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第千百五十三話 結成

 十一月十八日、アバード王都バンドールについたガンディア国王一行は、アバード政府によって出迎えられている。

 アバードの現在の代表者は、王子セイル・レウス=アバードであり、ガンディアの右眼将軍アスタル=ラナディースとともにレオンガンドたちを歓迎したものだった。外務大臣エイドリッド=ファークスや、内務大臣ビスマルク=アシュラインなどの政府要人が顔を揃えていたことも、アバードがガンディアの属国になったことを実感させた。当然、属国の王子であるセイルは、レオンガンドに臣下の礼を取り、レオンガンドも主として振る舞った。

 セツナもガンディアの重臣としての扱いを受けた。《獅子の尾》隊長としてではなく、領伯として、だ。親衛隊長の立場も十分に高いのだが、政治的な重要度でいえば領伯のほうが上なのだ。

 領伯には個室が与えられ、そこで一夜を過ごすようにいわれたが、すぐにその部屋はセツナ軍の拠点となってしまった。

 つまり、レム、ラグナ、ウルクが当然のように居座ると、《獅子の尾》の部下たちが飛び込んできて、黒獣隊、シドニア戦技隊が押し寄せたのだ。セツナに充てがわれた個室は決して狭くはなかったが、シドニア戦技隊が入ってきたところで満員になって、戦技隊を追い出すはめになったりした。セツナの部屋に残ったのは、戦技隊を除く全員である。女性の割合が多いのは、いつものことだ。

 部屋は、ある程度再建された王城の中にあった。

 王城の再建が進んでいるのは、バンドールの人々の声によるところが大きい。当初、アバード政府は、バンドール崩壊の責任はアバード王家にあるとし、王城の再建を後回しにすると宣言、バンドールの市街地の再建、復興を優先した。しかし、王都の住民たちは、王都の象徴たる王城の再建こそ優先するべきだといい募り、そういった声があまりにも多くなったため、アバード政府は王城の再建をある程度優先させることとした。その結果、数ヶ月あまりで、城らしい姿を見せるようになり、アバード王家関係者は王城で生活することができるくらいにはなっていた。

 セツナに充てがわれた部屋は、ほぼ完全といっていいくらいに再建された区画にあり、《獅子の尾》や黒獣隊、シドニア戦技隊が寝泊まりすることとなった部屋も同様だった。

 そんなこんなで、バンドールに到着した十八日は、十七日間に渡る長旅がようやく終わったということで、ゆっくりと体を休ませ、疲れを取ることに専念することとなったのだが、セツナは、部屋を訪れた部下や配下の相手をしなければならず、余計に疲れるばかりだった。

 途方に暮れたところで、彼らが自分たちの部屋に戻ってくれるわけもなく、セツナは夜中まで彼らの話し相手をしたのだった。

 そういった話の中でルウファの実弟ロナンが、ガンディアの王立召喚師学園に入学することが決まったということを知ったりした。ロナンとは、セツナがバルガザール家で世話になっているとき、よく遊んだ間柄だった。年齢的にルウファよりもロナンのほうが近いこともあったのか、すぐに打ち解けている。その彼が武装召喚師を目指したのは、ルウファの影響だと想うのだが、ルウファにいわせればセツナの影響のほうが強いという。セツナがあまりに活躍するから、自分も武装召喚師になれば、セツナほどとはいかなくとも、ガンディアのために働けるに違いないと想っているらしい。セツナは、自分の影響力など信じられないものの、ロナンがそのように考え、武装召喚師を目指すというのは歓迎だった。もしロナンが武装召喚師として立派に成長すれば、そのときは《獅子の尾》で迎え入れるというのも面白いかもしれない、とも想った。ルウファとロナンの武装召喚師兄弟は、《獅子の尾》の象徴となりうるだろう。

 そういった話をして、十八日は終わった。


 翌十九日、セツナはエインに呼ばれ、王城内の一室に向かった。

 エイン=ラジャールは、参謀局の代表としてバンドール行きに同行している。ほかに参謀局から同行したのはエインの部下の三人娘であり、局長のナーレス=ラグナホルンはおろか、副局長のオーギュスト=サンシアンの姿もなかった。ガンディオンとエンジュールを行き来しているオーギュストはともかく、ナーレスに関しては、長らく姿を見ていない。

