表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武装召喚師――黒き矛の異世界無双――(改題)  作者: 雷星
第二部 夢追う者共

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1509/3726

第千五百八話 遺跡調査(二)

 遺跡の入り口とやらは、すぐに見つかった。

 戦闘の余波によって地中より露出した遺跡の一部を中心とした一帯が立ち入り禁止区域に指定され、柵によって囲われていた。その柵で囲われた領域の中で発掘作業が行われており、その発掘作業によって遺跡の入り口が発見されたのだ。現在、その遺跡の入口は、武装したガンディア軍兵士によって厳重に封鎖されており、だれも侵入できないようになっている。

 今回の調査団長ウィル=ウィードの案内によってその入り口にたどり着いたセツナたちは、まるで巨大な化け物が口を開ているかのようにも見えるそれを目の当たりにして、呆然とした。セツナとニーウェの戦闘によって露出したのは、遺跡入り口の門柱だったということだ。

「つまり、その遺跡の一部を掘り出したら入り口が見つかったってことか」

 遺跡入り口前に立ったセツナは、その大きな門を仰ぎ見ながらいった。露出したのは門柱のごく一部だけのようであり、そこから門全体が姿を表すまでかなりの発掘作業が必要だっただろうことは想像がつく。大きな門だ。巨人の末裔が普通に出入りできるかもしれないくらいの高さがあり、横幅も広かった。門が大きいだけではない。門の向こう側、つまり遺跡の通路も同じだけの広さがあった。グリフのような巨躯でも自由に歩き回れそうな空間。

「そういうことです。ただ、入り口だということが判明するまでに時間がかかったのですが」

「なんで?」

「入り口から、内部通路の途中に至るまで土に埋もれていたんです。遺跡の一部に違いないということは見当がついたんですが、それが出入り口だということが判明するのにかなりの量の土を掘り出さなければならなかったんですよ」

「ふーん」

「あんま興味ねえだろ」

 ミリュウが適当な返事を浮かべると、シーラが横目で彼女を視た。

 ちなみにセツナを始め、調査団の護衛は皇魔との戦闘に備え、防具を身につけている。セツナ、ミリュウ、シーラが身につけているのは新式防具の改良品であり、つい先日、ガンディオンに届けられたばかりの代物だった。マルダールの鍛冶職人であり、国王側近バレット=ワイズムーンの実父アロウ=コームスの自信作は、新式防具の防御力を減らすことなく軽量化に成功したという一品であり、セツナたち武装召喚師、召喚武装使いにはこの上なくありがたいものだった。

 ただ、セツナたち専用にあつらえられたわけではないため、それぞれの象徴色ではなかった。青みかかった金属色は、新式防具・改の素材の色そのままなのだという。

「うん」

「あっさり認めたな、おい」

「あたし、セツナ以外のことに興味なんてないし」

「あーそうかい」

 シーラは、投げやりに相槌を打つと、携行用の魔晶灯を掲げた。遺跡内部は真っ暗だった。その暗闇は不気味なほどの静寂に包まれており、なんとも言いようのない雰囲気があった。

「遺跡内部の調査は、皇魔との遭遇や様々な危険性を鑑み、途中で打ち切っています。が、その途中までは魔晶灯を配置しているので、安全かと」

「ほう」

「このように」

 ウィル=ウィードが遺跡内部の壁に手を触れさせると、連動式の魔晶灯がつぎつぎと光を発し、遺跡内部の闇を一掃していった。

「これなら、その途中までは確かに安全そうだな」

「はい」

 ウィル=ウィードはどこか誇らしげな表情をした。調査団の代表として、最低限の仕事はした、という自負でもあるのかもしれない。

 セツナたちは、そんなウィルたちに案内されるまま、遺跡内部に足を踏み入れた。


 遺跡内部は、冷ややかな空気に包まれていた。

 魔晶灯の発する青みを帯びた冷めたような光が、そういった空気をさらに助長するかのようであり、ミリュウはセツナの腕を掴んで離さなかった。そのことについてシーラが何度か苦言を呈したが、ミリュウは知らぬ顔だ。レムがそんな様子を楽しんだり、ウルクは常に周囲を警戒していた。

 遺跡内部の状態はというと、長い間土中に埋もれていたとは思えないほどに綺麗なまま、保全されていた。遺跡の出入り口こそ土で埋まっていたようだが、通路の途中からはそういった気配が一切感じられなかった。土の匂いもなければ、埃ひとつ舞っていない。広く長い通路の壁は、金属のような光沢を帯びており、触った感じも金属のように冷ややかで、硬質感があった。床も天井も同じ素材でできているようだった。何百年も昔から地下に埋もれていたはずなのだが、一切腐食していないところをみると、ただの金属ではないだろうとのことだ。

