表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第三部 異世界無双

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1681/3726

第千六百八十話 神人

 磁力の猛烈な反発によって打ち出されたラヴァーソウルの刃片は、空中の黒い戦士へと吸い込まれるようにして殺到していったが、撃ち落とすには至らなかった。黒い戦士が翳した手のひらの中に吸い込まれるようにして収まったからだ。そのまま猛然と落下してくる相手を後方に飛び退いてかわし、立て続けに刃片を打ち出す。雨のように絶え間なく打ち出しながら、部下たちに相次いで指示を飛ばす。

「神人の倒し方はわかっているわね? 核を見つけ出し、破壊しない限り、どれだけ肉体を損壊しても動き続けるわよ」

「は、はい!」

「おのれ、エルクの敵っ!」

「熱くならないのよ。冷静に対処なさい。護峰侍団でしょ」

「師匠!」

「エリナはいつもどおり、支援に集中なさい。死なないように」

「はい!」

 エリナが元気よくうなずいた瞬間、彼女の元へ発光する木の根のような物体が殺到したが、隊員の召喚武装が切り裂き、事なきを得る。エリナは即座に後退すると、腕に装着した召喚武装に触れるのが見えた。腕輪型の召喚武装。フォースフェザーと名付けられたそれは、四色の羽飾りが特徴的な腕輪であり、エリナは赤い羽に指で触れた。赤い羽が淡く発光するとともに、羽毛が周囲に飛び散った。そのひとつがミリュウの体に付着した瞬間、彼女は体が異様なほどに軽くなったのを認識した。

 フォースフェザーの赤い羽は、身体能力を強化するのだ。

 エリナの支援によって、隊員たちの動きも目に見えて良くなった。ただでさえ強化されている身体能力がさらに引き上げられたのだ。通常、これだけで戦いは一方的なものになる。皇魔との戦闘でさえそうなのだ。人間相手ならば、もはや目も当てられない。

 だが、この度の相手は、人間などではない。

 神人と呼ばれるものたち。

 それは、この世界が患った病によって、人間ではないものへと成り果てた元人間のことだ。

 白化症と呼ばれる症状がある。人間や動物の体の一部が突如白くなり、変容する症状のことだ。この未知の症状は、“大破壊”後に確認され始めた。“大破壊”以前には確認されたことなど一度たりともなかった症状であり、それこそ、この世界が患ってしまった病なのだという。

 白化症に侵されたものは、二度と、元に戻ることはない。

 少なくとも、現代の医療技術では治療することなど不可能であり、それはマリク神の力を持ってしても同じことなのだという。神の力でも、症状の進行速度を抑えることが精一杯であり、完全に除去することはできないのだ。

 そして、白化症が進行すると、脳や精神までも侵されて正気を失い、ついには見境なく周囲を襲うようになる。そうなれば、もはや殺すしかなくなる。

 結晶化と白化。

 そのふたつこそ、この“大破壊”後の世界を緩慢たる死へと追いやるものなのだ。

 世界が絶望に包まれ、終末思想に染まるのも致し方のないことだ。

 この世に救いなど存在しないのだから。

(だからといって、こんなところで死ねない)

 ミリュウは、黒い戦士の接近を辛くも避けながら、部下の武装召喚師たちと神人たちの戦いに意識を向けた。神人は全部で五体。白化した右半身が異様に肥大した神人もいれば、頭部が変容した神人もいる。白く発光する部位が白化症を発症した部位であり、その部位から攻撃してくるのが神人の特徴だった。たとえば頭部が白化し変容した神人は、異様な速度で伸縮する舌で人体を軽々と切断するし、巨大化した右腕を鎚のように叩きつけてくる神人もいる。

 さらにいえば神人の特徴として、武装召喚師以上の身体能力というものがある。白化した部位に関わらず、とんでもない跳躍力や移動速度、動体視力を誇り、武装召喚師ですら斃すのは困難を極めた。しかも、心臓を破壊しても、首を切り離しても死なないのだ。白化した部位のどこかに隠された核と呼ばれる物質を破壊しない限り、神人はその殺戮を止めなかった。

