表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1288/3726

第千二百八十七話 彼女は死神

 敵陣を突破し、開放されたままの南門を突破した直後、レムがセツナの窮地に気づいたのは、“死神”の視野を共有しているおかげでもあった。“死神”使いは、“死神”の見ている風景をそのまま脳裏に投影することができるのだ。それはクレイグ・ゼム=ミドナスの“死神”使いだったころからの能力であり、セツナの“死神”使いとなってからも失われなかった能力だ。視覚、聴覚、嗅覚辺りの感覚を共有することで、レムは“死神”を使っての情報収集を行うことができた。もっとも、武装召喚師たちの超感覚が強力ということもあって、レムと“死神”の能力が戦術に寄与したことはほとんどなかったし、戦況を変えるようなものではない。

 しかし、今回のように離れてしまった仲間の状況を確認することができるというのは利点というほかなく、レムは、“死神”の視野の広さ、視力の良さに感謝したくなった。

“死神”の視線の先で、セツナが窮地に陥っていたのだ。

 セツナは、十三騎士カーライン・ザン=ローディスのみならず、別の騎士と、さらに三人の武装召喚師と思しき敵に囲まれていた。斬撃の嵐が吹き荒れ、セツナを追い詰めんとしている。

「シーラ様、ウルク様、市内はわたくしにおまかせ下さいませ」

「なにいってんだ?」

「レム?」

 シーラがきょとんとし、彼女の部下たちも、ウルクも困惑する。

 敵陣をなんとか突破し、ようやくレコンドール市内に侵入したばかりなのだ。レコンドールを制圧するのがシーラたちに与えられた任務であり、そのためにセツナや星弓兵団が外で激闘を繰り広げている。いまのうちに市内の敵を一掃し、反乱軍の手より奪還しなければならないというのに、市内をレムに任せろというのは、どういう了見なのか。状況がわからない彼女たちがきょとんとするのも、道理だった。

「わたくしは、御主人様が生きている限り、どのような目に遭おうとも死にませぬ。死んでも、死にませぬ。何度でも再生し、何度でも復元し、御主人様の影となり、死神となって舞い戻りましょう。ですが、それはつまるところ、御主人様を失えば、わたくしも死ぬということでございます。皆様方には、御主人様の援護に向かっていただきたいのでございます」

「セツナの援護? どういうことだ? まさか……」

「そのまさかなのでございます。ただいま、御主人様が窮地なのです。いくら御主人様といえど、あの状況を脱するのは困難かと」

 無論、セツナを信頼していないわけではない。むしろ、信じきっている。セツナならばどのような苦境も打開するだろう。だが、十三騎士ふたり――もうひとりも十三騎士だろう。間違いなく――と、召喚武装を駆使する三人を相手にすれば、負傷もせずに状況を打開できるとは考えにくい。軽い傷くらならばまだしも、深手を負う可能性だって少なくはなかった。深手を追ったとして、五対一の圧倒的不利な状況を打開できたのであれば賞賛に値するが、かといって重傷を負わせるわけにはいかないのだ。

 セツナがここでカーラインたちを倒しきったとして、その結果、今後の戦いで使い物にならないような状態に陥られては、救援軍の士気に関わる。

 いや、レムたちの戦意に関わるといっていい。

 むしろ奮起するかもしれないが、セツナが治しようのない深手を負う可能性は、看過できるものではなかった。

 だから、援軍を差し向けるのだ。

 当然の判断だ。

「しかし……」

 シーラが逡巡したのは、おそらく市内制圧を任されたからにほかならないだろう。外のことは自分に任せろというようなセツナの発言が彼女の考えを引っ張っている。無論、レムとしてもそうしたいのはやまやまだった。

 黒き矛が本調子ならば、そうさせたかもしれない。

 だが、黒き矛は、眠りについたままだ。叩き起こそうとしても起きない。もしかすると、十三騎士らとの激しい戦いの最中目を覚ましてくれるかもしれないが、期待していいものではない。

