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第千百九十八話 この一年

「振り返ってみりゃ、色々あったな」

 セツナがエインと話し合ったのは、年の瀬も押し迫る十二月二十七日、午後のことだった。

 天輪宮泰霊殿にあるセツナの私室には、セツナとエインのほか、ラグナとウルクがいた。レムがいないのは、彼女はシーラの猛特訓に付き合わされているからであり、毎日のように繰り返される訓練にも、レムはわりと乗り気だった。レムが付き合いがいいのは今に始まったことではないが、なぜそこまでシーラの訓練に熱心に付き合っているのかというと、シーラが強くなるということがセツナ軍を強化する上でも重要な事だからだ、という。

 そして、セツナ軍の強化は、セツナがさらにガンディアに貢献するために必要なことだった。黒獣隊の増員もそのひとつだったし、黒獣隊、シドニア戦技隊のために新式装備を王都から取り寄せるのも、その一環だった。セツナ軍という呼称が使われるようになったのはごく最近のことだが、いまや昔から存在する軍団のように違和感がなくなっていた。とはいっても、黒獣隊、戦技隊合わせても五十人そこそこで、そこにレムとラグナ、セツナが加わったところで、大軍勢というほどではない。しかし、大軍勢にも負けない戦力であることは、エインも認めるところだったし、これ以上の戦力増強は必要ではないのではないか、というのがエインの評価だった。戦力十分なセツナ軍に集中させるよりも、他の軍団、部隊に戦力を回したほうが効率的だということだ。

 エインは、セツナ軍のことだけに構っている場合ではなく、ガンディア軍全体のことを考えなければならず、広い視野で物事を見ているのだ。

 そんな彼が龍府に留まっていていいのかという疑問は、龍府からならば北の動向がうかがいやすく、また、王都にはもうひとりの軍師後継者候補であるアレグリア=シーンがいるからだ。王都からガンディア方面周辺のことは、アレグリアに任せておけば安全だという認識がエインにはあるのだ。一年少々だが、ふたりとも、ナーレス=ラグナホルンの薫陶を受けた戦術家であり、次代の軍師候補だ。互いに互いのことを信頼しあっているし、それに見合うだけの能力を持っていることはナーレスが認めている。もちろん、セツナもエインの実力に関しては疑うまでもないと想っているし、そんな彼が信頼するアレグリアにも信を置いていた。

「一年ですからねえ」

 エインが自分でお茶を注いだ器を手に取りながら、落ち着いた口調でいった。今日の仕事は午前中に片付けたという彼は、あまった時間を潰すため、セツナの私室を訪れていた。セツナが彼を呼んだわけではないのだが、セツナも暇を持て余していたこともあって、彼の話し相手をすることにしたのだ。ラグナはセツナの頭の上で昼寝中だったし、ウルクが会話に入ってくることはない。ウルクはほとんど常にセツナの近くにいて、セツナの会話を聞いているのだが、ミドガルドの話によれば、彼女がミドガルドにセツナとの会話の内容を話すということは基本的にはないらしい。

『ウルクはなぜかセツナ伯サマを主と認識していますから、主にとって不利益になるようなことはしないのでしょう。たとえ開発者であるわたしが命じたとしても、聞きますまい』

 ミドガルドのいうことだからどこまで信じていいものかわからないものの、セツナは、ウルクがこの場に同席することには問題ないだろうと思っていた。まさか、エインとの会話で国家機密に当たるようなことを話すわけもない。

「一年……」

 反芻して、振り返る。

 大陸歴五百二年の幕開けは、ミオン征討だった。宰相マルス=バールの首を惜しんだミオン国王イシウス・レイ=ミオンを征伐するべく、ガンディアは征討軍を結成、差し向けたのだ。征討軍にはベレルの軍勢と、ルシオンの軍勢も入っていたが、主力は《獅子の尾》だった。戦いはほぼ一方的なものだったが、それには、ミオンの将兵がイシウスを見限り、ガンディアに寝返ったことも大きかった。ミオン征討においてもっとも打撃を受けたのはガンディア軍であり、ミオンの突撃将軍ギルバート=ハーディの決死の特攻によって、多大な被害を出している。しかし、ミオンは征討軍の物量の前に為す術もなく滅び、ミオンの地はガンディアとルシオンによって分割統治されることとなった。

