第千二百七十六話 騎士団合流
トラン=カルギリウスが弟子のアニャン=リヨン、クユン=ベセリアスとともにシクラヒムに辿り着いたのは十六日のことだ。
シールウェールを巡る戦いから三日が経過しており、シールウェールから撤退した反乱軍の部隊はとくにシクラヒムに到着していた。彼らはあろうことか、トランたちとの合流を半ば諦めてさえいたらしい。どういう思考をしているのか、トランにはわからない。
トランたちは、一日遅れでシクラヒムに到着したのだから、反乱軍がトランたちが敗北したと思い込んだとしても仕方のないところはあったかもしれないが、だとすれば、トランたちの力量を低く見積もりすぎだろう。
トランたちのシクラヒム到着が遅れたのは、徒歩で移動しなければならなかったからだ。トランたちが戦場を離れたときには、シールウェール市内は救援軍別働隊によって制圧されており、市内に入り込んで馬を拝借することなどできる状況にはなかった。もちろん、力づくで奪うということも不可能ではなかったものの、弟子ふたりの消耗を考えると、無駄に戦う必要はないと判断した。それよりも一刻も早くシールウェールを離れるべきだった。
シールウェールが救援軍の手に落ちた以上、うかうかしてはいられない。いくら“剣聖”といえど、消耗し、疲労するものだ。そして、消耗し尽くした状態では戦うに戦えないのは、人間ならば当然のことだったし、トランはまだしも弟子ふたりは疲れきっていた。彼女たちが消耗するのは当たり前だ。彼女たちは、自分の召喚武装のみならず、トランのための召喚武装さえも召喚しているのだ。召喚武装をひとつ召喚し、維持するだけでも大変なことなのに、彼女たちはそんなものをふたつも召喚し、余計な負担をみずからに強いている。
トランが望んだことではない。
が、あるときからそれが当然のようになった。
トランにこそ使って欲しいという彼女たちの願いを聞き入れた結果、トランは、さらなる高みを見たのだ。召喚武装の補助、五感や身体機能の強化によって見られる世界は、常人には届かない領域であり、一度足を踏み入れると、通常の世界が卑小なものに見えてしまうほどだった。
剣の高みを目指すのであれば、見るべきではなかったのだろう。触れるべきではなかったのだろう。踏み込むべきではなかったのだろう。
しかし、一度経験したものを忘れることなど出来るはずもない。
トランはそれ以来、彼女たちの召喚武装を用いて戦うことが増えた。無論、相手による。武装召喚師や皇魔を相手とするならばまだしも、雑兵相手に召喚武装を用いる必要はなかった。雑兵のために弟子たちに負担をかけさせるわけにはいかない、というのもある。
だから、普段、トランが召喚武装を用いることはないし、アニャンとクユンにもそういっている。もちろん、武装召喚師であるふたりはその限りではない。武装召喚師たる彼女たちは技術を衰えさせないためにも、普段から武装召喚術を使う必要があるのだ。トランとは違う。
シールウェールから北へ。シクラヒムへの道中、撤退中の反乱軍が投げ捨てたのであろう物資が散見された。とにかく急いでいたに違いない。救援軍の追撃を恐れたのだ。救援軍の目的は、反乱軍の殲滅。追撃してくる可能性は十二分にあった。トランが急いでシールウェール近辺から離れたのもそれが理由だ。救援軍の影響下にあるシールウェール周辺ではおちおち休んでもいられなかった。
シールウェールから離れてようやく休むことができたのだが、悠長にしていられるわけもない。反乱軍に参加している以上、反乱軍との合流を優先しなければならないからだ。