 ナーレスはまだ、エンジュールで療養中なのだ。シーゼルで見たナーレスの姿を思い出す限り、そう簡単には回復しないことは想像に難くない。温泉に浸かって治るようなものとも思えない。病の悪化。その病は、毒が原因のものであり、完全な治療法はなく、体調が戻ったとしても、彼の体は毒に蝕まれ続けていることに変わりはない。ナーレスは、その毒と戦い続けながら、ガンディアのため、レオンガンドの夢のために軍師としての腕を振るい続けてきたのだから、長期に渡って戦線を離れたとしても、だれも文句をいわなかった。特に、シーゼルで彼の姿を見たものは、ナーレスの回復を祈る一方で、もう無理なのではないかと囁くものもいた。このまま、軍師を引退するのではないか、と。

 引退といえば、大将軍が位を返上するという話もある。大将軍と軍師が同時期に辞めるという可能性も少なくはなく、それによってガンディアは色々と様変わりするかもしれない。

 エインに指定された部屋は、王城の再建区画の一室で、広間のひとつのようだった。

「エイン様、いったいなんの用事なのでございましょう?」

 レムが問いかけてきたものの、セツナにもわからなかった。エインはただ、この時間帯にこの部屋まで来て欲しいとだけ伝言を寄越したのだ。セツナひとりで来いとも書かれていなかったため、レムとラグナを連れて来ている。彼女たちはセツナの従者であり、普段からセツナの側に置いておくことが多かった。

「さあなあ。あいつの考えてることなんて、俺にわかるわけねえよ」

「そうじゃのう。おぬしはなにも考えぬからのう」

「考えてるっての!」

「そうでございますよ、ラグナ。いくら御主人様が戦場で考えなしに突っ込むばかりとはいえ、普段はある程度頭を働かせておいでだということは、御主人様の言動からわかるはずです」

「むう……確かにそうじゃな。いいすぎたわ」

「……はあ」

 セツナは、レムの発言に心をずたずたにされたような気分になりながら、反論する気にもなれずため息をついた。エインが待っているであろう部屋の前でうだうだしている場合ではないのだが。

「ため息をついてどうしたのですか」

 不意に背後から聞こえてきた無機的な声に、セツナははっとなった。振り向くと、魔晶人形の目がこちらを見ている。いつ見ても息を呑むほどに美しい人形の顔に、表情などあるわけもない。淡く発光する双眸が、彼女が人間ではないことを証明するかのようだった。ウルク。

「って、おまえまでついてきてんのかよ」

「セツナを護衛するのがわたしの役目です」

 ウルクは、当然のようにいってくる。

「ったく、どうなってんだか」

「それはわたくしの言葉でございます」

「そうじゃそうじゃ。このウルクという奴に気を許す意味がわからぬわ」

「別に気を許しているわけでもなんでもないんだがな」

 肩を竦める。ウルクは、神聖ディール王国製の戦闘兵器なのだ。どういうわけか自我を持ち、自律的に行動するようになった彼女は、セツナを護衛することが自分の役割だと認識しているらしい。セツナ自身が持つ特定波光なるものが原因らしいのだが、そういわれたところで納得できるものでもない。

 ミドガルド=ウェハラムが、ウルクをそういう風に作ったからではないか、と考えたりもした。例えば、なんらかの意図を持ってセツナに近づくために、ウルクにセツナを護衛するという考えを植えつけたのではないか。黒魔晶石と特定波光も全部嘘で、セツナが手にしたときだけ強く発光する仕掛けが仕組まれていたのではないか。しかし、ディールの人間がセツナにそこまでする理由も思いつかず、ミドガルドの策謀という考えは打ち消した。

 ミドガルドがセツナを陥れる道理がない。

「ただ、受け入れるしかないから受け入れているだけだよ」

「むう……」

「そんなことをいったら、おまえに気を許す意味だってわからんだろ」

 セツナは頭上を睨みながら、いった。ラグナはいつものようにセツナの頭の上に座っている。細長い首を伸ばして、セツナの顔を覗きこむようにしているから、セツナが上を睨むだけで彼の顔を見ることができた。異形ながらも妙に愛嬌のあるドラゴンの顔。宝石のような目がこちらを見つめている。

