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第千三百十一話 サントレアの攻防(三)

 開戦直後から怒涛のような戦闘が続いているのは中央からでもわかった。

 報告によれば魔晶人形の内蔵兵器・波光大砲による砲撃は、敵軍の何らかの方法によって防がれてしまったものの、それ以降は、エインたちの思惑通りに推移しているということだった。

 本陣からの指示はアレグリアに任せ、エインは自陣中央付近に陣取っている。前線からの報告を受け取り、必要があれば伝令を使って指示を飛ばす。救援軍の軍師は、エインとアレグリアのふたりに任されており、ふたりの指示が優先的に処理された。

 前線は、まさに大激戦という状況だった。

 ようやく動き出した中央とは異なり、前線は開戦と同時に戦闘が始まっており、騎士団部隊との接触も早かった。戦場に出ている敵軍は騎士団部隊のみであり、反乱軍の部隊はひとつとして見当たらない。まず間違いなくサントレアに籠っているのだろう。反乱軍の部隊を長駆させ、本陣を奇襲させるような策は取るまい。分の悪い賭けにもほどがある。救援軍が本陣奇襲を警戒して防御を強固にしていることくらい想像しているだろうし、その防御を突破するには、小部隊では無理がある。奇襲に大部隊を派遣するのは意味がない。事前に発見され、奇襲の意味がなくなるからだ。だから、反乱軍の部隊による奇襲はないと断じた。

 それをするならば騎士団の部隊を使うはずであり、騎士団が五部隊ともサントレアに展開している時点で、奇襲部隊の存在は否定された。六つ目の部隊がいて、どこかに潜んでいるという可能性も少なくはないが、サントレア南方を捜索したところ、敵の気配はなかった。奇襲はありえない。

 よって、サントレアの奪還には、目の前の敵軍を蹴散らしてサントレアに至り、サントレア内部の反乱軍を撃退するだけでいいということになる。

(だけでいい、というほど気楽なものじゃないけれど)

 相手は、あの騎士団だ。

 兵士ひとりひとりが強力で、なおかつ指揮官である十三騎士の力量は圧倒的というほかない。かつてのセツナと同等の実力だというのだ。それが五人も出張ってきている。普通に戦って勝てる相手ではない。

(そう、普通に戦うのは無理だ)

 正面から力比べをするべき敵ではない。

 物量ではこちらのほうが圧倒しているとはいえ、戦力的な差はわずかと見たほうがいい。なにせセツナが五人もいるのだ。並大抵の戦力では、セツナを足止めすることも困難だ。だから、主力をぶつけるしかない。主力に十三騎士を任せきり、その間にサントレアを落とすほかないのだ。

 シールウェール、レコンドールと同じだ。

 敵主力を引き離し、その隙に都市を奪還する。

 ほかに方法がない。

 十三騎士をひとりずつでも撃破できるのであればそうするのもありなのだが、いまのところ、五人の十三騎士をひとりずつ撃破する算段は立てようがない。相手も理解していることだろう。仲間との連携が取れなくなれば、一方的に殺されることだってありうると。

 十三騎士は、自分たちの実力を過信していない。

 レコンドールやヘイル砦からのあざやかな撤退を聞く限り、彼らは自分たちの実力を完全に把握し、故にセツナ相手に一対一で挑もうとはしないのだ。多対一。でなければ、セツナに押し負ける可能性を知っている。

(そこに付け入る隙がある)

 つまり、セツナを自由にするわけにはいかないという事情が、敵側にあるのだ。セツナを自由にさせれば、敵側にとって不利になりかねない。だからセツナに十三騎士を集中させる。

 セツナさえ倒してしまえば、あとはどうとでもなると考えている。

 そしておそらく、それは間違いない。

 セツナが落ちれば、救援軍の戦力が激減するだけでなく、戦意そのものも大きく低下するだろう。一部、セツナの報復のために激怒し、戦意を燃やすものもいるかもしれないが、微々たるものだ。全体としての士気は下がる。そうなれば、敵が勢いづき、押し負ける。

 故にセツナを落とさせるわけにはいかない。

 だが、セツナに敵主力を集中させなければならない。

 矛盾。

 エインは、遠眼鏡を覗き見、セツナたちが前線から離れていくのを確認した。

 セツナは、作戦上、自軍の進軍路から離れる必要があった。十三騎士はセツナを優先的に狙っているものの、セツナだけを攻撃するとは限らない。こちらの目論見に気づけば、救援軍に打撃を与えるべく行動するかもしれない。そのように動いたとしても対処できるよう、救援軍の進軍路から十三騎士を引き離すのがセツナの役割だった。幸い、十三騎士の狙いはセツナだ。セツナが移動すれば、騎士たちも追従せざるをえない。

 セツナを自由にさせる訳にはいかないからだ。

 そうして進軍路から十三騎士がいなくなったところを救援軍の全戦力が侵攻するのだ。

 もちろん、敵は十三騎士だけではない。騎士団兵四千強がサントレアまでの道を阻んでいる。だが、精強極まる騎士団兵には物量戦を仕掛ければいいのだ。物量戦が効果的なのは、ヘイル砦奪還戦からも明らかになっている。