シクラヒムは、シールウェールが奪還されたことで厳重な警戒態勢に入っており、トランたちでさえ中に入るのに苦労した。幸い、シクラヒムを任されているカオン=ハルバが出てきてくれたことで事なきを得るものの、シールウェール攻略に同行したネオ=ダーカイズの部隊が助け舟のひとつも出してくれなかったことには、クユンが激怒したものだった。もっとも、クユンの激怒というのは静か過ぎてだれにも伝わらず、余計に彼女を怒らせることになるのだから困りものだ。彼女は怒れば怒るほど静けさを増していき、ついには沈黙するという性格の持ち主なのだが、普段から口数が多いわけでもないから、トランとアニャン以外には彼女が怒っているかどうかの判別はできないだろう。
クユンの激怒の理由は、トランの扱いの悪さに端を発するものであり、反乱軍が“剣聖”を軽視し続けていることに対して腹をすえかねていたことも大きいのだろう。それが、今回、ネオ=ダーカイズ隊の黙殺によって爆発したらしい。とはいえ、彼女も自分の立場をわきまえている。激怒したからといって、怒りをだれかにぶつけるわけではなく、ひとり怒りを抱え続けるだけのことだった。
トランは、アニャンが彼女を宥めてくれることを期待しつつ、みずからもクユンを宥める方法を考えたものの、特に思いつかなかった。
彼が考えられるのは、戦いのことしかない。それ以外のことを考えるのは面倒だから、常に戦場に身を起きたいのだし、弟子ふたりの存在を認めることになった。面倒事は弟子たちが処理してくれるからだ。トランは戦いのみに生きたいと考えている。戦い以外のことは余事であり、戦いだけが彼の人生のすべてだ。
だから、あのまま戦い続けるのも悪くはなかった。
ルクス=ヴェインとエスク=ソーマ。
“剣鬼”と“剣魔”の名に相応しい剣の達人たち。
ふたりとの戦いは、久々に燃えたといってもいいだろう。全身全霊で戦うことができたのは、何時以来なのか。少なくとも、小国家群に流れ着いてからははじめてなのは間違いない。それくらい、本気の戦いに餓えていた。エストアでの戦いの多くは児戯に等しく、それでも皆が“剣聖”と崇めるのがおかしくてしかたがなかったものだった。
シクラヒムは、マルディア西部の都市だ。
マルディオンからはシール川を挟んで北西に位置し、北東にレコンドール、南にシールウェールがある。北西にはベノアガルドとの国境があり、騎士団が戦力を派遣してくるとすれば、ここと最北の都市サントレアだということだった。実際、トランたちがシクラヒムに辿り着いたときには騎士団の団旗が翻っており、騎士団の援軍がシクラヒムに入ったことを示していた。
トランは、シクラヒム到着後、しばらくして会議室に呼ばれた。会議室にはトランと弟子ふたりのほか、シクラヒム駐屯部隊の指揮官と副官、騎士団騎士が顔を揃えており、そのような場に呼びだされたということは特別扱いを受けているだろう、ということでクユンは溜飲の下がる想いだっただろう。クユンは、トランを軽んじられるのが許せないのだ。
シクラヒム駐屯部隊の指揮官を務めるのは、カオン=ハルバという男だ。マルディア軍においては輝石戦団長を務めていた人物は、筋肉の塊のような印象を受ける人物であり、戦死したネオ=ダーカイズよりはよほど頼りがいの有りそうな男だった。もっとも、それは外見だけの話であり、内実が伴っているかどうかは別の話だろうが、少なくとも、ネオよりはマシのように思える。傭兵として様々な戦場、様々な軍勢を経験してきたトランだからこそそう感じるのかもしれない。
とはいえ、どれだけ頼りがいがあろうとも、結局のところ、トランが信用できるのは己の剣の腕のみであり、それ以外にはない。
ベノアガルドの騎士団からは、十三騎士に名を連ねるという騎士団幹部ドレイク・ザン=エーテリアが参加している。ベノアガルドといえば、小国家群北方諸国において謎めいた国、奇妙な国として知られている。奇妙なのはその行動指針であり、基本的に国土拡大のための戦争を起こすことがない。結果として国土が広がってしまった、ということがあるそうだが、野心を抱かず、救いの声に応じて戦力を派遣するという国の有り様は、この血で血を洗い、裏切りと策謀が渦巻く戦国乱世においてはとてつもなく奇妙であり、異彩を放ち、清々しくもある。