「なんだかんだで一番きつかったのはクルセルクか」 征討後、すぐさまクルセルク戦争が始まっている。これもまた、語り出せば長い話だ。クルセルク戦争の発端は、レオンガンドとナージュの婚儀において、クルセルクから届けられた贈り物が皇魔であり、クルセルクからの宣戦布告だったことだろう。元より、クルセルクの魔王ユベルことエレンは、ガンディアにかつて存在した外法機関によって特異な能力を発現された人間であり、彼はガンディア王家を滅ぼすために魔王軍を結成したといってもよかったほど、ガンディアを憎んでいた。たとえ婚儀での宣戦布告がなくとも、いずれガンディアに戦いを挑んできただろう。

「ですよ。セツナ様がいて、連合軍があって、リョハンからの援軍があり、ようやく勝てたようなものですし。どれかひとつでも欠けていたら、ガンディアは滅びていたでしょうね」

 エインの表情を見る限り、彼のその発言は本音のようだった。ユベル率いる魔王軍とガンディアの戦力差を考えれば当然の結論であり、異論を挟む余地はない。連合軍、数多の武装召喚師たち、そしてリョハンの戦女神と四大天侍がいたからこそ、魔王軍を打ち破ることができたのだ。彼のいったとおり、どれかひとつでも欠けていれば、セツナたちはこのように退屈な年末を過ごすことなどできなかっただろう。

「魔王が矛を納めてくれたからってのも大きいがな」

「そうですね……魔王ユベルが、陛下のお言葉に耳を貸さなければ、どうなっていたか」

 魔王は、二十万にも及ぶ皇魔をクルセルクに集結させようとしていた。そしてそれら皇魔は、魔王を殺したとしても止まらないという話であり、あのとき、魔王を殺さなければならなかった場合、セツナたちは二十万の皇魔と戦うことになったかもしれないのだ。二十万だ。連合軍の全戦力をもってしても太刀打ちできなかっただろうことは明白であり、魔王がレオンガンドの言葉を聞き、軍を退いてくれたからこそ、連合軍はクルセルク戦争に勝利することができたのだ。

 薄氷の勝利といってよかった。

「本当にな」

 ため息をつく。いま思い返すと、いかに危ない橋を渡ってきたのかがわかるというものだ。

「それにしても、あれだな」

「はい?」

「魔王はあれ以来、表舞台に出てきていないな」

「ええ。あのリュウディースともども戦場を離れるのを見たものはいるようですが、それが最後の目撃情報で、あれから、魔王の影さえ目撃されていませんよ」

 魔王ユベルという凶悪極まりない人物が、多数の皇魔とともにクルセルクの戦場から消えた。魔王軍に属していた皇魔がその後どうなったのかは不明のままだ。少なくとも、その場で魔王の支配が解かれたわけではないのは、魔王の離脱後、皇魔たちが連合軍への攻撃をやめ、戦場を離れたことからも明らかだ。しかし、それ以降どうなったのかは一切わからなかった。魔王の所在も行方も不明であり、彼がいまどこでなにをしているのか、想像するしかない。

 皇魔の一部は、自然に還ったのではないかという推察があるが、おそらくそれは正解だろう。セツナがアバードに潜入する際に遭遇した皇魔の組織的な動きは、魔王軍に所属していた皇魔である可能性を示していた。魔王軍の皇魔は、魔王軍総帥オリアス=リヴァイアによって訓練され、人間の軍隊に決して劣らぬ組織力を持っていた。しかし、それは同時に皇魔になかった弱点を生み出すことになり、そこが連合軍にとっての付け入る隙となったのは有名な事実だ。

 頭を潰せば勝利が確定するというのは、徹底的に軍隊化された皇魔の軍勢が相手だったから通用した戦法であり、野生の皇魔には通用しがたい戦術だという。皇魔は群れをなすが、その群れの頭がいなくなれば、別の皇魔が頭になるということが普通に行われるため、絶対的な戦力差を認識しないかぎり、退くことは考えにくいのだという。皇魔と人間の力量差は絶大だ。通常、絶対的な戦力差を見せつけることなど不可能に近い。