「数は力ですよね!」

「ああ」

 シーナ=サンダーラの元気な声に励まされるようにしながら、エインは作戦の推移を見守り続けた。


「セツナ様が血路を開いてくださったぞ! 進め進め! 騎士団なんぞ、押し潰せ!」

 ログナー方面軍大軍団長グラード=クライドの咆哮にも似た号令が前線部隊に響き渡ったのは、最前線のセツナたちが十三騎士を進軍路から引き離すことに成功した直後のことだった。そのころには前線を受け持つログナー方面軍各軍団は騎士団部隊と交戦しており、騎士団兵士の強さにログナーの精兵たちですら苦戦を強いられていたのだが、グラードの激励は、ログナー兵の奮起を促すことに成功した。

 ドルカ=フォーム率いる第四軍団も、大軍団長の激励を耳にして、奮起した。ドルカ自身が先頭に立って敵軍に突っ込み、兵士たちに後に続くよう促すと、ニナ=セントールが雄叫びを上げながら突貫、部隊長以下兵士たちが続々と騎士団部隊の左翼を貫いた。

 敵軍は、騎士団の部隊が五つ、扇型攻陣を形成するように布陣しており、そのまま突っ込んできていた。扇型攻陣とは、扇状に布陣する陣形のひとつであり、扇の支点を先頭にした形のことをいう。逆を扇型防陣といい、護りに適した陣形として知られている。つまり、騎士団は攻撃を優先する陣形を取っていたということだ。

 開戦直後から今に至るまで、救援軍の前線を受け持つログナー方面軍各軍団と交戦状態に入っていたのは騎士団の最前面に布陣した部隊のみであり、残りの四つの部隊は、ドルカ軍が騎士団部隊を突破したとき、ようやく前線に到達していた。両翼の部隊が先頭の部隊に合流し、崩壊状態から立て直すと、最右翼と最左翼の部隊がログナー方面軍を左右から挟撃する。ログナー方面軍は一時にして不利になったものの、ログナー方面軍など前線部隊でしかない。

「多いねえ」

「数では、こちらのほうが多いですよ」

「そうだけどさ」

 ドルカは、ニナの反応に苦笑した。確かにその通りだ。ログナー方面軍の後方両翼に展開していたガンディア方面軍が前線に出てくると、ログナー方面軍を挟撃中の騎士団部隊の後背を突く。そこへガンディア所属の傭兵団やメレドの軍勢、マルディア政府軍が猛攻を仕掛け、前線は激戦区となる。

 前線部隊を貫いたドルカ軍だけが、宙に浮いた駒となる。

「ひとりひとりの力量差を考えると、あまり楽観はできないかな」

 ドルカは、騎士団兵の強さに内心辟易していた。ひとりひとりの質が凶悪とさえいっていいほどだった。十人力といってもいい。剣の腕にそれなりの自信のあるドルカですら、騎士団兵ひとりを倒すのに骨が折れた。一対一で戦ってはいけないということも理解でき、彼は配下の兵士たちに徹底させた。最低でも二対一に持ち込むべきであり、できれば複数人でひとりに当たるべきだった。でなければ、騎士団に打ち勝つことはできない。幸い、兵数では救援軍が上回っている。数の力を頼みにできるのだ。それだけで勝機が見えた。

 とはいえ、騎士団兵が一対多にならないよう戦い始めればその限りではない。一対一になれば確実に押され、同時に相手にする騎士団兵のほうが多くなれば確実に負ける。ドルカといえど、ふたりの騎士団兵を相手になどできない。召喚武装の恩恵を受けているグラードならばその限りではなさそうだし、前線で騎士団兵を薙ぎ倒している彼の姿を見ていると、召喚武装の凄まじさというものを改めて理解できるようだった。

「セツナ様が十三騎士を引き受けてくれるだけ、ましじゃないですか」

「そりゃあそうだ」

 再び、笑う。

 騎士団兵士でさえこれなのだ。黒き矛を手にしたセツナと同等の実力を持った騎士が五人もいて、それら十三騎士は、セツナを倒すためなのか、セツナに殺到している。セツナたちは苦戦を強いられているようだが、持ちこたえてもいる。そのおかげで、ドルカたちは十三騎士という強敵と戦わずに済んでいるのだから、感謝するしかないし、出来る限り持ちこたえてほしいと願うしかない。

「じゃあ、行くとするかね」

「はい」

「ドルカ軍のみなさ~ん、行きますよー」

「皆の者、ドルカ軍団長に続け!」

 ニナの鋭い号令を背後に聞きながら、ドルカは、馬を走らせた。奪還するべきサントレアまでの進路上、敵はひとりとしていない。左方に十三騎士と激戦を繰り広げるセツナたちの姿があるが、彼らが突然目の前に現れ、進路を塞ぐということはありえないだろう。もちろん、十三騎士が気まぐれに攻撃してこないとも限らないが、それは、前線で戦っていても同じことだ。

(なに、攻撃されればそれまでのことさ)

 そのときは、部隊が壊滅するだけのことだろう。

 いずれにしても、サントレアを奪還しなければならないのだ。そして、サントレアさえ奪還すれば、このマルディアの救援は終わる。少なくとも、反乱軍の勢いは死に、政府軍の勢いはいや増すだろう。反乱軍を根絶しない限り、騎士団と戦い続けることになるかもしれないが、いまはとにかくサントレアの奪還を成し、この戦いに勝利をもたらすことが先決だ。

 もっとも、サントレアには反乱軍の戦力が残っているだろうし、激戦が予想されるのだが。

(反乱軍なら、騎士団より与し易い)

 ドルカは、少しばかり楽観的な気分で、敵一人いない戦野を駆け抜けていた。

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