「先輩のいうとおりじゃ。市内の雑魚など、先輩ひとりで十分なのじゃ」

 シーラの肩の上で、ラグナが言い切った。ラグナはいますぐにでもセツナの元に飛び立ちたくてうずうずしているようだった。彼がセツナの援護に向かってくれれば、一先ず安心だろう。ラグナは、ドラゴンであり、魔法の使い手だ。特に彼の防御魔法は、十三騎士の攻撃からシーラを守り切ったという実績がある。セツナを護るために魔法を使うことが魔力の無駄になるとは、レムは一切思わなかったし、ラグナも思うまい。

「いまはセツナのほうが危険か」

「はい。ですので、御主人様をお頼み申し上げます」

「わかった。セツナのことは任せてくれ。俺としても、セツナを失うわけにはいかないからな」

「先輩、くれぐれも気をつけるのじゃぞ。死なぬとはいえ、な」

「ラグナ、ありがとう。しかし、気遣いは無用ですよ。わたくしは、御主人様のためとあらば、無敵にございます故」

 レムは、ラグナに向かって笑顔で告げると、彼がシーラたちとともにレコンドールを後にし、騎士団兵士の群れの中を突っ切るのを見送った。

「ではレム、わたしもセツナの援護に向かいます」

「ウルク様、御主人様のこと、よろしくお願い致します」

「任せてください。セツナは必ずわたしが守ります」

 ウルクの頼もしさはなんともいいがたく、レムは、笑みを絶やさなかった。実際、ウルクはセツナを一度窮地から護ってくれている。彼女がなぜセツナのことを主と認識し、セツナを護ることを最優先しているのかはわからないが、彼女がセツナを護ってくれるのは疑いようのない事実であり、また、魔晶人形の能力は頼りになった。

 召喚武装にも対抗できる鉄壁の防御力と、城壁に大穴を開けた攻撃力は、十三騎士にも通用するだろう。

 ウルクが左腕の波光砲を連射して、先行するシーラたちを援護する。波光の爆撃が騎士団兵士をつぎつぎと吹き飛ばし、シーラたちの進路を開けた。シーラたち黒獣隊は、ウルクが開いた血路を突き進み、レコンドールの外、堀の内側へと至る。そして、嵐のような激闘を繰り広げるセツナの元へ、シーラが特攻した。シーラは召喚武装の使い手だ。ハートオブビーストの能力によって身体能力を大幅に底上げされた彼女は、セツナへの攻撃に参加する桃色の髪の女を攻撃し、セツナとの戦闘から引き剥がした。これで四対一になる。続いて黒獣隊の弓射が、緑の髪の女の注意を引き、そこへウルクの放ったものであろう光弾が飛び込んだ。緑の髪の女は、光弾の爆発を恐れて戦場から離れ、ウルクと対峙する。黒獣隊は、ウルクに緑の髪の女を任せると、追いすがる騎士団兵士たちの相手をするべく反転した。星弓兵団の援護射撃があるものの、数の上では不利だ。黒獣隊は壊滅するかもしれない。だが、セツナを失うよりはずっとましだ。彼女たちには悪いが、セツナを護るためだ。

 とにかく、レムの判断によって、セツナは、五対一から三対一という状況になった。セツナはシーラたちになにかいいたそうだったが、彼の言い分は、戦いが終わってから聞けばいい。セツナが不利なのは、三対一になったいまも変わりがないのだ。桃色の髪の女と緑色の髪の女は、セツナとの戦いに本格的には参戦していなかった。これから参加するといったときにシーラとウルクが引き離すことに成功したのだ。あのまま放置しておけば、間違いなくセツナを追い詰めるために参戦しただろう。あのふたりを引き離すのは正解だ。シーラの能力を考えても、彼女が二刀流の剣士や十三騎士ではなく、桃色の髪の女を攻撃したのは、正しい判断だった。ウルクには、十三騎士のいずれかを攻撃して欲しかったが、彼女がそうしなかったのは、セツナを巻き込む可能性を考慮してのことだろう。十三騎士と二刀流の剣士は、セツナとの戦いの真っ只中だった。