「それはわかるじゃろ!?」

「普通、ドラゴンなんて受け入れられねえっての」

「そうなのか!? 先輩!?」

「普通は、御主人様の仰られる通りかもしれませんね。御主人様は普通人ではございませんから、ラグナを受け入れられたのでございましょう」

「なんじゃと……」

 愕然とするラグナはともかく、セツナはレムを横目に睨みつけた。レムはいつもの微笑を浮かべていて、セツナの視線などどこ吹く風だ。

「セツナ、エイン=ラジャールを待たせています」

「あ、ああ、わかってるよ」

 ウルクに急かされて、セツナは多少慌てた。確かに、部屋の前でうだうだしている場合ではない。

「ウルク。悪いがおまえは部屋の外で待機していてくれ」

「なぜですか?」

「おまえはガンディア所属じゃないだろ。ガンディアにとって重要な話を他所に漏らすことはできねえっての」

「わかりました。ですが、セツナの身に危険が及ぶようなことがあれば、すぐにでも突入します」

「わかったよ。そんなことはありえねえけどな」

「ありえないことなどありえません」

「……そうかもな」

 ウルクの言い分を否定しなかったのは、脇腹に痛みが走ったからだ。傷口などとっくに塞がれ、完全に癒えきっているというのに、なぜ痛みを覚えるのか。脇腹の傷。何度か刺された。その一度目の記憶が痛みとなって蘇ったらしい。エレニアに刺された痛みだ。

 ありえないこと。

 もっとも、エインがセツナを傷つけるようなことなど、万に一つもありえないことであり、杞憂ですらないのだが。

 セツナはウルクの警告を噛み締めながら部屋の扉を開き、室内に足を踏み入れた。変わった部屋で、扉を入るとまずまっすぐ通路があり、右手にもうひとつ扉があった。その扉の前には参謀局の局員が立っていた。

「お待ちしておりましたよ、セツナ様。どうぞ、中へお入りください。皆様、セツナ様の到着を心待ちにしておられます」

「皆様?」

 局員の話を聞いて、セツナは怪訝な顔になった。広い部屋だと聞いていることもあって、エインひとりではないのだろうと考えてはいたのだが、局員の話を聞く限りでは、想像した以上の人数がセツナを待っているようだった。

 レムを見ると、彼女も小首を傾げるばかりだった。レムにわかるはずもないことだ。

 セツナは前方に視線を戻すと、扉を開いて、室内の光景を目の当たりにした瞬間、ただただ唖然とした。

「……え?」

「セツナ様、お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」

 といって、セツナに空いている席に座るよう促したのは、エイン=ラジャールだった。

「あ、ああ……」

 セツナは、エインに促されるまま、彼の指し示した席に向かった。広い部屋だった。再建したばかりなのだろう。飾り気はなく、天井に吊るされた魔晶灯くらいしか派手なものはなく、部屋の真ん中に置かれた大きな円卓と、それを囲む椅子も、質素なものだった。その椅子に座る面々に、セツナは唖然としたのだ。

 セツナの席の右隣には、エインが座っている。彼の背後には、三人の部下が控えている。

 エインの右隣には、アスタル=ラナディースがいて、さらに右に行くとグラード=クライド、ドルカ=フォーム、ニナ=セントールといったガンディア軍、ログナー方面軍の面々が続く。ガンディア軍の中でも特にセツナと関わりのあった人物たちではあるが、なぜ彼らがここにいるのかは、セツナには想像もつかない。

 さらにゼフィル=マルディーンがいた。レオンガンドの四友のひとりであり、側近衆の中でも特にセツナと親しいといっても過言ではない人物だが、彼の姿を円卓の中に発見したとき、セツナは疑問符で頭の中がいっぱいになるのを認めた。

 その上、《獅子の尾》の面々も、当然のようにいる。セツナの左隣の椅子にファリアが腰掛けていて、ルウファ、ミリュウと続く。マリア、エミルはいないが、《獅子の尾》の主要人員が揃ったことにはなる。いつもセツナに付き纏うミリュウの姿が見えなかったのは、こういう理由かと想う反面、なんだか皆に騙されたような気がして、憮然とした。

「これはいったい?」

「とにかく、座ってくださいよ。でないと、話が進みません」

「ああ……わかったけどさ」

「説明はちゃんとしますから」

 エインにそうまでいわれては、従うしかない。ファリアたちがいるのだ。ウルクが心配したようなことは万が一にも起こりえないということだ。もちろん、最初からわかっていたことではあるが。

 セツナは、指定された席に座る前に頭の上のラグナを掴み取って、レムに手渡した。ラグナは場の空気を読むことに長けたドラゴンだ。セツナの無造作な行動にも文句ひとついわず、レムの手から肩に移動した。あとで噛みつかれるだろうが。

 席に座ると、対面のゼフィルが微苦笑を漏らした。ゼフィルはきっと知っているのだ。いや、この場にいるセツナ以外のだれもが知っているに違いない。エインがなにを企み、なんのためにこの場にひとを集めたのか。

 嫌な予感がした。

「セツナ様も参られましたし、早速始めましょう」

「始めるってなにをだよ」

「セツナ派の結成会に決まってるじゃないですか」

「はあ!?」

 セツナは、想像だにしない言葉に、素っ頓狂な声を上げた。


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