第千二百六十四話 霧の中で剣の道を
夜明け前、白霧が立ち込めていた。
シール川周辺は、どういう理由からか霧が発生しやすいという話だった。事実、反乱軍がシールウェールを急襲したときも、川周辺は霧で覆われていて、都市の一部も濃厚な霧の中に隠れていたほどだった。
いまも、濃霧はシールウェールの南側城壁周辺を包み込んでいる。呼吸さえ難しくなるほどの水気を含んだ霧がなにもかもを白く染め上げていて、全周囲、なにも見えなかった。至近距離にいるアニャン、クユンの表情さえよくわからないほどに濃い。これほどまでの濃霧は、ヴァシュタリアで数回経験したくらいで、小国家群にきてからは初めての経験だった。
「濃密な霧は、姿を隠すのに格好だな」
トラン=カルギリウスは、呆れるような気持ちで霧の中を手さぐりした。冬のマルディアを思い出すほどに冷え込んでいて、体温の低下を危惧した。体温の低下は筋肉を萎縮させ、運動能力を低下させる。身体機能の低下は、来るべき戦いにおいてもっとも危険視するべきものだ。しかし、気温を上げる術などない以上、どうすることもできない。できることがあるとすれば事前に準備運動をして体の筋肉を解すことくらいだが、それもいつ戦闘が始まるかわからないとなると、どうしようもない。
トランは、昨日の軍議の後、夜中の襲撃に備えて仮眠を取っていた。起きたのは夜中であり、夜の間、城壁に立って敵軍の襲来を待ちわびていた。しかし、夜の間に襲撃は来ず、そうするうち、霧が出てきたのだ。霧はあっという間にすべてを白く包み込んだ。夜明け前には、なにもかもが白霧の中に埋没してしまった。
「ですねぇ」
「丸見えですが」
クユンの一言は、痛烈だ。彼女の目には、霧の中、渡河する軍勢が見えているのだ。アニャンにも見えているだろう。見えないのはトランを筆頭とする常人たちであり、見えないことのほうが普通だ。
敵軍がシール川の浅瀬を渡り、シールウェールを攻撃しようと企んでいたのは反乱軍のほうでも理解していたことであり、それが夜のうちになるのか、夜明け頃になるのかが焦点といったところだった。そのため、夜中まで仮眠を取り、いつ襲撃が来てもいいようにと備えたのだが、まさか夜明け前、霧に乗じて攻め寄せてくるというのは考えていなかった。
シール川の浅瀬は、シールウェールからの射程範囲内だ。シール川が流れているのは低地シール平野と呼ばれる地域であり、シールウェールはシール高地に位置している。さらに弓兵は城壁上に配置されており、高度が射程距離を確保してくれているのだ。
「しかし、弓射は意味がない」
「兵士たちには見えませんしね」
濃厚な白霧が敵勢の渡河を完全に目視できなくしていた。クユンとアニャンの目撃情報を頼りに滅多矢鱈に矢を放ったところで、当たらなければ意味がない。矢を無駄にするだけのことだ。もちろん、矢を雨の如く降り注がせることでもできれば、敵軍に多少なりとも損害を与えることもできるかもしれない。射程範囲内。進軍路は、ある程度想像がつく。だが、矢の数に限りがあることを考えれば、無闇に射掛けさせるのはよくないことだ。そんなことをするくらいならば、霧を晴らして、視界を確保してから矢を当てさせるべきだ。
「目が悪いのはいろいろと大変よねぇ」
「目が悪くて弓兵が務まるわけがないだろう」
「ええ!?」
「おまえは……」
アニャンとクユンのいつも通りのやり取りを聞きながら、トランは、呼吸を整えた。シールウェール南部一帯を包み込む濃霧は、空気を湿らせ、息を吸うことすら難しいものにしている。激しい戦闘になることは目に見えているというのに、この環境の劣悪さには顔をしかめたくもなったが、霧を晴らしてしまえばなんの問題もない。そして、霧さえ晴らしてしまえば、敵勢の位置も明らかなものとなり、城壁からの援護射撃も期待できるというものだ。
