第千九十一話 それぞれの想い
胸騒ぎがする。
動悸がして、目眩を覚える。呼吸ができなくなって、空気を求めてあえいだ。世界が震えている。そんな錯覚さえ意識を苛んでいる。
自分の身になにが起きているのかわからず、彼女は、足を止めた。胸に手を当てる。十年来、成長の止まってしまったままの小さな胸。手を押し当て、意識を集中すると、心音が聞こえた。心臓が動き、脈打っている。血が流れ、体中を循環している。仮初の命。主から供給される命の音。規則正しく動き、彼女に生きていることを実感させる。命の音を聞くだけで安堵を覚えるのは、自分が生きているということは、彼もまた当然生きているからだ。
彼が生きているから、自分も生きていられる。そういう命。そういう人生。それでいいと彼女は想う。そうなってしまったのだから、この生命を受け入れ、全うするよりほかはない。そして、この人生もまた、楽しいものだ。闇に囚われていた頃とは違う。少なくともここには絶望はなく、希望に満ちあふれてはいなくとも、安らぎがあり、楽しいと思える日々がある。
だからこそ、だろう。
彼女はこの不安の出所がどこなのか、突き止めなければならないと考えた。考えると同時に足が動いている。王都ガンディオン新市街。真新しい建築物群が織り成す見慣れぬ風景のどこかに、彼女の主はいる。彼女の主は、王命に従い、この真新しい居住区を走り回っていた。
なんでも、彼に似た人物が現れ、ちょっとした騒ぎになっているということらしい。どれだけそっくりなのかというと、彼を見たことがあるひとでも間違えてしまうくらいであり、そのそっくりな人物を捕まえるために警備隊や軍を動員するのをはばかられるほどらしい。
だから、《獅子の尾》が投入された。レオンガンド直属の部隊であり、セツナを隊長とする王立親衛隊ならば、セツナの偽者を捕まえたとして、警備隊や軍がそうした場合ほどの騒ぎにはならないだろう。そういう考えが、《獅子の尾》を動かしている。
彼女――レムは、《獅子の尾》の一員ではないが、いまやセツナの従者として広く知れ渡っていることもあってなのか、動員された。シーラたち黒獣隊やシドニア戦技隊は捜索部隊から外されたところを考えると、レムはセツナに信頼されているようだ。そのことが彼女は少しどころではなく嬉しくて、俄然張り切っていた。
張り切って、新市街の捜索に乗り出したのだ。
胸騒ぎがしたのは、そんな最中だった。
突如として不安に襲われた彼女は、セツナの偽者ではなく、セツナとの合流を優先した。“死神”を呼び出す。弐号。複眼の“死神”であり、広大な感知範囲を誇る形態であるそれは、彼女が姉のように慕った死神カナギ・トゥーレ=ハランの“死神”と同等のものだ。名称も、彼女の名から取っている。
“死神”の形態変化は、レムが再蘇生によって新たに得た力だった。“死神”の召喚に仮面を必要としない時点で、かつての能力よりも強化されていることがわかるのだが、それに加え、“死神”をいくつもの形態に変化させることができた。通常形態の壱号、情報収集形態ともいえる弐号、近距離戦闘型の参号、中距離戦闘に特化した肆号、遠距離戦闘型の伍号、そして全距離適応型の陸号。つまり、死神部隊の零号を除く“死神”を使い分けることができるようになった、ということだ。
それは、彼女にとっては少し悲しく、少し喜ばしいことだった。もはや逢うことも叶わなくなったかつての仲間たちの面影を“死神”の中に見出すことができるのは、少しばかり寂しく、嬉しい。微妙な感情の中で、弐号形態の“死神”に索敵させる。
“死神”が闇の衣の中に輝く無数の目で世界を見渡す。新市街南部の広範に渡って視線を巡らせ、彼女の目的の人物を探し出す。姿形、声、音、気配――様々な情報の中から、該当する人物だけを絞り出し、その位置を特定、彼女の頭の中に投影する。同時に、彼女は建物の屋根を蹴っていた。飛ぶ。レムは地上を走ってはいない。建物の屋根から屋根へと飛び移ることで移動時間の短縮を図っていた。その上、屋根の上からなら広い範囲を見渡すことができるのだ。特に弐号形態で情報を収集するのならば、出来る限り高い場所がいい。カナギもよくそういっていた。
