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第千四百九十七話 大刷新(八)


 大刷新によってガンディア軍の人事も大きく変わったことは、触れた。

 ガンディア軍は、方面軍制を採用している。

 ガンディア本土ほか、各方面の軍団をひとつの軍集団とする制度だ。

 現在、ガンディア方面軍、ログナー方面軍、ザルワーン方面軍、クルセルク方面軍、ミオン方面軍という五つの方面軍があり、それぞれ大軍団長によって管理運営されている。

 それら各方面軍の代表者である大軍団長が、それぞれ大きく変わっている。以前まで、左右将軍や一部軍団長との兼任だったのだが、兼任ではあまりに大変だということが判明し、また左右将軍からの訴えがあったため、兼任ではなく、専任の大軍団長が選ばれる運びとなったのだ。

 ガンディア方面軍大軍団長は、先の大軍団長であり第一軍団長と兼任していたマーシェス=デイドロが専任となった。第一軍団長には、第一軍団副団長ラナン=マグナートが就任。その他軍団長に変化はない。以下の通りだ。

 大軍団長マーシェス=デイドロ(専任化)

 第一軍団長ラナン=マグナート(新)。

 第二軍団領シャリア=ユーリーン。

 第三軍団長ザックス=ラングウェイ。

 第四軍団長ミルヴィ=エクリッド。

 第五軍団長ケイト=エリグリッサ。

 新任の第一軍団長ラナン=マグナートは、国王側近のひとりケリウス=マグナートの実弟であり、就任後、どういうわけか《獅子の尾》隊舎にセツナに挨拶するため訪れた彼の印象はというと、ケリウスとはまさに正反対といったものだった。元々セツナに対して冷たいところのあったケリウスとは打って変わって、ラナンは、セツナをガンディアの英雄として扱い、セツナが困惑するほどに感激したのだ。一方的に感激し、一方的に感謝してきたものだから、セツナもどうしていいものかわからなかった。

 ただひとついえることは、彼が軍団長を務める第一軍団は、マーシェス=デイドロのころよりもがらりと雰囲気が変わるだろうということだけだ。


 ログナー方面軍大軍団長は、件の通り、ドルカ=フォームが就任した。これは、第一軍団長兼大軍団長であったグラード=クライドが大将軍付きの副将に抜擢されたため、グラードを大軍団長専任にすることができなかったことが大きい。

 グラードが副将に就任することが決まると、ログナー方面軍の軍団長二名のうちどちらかを大軍団長に選ぶ必要が出てきたのだ。グラードは大軍団長時代、第一軍団長を兼任しており、彼が副将になるということは第一軍団長が空席となる。また、長らく第二軍団長を務めていたレノ=ギルバースは、マルディア・レコンドールの戦いで副長ともども落命し、こちらもまた空席となっていた。第三軍団長アラン=ディフォンと第四軍団長ドルカ=フォームのふたりが大軍団長候補となったのだが、功績を鑑みれば、ドルカが選ばれるのは必然といってよかった。ドルカは、マルディアの戦いにおいて、他の軍団長と比較にならないほどの活躍を見せている。

 ログナー方面軍の大軍団長に抜擢されたドルカは、そのことが余程嬉しかったのか、感極まった様子でなんどもなんどもセツナに礼をいってきたりした。セツナには、彼に感謝される理由がわからず、呆然としていると、ニナ=セントールがこっそりといってきたものだ。

『大軍団長、セツナ様のおかげで日の目を見ることができたようなものですから。常日頃から、陰ながら感謝されているんですよ』

 感激のあまり、普段隠している感情が表面化してしまった、ということのようだ。

 そんなドルカだが、大軍団長就任に当って、ガンディア軍首脳陣と少し揉めている。

 大軍団長は、今回の刷新によって兼任ではなく、専任化することが決まっている。兼任では労力的に無理があるということが左右将軍の実体験として明らかになったからだったし、人材も増えてきたということも関係している。