 レムは“死神”の視野によってそれらを確認すると、一先ず安心した。まだセツナの置かれている状況が大きく改善したわけではないものの、さらなる苦境に陥るのは未然に防がれた。防戦一方ではあるが、加速し続けるセツナの様子を見る限り、三対一ならば、なんとか対応できるようだった。過信はできない。できればレムも参戦し、十三騎士のいずれかでも引き受けたいのだが、そういうわけにもいかなかった。

“死神”を自分の元に移動させながら、周囲を確認した。

 レムの周囲には、反乱軍の兵士と思しきものたちがぞろぞろと集まり始めていた。

 市内の各地に配置されていたのだろうが、南門の状況を重く見た指揮官によって南門周辺に戦力を結集させたのかもしれない。

 装備からなにから統制の取れた騎士団兵士たちとは異なり、反乱軍兵士たちは雑多な装備に身を包み、それぞれ多種多様な武器を構えていた。しかし、反乱軍を構成するのは、元々マルディア軍に所属していた正規兵であり、騎士団に比べて統率が取れていないように見せるのは、単純に騎士団の統率力が優れているからだろう。反乱軍の兵士たちの動きも、決して悪いものではない。

(ですが、こちらに戦力を集中させるのは悪手というほかございませんね)

 レムは胸中でつぶやくと、みずからは大鎌を構え、“死神”には剣を構えさせた。剣は、騎士団兵士から奪い取ったものであり、柄頭にベノアガルドの紋章が刻まれている。

 レコンドール市内は、城壁の特別な高さ、分厚さから想像できる通り、城塞化していた。まさに城塞都市といっていい風景がレムの視界に広がっており、守り手に有利な構造が作られているらしかった。攻め手は、城塞化した都市の攻略に苦戦を強いられること間違いない。

 とはいえ、反乱軍はその有利な状況を捨てるかのように、レムの前方に横たわる広場に兵士たちを集めており、レムには少しばかり理解し難い状態だった。敵兵の数は、多い。それこそ百や二百どころの話ではない。千を越える兵士が、レムの視界の内外に配置され、南門からの侵入者を一人残らず排除せんとしているらしいことは、窺える。だが、反乱軍の総戦力を考えると、南門の周辺にこれだけの戦力を集中させるということは、西門と東門の周辺ががら空きではないのか。

 西門担当のレノ隊は“死神”の見たところ半壊状態のまま騎士団に蹂躙され、期待はできないものの、東門担当の本隊は門前の敵部隊を蹴散らし、東門へと辿り着こうとしていた。レムが時間を稼げば、そのうち東門を突破し、市内に雪崩れ込んでくるだろう。

 レムの前方で変化があった。

 反乱軍兵士たちの布陣が終わり、盾兵が大盾を前面に展開する。半円状に並んだ大盾の群れは、隙なく埋め尽くされており、そのまま前進されると、レムは圧殺されるかもしれない。

(そんなことはまずありませんが)

 レムは、苦笑とともに盾兵を一瞥し、その後方に槍兵と弓兵が並んでいるのも見た。基本的な戦術だ。盾兵で敵の攻撃を捌きながら、弓射による援護と槍による攻撃を行う。単純だが、戦場ではよく見る形式の戦闘方法だった。通常の戦闘ならば効果がないわけではない。どんな軍勢だって同じような戦い方をするのだから、意味がないわけもない。しかし、このような戦い方で決着をつけるのは難しく、小国家群が何百年にも渡って小競り合いを続けることになった理由もわかろうというものだ。

「たったひとりで乗り込んでくるとはいい度胸ね!」

 頭上から降ってきた女の声に、レムは目線を上げた。もちろん、前方の敵兵がいつ動き出してもいいように、“死神”に地上を注目させている。視野の共有は、こういうときも役に立った。レムとは別方向を注視させることで、広い視野を得ることができるのだ。