(最初からこうすればよかったのにね)
張り切りすぎて自分のやり方を見失っていたのかもしれない。苦笑は、瞬時に消える。“死神”が、目的の人物を捉えたからだ。目的の人物とは無論、セツナのことであり、
(本当にそっくりね)
レムは、網膜の内側に投影された人物の姿に、唖然とする想いだった。セツナによく似た人物もまた、“死神”は捉えていたのだ。黒髪赤目に黒ずくめの人物。手に持っている武器こそ違うものの、それ以外はセツナそのものといっていいほどによく似ていた。黒き矛を手にしたセツナと対峙していることもあって間違うことはないのだが、両方が同じ格好をして、同じ得物を手にしていたら、さすがのファリアやミリュウでも間違うのではないかと想うほどだった。
(わたしは間違えないけど)
間違うはずがない。
確信とともに、彼女は急いだ。
セツナとセツナによく似た人物は戦闘の真只中にあり、見る限りではセツナが押されていた。背を斬られ、血を流している。セツナがそこまでの傷を負うなど、ありうべきことではなかった。クレイグとの戦いでさえ、レムが気を逸らしたからこその致命傷だったのであり、セツナが万全の状態ならば、クレイグに傷を負わされることなどなさそうだった。黒き矛とセツナは、それほどに強く、圧倒的だ。
それにも関わらず、いまのセツナは追い詰められているように見えた。
屋根を蹴り、新市街の上空を飛ぶ。弐号形態の“死神”の眼が、《獅子の尾》の武装召喚師たちの居場所も特定する。ファリア、ミリュウ、ルウファの三人が、それぞれにセツナの居場所に向かっているのがわかる。ルウファだけ極端に離れているものの、彼の活躍を考えれば仕方のないことだ。隊舎からここまで一分足らずで辿りつけたのは、彼のおかげだった。そして、そのおかげで、セツナが窮地に陥っている。
(恨みはしないけど)
一対一。
窮地に陥ったのであれば、セツナ個人の責任だ。
だが、だからといって、指を咥えて見ている場合でもなく、彼女はとにかく急いだ。急いで空を駆け、一直線にセツナのいる場所に向かった。新築の建物が次々と生まれている新市街の中でも空白地帯のような場所で、ふたりは戦っている。これから建物が建設される予定の敷地であり、そのための資材が周囲に集められているのもわかる。セツナに似た人物の隠れ場所に最適、とはいえないが。
やがて、セツナを視界に捉える位置にまで辿り着いたとき、レムは殺気を感じて飛び退いた。左腕に激痛が生じる。視界を赤が染めた。血飛沫。面白いように血を吹き出しながら、彼女の左腕が飛んでいた。その腕をだれかが掴んだ。少女。黒ずくめの。
「ジベルの死神だったっけ、君」
ぞくりとしたのは、腕が切り飛ばされたからでも、その切り飛ばされた腕を掴まれたかれでもない。ましてや、切り口から大量の血が流れていることでもない。腕を切られた衝撃で死ぬことも、出血多量で死ぬことはない。そもそも、レムが死ぬことなど、そうあることではない。レムが死ぬ日が来るとすれば、それはセツナが死ぬときなのだ。
「見たところ、死神っぽくはないね」
その少女から凄まじいまでの殺気を感じたからだ。
少女。どこからどう見ても少女だ。十代前半から半ばくらいだろうか。つややかな黒髪に灰色の目を持っている。どこか小動物を思わせる風貌は、可憐でさえある。華奢だが、均整の取れた体型をしており、筋肉がぎっしりと詰まっていることが想像できる。右手に剣を持ち、左手にレムの左腕を掴んでいる。
「どちら様でございましょう?」
「ん……でも、腕を切られてなお取り乱さないっていうのは、死神としては合格点かな」
「それはどうもありがとうございます」
「ミーティア・アルマァル=ラナシエラ」