「ま、どこにいこうが、なにをしていようが、再びガンディアの敵に回らないというんなら構わないんだがな」

「そうですね……願わくば、すべての皇魔を支配して、人間を襲わないようにしてほしいものですけど」

「そういうわけにもいかないんだろうさ」

 魔王の皇魔支配能力は、外法によって生まれた異能だという。アーリアの認識不能、イリスの超怪力、ウルの精神支配などと同じ起源を持つ。イリスの超怪力に制限があるのかは知らないが、アーリアやウルにはあるらしい。もっとも、詳しくは教えられていないため、アーリアとウルの異能にどのような制限があるのかは、セツナにはわからなかった。ただひとついえることは、魔王の皇魔支配能力にもなんらかの制限があるのだろうということだ。

 クルセルク戦争が終われば、ナージュ王妃の御懐妊とそれを祝した御前試合があり、セツナの新たな領地となった龍府でのシーラとの再会、ラグナとの遭遇、戦闘など、様々なことがあった。それだけで終わらないのがこの一年だ。

 さらにアバード動乱、ルシオン救援、ルシオン新王即位、ニーウェとの接触、ミドガルド、ウルクとの出逢いもあった。

「それで、セツナ派が結成されたわけだがな」

「まだ怒ってます?」

「もう怒ってねえよ」

「なんだ、良かった」

「ガンディアの、陛下のためになるんだろ?」

「はい」

 エインがにこにこしながらうなずく。

 セツナは頭の上に手を伸ばしてラグナを掴むと、わずかに反応した彼に構わず、頭の上から腿の上に移動させた。それから、椅子の背凭れに思い切りもたれかかるように背を逸らす。ラグナを移動させたのは、寝ている彼が頭の上から落下するかもしれなかったからだ。魔力の補給には頭の上が一番いいということだが、必ずしも頭の上でなければならないというわけではないらしいことが、ここ最近の言動から判明している。セツナに接触さえしていれば、ある程度は吸収できるようだ。それでもラグナがセツナの頭頂部に拘っているのは、居心地がいいからだということもわかっている。だが、ラグナの体は以前と比べて一回り大きくなっており、頭の上に乗られていると首への負担が大きく、以前のように一日中乗せていることは困難になっていた。

 故に、時折こうして頭から降ろし、首の筋肉を解す必要があるのだ。

「本当に効果あるのかね」

「ありますよ。もう既に効果が出始めているようです。抜群にね」

「本当かよ」

 セツナは、エインに疑いのまなざしを向けた。別に彼を心底疑っているわけではないのだが、彼がセツナの機嫌を損ねないために軽口を叩いているのではないかと思わないではないのだ。エインにはそういうところがなくはない。

 もっとも、エインがいってきたのは、セツナを気遣うような言葉ではなかった。

「アレグリアさんから悲鳴が届いてますもの」

「悲鳴? アレグリアさんが?」

「ええ。セツナ派結成の話を聞いた一部中立派貴族たちが、アレグリアさんに殺到したようでして」

「なんでアレグリアさんに?」

「そりゃあ、セツナ派に属するひとがアレグリアさんくらいしか王都にいなかったからでしょう。アレグリアさんを通してセツナ派に鞍替えしようという貴族の方々が大勢いらっしゃったようですよ」

「なるほど……」

 アバード王都バンドールで行われたセツナ派の結成式には、アレグリアは参加していない。彼女はガンディオンに残っていたのだから当然だ。

「アレグリアさんは貴族の方々が苦手ですからね。貴族の方々を相手にするのは大変だったようですよ」

「そりゃあなんというか……」

「王都に戻ったら、アレグリアさんの労をねぎらってあげてくださいね」

「あ、ああ……」

「おふたりで食事とか、そんなのでいいんですよ。きっと大喜びするでしょうし」

 エインがまるで自分のことのようにいってくるのが少しばかりおかしかったが、考えて見れば、同じセツナ信者である彼には彼女の思考や反応が手に取るようにわかるのかもしれない。