 声の主は、南門前の広場にある小さな塔の上にいた。女だ。長衣を着こみ、頭巾を被っている。その上長い杖を持っているものだから、いかにも魔術師めいていて、レムはこみ上げてくる笑いを噛み殺すのに必死にならなければならなかった。魔術師など、この世に存在しないからだ。おそらくは反乱軍の武装召喚師なのだろうが、武装召喚師は魔術師めいた格好を好まなかった。むしろ、戦闘者としての武装を好む。

 武装召喚師は、召喚武装を扱うために心身を鍛え抜く。それこそ、一般兵などよりも余程優れた身体能力を持っているのが武装召喚師なのだ。だから、魔術師めいた格好よりも、戦士らしい格好のほうを好む。古代の説話に登場する魔術師のような存在とは、大きく異なるからだ。

「ひとりですが、ひとりではございませぬ。見えましょう?」

「それが“死神”か。死神レム。ガンディアの英雄、黒き矛のセツナの下僕と聞いている」

 といってきたのは、魔術師の女の隣に立つ男だった。右眼に眼帯をしたその男は、鋭いまなざしでこちらを睨んできていた。いかにも歴戦の猛者といった風貌を持つ人物は、おそらく元聖石旅団長にして反乱軍の指導者ゲイル=サフォーだろう。ゲイル=サフォーは隻眼の王狼の二つ名を持つ。そしてレコンドールは反乱軍の重要拠点だという話もあった。反乱軍指導者が市内にいたとしても、なんら不思議ではない。

「ご明察。まこと、そのとおりでございます。わたくしはセツナ・ゼノン・ラーズ=エンジュール・ディヴガルドが一の下僕レム。どうぞお見知り置きのほどを」

 レムは、“死神”ともども恭しく頭を下げた。

「といいましても、御主人様の御命令により、貴方様方の命、刈り取らせていただくのでございますが」

「死神風情がいい気になるな」

 ゲイル=サフォーと思しき男は、腰に帯びていた剣に手をかけた。およそ挑発に弱い類の人間らしい。指揮官としてはこれほどまでに致命的な欠点はないが、敵であるレムにとってはありがたい欠点ともいえるだろう。

 すると、魔術師女が彼を睨んだ。小柄な割に強気な顔が可愛らしいといえば、可愛らしい。しかし、レムは彼女を殺すことを躊躇しない。する必要がない。敵だ。救援軍の目的は、反乱軍の完全な排除。投降するというのであればまだしも、抵抗するのであれば、抹殺する以外にはない。

「ゲイル! ここはわたしに任せて」

「わかっている。あとは任せた」

(あら)

 レムは、ゲイル=サフォーがあっさりと引いたことが意外だった。ゲイルは、魔術師女に後を任せると、塔の後ろに消えた。塔の内部に消えたのだろう。“死神”を追いかけさせるという手もあったが、判断が遅れた。

 ゲイルを追うべきか、魔術師女を殺すべきか。

 一瞬の迷いが判断の遅れに繋がった。ゲイルはきっとこのレコンドールを脱出するだろう。彼は反乱軍の指導者だ。死ぬわけにはいかない。レコンドールは陥落寸前といっていい。セツナが苦境に陥り、主戦力はレム以外、市外の戦いに赴いているとはいえ、それが全戦力というわけではない。レコンドールが奪還される可能性は、低くはなかった。

「いくわよ! おいで、わたしの石兵ちゃん!」

 女が杖を頭上に掲げたかと思うと、その杖の先端の宝石が輝いた。

 地面が揺れ、広場の地面が隆起したかと思うと、岩石の塊のような物体がいくつも起き上がり、敵部隊の後方に立ち尽くした。それはまさしく巨大な岩の塊だった。ただし、二本の足があり、二本の腕がある。

(なるほど、石兵ちゃん)

 レムは、その異形の巨人の姿から、魔術師女の発言に理解を示した。

 石でできた兵という意味だろうが、見たところ、それをそのまま示す言葉のようだった。ずんぐりとした胴体にやや細めの腕と足がついているという感じであり、妙に愛嬌のある姿をしているというべきかもしれない。