 ログナー方面軍は、ログナー方面の四都市に拠点を置く四つの軍団によって成り立っているのだが、大軍団長兼第一軍団長であったグラード=クライドが副将となり、第四軍団長だったドルカ=フォームが大軍団長となり、また、第二軍団長の席が空白ということで、軍団長が現状、ひとりしかいないという悲惨な状況になってしまっていた。

 そこで軍は第四軍団副長のニナ=セントールを軍団長に昇格させることとしたのだが、それがドルカには受け入れがたかったらしい。ニナを大軍団長の補佐として認めてくれないのであれば、大軍団長への就任は拒否するという強気な発言には、エインも面食らったという。軍としては第四軍団の事情に詳しいニナにドルカの後を任せたかったが、ドルカを大軍団長に据えることのほうが重要だと判断し、ドルカの意見を飲んだ。

 ニナ=セントール本人も、軍団の長になるよりもドルカの補佐を務めたいという気持ちのほうが強く、ドルカが自分の気持ちを代弁してくれたことを心の底から感謝している様子だった。もちろん、首脳陣がドルカの意見を飲んだのは、そういった背後関係を理解してのことだ。なりたくもない軍団長に据え付けるよりも、これまで通りドルカの補佐を任せたほうがニナも実力を発揮するに違いない、とエインたちは考えたのだ。

 ただのドルカのわがままならば、軍が受け入れるはずもない。

 ちなみにログナー方面軍の人事は、以下のようになった。

 大軍団長ドルカ=フォーム。

 大軍団長補佐ニナ=セントール。

 第一軍団長 コイル=ダナー(新)。

 第二軍団長 テオドア=ゲイン(新)。

 第三軍団長 アラン=ディフォン。

 第四軍団長 エイラ=ラジャール(新)。

 アラン=ディフォン以外は新顔の軍団長であり、コイル=ダナーのみが副長経験がある。第二軍団は軍団長、副長ともども戦死したため、生き残った部隊長の中から選び抜かれている。第四軍団長エイラ=ラジャールは、その家名からもわかる通り、エインの血縁であり、従姉だそうだ。第四軍団ではニナに次ぐ地位を築き上げていたといい、ドルカ、ニナが昇格したために軍団長に抜擢された。エインは、身内贔屓と思われたくないから別の部隊長を推薦したそうだが、ほかの推薦者に押し切られ、エイラが軍団長になったということだそうだ。

 エイラ=ラジャールは、ログナーの女騎士のひとりであり、セツナと因縁のあるエレニア=ディフォンの同期だという。が、エイラは、エレニアやエインとはまったく異なる人生を歩んでいる。ログナー末期、アスタル=ラナディースが謀反を起こした。そのとき、エレニアやエインはアスタル側につき、ログナーという国を変えるべく奮戦していたが、エイラは、反アスタルの側につき、アスタルを逆賊として討とうとしていたという。

 ログナーの王子であり、ザルワーンに留学していたアーレス・レウス=ログナーを御旗に掲げ、アスタル率いるログナー軍に戦いを挑んだ彼女たちだったが、グレイ=バルゼルグ率いるザルワーン軍が急遽帰国したことで孤立、ログナー軍がガンディア軍に敗れた後、レコンダールを占拠し、武装蜂起したが、セツナがそれを制圧した。エイラは、辛くも戦場となったレコンダールを脱出、身を潜めていたが、従弟であるエインの活躍を知り、ガンディアに帰属、軍に所属した。アスタル派のドルカたちともそれなりに上手くやっていたようであり、彼女が軍団長に昇格することに異論を上げるものはいなかったということだ。

 第四軍団はセツナの領地であるエンジュールに程近い都市バッハリアを拠点としているため、今後、なにかと関わることがあるかもしれない、ということでエイラ=ラジャールみずからが挨拶に訪れている。美少年エインを女性らしく成長させたような美人であり、彼女が隊舎を訪れたとき、ミリュウやシーラが妙に警戒したことはいうまでもない。無論、エインならざる彼女が熱狂的なセツナ信者であるわけもなく、彼女たちの杞憂で終わったが。

