第6話「訓練試験と、名もなき挑戦者」
冒険者になるために必要な試練、それは“実力”を証明すること。
そして少年は、ようやく“その場”へとたどり着く――。
訓練所で待ち受けていたのは、思わぬ“挑戦者”だった。
カイルは、冒険者組合付属の訓練所に立っていた。
地面は踏み固められた土。円形の試験場の外には、木製の柵と数名の観察官。
そして、彼の前には一人の少年が立っていた。
「はじめまして、カイル=スローン君。僕が君の対戦相手だ」
「……よろしくお願いします」
少年はカイルと同じ年頃、細身で端正な顔立ち。黒髪を短く切りそろえ、腰には細剣。
名札には「レオン=シグレ」と書かれていた。
「この試験は実戦形式、一本先取制。武器は模擬武器、魔法の使用は初級まで。致命打にならない範囲での攻撃は許可される。……いいな?」
教官の説明に、二人とも頷く。
「位置について――始め!」
風が吹いた瞬間、レオンが動いた。
踏み込みと同時に細剣を抜き、鋭い突きをカイルへと突き出す。
(速い……!)
反射的にカイルは下がって剣を構える。
レオンの突きは止まらず、まるで連撃のように間合いを詰めてくる。
「ちょっと期待してたんだけどな。ガルドさんの弟子なんでしょ?」
「……!」
(名前、知ってる!?)
焦るカイルの防御を割るように、レオンの剣が鋭く肩をかすめた。
「一本!」
教官の声が響く。カイルは悔しげに息を吐いた。
「まだだ。次があるだろ?」
レオンが手を差し出す。カイルはその手を見て――握り返す。
「……ありがとう。でも、次は負けません」
「いい目になったね。じゃあ、また今度」
レオンは静かに背を向けた。
その後、カイルは再試験で合格を果たし、正式な“冒険者候補生”となった。
彼の物語は、まだ始まったばかりだ。
訓練所での出会いは、戦いだけでなく、新たな“縁”を生み出します。
レオンというライバルの存在が、カイルの中にある炎をさらに強く燃やしていくことでしょう。
次回、第7話「静かなる誓いと、雨の帰路」
初めての実戦訓練を終えたカイル。傷と悔しさを胸に、彼は故郷へ一度戻ります。
そこで待っていたのは、母と、あの“約束の夜”の話――。