 それが四体、広場の小塔を囲むように出現している。それら“石兵ちゃん”の出現とともに、反乱軍兵士たちの士気が目に見えて上がったのがわかる。反乱軍兵士たちは、“石兵ちゃん”の実力を知っているのだろう。だから、士気も上がるのだ。

 石の巨人の体躯は、小塔と同じくらいの高さであり、成人男性の平均身長の五倍くらいはあるだろうか。質量もあり、大きな足で踏まれるだけで致命傷になりうるだろうし、殴られれば即死間違いなかった。

 ただし、当たるかどうかは別問題だ。

「皆! レコンドールを死守するのよ!」

 女の命令に反乱軍が沸きに沸いた。勝利を確信した喚声。きっと、魔術師女は反乱軍にとっての勝利の女神なのだろう。そうとしか考えられない戦意の高揚っぷりだった。狂気とさえいっていいような熱気が渦を巻き、レムへと殺到する。石兵たちが動き出してもいる。大地が揺れた。巨大な質量が四つも同時に歩き始めたのだ。揺れもしよう。

 魔術師女の勝利を確信した表情が、眩しいくらいに輝いている。

 反乱軍の正義を信じきっている顔だ。

 そんな彼女の顔が絶望に染まる瞬間は得も言われぬ甘美なものに違いない。

 が、そんなものを見届ける暇もない。

 レムは石兵たちの意外に俊敏な動きを見遣りながら、“死神”を飛翔させた。闇の衣を纏う少女が重力を無視するように空中を浮遊して敵兵たちの頭上を進む。敵兵が“死神”を落とすべく矢を射るが、尽く、“死神”を捉えることはできなかった。“死神”は小塔の外周を旋回しながら昇っていく。弓射が“死神”を追う。当たらない。魔術師女がレムの思惑に気づいたのか、石兵が動いた。“死神”の進路を塞ぐように腕を伸ばす。長い腕が、さらに長く伸びた。石兵二体の腕が小塔の外壁に突き刺さり、壁となって“死神”の進路を妨げる。“死神”が軌道を大きく変える。“死神”は中空を自由自在に飛ぶ。石兵の妨害は無駄になった。“死神”は小塔の頂に至る。魔術師女が杖を掲げる。宝石が輝いたかと思うと、女の周囲に五体の石兵が現れる。人間大の石兵。塔の石材を利用したのだろう。レムは構わず“死神”を突貫させる。石兵たちが女を庇い、また、“死神”を迎撃する。五体の石兵から伸びた手が“死神”の体を貫き、女への接近をようやくのところで止めた。女がほっとしたような表情を浮かべたつぎの瞬間、彼女は愕然とした。

 レムの“死神”は、小塔のちょうど真上に移動していた。魔術師女の目前まで、移動できていた。“死神”の影が小塔の頂に映り込んでいる。頭上には灰色の空。だが、影はどんなときだって生まれるものだ。

(“死神”は、影より生まれ、影へと還る)

“死神”の影から“死神”が生まれるとともに、上空の“死神”は跡形もなく消え失せる。影から生まれたばかりの“死神”は、石兵の腕の間を擦り抜けて魔術師女に殺到し、手刀で胸を貫いた。

「そ……んなっ……!?」

 断末魔の声を聞きながらレムは“死神”に石兵召喚の杖を拾わせると、巨大な石兵も小さな石兵も一切動かなくなったことを確認した。武装召喚師でもないレムには杖の使い方はわからないが、持ち帰れば、ガンディアの力になる。いっそ、セツナ軍のものにしてもいいかもしれない。黙っておけば、ばれるものでもない。

(きっとセツナも喜ぶわ)

 レムは、久々に彼の名を思いを込めてつぶやき、ひとりほくそ笑んだ。

 レコンドールの戦場は、魔術師女の死によって、沈黙に包まれていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