『軍師様から聞いているかもしれませんが、ログナー方面軍第四軍団長を務めることになったエイラ=ラジャールです。今後とも、よろしくおねがいしますね』

 どこかさっぱりとした印象のある女性だった。

 ログナー方面軍大軍団長ドルカ=フォーム、大軍団長補佐ニナ=セントールのふたりは、人事が発表された日のうちにログナー方面軍とともに任地に向かった。


 ザルワーン方面軍は、第二軍団長と大軍団長を兼任していたユーラ=リバイエンが大軍団長に専念することになった。よって、第二軍団長の席が空いたが、副長のオージュ=クオランが自動的に昇格している。それ以外に人事の変動はなく、そういう意味では安定した方面軍といえるだろう。

 ザルワーン方面軍はこのようになっている。

 大軍団長 ユーラ=リバイエン。

 第一軍団長 ミルディ=ハボック。

 第二軍団長 オージュ=クオラン。

 第三軍団長 ネクス=フェール。

 第四軍団長 カリム=ラジル。

 第五軍団長 ザーク=カザーン。

 第六軍団長 ゴート=フォース。

 第七軍団長 フォウ=ヴリディア。

 アバード動乱の影響でマルディア救援への参戦は見送られたものの、ガンディア奪還ではいくつかの軍団が参加し、また、ザルワーン方面の防衛のために尽力してもいた。ザルワーン方面がジベルによって蹂躙し尽されるようなことがなかったのは、ザルワーン方面軍が守り抜いたからなのだ。もっとも、ナグラシア、スルークの二都市が落ち、レムとエスクたちに頼らなければならない状況に陥ったという話も聞いているが、相手が武装召喚師率いる強敵ならば、仕方のないことだ。

 ガンディアも、各方面軍に多数の武装召喚師を配備できるような状況にあるわけではないのだ。

 もちろん、全方面軍、全軍団に武装召喚師を配備することができればそれに越したことはない。各国、武装召喚師の登用に躍起になっており、いかに武装召喚師の数を揃えることができるかが勝敗の分かれ目になりつつあった。

 ベノアガルドのような武装召喚師を必要としない国もあるが、大半は、そうではない。武装召喚師が戦力の要となりはじめている時代の流れに逆行することは、自殺行為にほかならないのだ。

 ガンディアも手早く武装召喚師を集める一方で、将来的に武装召喚師を充実させるべく独自に武装召喚師の育成機関を設けるなどの試みを始めている。

 

 ミオン方面軍は、右眼将軍アスタル=ラナディースが大軍団長を兼任していたが、アスタルの大将軍就任にともない、第一軍団長であったティナ=ミオンが昇格することに決まった。ティナ=ミオンのひととなりについては、セツナはよくはしらない。ミオン王家に連なる人物であり、同盟国ガンディアを裏切り、地に落ちたミオン王家の名誉を回復させるべく、日々奮闘しているという噂を聞いているだけだ。エインらの話から、並の武人ではないとのことだが。

 大軍団長 ティナ=ミオン(新)。

 第一軍団長 マルガ=フウン(新)。

 第二軍団長 ヒルベルト=アンテノー。

 第三軍団長 ユベイル=ウェーザー。

 ティナが大軍団長となったことで、第一軍団長には副長だったマルガ=フウンが昇格している。それ以外の人事に変化はなく、謀反後、ジゼルコート軍の敵意に晒されながらもミオン方面を守り抜くためとはいえ、軍団長らに犠牲が出なかったことが伺える。