もちろん、トランにとってはどうでもいいことだ。ベノアガルドがどのような考えを持っていようと、彼には関係がない。トランは、戦場を求めている。血沸き肉踊る戦場を。戦争を。戦うための理由さえ必要ない。傭兵として命じられればそれだけで戦う理由となる。それだけで十分だったし、それ以外なにも必要がない。ともすれば、作戦会議に呼ばれることさえ面倒くさく、いっそのこと会議になど顔を出したくないとさえ想っている。
戦うことだけに集中したいのだ。
しかし、立場上、許されないということもわかっている。
反乱軍は、“剣聖”トラン=カルギリウスを貴重な戦力として見てくれているのだ。少なくとも、表面上はそのように扱わなければならないと判断している。トランの機嫌を損ねれば、重要な戦力を失うことになることもありうる。それならば、表向きでも尊重するべきだと考えていても、なんら不思議ではない。
「なんでも、我々の到着を待たず、行動を開始したそうですな」
ドレイク・ザン=エーテリアは、そのどこか超然とした目で反乱軍の幹部を見据えた。カオン=ハルバは、厳しい顔つきをことさらに険しくして、うなずく。
「結果、我々は貴重な戦力を失うことになり申した。それもこれも、騎士団の皆様の到来を待たずして行動を起こしたがためでしょう」
「何故、待たなかったのです」
ドレイクの声音は冷ややかだが、カオンを責めているという風ではない。ドレイクは知っているのだろう。カオン=ハルバが反乱軍幹部とは名ばかりの扱いを受けており、反乱軍の行動指針を決める幹部会議に参加することもできなかったということを、把握しているのだ。
シールウェールの攻略を決めたのは、反乱軍の幹部たちだ。幹部というのは、聖石旅団において部隊長以上の役職だったものたちであり、聖石旅団の反乱に応じて合流した輝石戦団からはだれひとりとして入っていない。一応、元輝石戦団長であるカオン=ハルバは反乱軍の幹部ということになっているのだが、シクラヒムの防衛のためという一見論理的に思える理由によって、レコンドールで開かれた会議に参加することができなかった。
一方、シールウェールで戦死したネオ=ダーカイズは、元聖石旅団の部隊長だったということでレコンドールの会議に参加し、元聖石旅団長にして反乱軍の指揮官であるゲイル=サフォーらとともに行動指針を定めた。
幹部会議は、トランたちを主力とする部隊によってシールウェールを攻略し、マルディオン攻略の橋頭堡とするべしと結論を出した。そして、部隊編成と作戦行動の開始を急ぐことになったのだが、それは、急がなければ、騎士団の援軍が反乱軍と合流することになるからだった。
「ゲイル殿が、騎士団の方々に頼ってばかりはいられないと息巻いていた、ということですが」
「ふむ……これまで散々騎士団に頼ってきた組織の長がいうべきこととは思えないが……まあ、わからなくはない。この反乱が正当なものだと主張する以上、外部戦力に頼ってばかりでは恰好がつかないということだろう」
「……まあ、そうなります」
「しかし、結果、反乱軍は幹部と貴重な戦力を失った」
「はい」
「無意味に終わった」
ドレイクはにべもなく告げる。極めて冷静で、感情のかけらも見当たらない結論には、反論のしようがない。トランも想っていたことではある。シールウェールを奪還された以上、反乱軍幹部たちの思惑はすべて空転した。シールウェール制圧は、なんの意味もないものとなったのだ。
「いや、それどころか、救援軍を勢いづけ、反乱軍の勢いを削いだ」