「こんな遺跡がガンディアにあるなんてな」

「埋葬された文明……でございましょうか?」

「おそらくは」

 レムの質問にウィル=ウィードが自信なさげにうなずく。

「なんだそれ?」

 セツナは、ただ、疑問符を浮かべた。埋葬された文明――聞いたこともない言葉だった。

「セツナって本当なにも知らないのねえ」

「ああ」

「埋葬された文明」

 ウィル=ウィードが足を止めたのは、そこが調査団が以前に到達した最終地点だったからのようだ。壁に設置された魔晶灯はそこが最後であり、その魔晶灯の光が届く範囲から先は、真っ黒な暗闇に閉ざされていた。

「かつて、この大陸に存在したといわれている文明のことです。大分断以来、大陸各地でその遺構が地中から発掘されており、それらに共通項が多く見られるため、一様に“埋葬された文明”と呼ばれるようになったのです」

「へえ」

「とはいえ……この遺跡はどうも違うようですが」

「違うのでございますか?」

「ええ。埋葬された文明の共通項が出入り口の門柱以外に見当たらないのですよ」

「つまり、門柱は埋葬された文明ってやつなのか……」

「そうなりますが、どうでしょうね」

 彼は首をひねった。

「門柱は埋葬された文明の時代に作られたものであっても、遺跡そのものは異なる時代のものかもしれません」

 ウィル=ウィードが携行用の魔晶灯を翳しながら、いった。

「それくらい、内部構造に違いがあるんです」

「歴史上の大発見ってやつですか」

「公表されていないだけで、大陸各地で同様のものが発掘されていたとしてもなんら不思議ではありませんがね」

 彼は皮肉に笑うと、魔晶灯の光が照らす通路の先に足を踏み出した。それを見て、セツナは口を開いた。

「先頭は、俺達が行きましょう」

「ああ……そうですね。頼みます」

「任せてください」

 セツナは自信たっぷりに告げると、口早に武装召喚の言葉を紡いだ。全身から眩い光が爆発でも起こしたかのように噴出すると、右手の内に収束する。光の中から黒き矛が出現し、彼の手の中に落ち着いた。黒き矛を手にした瞬間、意識が膨張したような感覚がセツナに襲いかかる。五感の拡張、身体能力の強化による違和感。もはや慣れたものだが、それでも一瞬は戸惑いを覚える。それは。自分が自分でなくなるような感覚に似ているのだ。その感覚に飲まれれば、きっと自分を見失うのだろう。逆流現象はその先にあるのかもしれない。

 視覚の強化によって闇の先まで見渡せ、聴覚の強化によって、通路のはるか先で蠢く存在を認識する。嗅覚がそれらのにおいを嗅ぎ取り、触覚がそれらの身動きによって生じる大気の震えを感じ取る。完全体となり、覚醒した黒き矛を手にしたことによる五感の強化は、これまでのそれとは比べ物にならないものであり、セツナは、それに振り回されないように全神経を集中させなければならなかった。でなければちょっとした周囲の変化に気を取られかねない。

 感覚が研ぎ澄まされすぎるのも考えものなのだ。

「これが黒き矛……」

「実物を目の当たりにすると、凄まじいですな」

 ウィル=ウィード、ジャン=ジャックウォーが黒き矛の禍々しさに息を呑んだ音さえ、セツナの耳に届く。

「破壊力はもっと凄まじいわよ」

「使者の森の有り様を見れば、わかりますよ」

「それもそうね」

 ミリュウがウィル=ウィードの返事に朗らかに笑うのを背中で聞きながら、セツナは、前進を再開した。


 黒き矛を手にしたセツナの目には、魔晶灯は不要だった。夜目が聞くという次元ではなかった。真っ暗な、光の一切届かない暗闇の中ですら、昼間のような明るさを感じるくらいに見通せている。それほどまでに視覚が強化されているということなのだ。

 以前の黒き矛とは比べるべくもない。

 通路は、依然、金属質の壁や床、天井に覆われたままであり、一本道が続いている。出入り口からここに至るまで直線が続いているのだが、それももうしばらくすれば終わりそうだった。靴音の反響から通路が三つに分かれていることまでわかる。

「この先、三つの通路があるようです」

 セツナがウィル=ウィードたちに向かって告げると、すぐ真後ろから生返事が返ってきた。

「え?」

「この先……でございますか?」

「なにも見えねえけど?」

 ミリュウ、レム、シーラが同じような反応だ。

「見えないが、音でわかるんだ」

「はあ? ちょっと、セツナの耳、どうなってんの?」

「こ、こら」

 セツナは慌てて抗議したものの、ミリュウは耳を引っ張ることを止めなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