 ヒルベルト=アンテノーは、ガンディア本土からラクシャに撤退するラクシャ軍に情け容赦のない攻撃を浴びせたといい、ユベイル=ウェーザーの追撃によってラクシャ軍は這々の体でラクシャに逃げ帰っていったというミオン方面軍からの報告には、ラクシャの裏切りに業を煮やしていたガンディアのひとびとは溜飲を下げたものだ。

 ミオン方面軍としても、隣国ラクシャの裏切りは腹に据えかねていたのだろう。


 クルセルク方面軍も、人事異動があった。

 以前、クルセルク方面軍の大軍団長を兼任していたのは、左眼将軍デイオン=ホークロウだ。デイオンは、左眼将軍という軍における立場こそ変わっていないものの、クルセール領伯という肩書が増えている。が、彼が大軍団長を降りることになったのは、そういう理由ではなく、デイオン本人が大軍団長ほどの大役は兼任で務まるものではないと苦言を呈し、専任化の流れを作ったからだ。そうなれば無論、デイオンは左眼将軍専任となり、大軍団長は空席となる。

 その大軍団長には、クルセルク方面軍第三軍団長を務めていたセラス=ベアトリクスが選出された。セラス=ベアトリクスは、デイオンがクルセルク方面軍大軍団長に就任した直後から、彼の右腕としてクルセルク方面の掌握に尽力した逸材であり、デイオンが後任とするならば彼女を置いてほかにはいないと強く推したという。クルセルク方面の事情についてはデイオン以上に詳しいものもいないため、彼の推薦通り、セラス=ベアトリクスが大軍団長となり、第三軍団長には、副長を務めていたというエルザ=メインが昇格した。

 大軍団長 セラス=ベアトリクス(新)。

 第一軍団長 シルヴァ=サード。

 第二軍団長 ヘルガ=メイン。

 第三軍団長 エルザ=メイン(新)。

 第四軍団長 ファルクス=ファランクス。

 第五軍団長 バナン=トーカー。

 第六軍団長 ヴィゲット=ビスケー。

 第七軍団長 ムーク=バート。

 第八軍団長 ガイ=ジュード。

 ほかに人事面での変動はないものの、クルセルク方面軍は、ケルンノールの戦いで多数の死者を出しており、これから兵員の補充を行わなければならないという話を聞いている。もっとも、兵員の補充を行わなければならないのは、なにもクルセルク方面軍だけではない。ザルワーン方面軍の人員不足は深刻だし、ログナー方面軍第三軍団など、崩壊しかけたままだ。

 戦争だ。

 勝利を得るには、相応の犠牲を払わなければならない。

 そして、犠牲を出したくなければ、戦争など起こさないことだ。戦争に頼らず、政治で解決するべきなのだ。それができないから戦争となり、互いに犠牲を払い続けることになる。

 レオンガンドもそのことは理解しているし、だからこそ出来る限り政治で解決しようと努力している。しかし、どうにもならないこともある。たとえば、マルディアからの救援要請など、政治努力でどうにかなるものではない。マルディア王家を打倒しようとする反乱軍を部外者のガンディアが宥めたところで解決に至るはずもない。むしろ怒りを買い、余計な混乱を招くだけだ。

 ベノアガルドの騎士団もまた、交渉の余地などなかった。

 戦う以外の道がなければ、戦うしかないのだ。

 目を瞑り、耳を塞ぎ、嵐が過ぎ去るのを待つことなどできない。そんな子供だましがまかり通るのであれば、だれもがそうするだろう。それでなにも失わずに住むのであれば。それでだれもが不幸に落ちずに済むのであれば。

 しかし現実はそんなに甘くはない。

 嵐は、無慈悲にもなにもかもを奪い去っていく。

 目を閉じた瞬間、視界にあったものは消え去り、耳を閉ざせば、聞こえていた声も失われる。

 だから戦うのだ。

 戦うための力を得ようというのだ。

 軍事力もまた、政治的に利用できないわけではない。

 弱小国の発言など意に介されることもないが、強国の言葉には、耳を傾けるものだ。

 ベレルがそうであったように。

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