「そこまでにしておきたまえ」
「はい」
「はぁい」
クユンのはっきりした返事と、アニャンのどこか間延びしたような声には、ふたりの性格の違いがよく現れている。それでいて姉妹のように仲がいいのだから、不思議なものだといつも思う。
トランは、背後を一瞥した。城壁上の彼の周囲には、当然、反乱軍の兵士たちも戦闘に備えている。そのうち多くの兵士が弓を携えており、弓射の準備は万端といったところだろうが、生憎、この濃霧では弓は役に立たない。
「伝令兵」
「こちらに」
「ネオ=ダーカイズ殿に伝えてくれ。敵軍が濃霧に乗じて川を渡り、シールウェールに接近中。すぐさま迎撃態勢に移行されたし」
「はっ! ただちに!」
伝令兵は威勢よくうなずくと、白霧の中を駈け出した。あまりの勢いのよさにすっ転びはしないかと心配になったものの、杞憂に終わった。霧の外へと消えていったからだ。霧は、シールウェール全体を包み込んでいるわけではない。シール川を中心に発生した濃霧は、シールウェールの南東部辺りだけを覆い隠しているのであり、霧の範囲を抜け出せば、転ぶようなこともないだろう。伝令兵は足腰の確かなものが選ばれるのが世の常だ。あっという間に霧を抜けた彼ならば、すぐにでも仮設本部のネオに伝えてくれるだろう。
「さて、行くか」
トランは、伝令兵のいなくなった方向から前方に視線を戻すなり、そう告げた。
「敵戦力を削り、願わくば我々だけで撃退する」
「はい」
「はぁい」
ふたりの相槌が聞こえるが早いか、彼は、城壁を乗り越えると、なんの躊躇もなく跳躍した。弓兵のいずれかがあっと声を上げるのが聞こえ、大騒ぎとなったが、すぐにわからなくなる。急速な地上への落下が城壁上との距離を引き離したからだ。重力に吸われ、白霧の中を落ちていく。城壁から地上まで。普通ならば、落下とともに即死する高度だったが、彼はなんの恐怖もなかった。
ふたりの弟子を信頼しているからだ。
「無茶しすぎですよぉ」
「いつものことながら」
アニャンとクユンの声が聞こえたときには、トランの体はなんなく着地していた。落下の衝撃によって激痛を覚えることも、体がばらばらになることもない。平然と地に降り立ち、なんの問題もなく動き出せている。着地した瞬間には、体は勝手に駈け出しているのだ。クユンとアニャンも同様だ。トランのことがよくわかっていることの証明であり、前方の霧が晴れているのも、彼の行動原理を理解しているゆえのものだ。
大地が揺れている。三千以上の軍勢が川を渡り、シール高地に至る丘を登っているのだ。大地も揺れよう。音を立てよう。敵軍は近い。前方、またしても霧が晴れた。大気がうなっている。クユンだ。甲冑の群れが見えた。渡河を前提とした進軍するためだけの陣形は、戦闘用ではなかった。盾兵を前面に押し出したものではないのだ。シールウェールに到達してから陣形を構築し直そうと考えていたに違いなく、そのことがトランにとっての好機となった。地を蹴り、跳ぶ。
「なんだ!?」
兵士のひとりが発した驚嘆の声は耳元で聞いた。急勾配を登っている最中、突如として目前の霧が晴れたのだ。驚きもするだろう。しかも、霧の中を三人の敵が駆け寄ってくるのだ。わけもわからなかっただろうが、トランは、驚嘆した兵士の顔面を右手で掴み、その勢いのまま後ろに押し倒して地面に後頭部を叩きつけた。さらに自身の体を旋回させ、足払いによって周囲の兵士を転倒させることで進軍そのものを停止させる。もちろん、停止するのはトラン周辺の兵士だけだが、トランの襲撃と同時の猛攻が敵軍全体に衝撃を与え、警戒態勢に移行させるのは間違いなく、それによってシールウェール到達が一秒でも遅くなるのは間違いない。
