第8話「初任務と、狩猟場の罠」
冒険者として歩き出したカイルに、ついに“初任務”の知らせが届く。
狩猟場の調査任務。内容は簡単なはずだった。
だが、それは“試練”の幕開けに過ぎなかった――
「簡単な依頼だよ。若手向けのね」
そう言って任務を渡してきたのは、カイルの訓練所時代の教官でもあるエリクだった。
彼の鋭い目は、依頼書以上に何かを見ていた気がした。
「狩猟場の奥で、魔獣の目撃情報があってな。通常の個体なら一人で対処できるが、用心するに越したことはない」
「了解です」
簡潔に答え、カイルは腰の剣を確かめた。
狩猟場は村の北、小高い丘の先に広がっていた。
鬱蒼とした森、ぬかるんだ地面、そして静寂――
どこか妙な違和感があった。鳥の声も虫の音も、まるで消えていたのだ。
「……何かいる」
カイルの直感が警鐘を鳴らした、その瞬間だった。
ズシャアッ!
背後の茂みが裂け、大きな影が飛び出してきた。
「クソッ、デス・フォックスか!」
灰色の体毛、鋭い爪、眼だけが赤く光っていた。
それは通常の狩猟対象を超えた、“魔獣”だった。
(単独行動前提でこれを? ……まさか)
避けざまに地面を転がり、すぐさま態勢を整える。
剣を構え、呼吸を整え――
(この距離、この脚力、突進後に隙が――!)
「今だッ!」
カイルの剣が閃き、魔獣の左脚を切り裂く。
叫ぶような声を上げて、魔獣が距離を取った。
だが、それでもなお、奴は立ち上がる。
血が流れてもなお、牙を剥く姿に――
(ダメだ、これは俺だけじゃ――)
そのときだった。
「しゃがめ、坊主!!」
――突如、放たれた一発の矢が、魔獣の眉間に深く突き刺さった。
倒れる魔獣。現れたのは、フードを深くかぶった男。
腰には、弓と一振りの大剣。
「……誰?」
「通りすがりの、“狩人”さ」
その笑い方に、どこか懐かしい温度を感じた。
初任務にして、予想外の魔獣との遭遇。
追い詰められたカイルの前に現れた謎の男――
この出会いが、カイルの運命をさらに動かしていきます。
次回、第9話「狩人と少年と、焚き火の夜」
名も知らぬ“狩人”との対話。
焚き火の灯りの下で語られる過去と、交差する未来の気配――