「トラン殿の活躍により、敵戦力を削ることはできたようですが」
そういって、カオン=ハルバがこちらを一瞥する。カオンの顔は緊張で青ざめていた。ドレイクの迫力にただひたすら圧倒されているのだ。外見上、カオンのほうが逞しい肉体を持っているのだが、しかし、ドレイクのほうが圧倒的に強そうだった。立ち姿からして違う。ドレイクは毅然とし、余裕さえうかがえるのだが、カオンにはその余裕がなかった。うろたえてさえいる。
「大勢に影響が出るほどのものとは思えんよ。どうだね? トラン=カルギリウス殿」
「影響はないでしょうな。救援軍別働隊の一部隊を削っただけ。それだけで救援軍の戦力が低下するはずもない」
「救援軍は二万を越える大軍勢。別働隊を壊滅させたならばまだしも、その一部隊のみでは、大勢に変化はなく、戦力差に変わりはない。むしろ、幹部を失った反乱軍のほうが影響を受けるのではないか?」
ネオ=ダーカイズの死が反乱軍にどれほどの影響を及ぼすのかは、わからない。少なくとも、シクラヒムの駐屯部隊には影響はなかったが、それは、シクラヒムの部隊がカオン配下の元輝石戦団員で固められているからかもしれない。輝石戦団と聖石旅団は、反目しあっているのだ。それなのにカオンは戦団員の大半を引き連れて、聖石旅団の反乱に身を投じた。反乱の理由に賛同したということであり、付き従った戦団員たちにも納得の行くことだったのだろうが。カオンは、反乱軍において軽んじられた。主流派が聖石旅団なのだから、反目しあっていた輝石戦団の団長が軽い扱いを受けるのは、ある意味では当然だったのかもしれない。それでも腐らず反乱軍に居続けるのは、やはり、反乱の理由に原因があるのだろう。トランにはよくわからないことだし、わかろうとも思わないが。
「……とはいえ、もはや済んでしまったことを言及するのは詮なきこと。話も進まん。シールウェールの話はここまでにするとして、今後の話をするとしよう」
「今後の……」
「騎士団は今回、反乱軍に五人の幹部を派遣することに決定した。わたし、ドレイク・ザン=エーテリアを始め、ルヴェリス・ザン=フィンライト、シヴュラ・ザン=スオ―ル、ハルベルト・ザン=ベノアガルド、当然、カーライン・ザン=ローディスもな」
ドレイクがつぎつぎと上げる騎士団幹部の名は、トランには興味深いものだった。騎士団幹部、いわゆる十三騎士と呼ばれる連中は、優れた戦闘者として知られている。中でも有名なのは“神武”のドレイクであり、トランは、ドレイクの揺るぎない表情を見やりながら、いつか彼と剣を交えてみたいと考えたりしていた。騎士団幹部とも一戦交えたくなっている。無論、味方である以上、敵として戦うことはできず、そのことは少しばかり残念だった。その分、ガンディアの英雄に期待がかかるのだが、彼と戦える日が来るのかはわからず、やきもきしてもいた。
「五人、ですか」
カオンが少しばかり落胆を隠さなかったのは、たった五人か、という気持ちがあるに違いなかった。もちろん、幹部には部下の兵がいる。騎士団幹部ひとりにつき、千人の兵士が付随しており、五人の幹部が参戦するということは五千の兵力を得られるということだ。しかし、それでも二万の大軍勢に立ち向かうには圧倒的に足りないと言わざるをえない。反乱軍の約五千と合わせても一万にしかならないのだ。二万と一万では、勝負になり得ない。戦術次第では勝てる数かもしれないが、反乱軍のこれまでの戦いを振り返る限り、戦術に期待できるような組織ではなかった。
そもそも、マルディア北部一帯を反乱軍の支配下に置くことができたのだって、騎士団幹部カーライン・ザン=ローディス率いる騎士団部隊のおかげであり、反乱軍の将兵たちなどはただの数合わせに過ぎなかった。
彼らは頼りにならない。
「ああ。五人だ。救援軍を撃滅するだけならば、五人で十分だろう。ここはベノアガルドに近い」