彼女は、唐突にいってきた。それが名前だということだろう。聞いたこともない名前。聞いたこともない家名。ガンディアの近隣国の人間ではないことは、なんとはなしにわかる。そもそも、セツナにそっくりな人物がガンディアの近隣国にいれば、それだけで話題になっているはずだ。それがいまさら話題になり、王都を微妙に騒がせているということは、遠方からの来訪者なのは疑いようがなかった。
「ご丁寧に。わたくしは、レムでございます。どうぞお見知り置きを。とはいえ、いまはあなたに構っていられる場合ではないのです」
「ぼくもそう」
「はい?」
「君、セツナとかいうのの従者なんだよね? あそこにいる」
「ええ、よくご存知で」
「知らないはずがないだろ。君たち、本当有名なんだから。ここに来るまで嫌というほど聞いたよ」
ミーティアが、苦笑を交えながら言ってくる。話を聞く限り、やはり遠方からの来訪者なだということがわかる。どこからきたのかはわからないが、小国家群の果てか、あるいは三大勢力のいずれかからかもしれない。この王都に来るまでに嫌というほど聞いた、ということはそれ以外には考えられない。ガンディアの近隣国、小国家群中央付近の国々の出身ならば、ここに至るまでもなく、セツナの話は聞いていたはずだからだ。中央の情勢に疎い、果ての国々か、小国家群の情勢そのものに疎いであろう三大勢力のいずれか以外、考えられない。
もちろん、そんなことはどうでもいいのだ。彼女やセツナによく似た人物の正体がなんであれ、レムには関係がない。レムにとって重要なのは、セツナを護ることだ。主を護ることこそ、従僕たる彼女の使命であり、そのためにこそここまで来たのだ。
「黒き矛のセツナの英雄譚。おかげで、退屈はしなかったけどさ」
「つまりあなた様は、あちらの、わたくしの主によく似た方の?」
「ニーウェ」
「はい?」
「ぼくらの主の名前だよ。まあ、覚えておく必要もないけどさ」
彼女は広場を一瞥した。セツナと対峙する、セツナによく似た人物を見たのだろう。ニーウェ。それがその人物の名前らしい。不思議な事があるものだと、その名を反芻しながら想う。
「ニーウェ……」
「ん?」
「いえ。おかしなこともあるものだと想いまして」
「なにが?」
「御主人様の偽名なのでございます」
「偽名?」
「はい。御主人様が身分を偽るときによく使う名前が、ニーウェという名前なのでございます」
にこやかに告げると、ミーティアも驚いたようだった。それから、笑ってくる。
「へえ。それは面白いな。姿形だけじゃなくて、名前まで同じなんてさ」
「ええ。真に面白く、不快でございます」
言い捨て、右手で鎌を構え、左腕を添える。失った左腕は“死神”の腕で代用した。つまり、左腕の切断面から“死神”の腕を生やしたのだ。そして、神経を通し、無意識に動かせるようにする。これで、なんの問題もなく戦える。弐号形態の“死神”は、近接攻撃よりも中距離攻撃を得意とする。カナギと同じく、戦輪を使うからだ。
「それにも、同意しておくよ」
「御主人様はこの世におひとりで十分でございます」
「同感だな。ニーウェと同じ姿をした奴なんて、いらないんだ。だから、邪魔はさせない」
「邪魔させて頂きます。御主人様をお護りするのが、わたくしの使命」
「じゃあ、死んでくれる?」
「死にませんよ。死神ですから」
レムが微笑むと、ミーティアは凶悪な笑みを返してきた。
ファリアが足を止めたのは、突如として降り注いできた光によって前方の道路が穿たれ、破壊されたからだ。ファリアを狙った攻撃ではないが、ファリアへの意思表明であることは間違いない。これ以上先に進むなという警告。そのための牽制攻撃。
王都新市街南部大通りを脇にそれ、複雑に入り組んだ住宅街を走り抜けようとした矢先だった。その先にセツナがいることは、オーロラストームを召喚していることでわかっている。聴覚が、セツナの声を捉えた。そして、それによってセツナが目的の人物と接触したことが判明した。そのために彼女はセツナに向かって移動を開始していた。セツナが目的の人物を探し当てたというのなら、ファリアたちが捜索を続ける理由はなくなる。今回の任務は、とにかくセツナによく似た人物を探しだすというものなのだ。該当の人物を見つけることができたのならば、それ以上の捜索は不要だ。セツナと合流し、対象人物に当たればいい。
