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武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第二部 夢追う者共

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第千五百二十一話 望みの彼方(十)

「……どうやって?」

 セツナは、突如としてこの空間に現れた四人に向かって、漠然とした質問を投げかけた。四人とも本物であるかの確証は持ち得ないが、少なくともレムは本人に違いなかった。魂の結びつきがあるからだ。一方、セツナが発するという特定波光によって起動しているウルクとは、相互関係がないこともあって本人確認はできなかった。

 とはいえ、偽者を一蹴した三人が別の偽者という可能性は低いだろうが。

「どう……って、ねえ」

「なあ」

 ミリュウとシーラがよくわからないといった表情で顔を見合わせた。

「気がついたらここに転移していたのでございます」

「先輩と同じです」

 とは、レムとウルクだ。ウルクは、下僕参号となって以来、レムとラグナのことを先輩と呼ぶようになっている。

「気がついたら……か」

 セツナは、途方に暮れる思いがした。四人の返答からわかったことは、結局、なにもわからないということだった。しかし、彼女たちがここへ転移されてきた時機は、セツナにとってはこれ以上ないくらいにぴったりであり、もしなんらかの意志が働いているとでもいうのであれば、感謝するほかなかった。たとえ偶然であったとしても、四人の助勢には感謝しかしようがないが。

 四人が四人の偽者を撃破してくれたからこそ、セツナは、窮地を脱したのだ。

 ほっと息をつくと、ミリュウが問いかけてきた。

「で、どうなの?」

「ん?」

「あの偽者が俺たち本人だって想ってたのかってことだよ」

 シーラが、ミリュウの意図を汲んだようにいう。ミリュウの表情から、彼女の意図通りではあったのだろう。セツナは頭を振った。

「……そんなわけないだろ」

「本当なのでございますか?」

 レムが疑問を投げかけてきたものの、本気で疑っているわけではなさそうだった。

「皆が俺に襲い掛かってくることがないことくらい、わかりきってるさ。疑う余地もねえよ」

「別の意味でなら毎日襲われておられますが」

「ミリュウかおまえだけだろ、そんなことしてくるの」

「ミリュウと先輩に襲われているのですか?」

 レムに対する一言にウルクが過剰なまでの反応を示してきたのは少しばかり面白かったが、誤解させてはまずいということで、即座に訂正しておく。

「あー……ただの冗談だ。本気にするなよ」

「了解しました」

 ウルクは不承不承といった様子だった。表情は変わらないし、声に抑揚があるわけでもないのだが、なんとなく、彼女がどういった感情を持っているのか、わかるようになってきている。

「わかってたんなら、どうして倒さなかったのよ。そこがおかしいじゃない」

「そうだぜ。俺たちの偽者なんざ、黒き矛のセツナなら一蹴できるだろ」

「ミリュウ様、シーラ様の仰る通りにございます」

「セツナ、どういうことですか?」

「……どうもこうもねえよ」

 四人に詰め寄られて、肩を竦める。四人がなにをどう想っているのか、痛いほどわかった。彼女たちは、セツナのことを心底案じてくれているのだ。

「俺は、さ」

 セツナは、そんな四人に対し、偽らざる気持ちを告げた。

「たとえ偽者であっても、みんなを傷つけることなんてできねえよ」

「へえ……」

「……かっこうつけやがって」

「これだから御主人様は隅に置けないのでございます」

「セツナ」

 四人の反応は、予想していたものよりもずっと、優しい。もっと厳しく追求されたとしても仕方のない発言だった。

「でも、それでセツナが傷ついたり、殺されたりしたら本末転倒よね」

 ミリュウが困ったような顔でいうと、シーラが彼女の意見を肯定した。

「ミリュウのいうとおりだ。それで死んだら、ただの間抜けだ」

「わかってる」

 わかりきったことだ。

 偽者を対処できず命を落とすなど、間抜け以外のなにものでもない。笑い話にさえならないだろう。だれも同情してくれはしないだろうし、怒りを買うだけのことだ。ミリュウたちにさえ失望されてしまうかもしれない。

「それでも、俺にはできなかったよ。できなかったんだ」

 もし、ミリュウたちが偶然にも現れ、偽者を撃破してくれなければどうなっていたのか。力尽きるまで偽者たちの猛攻を凌ぎ続けることになっただろうし、ほかに打開策がなければそのまま力尽き、息絶えていたかもしれない。だが、それでも彼女たちを傷つけるよりは、ましだとセツナは想った。

