第7話「静かなる誓いと、雨の帰路」
訓練所での一戦を終え、カイルは一時、故郷の村へと戻る。
体に残る痛みと、心に刻まれた誓いを携えて――
そして彼は、もう一度“原点”と向き合う。
訓練所からの帰り道、空は灰色に染まり、やがて雨が降り始めた。
濡れた外套を絞りながら、カイルは石畳の坂道を登っていく。
木造の家が並ぶその場所――それが、カイルの故郷だった。
「ただいま」
家の扉を開けると、かすかに香ばしいパンの匂いと、薪のはぜる音が迎えてくれた。
「おかえりなさい、カイル」
母親が振り返り、微笑む。その笑顔に、カイルの胸がじんわりと温かくなる。
「……受かったよ、試験」
「そう。よく頑張ったわね」
母は濡れた外套を受け取りながら、優しく頭を撫でてくれた。
何も言わずに。ただ、静かに。
夕食を終えると、カイルは古い小箱を取り出した。
それは、父が遺していった“冒険者の日誌”だった。
ページをめくると、荒くも誠実な文字で、幾つもの冒険の記録が綴られていた。
最後のページには、たった一行――
「この道は厳しい。だが、誇りある道だ」
カイルはノートをそっと閉じ、窓の外を見た。
雨は止み、月が雲の切れ間から覗いていた。
「……父さん、俺もあの場所に立てたよ」
そう呟きながら、彼は両手を強く握りしめた。
「もっと強くなる。絶対に」
静かな夜、カイルの中で、確かな誓いが生まれていた。
一歩を踏み出した少年が、ふたたび自分の“始まり”を振り返る回となりました。
父の背中を追い、まだ小さな誓いを胸に、カイルは少しずつ前に進んでいきます。
次回、第8話「初任務と、狩猟場の罠」
いよいよ実戦――カイルに課せられた初めての任務。
だがその裏では、思いもよらぬ“罠”が待ち構えていた……。