そういう考えのもと、彼女は行動を開始し、阻害された。
目線を上げ、天を仰ぐ。新築の家屋の屋根上に、攻撃してきた人物はいた。攻撃の種類からわかっていたことだが、まず間違いなく武装召喚師だ。こちらに砲口を向けている。巨大な弓銃のような召喚武装。ファリアとは相性は悪くはないが、良くもない。互いに射程兵器なのだ。それを好相性とはいえないだろう。
男だった。黒髪茶眼の貴公子、とでもいうべきか。どこからどう見ても優男で、とても武装召喚師には見えない。が、そんなことをいえばファリアもミリュウも一見、武装召喚師になど見えないし、ルウファも同じだ。外見で判断してはならない。
男は、屋根の上から飛び降りてきた。二階の高さから落下したというのに軽々と着地して、難なく立ち上がって、こちらに銃口を向けてくる。いつでも撃てるように、だろう。
「セツナへの助太刀はさせないよ、素敵なお嬢さん」
遠目で見るよりも、近くで見たほうがはっきりとわかる。男は貴族然とした秀麗な容貌の持ち主であり、立ち居振る舞いにも無駄がなく、気品があった。由緒ある家柄の出身なのは、そういったものを見れば明らかだった。
生まれや育ちの良さ、悪さは、そう簡単には隠せないものだ。
だからといって、ファリアは彼を警戒しないはずもなかった。おそらく、セツナによく似た人物の仲間なのだろう。だから、ファリアの行動を阻害するのだ。
「お嬢さんって歳でもないけど……セツナへの助太刀?」
「違うのかい? 君、ファリア・ベルファリア=アスラリアだろう?」
「ええ、よくご存知ね」
「知らないわけがない。ここに至るまで、随分と噂を聞いたよ。まあそもそも、武装召喚師にとってはファリアの名を知らないはずがないんだけど」
(ここに至るまで……か)
胸中で反芻したのは、そこだ。まるで、この王都に至るまで、随分長い時間がかかったような言い回しだった。近隣国の人間ではないことは確かなようだ。
「随分、長旅だったようね」
「本当に長い旅だったよ。まあ、楽しくはあったけれど」
「それは良かったわね。それじゃあね」
話を終わらせ、彼の横を通り抜けようとするも、視界を横切る光弾によって阻止される。光弾は、車線上にあった家の壁に直撃し、小さな爆発を起こした。壁に穴が開くほどではなかったにせよ、直撃を喰らえば、人体など粉微塵になるだろう。
それは、ほとんどの召喚武装に当てはまることではあるが。
「だから、助太刀はさせないといっただろう?」
「邪魔をしないで」
「邪魔するために、ここにいるんだって」
「どうして?」
「そりゃあ、あの方の望みを叶えるためさ」
「あの方?」
反芻して、思い当たる。ほかに考えられない。
「それが、セツナの偽者ってわけね」
「偽者ねえ」
彼が、薄く笑う。その笑い方ひとつとっても品があるのだから、生まれや育ちというものはどうしようもない。
「俺から見れば、セツナのほうが偽者なんだけど」
「立ち位置が違えば、そうなるでしょうね」
「だよねえ」
「だから、行くわ」
「行かせるわけにはいかないって、いってるよね?」
「それでも、行くのよ」
「だから、邪魔させないっていってるだろう。手荒なことはしたくないんだ。本当にさ」
彼は軽く肩を竦めた。それから、しかたがないとでもいうように、いってくる。
「セツナを殺して、黒き矛を破壊する――それが、我らが主の望み。我らは、その望みが主みずからの手で叶えさせるためだけに、ここにいる」
彼は、召喚武装を掲げると、静かに名乗ってきた。
「我が名はランスロット=ガーランド。それでも行こうとするのなら、相手になろう」
「しょうがないわね。あなたを倒して、セツナと合流することにしたわ」
ファリアは、嘆息とともにオーロラストームを掲げた瞬間、最大威力の雷撃を放った。
「ここから先へは、行かせない」
進路を塞ぐように現れた女は、唐突に、そんなことをいってきた。
