なによりでございますな。無論、名誉騎士殿の働きぶりには到底及ぶべくもございませぬが」

「なにをいいますやら」

「そうでございます。フロード様にはフロード様の役割がございますわ。そしてその役割は、ほかのだれにも真似のできないものだと、わたくしは想うのです」

「名誉騎士殿、レム殿……わたくしはなんと申し上げればよいか」

 フロードが目に涙をためながらいってきたことにセツナは驚きを覚えた。レムも驚いていることだろう。まさかフロードが感極まって涙を流すなど、だれが想像するものか。彼は、体を震わせながら、拳を作って自らの胸に当てた。

「おふたりと出逢い、こうしてベノア滞在中の世話役をしてきたことは、生涯の誇りと致しましょう」

「俺も」

 セツナは、フロードに向かって笑顔を向けた。

「フロードさんのこと、一生忘れませんよ」

 それは、約束だ。

 自分自身への約束であり、フロードとの約束。

 ベノアガルド騎士団正騎士フロード・ザン=エステバン。

 彼との出会い、彼との日々は、セツナにとって限りなく有益なものだった。彼がいなければ、ベノアでの日々は酷く味気ないものになっていたに違いない。彼がいて、色々と世話を焼いてくれたからこそ、セツナのような部外者が快適に過ごすことができたのだ。

 彼には、それこそ感謝してもしたりなかった。

 


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