「そ。そうなのか?」

「ええ。だって、アレグリアさんも俺に引けをとらないくらいのセツナ様の信者ですからね」

「……なんでかしらねえけどさ」

「理由は簡単ですよ。アレグリアさんがガンディア人で、セツナ様がガンディアの英雄だからです」

「確かに簡単な理由だ」

「この上なくね。しかし、同時に納得しやすい理由でもあるでしょう?」

「まあな。おまえが俺の信者になるよりは、余程理解できる理由だ」

 セツナが指摘すると、エインは微笑を浮かべた。狂気を秘めた笑みは、彼が一種の狂人であることを示すかのようだった。彼は正気ではなかった。少なくとも、彼の同僚を殺しまくるセツナの姿に熱狂するなど、正気の沙汰ではない。その狂気の果てが彼の熱烈なまでのセツナ崇拝とでもいうべき現状であろう。とはいえ、彼は現実を見失ってはいないし、彼の現実認識は恐ろしいほどに冷静で、ときに冷酷だ。だからセツナも彼を信用しているし、信頼している。

「ふふふ。俺みたいな狂人は、そういるわけじゃないですからねえ」

「本当だよ」

 セツナは、エインの笑顔に恐ろしいものを感じながら彼の発言を肯定した。実際、エインのような狂人はほかにいないといってよかった。敵でありながらセツナの戦いぶりに熱狂し、信者となるような人間など、そういるものではない。味方になってからでも距離を取られるのが普通であり、セツナには近寄りがたいと感じるのが正常なのだ。

「まあともかく、セツナ派の結成が中立派貴族に動揺を与え、ガンディアの政情を動かしたのは事実ですよ。そしてそれは間違いなく、陛下の世のためになる」

「……よくわかんないんだが、なんで中立派の貴族は、セツナ派に入ろうとしたがってるんだ?」

「単純に機を見失っていたんですよ」

「機……」

「中立派なるものが誕生したのは、陛下を頂点とするレオンガンド派と、反レオンガンドを掲げるリノンクレア派――後の太后派の対立が表面化してからのこと。中立派は、レオンガンド派にも反レオンガンド派にも属さないことで一定の発言力を得たわけですが、ラインス一党の壊滅以降、反レオンガンド派が勢いを失い、レオンガンド派が権勢を得たとき、中立派は立場の維持に固執したわけですね。その結果、レオンガンド派に入ることもできず、かといって反レオンガンド派などありえないことですから、どうしようもないまま中立派の看板を掲げていたんですよ」

「それで……どうしてセツナ派に?」

「簡単な話ですよ。セツナ派がレオンガンド派の分派だということは、だれの目から見ても明白です。我々もその事実を隠すつもりもありませんし。そもそも、セツナ様からして、陛下の敵に回ることなどありえませんからね。そのことは、誰もがよく知っている事実です」

「まあな」

「中立派の方々がセツナ派に鞍替えしたのは、そういう理由なんですよ」

「セツナ派に入ることで、レオンガンド派に所属したも同然になるってことか? だったら、最初からレオンガンド派に鞍替えすりゃいいんじゃねえのか」

「そこが政治のくだらないところなんですが」

 エインが苦笑交じりにいった。

「中立派を気取っていた貴族の皆様方には、いまさらレオンガンド派に鞍替えするのは自尊心が許さないのですよ。しかし、中立派のままでは時代の流れに取り残されるのは必定だということは認識しているし、レオンガンド派の世が来ていることも肌で理解している。なんとしてもレオンガンド派に入るか、近づきたいと考えていたはずです」

「それで……セツナ派か」

「はい。セツナ派は紛れも無くレオンガンド派の一分派ですが、それでもレオンガンド派に直接鞍替えするよりは、新設の、人数も少ない派閥に入ったほうが、自尊心を保てるのでしょう。俺もまさかここまで効果を発揮するとは想いませんでしたけどね」

「それがセツナ派結成の目論見だったのか」

 セツナが嘆息とともに告げると、エインがきょとんとした。そして、目を細めて見つめてくる。

「まさか」

「ん?」

「それだけじゃありませんよ」

「ほかになにがあるんだ?」

 セツナには、エインの思考を読むことなどできない。

「セツナ派の結成、中立派貴族のセツナ派への鞍替えは、レオンガンド派をより強力な派閥にするためのものです。となると、反レオンガンド派も黙ってはいられなくなる。動かざるをえない」