「うおっ!?」
「なんだよ!?」
「ぎゃあっ!?」
左手の敵兵たちが悲鳴を上げながら吹き飛んでいった。アニャンだ。一瞥して理解した瞬間、トランは前方から迫ってきた銀光に目を細めた。おもむろに振り下ろされた刃が立ち上がらんとするトランの首筋に向かってきたのだが、彼は躊躇いもなく右手でいなし、左手を刀に見立て、その兵士の手首に叩きつけた。衝撃に剣を手放したのを見逃さない。地に落ちるよりも早く右手に掴み、左右からほど同時に繰り出された槍の突きを前進でかわす。かわすと同時に剣を無造作に振り抜いて、最初に攻撃してきた兵士の首を飛ばした。首が空を舞い、血が降り注ぐ。が、彼はそのときにはさらに三人ほどの兵士を殺していた。ひとりは首筋に剣を突き刺し、ひとりは脇腹を突き刺し、ひとりは脇から剣先を差し込んでいる。いずれも致命傷。よほどのことがない限り生き残ることはないだろう。
「て、敵襲! 敵襲!」
そのときになって、ようやく、敵軍全体がトランたちの強襲を認識した。驚きと衝撃が周囲の兵士たちに伝わると同時に戦闘態勢へと移行する。しかし、遅すぎる。トランは殺した兵士から槍を奪い、左手に槍を、右手に剣を持つという変則的な二刀流によって、周囲の兵士たちを血祭りにあげていっていた。
「シウ隊、レンド隊は迎撃に当たれ! 他隊は迂回してシールウェールを目指すのだ!」
前線指揮官だろう敵の声が響くと、敵軍の動きそのものが変わった。死体を含めた二百名あまりがトランたちを注視すると、残りの数百名が一斉に左右に流れ始めた。
(中々良い判断だ)
トランは、前線指揮官の判断を褒めるとともに、飛来した矢を剣で切り払ってみせた。周囲の霧が晴れたということは、敵軍にもトランの位置が丸わかりということであり、射線が通れば矢が放たれるのは道理だ。しかし、射撃戦には成り得ない。トランの周囲の敵兵が肉壁となって弓射の邪魔をしているからだ。いまの一矢は、射線が通った瞬間を逃さなかった弓兵の手腕を褒め称えるべきものだった。
大気が再びうなりを上げ、周囲の霧が晴れる。トランが対峙している敵戦力がどれほどのものなのか明らかになった。渡河しきり、急勾配を登っている最中なのは、千名から千数百名といったところであり、約三千と思われる救援軍別働隊の半数以上がまだ渡河の真っ只中のようだった。シール川の浅瀬あたりの霧を晴らすことができれば、シールウェールからの射撃によって大打撃を与えることができるだろうが、クユンにそこまでの無理をさせたくはない。
左手の地面が激しく隆起し、敵兵を十人ほど吹き飛ばした。アニャンだ。彼女は大地を司り、地中から岩石を隆起させたり、局地的な地震を起こす能力を持つ召喚武装の使い手だった。
右手、突風が吹き荒れ、敵兵を数人、打ち上げた。突風の一撃と落下の衝撃で死ぬか、しばらくは戦闘不能となるのは間違いない。クユンだ。クユンの召喚武装は、霧を吹き払ったように大気を司り、風を起こす能力を持っている。トランの城壁からの着地を補助してくれたのは、クユンの召喚武装であり、クユンが能力を使わなければアニャンが手助けしてくれただろう。大地を隆起させることで落下高度を変動させることができるというわけだ。
