第5話「誓いの夜と約束の剣」
少年は初めて“死”を見た。
それでも彼は逃げず、剣を握り直した。
そしてその夜、小さな焚き火の前で、ひとつの“約束”が結ばれる。
パチ、パチ――。
焚き火のはぜる音が、闇にかすかに響いていた。
ガルドは黙って鹿肉を焼き、カイルはぼんやりと火を見つめている。
あれから数時間が経っていたが、脳裏に焼き付いた“牙獣”の姿はまだ消えない。
「……カイル」
「はい」
「お前、なぜ冒険者になりたい?」
唐突な問いだった。けれど、彼の目は真剣だった。
カイルは少し黙り――口を開く。
「……父さんが、冒険者でした」
「……」
「もう、五年前に死にました。依頼中にモンスターに襲われて。遺体も、剣も、戻ってこなかった」
言葉にするのは初めてだった。
喉が痛かった。でも、目は逸らさなかった。
「母さんは、笑って送り出したって言ってました。でも本当は、ずっと泣いてました。俺、あのとき、何もできなかった」
火が小さく揺れる。
「だから俺、強くなりたい。誰かを守れるくらいに。母さんを安心させられるくらいに。……そして、父さんの剣を、いつか見つけたい」
そう言ったカイルに、ガルドは何も言わなかった。
ただ、懐から黒布に包まれた細長い物を取り出し、彼に渡す。
「……これは?」
「剣だ。軽いけど、丈夫な素材でできてる。お前みたいな若造でも扱いやすい。鍛冶屋に頼んでおいた」
「え……」
「その剣を持って、進め。進んで、悩んで、迷って、それでも立て。剣は“手段”だ。何を守り、何を斬るかは――お前が決めろ」
カイルは黙って、それを両手で受け取った。
重かった。金属ではない。言葉と、想いの重みだった。
「……ありがとう、ガルドさん。絶対、大切にします」
「勝手にしろ」
焚き火の火は、ゆっくりと燃え続けていた。
その夜、カイルは“冒険者”としての第一歩を、ようやく踏み出したのだった。
誰かの想いを受け取って、自分の言葉で誓う――。
カイルの旅はまだ始まったばかりですが、この“剣”と“約束”が、彼の道を照らす光となってくれるでしょう。
次回、第6話「訓練試験と、名もなき挑戦者」
訓練所に戻ったカイルに待ち受けるのは、実戦形式の試験。そして、意外な因縁との遭遇。
カイルの“仲間”が、静かに姿を現します――。