 ただの自己満足だ。

 独り善がりでしかない。

 その結果、自分が命を落とした時のことを考えていないわけではない。死ぬわけにはいかない。立場もあれば、国のこともある。居場所を護るならなおさらだし、皆の幸せを望むのであれば、余計に死ぬわけにはいかないはずだ。そんなことは、わかりすぎるくらいにわかっている。

 でも、できなかった。

 本物と寸分違わぬ彼女たちを殺すことなど、できるわけがなかった。

「……まあ、良いではございませんか。皆様とも合流できたわけでございますし、御主人様も無事でございます」

「そういう問題じゃないでしょ」

「そうそう。結果がよくても、それで済む話じゃないぜ。今回ばかりはな」

 話を終わらせようとするレムに対し、ミリュウとシーラが反論する。と、ウルクの視線に気づき、セツナは彼女を見た。いつもの無表情の中に感情が揺れているような気がした。気のせいかもしれない。勘違いかもしれない。しかし、セツナは確かに、ウルクの目の中に瞬く感情の流れを認めざるを得なかった。

「セツナ。わたしの偽者に遠慮など不要です。いえ」

 ウルクが口を開くなり、抑揚のない声音でいってきたことは、ミリュウたちの意見を同じような言葉だと思ったが、続く言葉は、別の意図が含まれていた。

「たとえ本物のわたしであっても、敵となれば破壊してください」

「なにいってんだ?」

 セツナには、彼女の発言の意図がわからなかった。ミリュウもシーラもレムも、セツナと同じく不思議そうな顔でウルクを見た。だれも彼女がなにを考えているのかわからないのだ。ウルクの思考を読むのは、簡単なことではない。少なくともセツナにも完全に把握できるわけではなかった。ウルクの感情の流れも、朧気ながらわかる程度に過ぎない。

「セツナも知っての通り、わたしの開発責任者であり直接の支配者であるミドガルド=ウェハラムは、神聖ディール王国魔晶技術研究所の所長です。ミドガルドは、国の命令に逆らいはしないでしょう」

「……ああ」

 ウルクが続けた言葉で、ようやく、彼女がなにを訴えようとしているのかが掴めてきた。ウルクはさらに言葉を続け、セツナの推測が外れていないことを示した。

「もし、国がセツナと敵対するようなことがあれば、わたしはセツナの敵となるしかありません。それがたとえわたしの使命と相反するものであったとしても、わたしは、ミドガルドの命令を無視することはできません」

「でも……俺はだな」

「わかっています。セツナ」

 ウルクの声が、いやに強く聞こえた。無機的な、無感情な声音でありながら、微妙ながらも感情の起伏を実感させた。その視線も、いつになく感情的に想える。魔晶石で作られた眼球。発する魔晶の光が視線となり、視線には彼女の思考、感情が乗っている。強い光。彼女の中の感情が、昂ぶっていることを示しているようだった。

「いまなら、わかります。セツナ。あなたがわたしたちを想いやる気持ち、いまならわかるのです」

「ウルク……おまえ……」

 ウルクの声音が、揺れた。

 わずかにだが、確実に、感情が込められていた。それはほんの一瞬のことで、幻聴のようにかすかなものだ。しかし、セツナは聞き逃さなかったし、勘違いではないと確信を持つことができた。

「セツナ。わたしはあなたと敵対したくはありません。わたしにとって、あなたは特別な存在です。しかし、ミドガルドがわたしにあなたへの攻撃を命じれば、わたしはあなたを攻撃するでしょう。そのときは、どうか、わたしを破壊してください」

 無感情に戻ったウルクの声音だったが、その言葉に込められた彼女の想いは痛いほど伝わってきた。心に突き刺さる。そういった想いを託され続けている。

「それこそが、わたしの望みです」

 セツナは、ウルクの目を見つめ続けた。

 魔晶人形。人の手によって作り出された人型戦闘兵器。人造人間とでもいうべきものであり、元来、自我もなければ感情も持つはずのないただの兵器として開発されたはずの彼女には、なぜか自我が発現し、自己を確立した。ミドガルドですら奇跡の産物というほかない現象に対し明確な原因を導き出すことはできないままであり、謎を抱えたまま、ミドガルドたち魔晶技術研究所の研究員たちは彼女を完成させるべく奔走した。ミドガルドがこのガンディアを訪れたのもそのためだ。ミドガルドとウルクの目的は、セツナに味方するためではない。黒魔晶石を起動する特定波光を解明し、魔晶技術へと還元するためなのだ。そして、いつかは魔晶人形の量産化を夢見ている。