 爆炎が吹き荒れ、雷撃が嵐の如く巻き起こる。武装召喚師たちの戦闘というのは基本的に派手で破壊的だが、神人との戦いではそれが仇となる場合も少なくなかった。爆煙の中、下半身を吹き飛ばされた神人が腕から足を生やすのが見えた。腕から生えた足で跳躍した神人が、隊員へと殺到する。

「え――?」

 隊員が気づいたときには、その首は胴体を離れていた。

 ミリュウには、隊員を救援する余裕はない。舌打ちしながらも、その事実を認めるしかない。黒い戦士から気を逸らせば、その瞬間、彼女の死は決定づけられる。ミリュウは、部下がひとりでも多く生き残ることを祈りながら、黒い戦士との戦いに集中した。

(どうやら黒い戦士は違うようだけれど……)

 黒い戦士には、神人には必ず存在するはずの白化症の症状が見受けられなかった。白化症の症状は、肉体の白化と変容であり、変容は肥大を伴う。鎧の中に隠れているとは考えにくい。白化症に侵され、神人化したのであれば、鎧をぶち破るほどの変容があるはずだった。それがなかったからこそ油断したというのは、ある。もし黒い戦士が神人化していたのであれば、集落を捜索するよりもまず、問答無用で攻撃しただろう。

 皇魔とは、違う。

 神人や神獣といった、白化症に侵されたものの末路は、人間の敵でしかないのだ。正気を失い、ただ殺戮を行うだけの怪物と化したそれらを生かす道理はなかった。むしろ、殺してやることでしか救えないのだ。

 だから、救えない。

 黒い戦士が地を蹴った。猛然と突っ込んでくる。ミリュウは、後ろに飛ぶ。黒い戦士の大振りの一撃を回避し、着地――したと想った瞬間、彼女は違和感を覚えた。

(え?)

 浮遊感の中で、黒い戦士に向かってミリュウ自身が接近していることに気づいたのだ。そして、彼女は理解する。黒い戦士の振り抜いた右手が開かれ、そこに暗黒球が出現していた。それが、ミリュウの体を引き寄せている。

(こいつの能力は、重力……!)

 ミリュウは、しかし、内心にやりとした。急速接近する黒い戦士が左手で拳を作り、大きく振りかぶった瞬間、ラーヴァソウルの能力を発動する。刃片は、ミリュウのすぐ目の前に展開していたのだ。つまり、刃片ごと黒い戦士に引き寄せられたのであり、黒い戦士が拳を叩きつけんとしてきた瞬間、ミリュウは能力を発動させた。磁力の干渉が生み出す強烈な反発力が、黒い戦士の体を軽々と吹き飛ばし、さらに落下地点に展開していた磁場に激突し、上空へと跳ね上げられる。

 黒い戦士の巨躯は空高く吹き飛ばされると、そのまま為す術もなく落下してくる。黒い戦士が常人であれば耐えられない高度。だが、しかし、ミリュウの思惑は外れる。黒い戦士の落下を神人の肥大した腕が受け止めたからだ。黒い戦士は悠々と地上に降ろされ、ミリュウと対峙する。神人がいなければ倒せたはずだ。

 ミリュウは、改めて神人の厄介さを認識するとともに、黒い戦士の背になにか白い靄のようなものが浮かび上がっているのを見た。それは、ゆっくりと収束し、ひとの形を取っていく。そして黒い戦士を背中から抱きしめるようにした。

 白い少女。

「約束したもの」

 全身が白化し、神人と化したのか、どうか。

 ミリュウは、初めて見る症例に戸惑い、目を細めた。白い少女は、靄などではなかった。確かに実体があり、物理的に黒い戦士に寄りかかっているようだった。ただし、体重があるようには見えない。黒い戦士は、重量を感じているように見えないからだ。全身が神人化すれば、体重もなにも思いのままなのかもしれないし、別の理由かもしれない。

「黒い騎士様がわたしたちを護ってくれるって」

 少女の言葉に黒い戦士がこちらを睨む。

「約束したもの」

 ミリュウの脳裏に閃くものがあった。

 この死線を潜り抜けるには、どうすればいいのか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