ふたりの攻撃は、敵軍の意向を叩き潰さんとするものであり、シルウェールに接近するにはトランたち三人を撃破しなければならないと宣言するようなものだった。トランは敵軍に動揺が走るのを見逃さなかった。敵軍に武装召喚師がいないわけではないだろうが、前線には配備されていないのかもしれない。だから、動きが鈍る。付け入る隙となる。そこへアニャンとクユンの猛攻が叩きこまれ、さらに敵軍の被害は増大した。さらに霧が晴れた一帯には、シールウェールの城壁上からの弓射が降り注ぎ始めている。クユンが攻撃すればするほど、霧の濃度は薄くなり、弓射の射程範囲が広がっていく。その分敵軍に被害が広がり、敵軍は苛立ちを隠せなくなっていく。
トランは、周囲の敵兵を踊るように斬り飛ばし、突き殺し、槍の石突きで殴り倒し、ときには飛来した矢を軽々とかわしたりしながら、“敵”の到来を待った。
(来るだろう)
これだけ暴れたのだ。来ないはずがなかった。
敵。
トランが千切っては投げるように殺している兵士たちのような不甲斐ない、戦いにもならない存在のことを敵と呼んではいない。そんなものは敵ではない。敵であるはずがない。ただの雑魚、ただの雑兵に命を賭けて戦う価値はない。薙ぎ払い、蹴散らすだけで良いのだ。
敵とは、命を賭けて戦う価値のある存在をいう。
そして、それはこの戦場にいるはずだった。
(うわさ通りの実力なれば、だが……)
小国家群に流れる噂というのは、誇張されるものが多い。
小国家の集まりなのだ。小さな活躍を大きく喧伝することはよくある手法であり、一騎当千の強者と喧伝された猛者が、実は一度の戦闘で十人ほどを殺しただけの弱兵であったということは、彼の経験上、少なくはなかった。エトセアの戦場では、そういったことを度々経験し、そのたびに失望したものだ。
(“剣鬼”と“剣魔”よ、失望させてくれるな)
彼は、この戦場にいるであろう、剣の達人たちに想いを馳せた。
でなければ、彼がここにいる意味がない。
トランが反乱軍に身を投じたのは、マルディアの内乱にガンディアが干渉してくると反乱軍が吹聴していたからだ。しかも、ガンディアが協力するのは政府軍のほうにであり、反乱軍に参加すれば、ガンディア軍と戦えること間違いないというからだ。ガンディア軍と戦うということは、ガンディアの英雄セツナと戦えるかもしれないということであり、これほど心躍ることは、彼のこれまでの人生においてなかったことだ。
懸念もある。
ガンディアの英雄が、これまでに経験してきた誇大広告に彩られた虚像かもしれないということだ。しかし、調べれば調べるほどガンディアの英雄は実像を帯びていき、彼の懸念は杞憂に終わるかもしれなかった。だから彼は、反乱軍の大半の人間とは異なり、ガンディア軍のマルディアへの到来を待ちわびていたのだ。
それなのに、ゲイル=サフォーはトランをマルディア救援軍の本隊にぶつけるのではなく、シールウェール攻略に投じた。シールウェールを落とし、マルディオン攻略の橋頭堡にするというゲイル=サフォーの考えはわからないではなかったが、トランとしては、一刻も早くガンディアの英雄と戦いたかった。
そのためにこの戦いに身を投じたのだ。
しかし、反乱軍に参加した以上、指揮官の命令には従わなければならず、彼は渋々ながらもシールウェールの攻略を手伝った。そうすると、マルディアに入った救援軍がこちらに別働隊を差し向けてきたという報せが入った。別働隊にセツナが配属されている可能性は少なくなかったが、別働隊がシールウェールに接近するに従って、その可能性はなくなっていった。
ガンディアの英雄を王都に同行させるのは道理だ。致し方のないことだ。こうなればシールウェールを守りぬき、王都侵攻のときを待つほかない。そんなときがくるのかどうかはわからないが。