 ミドガルドはディールが小国家群に侵攻する理由はなく、ディールとガンディアが敵対する可能性は極めて低いというが、それも確実とは言い切れない。

 魔晶人形が量産化した暁には、どうなるのか。

 魔晶人形は、ただそれだけで強力無比な兵器だ。

 戦力としては、並の武装召喚師以上といっていい。いや、一流の武装召喚師さえ凌駕しかねない。なにせ、並の召喚武装では傷つけることすら困難な装甲に守られている上、召喚武装ですら困難かもしれない大規模破壊を容易く行える兵器を内蔵している。小国家ひとつくらいなら、ウルクひとりで滅ぼせるのではないか。それほどまでの戦力を彼女は有している。

 防御力だけでも特筆に値する。いままで彼女を傷つけることができたのは、十三騎士という神の加護を得た存在と、マクスウェル=アルキエルが二十年に渡って紡ぎあげた呪文によって召喚された《時の悪魔》だけであり、それ以外の攻撃でウルクの躯体が負傷したことはなかった。いくら武装召喚師が強くとも、彼女と同じような攻撃を喰らって無傷で済むことはまずありえない。防具型の召喚武装ならばともかく、黒き矛を手にしたセツナですら、場合によっては瀕死の重傷を負う。そういう観点から考えてみても、魔晶人形という戦力は規格外といわざるをえない。

 そんなものが量産された暁には、ディール王国が考え方を変え、小国家群制圧に乗り出したとしてもなんら不思議ではないのだ。

 ウルクは、そういう可能性を畏れているのかもしれない。

「……ったく、どいつもこいつも俺に厄介ごと押し付けやがって」

 セツナは、嘆息するようにいった。

「セツナ?」

 ウルクが小首を傾げるのと、ミリュウとシーラが視線を逸らすのはほとんど同時だった。レムはそんな様子をなぜか面白そうに笑ってみているのだが、彼女も似たようなものだと思わないではない。結局、レムの命もセツナが握っていることに変わりはないのだ。

「そんな約束、できるわけねえだろ」

 告げる。

 シーラのどこか照れたような表情はともかく、ミリュウの物憂げなまなざしが気にかかる。彼女とは、また、話し合わなければならないだろう。

「セツナ。それでは困ります」

「困る?」

「わたしがディールを裏切らなければならなくなる」

 ウルクが心底困ったような顔をしている気がしたが、それはやはり気のせいだった。ミリュウがこともなげに言い放ってくる。

「裏切ればいいじゃない」

「ミリュウ……」

「簡単に言うなあ」

「セツナが好きなんでしょ。セツナの側にいたいんでしょ」

 ミリュウがセツナの首に腕を巻き付けてきたのは、ウルクへのなんらかの主張なのだろう。

「ですが」

「だったら、悩むことなんてないと想うけどなあ」

 ミリュウが横目にこちらをみて、それからウルクに視線を戻す。その表情は、いつになく、柔らかい。

「あたし、あなたのこと、嫌いじゃないし」

「ミリュウ……」

「ま、俺も嫌いじゃねえけどさ、でも、そんな簡単な話じゃあねえだろ」

「そうでございます。だれもがミリュウ様やシーラ様のように自由に振る舞えるわけではございませぬ」

「あっさり国を捨てたあなたがいわない」

「そうだそうだ」

「あら」

 レムは、ミリュウとシーラに言い返されて、苦笑を浮かべた。

「……ウルク。俺はおまえが敵に回っても、おまえを破壊したりなんてしない。その結果俺が死ぬことになったとしても、な」

「駄目よ」

「駄目だ」

「駄目でございます」

 三人が同時に告げてきた言葉に、肩をすくめる。わかりきった反応ではあったが。

「……こいつらはこういうけど、それが俺の本心だ。だから、俺はディールとガンディアが敵対しないことを願うよ」

「……はい。わたしも、そう望みます」

 ウルクが、想いを飲み込むように、いった。

 彼女の中で、なにかが明確に変わりつつある。そんなことをセツナに実感させる出来事であり、彼は、時の流れを感じた。

 


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