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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第二部 夢追う者共

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第千五百八十一話 ラドゥラ

 七月十日、ヒエルナ大監獄を出発したイシカ征討軍ラドゥラ攻略部隊は、七月十四日、イシカ北西の都市ラドゥラに到着した。

 メレド軍を主体とする大軍勢の兵数はおよそ七千を越え、ラドゥラに駐屯するイシカ軍星剣兵団一千を遥かに上回る戦力を誇った。指揮するサリウス・レイ=メレドは、ラドゥラに迫ると、降伏勧告を出した。戦力差は歴然としており、援軍も望めない。抵抗しても無駄な血を流すだけであり、籠城も無意味であると告げたが、ラドゥラの星剣兵団はこれを拒絶、徹底抗戦の構えを見せた。

 戦力差を理解していないというより、援軍が来ることを信じているような様子だった。イシクスの戦力が応援に駆けつけることを期待しているのではなく、バドラーンのエトセア軍が大挙して押し寄せ、イシカ征討軍を撃退してくれるに違いないと夢想しているのではないか、というサリウスの読みに、ファリアたちはラドゥラの兵士たちを哀れんだ。

 戦闘が始まると、圧倒的な戦力差は、戦闘時間の短さになって現れた。

 ラドゥラの門を閉じ、籠城したイシカ軍に対し、ラドゥラ攻略部隊が取った戦法というのは、地下道からラドゥラ市内に突入するというものだ。メレド軍が地上で敵を釘付けにしている間にファリアらセツナ軍主力が地下道を進み、市内への潜入を果たすと、内側から敵戦力を圧倒し、敵兵に門を開かせた。敵兵は、逃げ場を求めて門を開いたのだが、門を開くと、今度は外からメレド軍、星弓戦団、星槍兵団が雪崩込んできて、敵軍はあっという間に壊滅状態に陥った。北側の門から逃げた敵兵たちと、降伏した敵兵だけが生き延びている。

 地下道からの突入作戦は、星槍兵団長リゲル=リージュの提案によるものだ。

 ヒエルナ大監獄の担当になる以前、彼はラドゥラ常駐軍の指揮を取っていたという。だからこそラドゥラの構造が丸わかりだったというだけのことだ。もし彼がラドゥラの地下道を知らなければ、力押しで攻め立てただろうし、その場合も、さほど変わらなかっただろう。

「なんていうか、楽勝って感じね」

 ミリュウが疲れさえ見せずにいってのけたのは、戦いが終わり、ラドゥラが征討軍の支配下に入ってからのことだ。彼女は、セツナに念を押された通り、擬似魔法に頼る戦い方はしなかった。擬似魔法を使う必要に迫られることもなかったのだ。それくらい、戦力差は歴然としていた。

「まあ、武装召喚師も配備されていなかったし、苦戦している場合じゃあないわね」

 ファリアは大きく伸びをしながら、いった。ラドゥラの防衛戦力は、星剣兵団一千名だけであり、武装召喚師が配備されてさえいなかった。ラドゥラはイシカ領北西部に位置する都市だ。イシカ側の考えでは、たとえガンディア軍が攻め寄せてきたとしても、ラドゥラが戦場になる可能性は低いと考えられていたのかもしれない。

 それに加え、元々イシカの戦力が減少しているというのも大きいだろう。レオンガンド暗殺のために星弓兵団二千を失い、ヴァルター攻略に繰り出した戦力も失っている。その上で各都市に戦力を分散させれば、一千程度になるのも仕方はあるまい。

 また、シーラたちの話によれば、ヴァルター攻略には二名の武装召喚師が投入されていたという。イシカ程度の国が召し抱えられる武装召喚師の数などたかが知れているのだ。数少ない武装召喚師を割くならば、首都の防衛か最前線に配属させる以外には考えられない。となれば首都イシクスを除けば、メレド国境に近いヒエルナ大監獄とズノウを置いてほかにはあるまい。実際、ヒエルナ大監獄には武装召喚師が配置されていて、ドーリン=ノーグの弓が射落としている。

 その武装召喚師が使っていた弓は、セツナ軍所有のものとなり、イルダ=オリオンが扱うこととなった。弓聖サラン=キルクレイドとイルダのどちらが持つかを話し合った結果だ。サランは年齢のこともあり、召喚武装の扱いを習熟するのは辛いと考え、若いイルダのほうがいいといい、彼女に押し付ける形となっている。イルダはイルダで、召喚武装の扱い方などまったくわからないため、困り果てていたようだが、既にエアトーカーを使いこなしているドーリンに色々と教わっているようだ。ラドゥラ攻略には間に合っていないが。