年の頃は、ミリュウと同じか少し上くらいだろうか。三十路には見えないが、若作りをしていないともいえない。長い黒髪を後ろでひとつに束ねている。切れ長の目が鋭い刃物を思わせるが、全体として美人だった。同性のミリュウでもはっとするほどの美女。黒ずくめの下に軽装の鎧を着込んでいることがなんとはなしにわかる。そのうえで、剣を帯びている。長剣。ただの剣には見えないが、気のせいかもしれない。
ミリュウより上背があり、筋肉の総量も彼女のほうが上だろう。まともにぶつかり合えば押し負けるのは目に見えている。もっとも、アバードで対峙したベノアガルドの騎士に比べれば可愛いものだが。
それでもミリュウは、ラヴァーソウルを構えながら、女への警戒を強めた。王都新市街南部。女が突如として現れたのは、セツナに向かうために移動している最中のことだった。セツナとの合流を図ったのは、セツナの声が聞こえたからだ。敵と対峙する声。詳細は不明だが、おそらく、偽セツナと遭遇したのだろう。
「だれよ、あんた。あたしの邪魔をしたら、ただじゃ済まないわよ?」
「それはこちらの台詞だ」
「……あんた、偽セツナの仲間ね?」
「偽? 我が主を愚弄するか」
女が、強烈な怒気とともに剣を抜いた。美しい刀身が曇天からこぼれるわずかばかりの光を反射して、きらめく。一見するとただの長剣のようだが、よく見れば、普通の剣ではないことは明らかだ。妙な気配が渦巻いている。おそらくは召喚武装だが、必ずしもそうとは限らない。騎士団騎士のように特異な力の使い手なのかもしれない。
そういう人間がいることを知っている。
「図星のようね。なるほど、最初からセツナ狙いの行動だったってわけね。セツナと偽セツナを戦わせるためだったんでしょ? でも、なんのために? セツナに勝てるわけないのに」
「勝てるわけがない?」
女は、冷笑した。その笑みには凄絶なまでの色気があったが、ミリュウには関係のないことだ。
「我が主にこそ、勝てるわけがないのだ。だから、邪魔はさせん」
「だったらなおさら通させてもらうわ。セツナを失う訳にはいかないもの」
ミリュウは、ラヴァーソウルを左から右に向かって、無造作に薙いだ。真紅の刀身があざやかな剣閃を走らせた瞬間、手応えと激突音がした。女の剣がラヴァーソウルに直撃している。一瞬で踏み込み、打ち下ろしてきたのだ。
「なんのつもりかしらね」
銀の剣と真紅の太刀が触れ合ったまま、睨み合う。女のまなざしは、鋭く、厳しい。
「貴様こそ、なんの真似だ?」
「なにが?」
「敵もいない場所で剣を振るなど、能力の使用以外には考えられん」
「だから阻止?」
「そういうことだ」
「じゃあ、残念」
「なに?」
女が怪訝な顔をしたのも束の間、ラヴァーソウルの刀身が女の剣圧に耐え切れなかったかのように砕け散ったかと思うと、ミリュウの目の前に展開した。斥力場が発生する。女の長身が軽々と吹き飛んだ。かに見えたが、女の肉体は、空中で静止し、ゆっくりと地上に降りてきた。
(なに?)
睨み、なにが起こったのか確かめようとするが、よくわからない。剣が揺らめいているのが分かったくらいだ。そしてそれにより、女を護ったのが剣の能力だということが判明したのだから、なにも得られなかったわけではない。
(なにも解決していないけどね)
自嘲とともに、剣を構える。刀身が半ばまでで折れた太刀はそれだけで不格好だったが、気にするようなことでもない。
「それが貴様の太刀の能力というわけか」
「そして、それがあんたの剣の力ってわけね」
「そうだ」
女は着地するなり、剣を翳した。すらりと伸びた刀身が、陽炎のように揺らめいて見えた。
「これがわたし、シャルロット=モルガーナの剣だ」
嫌な予感がして、後ろに飛び退いたときには左肩に痛みが走っていた。斬撃。なにをされたのかはわからないが、斬られたのは間違いなく、ミリュウは認識を改めるように女を睨んだ。
「しょうがないわね。あんたはこのあたし、ミリュウ=リヴァイアがぶちのめしてあげる」
彼女は、ラヴァーソウルを構え直すと、嘆息とともに告げた。