トランがそんなことを考えながら別働隊との戦いに備えているとき、予期せぬ話を聞いた。別働隊の戦力に“剣鬼”ルクス=ヴェインと“剣魔”エスク=ソーマがいるという。おそらく――いや、まず間違いなく、“剣聖”トラン=カルギリウスに対抗するための戦力であり、トランはその事実を認識したとき、心が昂揚するのを認めた。
黒き矛のセツナには及ばずとも、“剣聖”に並び立つ剣豪がふたりも敵軍にいる。
それは、彼に喜びを与えた。
敵兵の首を断ち切り、絶命させる。血を吹き出しながら崩れ落ちる死体を見届けることはない。そのときには彼の意識はつぎの標的に移っているからだ。左後方、殺気が来る。直線的な気配。体を捌き、最小限の動作で回避する。突き。得物は槍。やはり雑兵の動きというものはわかりやすく、あまりに対処しやすい。左手の槍を無造作に突き出し、雑兵の脇腹を貫く。致命傷。長くは持たないだろう。さらに殺気。今度は右後方。これも直線的。だが早い。槍を手放しながら左に飛び、振り向くと、矢が視界を掠めた。さらに矢。これは空いた左手で掴み取り、近場にいた兵士に投げつける。首筋に矢を受けた兵士は苦痛にのたうちながら死んだ。が、当然、看取っているわけではない。さらに矢。三本同時に放たれた矢は、別の殺気とともに、トランの回避方法、回避距離を制限するためのものだ。殺気は左右から同時に飛び込んてきている。トランは、前進した。矢を屈んでかわすとともにふたつの殺気に対応する。
「はっ」
笑うような声が聞こえた。
「人間かよ!」
叫んだのは若い男。着地と同時に振り下ろすために掲げた剣をそのままに、こちらに向き直る。長い黒髪が吹き荒れる風に揺れた。中々の美丈夫だ。逞しい体つきに軽装の鎧を纏い、剣を構える姿は様になっているというほかない。ほかの雑兵共とは比べ物にならない。
「人間のようだ。おそらくは超人の類だろうけど」
もうひとりも若い男。こちらは世にも珍しい銀髪が目を引いた。こちらも振り抜こうとした長剣を空を切らせることなく構え直している。勢いをつけて振り下ろそうとした長剣をそのまま構え直すのは、それだけの膂力があるということだ。痩せているように見えるのは見た目だけで、細身の体の中には筋肉が詰まっているのだろう。彼も軽装の鎧を身に着けているが、もっとも目に引くのはその手に持つ剣だ。澄んだ湖面のような青く透き通った刀身は、この世のものとは思えないほどに美しい。
「超人など、この世にいるものか」
苦笑とともに否定する。トランは超人などではない。超人ならば、召喚武装に頼る必要はないはずだ。召喚武装を宛てにしている時点で、人間の限界を超えてはいない。しかし、彼の主張を相手は受け入れてくれなかったようだ。黒髪のほうが胡乱げな目を向けてくる。
「本人が否定すんなっての」
「わたしはただの人間だよ」
「だったらあんな超反応見せるなっての。ありゃあ人間業じゃあねえよ」
超反応とは、矢を手で受け止めたことや一連の戦闘に関することをいっているのだろうが。
トランは、取り合わなかった。
「人間の相手ならば不要の技も、ドラゴン相手なれば必要となる」
「は!?」
「ドラゴン相手?」
「なに。子供の頃の話さ。いまは不要だろう」
呆気に取られるふたりを尻目に、トランは右手の剣を投げ捨てた。すると、彼の足元に二本の剣が投げ込まれる。一本は刀。刀身の峰が黒ずんだ片刃の直刀。坤龍。もう一本は剣。刀身の腹が透明な青さを湛える両刃の直剣。アークセイバー。
「さあ、はじめよう。“剣魔”と“剣鬼”。せめてわたしに失望させてくれるな」
トランは左手に坤龍、右手にアークセイバーを握ると、ふたりの剣豪の眼の色が変わるのを認識して、笑みを浮かべた。