「はい?」
「いや、こちらの話だ。問題があるとすれば、救援軍の主軸をなずガンディア軍。かの軍勢にいるセツナ=カミヤの存在だ」
トランは、無言のまま、彼の言葉に同意した。セツナ=カミヤ。セツナ・ゼノン・ラーズ=エンジュール・ディヴガルドと呼ばれる人物は、ガンディアの英雄として知られている。黒き矛の武装召喚師は、これまで多岐に渡る活躍を見せ、ガンディアの躍進になくてはならない人物だということだ。竜殺し、魔屠り、鬼降し、万魔不当――彼の活躍の一端は、それらの二つ名で明らかだ。特に竜殺しと万魔不当は、彼が超人的な力を持っているということを端的に表している。だからこそ、トランは彼と戦いたい。
「黒き矛のセツナ、ですね」
「ああ。彼は、十三騎士に匹敵する力の持ち主だという」
ドレイクの発言に、カオンが愕然とした。カーライン・ザン=ローディスの戦いぶりを目の当たりにした彼には、十三騎士の実力がわかっているからだ。
トランも、見ている。
カーライン・ザン=ローディスは、たったひとりで堅牢なヘイル砦を落としてみせたという。
それは、騎士団の実力に懐疑的だった反乱軍に衝撃を与えるできごとであり、トランも驚きを以ってその情報を聞いたものだった。まさに超人というべき戦いぶりは、トランのそれとは大いに異なるものであり、この戦いが終われば、騎士団と戦うのも悪くはないかもしれないと思わせるに至るほどのものだった。
「彼をどう封殺するか。それが勝利の鍵だが……」
ドレイクは机の上に広げられた地図を見ながらいった。
「さて、救援軍は、どう出る?」
シールウェールが奪還されたことで、反乱軍の支配下にあるのはシクラヒム、レコンドール、サントレアの三都市と、ヘイル砦となった。救援軍は、マルディアの地を反乱軍から取り戻すことが目的であり、王都や各都市に篭もり、防衛に徹するということはしないだろう。攻勢に出るはずだ。そうなれば、反乱軍は防戦を強いられることになる。
守りに徹し、救援軍の戦力を削り続ければ、いつかは勝てる――かもしれない。
(どうでもよいことだ)
トランは、いつの間にか寝てしまったアニャンとそんな彼女の様子に驚きつつ、途方に暮れているクユンを見遣りながら、そんな感想をこぼした。
彼としては、反乱軍の勝敗などどうだってよかった。
彼は、個人的な欲求を満たすためだけにこの戦場に身をおいている。
結果がどうあろうとしったことではないのだ。
戦えればそれでいい。
強敵と剣を交えることさえできれば、勝敗など関係ない。
そういう意味では、シールウェールの戦いは、良いものだった。
二対一ではあるが、こちらは召喚武装の二刀流。分が悪いわけではなかった。存分に戦い、存分に暴れることができた。久々に、戦った、という感がある。
それだけで十分すぎた。
「シールウェールの軍勢は北上し、ヒクラヒムの奪還を目論むでしょう」
「妥当だな。あとは王都に入ったという本隊がどう動くか。部隊をふたつにわけ、ひとつはレコンドールへ、ひとつはシールダールからヘイル砦を目指させるか。あるいは、レコンドールに全戦力を集中させるか」
ドレイクが地図を睨みながら、考えている。
「いずれにせよ、我々はシクラヒムの防衛に当たらねばなりません」
「その通りだ。まずはシクラヒムを守り抜き、その上で救援軍を打倒する算段を立てねばな」
ドレイクがトランを一瞥してきたので、彼は小さくうなずいた。異論を挟む余地はなかった。なにしろ、会議そのものが面倒なのだ。早く終わらせて、アニャンとクユンのふたりを休ませてあげたかった。ふたりは、疲れきっている。
「そのためにも、シールウェールでの戦いの詳細、お聞かせ願えるか?」
ドレイクの一言は予想通りではあったものの、トランは、失望せざるを得なかった。