第1話
蒼穹を目指すかのように建つ高層ビルの隙間から、朝日の金色の光が零れていた。野性の鳥たちが目覚め、隣に自らの伴侶がいることを喜んで特別な声でさえずる。おはよう、一緒に朝を迎えられて嬉しい、と。
ぼぅ、としていたからだろうか。普段ならしないことも、できる気がした。芹はそっと蔦江の隣に身体を滑り込ませる。毛布の中は温かくて、当たり前だけど蔦江の香りがした。
落着くなあ、と思う。だから深呼吸して、蔦江で胸をいっぱいにした。
今日は珍しく蔦江は壁を向いて、芹には背中を見せている。寂しくなって、芹は自身の額を蔦江の背に押し付けた。そして起きないことを確認すると今度はシャツの裾を握って、身体を密着した。
蔦江は意外と体温が高い。子供体温かと思ってくすくす笑ってしまう。以外にもいつまでも子供っぽいところがあるというか、そんな蔦江が芹は大好きなのだ。
愛しさが溢れて、芹は蔦江の背中にキスをする。ちゅ、ちゅ、と幾度も繰り返した。
形の良い肩甲骨に翼が生えて、どこまでも行けるようになればいい。
果てのない世界だとしても、蔦江ならきっと辿り着けるはずだ。
そして私は、蒼穹を見渡せる地上でずっと見守っていたい。
願いをかけた。想いも込めた。
だから、一際長く肩甲骨に口付けた。
「芹…。」
「あ。」
どうやらいたずらが過ぎてしまったらしい。蔦江を起こしてしまった。
「おはよう。」
「おはよう、じゃないよ。今、絶対に可愛いことしてたでしょ。」
「些細なことだよ。」
「へえ。」
蔦江は振り返って芹を抱きしめた。
「言っておくけど、私は芹が部屋に入ってきたところから起きていたんだからね。」
「結構前だね。気が付かなかった。」
ぎゅう、と芹の頭を抱えるように、蔦江は腕に優しく力を込める。芹の柔らかい髪の毛を手の平に馴染ませて、堪能した。
「…芹はいきなり甘えてくるから、心臓に悪いよ。」
蔦江は溜息をつきながらも、それでもやはり嬉しいのだろう。声色はとても穏やかだった。
そこは世界の果てだったけど、中心だった。