「そうか。反レオンガンド派が動き出せば、内部に潜んでいるかもしれない敵も明らかになるかもしれないということか」

 レオンガンドは、ジゼルコートに疑念を抱いて以来、ガンディア国内にいるかもしれない敵と自分の味方を色分けすることに注力していた。

 敵か味方か、味方か敵か。

 ラインス=アンスリウスら反レオンガンド派の首魁が倒れてからというもの、表面上、ガンディア内部に敵はいなくなったように見えていた。しかし、反レオンガンドを掲げていたすべての人間が、ラインス一派の壊滅とともにすぐさま考え方を変えるわけもない。反レオンガンド派は相変わらず存在していたし、レオンガンドは、彼ら反レオンガンド派の監視を怠ってはいなかった。その甲斐もあって、反レオンガンド派の活動がガンディアに直接的な損害をもたらすことこそなかったものの、闇に潜った彼らがなにをしでかすのかは不明瞭なままだ。彼ら反レオンガンド派は、いまだレオンガンドの失脚を諦めていないようなのだ。いまさらレオンガンドの評判を下げることなどできない上、警備が以前よりも遥かに厳重になった王宮区画内で、セツナ暗殺未遂事件の二の舞いなどできようはずもなく、彼らがなにを考え、なにを企んでいるのか、想像もつかなかった。

 もっとも、ラインス一党の壊滅によって、反レオンガンド派の人数が極端に減ったのは間違いないらしい。反レオンガンド派の一部は中立派に入り、反レオンガンドの旗を掲げていたことさえ忘れたかのように振舞っている。それら中立派に移った連中がセツナ派に鞍替えしてきたとしても、不思議ではないというのが、政治の不気味なところだ。主義主張など、立場を維持するための方便に過ぎない。

 つまり、反レオンガンド派はガンディアにおいてぶっちぎりの少数派であり、最大派閥であるレオンガンド派に正面切って対抗するだけの力は、とっくになくなっている。それでも警戒しなければならないのは、追い詰められた彼らが実力行使に出ないとは限らないからだったし、ジゼルコートと繋がっているという可能性が見えたからだ。

 レオンガンドを始め、ガンディア上層部がジゼルコートを疑いのまなざしで見るようになったのは、アルベイル=ケルナー(テリウス・ザン=ケイルーン)の一件からであり、ほかに理由はないとさえいえるのだが、その一件だけでも十分に疑う理由となった。しかし、それ以降、彼がガンディアに損害をもたらすようなことは一切していない。それどころか、アザークとラクシャを従属させており、ガンディアへの貢献度は凄まじいものがあった。ジゼルコートを疑うのは無理があるのではないかというセツナの言葉に対し、エインは笑うのみだったが。

 彼は、まだ、ジゼルコートを疑っているらしい。

「そして、それが明らかになるのは、近いでしょう」

「近い?」

「年が明ければ、王都で大会議が開かれます」

「大会議? 聞いてないぞ」

 セツナが目を丸くすると、エインが当然のようにいってくる。

「いってませんからね」

「おい」

「マルディアからの使者の話は聞いたでしょう?」

「ああ。マルディアの王女様みずから出張ってきたんだって?」

 マルディアの王女ユノ・レーウェ=マルディアが家臣を引き連れて王都ガンディオンを訪れ、レオンガンドと会見を行ったという話が龍府のセツナに伝わってきたのは、つい先日のことだった。

「ええ。そのマルディアからの使者は、ガンディアに救援を要請しにきたわけですが、大会議というのは、その扱いに関するものです。大将軍をはじめ、ガンディア軍上層部が勢揃いするその席で、ガンディアの方針が決められるわけです」

「そこで敵と味方が明らかになるってのか?」

「まあ、たとえその席上明らかにならなくとも、いずれ白日の下に晒されますよ」

「えらい自信だな」

「そのための参謀局ですから」

 エイン=ラジャールの強気なまでの笑顔には、セツナは息を呑んだ。



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