「大将は上手くやっているかねえ」

 そういって椅子に座ったのはエスク=ソーマだ。レミル=フォークレイとドーリンが彼の側についている。

「ただ合流するだけでしょ。なにを失敗することがあるのよ」

「エトセア軍の指揮官は女将軍だって話だぜ」

「そうなんだ?」

「それが、なにか問題でもあるのか?」

 シーラの疑問は、ファリアの疑問でもあった。

「だって俺たちの大将ってば、女に弱いじゃん」

「なるほど」

 ファリアはあっさりと納得したが、ミリュウはそれが気に食わなかったらしい。噛み付いてくる。

「そこ、納得しないの!」

「いやでも、確かにその通りじゃない」

「違うー! セツナが弱いのは、あたしだけよ!」

「んな馬鹿な」

「なにが馬鹿なのよ、この獣女!」

「だれが獣女だこんちくしょう!」

 ミリュウとシーラが呆気なかった戦いのウサを晴らすかのようにぶつかり合う様を横目に見ながら、肩を竦める。

「まーたはじまった」

「元気がありあまっているようだね」

「あれだけ暴れて暴れ足りないんだ。女って」

 とは、メレド軍のシュレル=コーダー、ヴィゼン=ノールンだ。サリウスお気に入りのふたりの少年は、いつ見ても可憐であり、眼福というほかない。シュレルは少年的な可憐さがあり、ヴィゼンは少女のような可憐さがある。

「ミリュウとシーラを女の基準に考えないでほしいわ」

「ファリア、いま聞き捨てならないこと行ったでしょ!」

「聞こえてたぞ!」

 ミリュウとシーラがファリアを睨む。

「ね」

「同意を求められても」

「困る」

 ふたりが困惑する表情もまた実に愛らしいもので、ファリアは満足感を覚えた。



「ラドゥラがこれほどまでたやすく落ちるとはな」

 サリウスは、征討軍の制圧下に入ったラドゥラの市街地を巡察しながら、あまりに呆気なく終わった戦いを思い起こしていた。あまりにも呆気なさ過ぎて、手応えさえなかった。まるで赤子の手をひねるようにあっさりとラドゥラは落ちた。メレド軍が本腰を入れるまでもなかったのだ。ガンディア軍の最高戦力たるセツナ軍の面目躍如といってもいいのだろう。おかげでメレド軍は大した損害を出すこともなく勝利できたのであり、そのことはむしろ喜ぶべきことだった。

 隣を歩くリッシュ=トラウスがこちらを仰いでくる。親衛隊のひとりである彼は、シュレル、ヴィゼンに並ぶお気に入りだ。

「これで、ラドゥラがメレドのものになった、と考えてもよろしいのでしょうか」

「いいのだろう。軍師殿がそう仰られた」

 しかも、口約束などではない。ちゃんと誓約書を交わしている以上、ガンディア側が反故にするはずもなかった。ガンディアは同盟国の盟主であり、同盟を維持するための努力を惜しまない国だ。たとえ裏切られ、敵対してもすぐには武力に訴えず、辛抱強く交渉するところがある。それは同盟という形態が小国家群統一を加速させる上で必要不可欠だと考えているからであり、同盟国との紐帯を太く強くすることこそ重要だとガンディアが考えているからだ。

 メレドにイシカ領土を切り取り次第自国領にしてもいい、といってきたのも、そういう方針からだ。同盟国メレドとの結びつきを強くすることが、ガンディア国王レオンガンド・レイ=ガンディアの悲願を成就させる方法なのだ。

「つぎはイシクスだが、それも問題あるまい。戦力は十分すぎるほどにある」

「イシクス攻略後は、ニシェ、ユルビアを落とし、ズノウを奪還するのですね」

「そうなる。その際はガンディアから戦力を借りたいが、どうなるかな」

「切り取り次第……ということは、メレドの独力で制圧しろといっているようなものですので」

「……無理だろうな。まあ、よい」

 サリウスは、リッシュ=トラウスの賢しら顔に笑みをこぼした。リッシュはわかった風な顔で分かった風にいうところがある。

「イシカという当面の敵がこれによって滅び去るのだ。喜ぶべきことだろうな」

「はい。陛下の、いえ、メレドの悲願が少し、近づいてまいりました」

「少し、な」

 レオンガンドの悲願は、大陸小国家群の統一だ。それは、必ずしもメレドの悲願を阻害するものではない。むしろ、ある意味では一致するといっても過言ではないのだ。小国家群がガンディアを中心に統一されれば、ガンディアに近く、紐帯も強いメレドは、統一化した小国家群においてそれなりの発言力を得られるだろう。となれば、北の国々がヴァシュタリア共同体との橋渡しをしてくれるかもしれない。

 そのためにも、メレドはガンディアの歓心を買っておかなければならない。ガンディアは間違いなく小国家群統一後の中心となる国だ。もっと発言力を持ち、権勢を得るだろう。小国家群統一など、遥か将来のことだとしても、いまのうちから誼を通じておき、ガンディアの権力を利用できるだけの間柄にはなっておくべきだった。

 アザーク、ラクシャ、ジベル、イシカ、マルディアは、レオンガンドではなく、ジゼルコートこそがそれに相応しいと判断したのだろうが、ジゼルコートのようなガンディア第一主義者には小国家群統一などという大それた野心は持てないだろうし、信頼もできなかった。所詮、政治家だ。いくら有能とはいえ、実際の戦場を知らないものになにがわかるというのか。

 ジゼルコートがメレドを味方に加えることを諦めたのは、言動の端々にジゼルコートへの不信が現れていたからに違いない。そしてそれは、ジゼルコート的には正しかっただろう。もしジゼルコートが謀反への同調を持ちかけてきたのであれば、サリウスは即座にレオンガンドに連絡し、ジゼルコートの裏切りを伝えたのだから。

 サリウスは、ジゼルコートのような老人よりも、レオンガンドのような若者を愛でたかった。

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